施設長の独り言

  

 第55話 台湾研修報告                         
 
6月第3週から群馬県老人福祉施設協議会西毛ブロックの一員として台湾の老人介護事情を視察してきた。台湾はこの時期梅雨で蒸し暑く視察には向かないようであったが、研修3日目の豪雨を除いて晴天に恵まれまずまずの日和であった。
 まずは台湾の概要について述べる。人口は2300万人、2011年の高齢化率は10.87%で高齢化社会ではないが、倍化年数(高齢化率が7%から14%に達する年数)は日本と同じ24年、さらに高齢化率が20%から30%に達する年数は日本の18年を上回る15年と推測されている。これは2011年の合計特殊出生率が0.994と日本や韓国よりも低いことが大きな原因である。
   このように高齢化社会が間違いなく到来することを見込んで政党はそれぞれの案を提示している。馬英九台湾政府総統の与党国民党は介護保険制度制定を目指している。これに対し野党民進党は、2010年から長期照顧10年計画で老人ホーム建設を提示している。ふくれあがる老人介護を保険で行うのか、それとも税金で行うのか、これは台湾国民が選択する問題である。話をややこしくしているのが外国人介護労働者の存在である。外国人介護労働者の最低賃金は法律で決められているが、特に家庭に住み込みで働く場合相当なダンピングが横行している模様である。どの国の場合でも外国人労働者の賃金は月額500$(別にアパート代と食事代は雇用主が負担)と相場があるが、台湾でも500ドル相当額に収束しているようである。家族は、保険になろうが税金になろうが自己負担は生じるわけで、この負担額と外国人労働者への支払いとを天秤にかけ介護をどうするのかを決める訳である。
 台湾では、家族が介護を行い、また費用も負担するのが一般的である。少しデータが古いが、2008年時点では要介護者は約40万人、うち65歳以上は約30万人と推計されている。これら要介護者は家庭で介護されているケースが多いが、施設入所されているケースもある。台湾の施設サービスとしては、介護度の高い順に①護理の家(リハビリ重視で衛生部管轄。日本の老人保健施設に相当する)②長期照護機構(医療依存度の高い人向けの介護施設で衛生部管轄)③養護機構(日本の特別養護老人ホームに類似)④安養機構(日本の養護老人ホームに類似)となっている。費用については確証が得られないのでここでは述べないことにする。
 養護機構や安養機構は誰でも経営できるようだが、定員が50名以上の場合法人でなければ運営できない。台北市内のビルの一角に「○○養護中心」といった看板をよく見かけるが、これは定員が50名未満の施設である。いろいろと問題があるらしい。
 次にマンパワーの問題である。台湾の2012年5月の失業率は4.12%、年齢層別では15歳から24歳が11.76%、25歳から44歳が4.40%、45歳から64歳が2.21%となっている。若い人の失業率が高いのに介護職に就く人が少ない。台北の町中を歩いて感じることだが、昼間だけのサービス業に就く人が多いのも日本と同じである。台湾の事情として外国人介護労働者が相当数いるという現実がある。10万人は軽く超えるようである。施設に30%、在宅に70%いるというデータもある。残念ながら今回訪問した施設では導入している気配は感じられたが確証は得られなかった
  
施設外観  安養機構内部 
私たちが訪れたのは施設は、台北市萬華区水源路にある財団法人台北市私立恆安老人養護中心が運営している安養機構であった。この施設は台北市が建設し、運営を財団が行っているという。安養機構であるので介護がほとんど必要ない人ばかりであった。この財団はこの施設内で養護機構も運営しているが養護機構は見学はできなかった。パワーポイントによる説明もあったが、職員配置や費用面は飛ばされちょっと残念であった。東北学院大学岡田先生によればその施設の重要な点は、何回も通いお酒や食事をご馳走しやっと話が聞けるのであって、ふらりと行っても良い点しか聞けない。ただ幸運なことに日本語の達者な世話好き女性入居者が見学中ずっと同伴し、会議室まで一緒にいたのでたくさんのことを聞けた。彼女によれば、1月の利用料は25,000台湾ドル(67,500円)であるという。今回、視察では利用料ははっきりしなかったが、この25,000は今回の研修では唯一確かな数字であった。
 今回の研修で強く感じたことは、経済のグローバル化(人、物、金が国境を越えて自由に世界を行き来すること)は良く聞く言葉だが、老人や介護などの高齢者問題もグローバル化しているということであった。日本にいると国内だけですべてが済んでしまうので世界を意識することはほとんど無いが、もうこのような考えでは介護を語ることは無理だし将来を見通すことも不可能に近いと思う。

追記
上記データや情報は①台北駐日経済文化代表処発表の台湾ニュース②2009年7月31日、8月21日、8月28日発行のシルバー新報に掲載された徐明仿氏論文「台湾の介護事情」③スズキアキエ氏のブログを参考にしました。



            
平成24年6月29日  小林 直行




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