【 節酒と断酒、適正飲酒? 】  

赤城高原ホスピタル(改訂: 00/12/12)


 酒は、使い方さえ誤らなければ、人生に潤いを与える飲み物であるといえる。これを、人類の文化的遺産として後世に正しく伝えてゆくためには、ある程度の機制はやむをえない。最低限度、飲んではいけない人、場合があることを知っておくべきである。たとえば、未成年者、妊婦、自動車の運転者、そしてアルコール依存症者などがそれである。

 酒乱型のアルコール依存症のTさんは、43歳できっぱりと断酒し、腕の良いまじめな植木職人に戻り、そのまま12年間も断酒を続け、55歳で退職した。そして、これだけ長い間、節制したのだから、もう一般の人のように節度のある酒を飲めるはずだと思い、控えめの晩酌を始めた。2カ月後、彼は、若い頃よりもっとひどい酒飲みになって、体調をくずして、内科病院に入院することになった。しかも彼は、入院中にも看護婦の目をぬすんで病棟を抜け出し、近所の酒場で隠れて飲んでいた。そのうちに、酔って看護婦にからみ、強制退院になった。その後も、彼は「節酒」に挑戦し、失敗しては入院することを繰り返し、退職時には頑健だった体も急速に衰えて3年後に死亡した。このことは、アルコール依存症者は、断酒を続けなければ生きられないことを示している。

 一方、近年、未成年者の飲酒率が高くなりつつあり、その危険性が憂慮されている。成長期の脳細胞や生殖器へのアルコールの悪影響が指摘されており、若いうちから飲酒を覚えてしまうと、人生の幅をせばめるともいわれている。飲酒に伴うさまざまな事故も報告されており、特に「イッキ飲み」は、死に直結する危険行為である」と専門家は警告している。当然、若年期から飲酒を始めると、アルコール依存症になりやすく、実際、最近、十代の依存症患者が増えている。

 「酒は百薬の長」。酒好きは口をそろえてこういう。確かに適量の酒には、「善玉コレステロール」を増やし、動脈硬化の予防になるなど、健康増進作用もある。それでは適量とはどの程度か。理想的には1日にアルコール1単位まで、つまり、ビールなら大ビン1本、日本酒なら1合、ウイスキーならダブル1杯といわれる。多くとも2単位におさえることが必要だ。ただし、飲める量には個人差があり、基本的には遺伝的に規定されているので、飲めない体質を恥じたり、飲めるように練習する必要はない。全く酒をうけつけないという人は、完全に正常人だから、治す必要はない。だから、厚生省が推進している「適正飲酒」という言葉は、飲めない人、飲みたくない人に飲め飲めと言っているようで、おかしいと筆者は思う。いずれにしても「適正飲酒」の対象は、健康な成人だ。アルコール依存症者や未成年者の「節酒」は命取りになるかもしれない。


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AKH 文責:竹村道夫(初版: 99/1) 


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