【 PTSD患者の脳内変化 】
(改訂: 01/05/15 )
[はじめに]
PTSDのページをご覧になった多くのビジターから、PTSD患者の脳内変化の内容についての問い合わせがありました。簡単ですが、現在の研究の状況を調査しました。
このページでは専門的内容を扱っています。一般の読者には、やや理解困難かも知れません。
[PTSD、神経生理学的徴候、外傷記憶]
身体や生命の安全を脅かすような強烈な体験は、普通の記憶とは違って、単に心理的影響を残すだけではなく、脳に「外傷記憶」(トラウマ)を形成し、脳の生理学的な変化を引きおこすことが近年の研究で明らかにされています。
PTSD患者の神経生理学的徴候は、神経画像的研究、神経化学的研究、神経生理学的研究、電気生理学的研究などで、証明されつつあります。
[中枢神経画像検査による研究]
中枢神経の画像検査では、海馬(hippocampus)の萎縮や
前頭葉眼窩前野皮質(medial and orbital prefrontal
cortex)の機能不全が報告(Bremner JD. 1999)されています。
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MRI(magnetic resonance imaging、磁気共鳴画像法)検査では、海馬(hippocampus)の萎縮が報告(
Gurvits TV et al; 1996) されています。幼少時の重篤なトラウマ体験では著しい萎縮が見られる一方で、交通事故など単一の急性ストレスでPTSDになった人では海馬の大きさに差はないようです。
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PET(positron emission tomography、ポジトロン放出断層撮像法、陽電子断層画像法)検査では、トラウマ関連刺激によるPTSD症状出現時に、前頭前野皮質(medial
and orbital prefrontal cortex)の機能不全が観察(Gurvits
TV et al. 1996)されています。
medial prefrontal cortex で、ベンゾジアゼピン受容体結合の減少が報告されています。
なお脳内の海馬とmedial prefrontal cortex
は、学習、記憶、情動の調節などの機能を持つ部位です。
最近、NIRS(近赤外スペクトロスコピー)やファンクショナルMRIなど、脳機能をリアルタイムで画像表示する検査法が開発されてきました。これらを用いて、ストレスに対する反応が画像検査から解明されることが期待されています。
[生理生化学的研究−脳内神経伝達物質の 調節障害]
PTSD 患者では、以下のような脳内神経伝達物質の代謝調節障害が報告されています(Southwick
SM et al. 1999)。
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トラウマ体験を思い起こさせるような視覚的聴覚的刺激によって、心拍数、血圧が異常に上昇
。
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カテコールアミンの24時間尿中排泄量の増加。
血小板α2アドレナリン受容体の減少。
ヨヒンビン(yohimbine)、静脈注射後の心血管
反応、生物化学反応の増強。
アドレナリン拮抗物質の臨床的有効性。
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血小板 paroxetine 結合の減少。
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フェンフルラミンに対するプロラクチンの反応低下。
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m-chloro-phenyl-piperazine に対する反応増強。
セロトニン再取込み阻害剤の臨床的有効性。
言うまでもなく、エピネフリン、ノルエピネフリン、セロトニンなどの脳内神経伝達物質は、覚醒レベル、警戒状態、適応、集中力、記憶、恐怖、刺激に対する心血管反応に関係します。
[脳波、ポリグラフなど]
ポリグラフ検査というのは、脳波、筋電図、眼球運動など、各種の生体現象計測を組み合わせたもので、電気生理学的変化の客観的評価のために用いられます。
ポリグラフによる睡眠研究では、 PTSD 患者で、覚醒の増加、睡眠時間の短縮、運動の増加、REM
睡眠期の中断が観察されています。しかし一部の症例では、逆説的な睡眠深度の増加が見られます(Pitman
RK et al. 1999)。
[事象関連電位]
事象関連電位( Electroencephalographic
event-related potential ; ERP )というのは、外界の刺激に対して、被験者が何らかの精神作業を行う際に、刺激に対する知覚、認知、運動反応にともなって、背景脳波上に出現する微細な脳電位の総称です。ERPは、予期、注意、知覚、識別、意思決定、記憶というような心理過程に関連する、生体の高次脳機能を反映していると考えられています。
PTSD 患者の事象関連電位に関しては、以下の現象が報告されています。
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reduced P200 amplitude at high stimulus intensities
-
impaired P100 habituation,
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attenuated P300 amplitude to target auditory
stimuli
larger P300 and N100 amplitude responses
and shorter P300 and N100 latencies in response
to trauma-related stimuli
[文献]
Bremner JD: Does stress damage the brain?
Biol Psychiatry; Apr 1;45(7):797-805,1999.
Gurvits TV et al: Magnetic resonance imaging
study of hippocampal volume in chronic, combat-related
posttraumatic stress disorder.
Biol Psychiatry; Dec 1;40(11):1091-9,1996.
Pitman RK et al: Psychophysiological alterations
in post-traumatic stress disorder.
Semin Clin Neuropsychiatry; Oct;4(4):234-41,1999.
Southwick SM et al: Neurotransmitter alterations
in PTSD: catecholamines and serotonin.
Semin Clin Neuropsychiatry; Oct;4(4):242-8,1999.
[お断り]
筆者は臨床医で、神経化学、神経生理、神経画像検査、脳波などの専門家ではありませんから、実のところ、ここに書かれていることについて、詳しいことは理解困難です。不適切な表現など気づかれた方はお知らせください。
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文責:竹村道夫(初版: 00/01)
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