【 酒害家族の病気 : 家族に精神・行動障害が多発 】 赤城高原ホスピタル           

(改訂 2000/12/12)


 「20歳の長女が過食と嘔吐(おうと)を繰り返す摂食障害、高校浪人中の長男は家庭内暴力、家の中は荒れ放題です。中学1年の次男は半年間も学校に行っていません。猫のミーコも最近毛が抜けてきました・・・」。

 「不幸」という字を額に貼りつけたかのようなMさん(45歳)の繰り言は、いつ果てるともなく続く。しかし、大事なことが1つ抜けている。

 Mさんの夫は、自分の生き方を唯一絶対と思い込んでいる猛烈サラリーマンで、しかもアルコール依存症。酔った勢いで家族の1人ひとりに長々とお説教をして、全員が自分に柔順なのを確かめてからやっと寝る。もしも誰かが彼の機嫌を損ねるとたちまち暴言か暴力が始まる。そのため夫が帰宅すると、家の中にさっと緊張がみなぎる。そんな家庭状況が20年も続いた後、子供たちが次々に問題を起こしてきた。いま、Mさんの心配なことは、夫よりも背が高くなった長男と夫が直接対決の状況になること。それを考えるとMさん自身、恐ろしくて夜も眠れない。

 アルコール依存症を抱える家族は、常に緊張を強いられる。酒害家庭では予測不能のトラブルが頻発するからだ。しかも酒害者は、決して自分の非を認めようとせず、家族に責任を転嫁する。家族の助言、説得、説教、強制的禁酒などもほとんど効果はなく、断酒の約束は必ず裏切られる。家庭内に怒りが渦巻き、家族を不信感と無力感が覆う。

 酒害家族は、機能不全家庭の代表である。たとえ、アルコール依存症が比較的軽症で、世間的には普通の家庭のようにみえても、その裏には深刻な家族葛藤(かっとう)が隠れている。むしろ、家族が問題飲酒のしりぬぐいをして、世間から隠している分だけ、家族の肩にかかるストレスは重いのかもしれない。やがてストレスに耐えきれなくなった家族に、精神障害や行動障害が多発する。たとえば、酒害者の配偶者の不安神経症、うつ病、そして、子供のひきこもり、不登校、家庭内暴力、薬物乱用、摂食障害(拒食症と過食症)、非行など。時には、このような家族の問題がむしろ目立っていて、アルコール問題が背景に隠れているという事も多い。

 酒害家庭は原則的に多問題家庭である。しかも家族は、適切な援助を求める能力に欠けることが多く、家庭内の問題を周囲から隠そうとするので、対策が遅れがちだ。しかし、いかに状況が絶望的に見えたとしても、問題に気づいた家族がきちんと援助につながれば、酒害者とその家族の人生は、徐々にではあるが確実に変わっていく。Mさんが治療につながって3年。Mさんとその家族の表情は見違えるほど明るくなった。


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AKH 文責:竹村道夫(初版:99/01) 


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