【 職場で困る精神障害、ケーススタディ 】   赤城高原ホスピタル

(改訂 03/10/09)



[はじめに] このページは、産業安全衛生大会での講演(一般会社の管理職向け、2003年10月)の資料原稿に手を入れたものです。下段に解説(語句)があります。
このページは未完成です。


[ケース1]:上級管理職のAさん、57歳(男性)は、勤続30年。まじめを絵に描いたような人です。3ヵ月前に昇進したばかりなのに、元気がありません。ふさぎこんで憂鬱そうな表情。机に向かってため息をついてばかり。話しかけても生返事。「もうだめだ。俺にはこの役職は務まらない」と弱音を吐いています。近く海外への短期出張がありますが、その準備もできそうにありません。

[ケース2]:中間管理職、Bさん(55歳、男性)はお酒に強いと定評があります。大酒を飲んだ翌日でも、欠勤したり遅刻したりすることはありません。ところが最近、飲みすぎた翌日、酒臭いと同僚の間で噂がたっています。酒の上でのトラブルも時々あります。今回、昼食時にも隠れてビールを飲んでしまい、午後の取引先との交渉時、大事な書類を置き忘れてしまったことに気づきました。

[ケース3]:15年勤続のKさん(41歳、女性)は頭痛持ち。その他に生理痛と腰痛があるとかで、いつも鎮痛薬を持ち歩いています。また、よく眠られないともいい、睡眠薬も常用しています。睡眠薬が朝に残り、午前中の眠気が取れないという理由で、1年前から覚醒作用のある「リタリン」をクリニックでもらうようになりました。リタリン、鎮痛剤、安定剤、睡眠薬の使用量がだんだん増えてきて、手が震えたり、勤務時間中に居眠りしたり、ふらふらして倒れたりします。

[ケース4]:営業マン、Nさん(37歳、男性)がボーナスの前借りを申し込んできました。車上荒らしにあって給料をそっくり盗まれたとのことですが、給料は銀行振り込みなので変な話です。サラ金の取立てが自宅に押しかけていると聞いています。複数の情報源から、勤務時間中にパチンコ屋に入りびたっているという話を聞きました。

[ケース5]:昨年入社の美人社員、Yさん(22歳)は、最近ダイエットのために昼食をぬいているという噂があります。お昼時に一人で出かけて散歩して帰ってきたり、食べた振りをしたり、というのです。この1年半の間に体重が10kgくらい増えたことを気にしているようです。最近3ヵ月、急に痩せてきたし、顔色が悪いし、うっかりミスが多いし、情緒が不安定です。Yさんはトイレで何かを食べているようだ、と何人かの女子社員から聞きました。食べた後、吐いているみたいだ、と言う人もいます。

[ケース6]:7年前に入社したSさん(52歳、男性)は、会社の営業不振のため、リストラの過程で、5ヵ月前に解雇されました。退職後も、同僚の中で最初に止めさせられたことを根に持って、上司や人事課にあれこれと嫌がらせの電話をよこします。前の会社を辞めさせられたときにも似たようなトラブルを起こしたことがあるし、退職前に酒の席で暴言を吐いて食器を投げて席を立ったことがあるということが分かりました。

[ケース7]:勤続20年の女子職員、Cさん(42歳)は、世話好きだけど男運がないと評判です。最近、目の周りにあざを作って出勤しました。2年前にアル中の夫と離婚して、その後につき合っている5歳年下の男性から暴力を受けているようです。偽名を使い分けているようだけど同じ声の乱暴な喋り方の男から職場に電話があります。職場に迷惑をかけるから、とCさんから休職願いが出されました。実はCさん、3回離婚していて、現在の男は少なくとも4人目。なぜかアルコール問題、ギャンブル男、暴力男など、いずれもトラブル男です。Cさんのお父さんを知っている人によると、お父さんも酒と女癖の悪い暴力男だったとのことです。


【以下、解説、関連重要語句など】

[1]:うつ病、気分障害、気分エピソード(大うつ病エピソード、躁病エピソード、混合性エピソード、軽躁性エピソード)、うつ病性障害(大うつ病性障害、気分変調性障害)、双極性障害、単極性、躁病、昇進うつ病、引越しうつ病、

[2]:アルコール依存症、急性アルコール中毒、底つき体験、初期介入、家族介入、否認、イネイブラー、家族療法、家族教育、連続飲酒発作、山型飲酒サイクル、平均寿命、アルコール関連臓器障害、適正飲酒、KAST

[ アルコール関連身体疾患 ] 肝: 脂肪肝、アルコール性肝炎、肝硬変。 胃腸: 急性出血性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吸収不良症候群。 膵: 急性膵炎、慢性膵炎。 食道: 食道炎、マロリー・ワイス症候群、食道静脈瘤、食道ガン。 心臓: アルコール性心筋症。 中枢神経: ウェルニッケ・コルサコフ症候群、肝性脳症、ペラグラ脳症、アルコール性小脳変性症、痴呆。 末梢神経: アルコール性多発神経炎。 眼: 中毒性弱視。 骨格: 大腿骨頭壊死。 筋肉: アルコール・ミオパチー。 造血障害: 貧血。代謝障害: 糖尿病、痛風。 その他 インポテンツ、胎児性アルコール症候群。

[アルコール関連問題]: [事故] 飲酒運転や酔った歩行者による交通事故、転落、転倒、爆発、熱傷、誤飲、自傷行為、焼死、溺死(できし)、凍死。 [家族問題] 信頼感の喪失、不和、嫉妬、夫婦間暴力、子供への虐待、経済破綻、別居、離婚、家族の健康問題、近隣とのトラブル。  [職業問題]  二日酔いによる怠業、遅刻、欠勤、職場の人間関係の悪化、勤務中の飲酒によるミス、産業事故、生産能率低下、失職、働き盛りの死。 [犯罪] 暴行、傷害、窃盗、強盗、失火、放火、性犯罪、殺人。

アルコール専門病院: 開放病棟、集団療法、家族療法、仲間から学ぶ

[3]:薬物乱用、処方薬乱用、常用量依存、リタリン(メチルフェニデート)、覚せい剤、アンフェタミン(スピード)、MDMA(エクスタシー)

[4]:病的賭博、問題賭博、強迫的ギャンブル癖、ギャンブル依存症、習慣および衝動の障害(ICD-10、1992)、衝動制御の障害(DSM-IV、1994)

[嗜癖とは]:習慣の病気。 アルコールと薬物、食物摂取への嗜癖をまとめて「物質嗜癖」と呼び、病的賭博、借金癖、買物依存症、ワーカホリック(仕事中毒)などは「行動プロセス」への嗜癖、さらに恋愛依存、セックス依存、暴力的人間関係、共依存などは「人間関係」への嗜癖と呼ぶ。

[5]:摂食障害、拒食症、過食症、自己誘発性嘔吐、利尿剤乱用、下剤乱用、浄化(Purging)、やけ食い(Binging)、チューイング(Chewing,噛み吐き)、拒食期、過食期
神経性無食欲症(Anorexia Nervosa)と神経性大食症(Bulimia Nervosa)、特定不能の摂食障害(Eating Disorder Not Otherwise Specified)、無茶ぐい障害(Binge Eating Disorder)

[6]:間歇性爆発性障害(Intermittent Explosive Disorder)、反社会性人格障害、境界性人格障害、躁病エピソード、行為障害、怒りのコントロール・マネージメント(Anger Management Class; Anger Management Program)、Road Rage, Air Rage, Office Rage, Desk Rage、映画「アンガーマネージメント」アダムサンドラーとジャックニコルソンによるラブコメディー。

[7]:アダルトチルドレン、アダルトチャイルド、ACOA(Adult Children of Alcoholics)、ACOD(Adult Children of Dysfunctional Families)、共依存症、ドメスティックバイオレンス(DV)、愛しすぎる女症候群、イネイブラー(Enabler、嗜癖問題の支え手)


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または、昼間の時間帯に、当院PSW(精神科ソーシャルワーカー)にお電話してください ⇒ TEL:0279-56-8148

AKH 文責:竹村道夫(2003/10)


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