【 否認の病気 :アルコール依存症、連続飲酒発作、 山型の飲酒サイクル、ドヤ街アル中 】

赤城高原ホスピタル(改訂 03/11/03)


 「酒など、その気になりさえすればいつでもやめられる。実際何度もやめている」

 入院を懇願する家族を前に、中年男がいばっている。 アルコール専門病院の外来では、しばしば見られる光景だ。この男性、実は立派なアルコール依存症である。本人の言うとおり、この3年間、数カ月の断酒期と、数週間の飲酒期を繰り返している。ただ、その飲酒期というのが、まともではない。飲み始めると数日後には飲酒がとまらなくなり、仕事も家庭も投げ出して、昼夜の別なく、ただひたすら飲酒を続け、飲んでうたた寝し、目が覚めるとまた飲む。数日後には、嘔吐と下痢が始まるが、かまわず飲み続ける。そして、1、2週後に体力の限界に達して飲みやめる。このような飲み方を専門家は「連続飲酒発作」という。この飲み方だけで、まず大概は、アルコール依存症と考えてよい。

 この連続飲酒発作は、本人自身にとっても恐ろしい体験なので、通常この後しばらくは断酒する。数週間ないし数カ月後に、「もうよかろう」と試しに少量だけ飲酒すると、それがたちまち連続飲酒発作につながる。こうしてできあがった断酒期と大量飲酒期の繰り返しを「山型の飲酒サイクル」という。末期のアルコール依存症者に特徴的な飲酒パターンだ。冒頭に述べた男性の飲み方はぴったりこれに一致する。

 俗に「アル中」と呼ばれてきた、酒の魔力にとりつかれた状態は、現在は正式には「アルコール依存症」という。一般人にはその心理やメカニズムが理解困難なため、多くの人が、これを「不道徳」や「本人の意志の問題」とみなしている。実際には、アルコール依存症は、成人男女の3.6%にみられるありふれた慢性疾患である。進行性、致死性ではあるが、適切な治療によって回復する。ただ問題は、治療につなぐのが難しいことだ。本人も、周囲も、酒の問題からは目をそらしがちだ。現実を冷静に分析すれば、飲酒問題は明らかなのに、それを認めない。あるいは飲酒問題は認めても、自力で対処できると強弁し、病気とは認めない。それゆえ、アルコール依存症は「否認の病気」とよばれる。

 この病気は、社会的にも否認されている。みるからに病人の、いわゆる「ドヤ街アル中」は、アルコール依存症の5%以下である。大部分の患者は、実は、私たちの身近にいる、一見正常な家族、同僚、友人たち、近所の人々など、善良な市民である。 

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AKH 文責:竹村道夫(初版: 99/1) 


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