第48話  社会保障財政を考える 

   平成24年度に介護保険制度が改正されるのに伴い社会保障審議会介護保険部会は、昨年11月意見書を公表した。山崎部会長も指摘しているとおり、両論併記の色彩が強いものとなり、ペイアズユーゴー原則の制約があり次期改正はマイナーな改正になるようである。
 それはそうであろう。23年度国家予算92兆4千億の内国債に代表される借金は実に48%、44兆3千億円に達する。これでは何か新しいことを行おうと思っても財源の裏付けが無ければ絵に書いた餅(ペイアズユーゴー原則)。さらに社会保障関係費は介護以外の大所として年金や医療もあり、介護だけ特別扱いする訳にはいかないだろう。社会保障関係費だけでも22年度に比べ1兆4400億円、率にすると5.3%も増加している。他の経費が軒並み減少しているにもかかわらずである。社会保障関係費が増加するのは2025年まで続く(人口推計によると2025年の高齢者人口は3470万人に達し、2030年では3450万人と減少する)のでおいそれと経費増加を伴うことはできないのであろう。
 現状の国家予算は積み上げ方式のよう(公表されているわけではないので詳細は不明)であるが、現状のまま今後も積み上げ方式を維持するならば、団塊の世代が全員75歳になる2025年度の社会保障給付費は141兆円(内訳は年金65兆円、医療48兆円、介護17兆円その他)になると厚労省は平成18年5月に発表した「社会保障の給付と負担の見通し」の中で推定している。ただし、この推計も前提条件として消費者物価上昇率を1.0%としたり、賃金上昇率を1.8%と見込むなど現実と乖離した数値を使っているので信用できないが、いずれにしろこの141兆円程に多額の公費がつぎ込まれるわけである。厚労省はその額を推計していないが、2015年度では41兆円と推計している。41兆円とは23年度の租税及び印紙収入の額と一致するほどの巨額さである。日本が過去に得た最大の一般会計税収入は平成2年の60.1兆円である。バブル景気真っ盛りの頃の話である。もう二度とこのような収入は見込めないだろう。ならばどうする。
 どこの家でも家計に赤字が出れば行うことは一つしかない。入りをはかり出を制することしかない。国家財政とて同じであろう。入りをはかる手は何か。23年度は給与所得者の控除をなくし、相続税の基礎控除を下げ増税をはかるようである。何より大きな税額が見込める消費税増税は政治家にとって鬼門のようである。国会では議論にさえなっていない。世界各国を見れば消費税増税しかないように思える。
 出を制する方法は何か。今まで述べてきたように社会保障給付費は高齢化の影響もあり今後も増大していく。給付を削減することが国民に許容されるか。無理であろう。
 時の首相が相当な覚悟を持って望むしかないとは誰でも言っていることである。相当な覚悟とは何だろう。私が思うに、相対的に高い公務員や国会議員の給与を削減し、消費税を上げることだと思う。国民のみに負担を強い、我が身だけは安泰では国民は納得しないだろう。公務員の給与は高いその根拠は、人事院勧告に使われている調査対象民間企業の規模が50人以上となっていることである。給与調査には厚労省の毎月勤労統計調査と国税庁の民間給与実態統計調査の二つがある。毎月勤労統計調査は5人以上の企業を対象とし、民間給与実態統計調査は所得税を納付している全労働者を対象としている。対象をどこに持ってくるかで給与実態は大きな乖離を生ずることになる。
 国や地方の借金が1000兆円に迫る中、白川日本銀行総裁も懸念を示した日本の財政状態。1997年に韓国が経験した国際通貨基金(IMF)管理体制になった場合の日本を想像すると国民皆がいくばくかの負担とサービス低下を許容する時期に来ていると思う。
    






            平成23年2月28日  小林 直行


                                             トップページへ戻る