施設長の独り言
第59話 社会福祉法人の内部留保について
社会福祉法人の内部留保が問題になっている。”貯め過ぎ”という批判が一番多い。内部留保の定義が理解されないまま数値だけが一人歩きしている。特別養護老人ホーム1施設あたり3億円、全国で合計2兆円もの利益が蓄積されていると指摘を受けている。今回はこの内部留保について当施設の財務を基に本当に貯め過ぎなのか私の考えを述べたいと思う。
さて先ほどの3億円や2兆円の出どこはどこなのか。平成23年12月5日に開催された社会保障審議会介護保険給付費分科会に厚労省より提出された資料3平成22年度末特別養護老人ホームの貸借対照表(1施設当たり平均値)に掲載されている金額である。この資料の備考欄に「内部留保とは一般的には『その他の積立金』・『次期繰越活動収支差額』に計上されているものを指す。」とある。この資料からその他の積立金が65,806千円、次期繰越活動収支差額が242,015千円で合計307,821千円となり3億円の金額と一致する。さらに2兆円はどうか。資料3の備考欄に平成21年10月現在の全国の特別養護老人ホーム数が6126なので、3億円×6126=1兆8378億円となりおおよそ2兆円となる。
今述べたように、内部留保=その他の積立金+次期繰越活動収支差額と定義される。その他の積立金は言葉通り積立金だから積み立てられたお金で内部留保に間違いない。しかし、次期繰越活動収支差額とは何なのか。社会福祉法人会計は厚労省より通知された「社会福祉法人の会計の制定について」と「指定介護老人福祉施設等会計処理等取扱指導指針」(以下『会計基準』という。)によって会計を処理するよう義務づけられている。当法人も顧問税理士の指導を仰ぎこれらの会計基準通りに会計を処理している。
次期繰越活動収支差額とは会計基準で決められた用語で、次年度に繰り越される社会福祉活動(事業活動と事業活動以外と特別活動に分けられる)の収入と支出の差と定義される。現金としては無いことが、その他の積立金との大きな違いである。このことを当法人が運営する単独で設置されているデイサービスの会計で説明しようと思う。このデイサービスは、土地を平成13年度に購入し建物を建て、14年度の7月から通所介護事業を開始した。
貸 借 対 照 表 |
借 方 単位:円 |
貸 方 単位:円 |
|
平成13年度 |
14年度 |
23年度 |
|
13年度 |
14年度 |
23年度 |
流動資産 |
25,495,242 |
10,779,600 |
12,439,058 |
流動負債 |
0 |
1,796,107 |
2,034,063 |
固定資産 |
45,271,500 |
114,863,565 |
101,602,341 |
固定負債 |
0 |
135,114 |
255,784 |
|
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|
負債合計 |
0 |
1,931,221 |
2,289,847 |
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|
基本金 |
0 |
0 |
0 |
|
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|
国庫補助金等特別積立金 |
0 |
0 |
0 |
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|
|
その他の積立金 |
0 |
0 |
10,000,000 |
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次期繰越活動収支差額 |
70,766,742 |
123,711,944 |
101,751,552 |
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|
内当期繰越活動収支差額 |
70,766,742 |
52,945,202 |
-63,698 |
|
|
|
|
純資産合計 |
70,766,742 |
123,711,944 |
111,751,399 |
資産合計 |
70,766,742 |
125,643,166 |
114,041,399 |
負債及び純資産合計 |
70,766,742 |
125,643,166 |
114,041,399 |
貸借対照表借方13年度を見ると流動遺産25,495,242円は現金として存在している。固定資産45,271,500円は、内36,000,000円が土地代で残り9,271,500円は建物の一部建設費である。貸方13年度の次期繰越活動収支差額は70,766,742円で、この内現金は借方13年度で見たように25,495,242円しかなく残りの45,271,500円は土地代や建設費に変わっている。
同じように14年度を見ると次期繰越活動収支差額は1億2370万円もあるがその内訳は、現金が1080万円で残り1億1290万円はは土地や建設費や備品に変わっている。
同じように23年度を見ると次期繰越活動収支差額は1億175万円で、これはほぼ固定資産に等しい。つまり現金ではない。また14年度に比べ2200万円も少なくなっている。これは18年度以降当期繰越活動収支差額が赤字のためである。赤字ということは収入以上に支出が多いことつまりは経営が下手ということである。
以上のことから言えることは、内部留保があるということは現金がたくさん積み上がっていることではなく、土地、建物や備品類に現金が変わっているということである。社会福祉法人の性格上土地を売って現金に換えることは許されないし、建物や備品を時価で売ることなど日本の市場経済では無理である。次期繰越収支差額を見てお金が積み上がっているというのは間違った見方だと言いたい。また社会福祉法人関係者には次期繰越活動収支差額が有るからお金が有ると思うのははなはだ危険と言いたい。資産として計上されているだけですぐに使えるお金ではない。
事 業 活 動 収 支 計 算 書 単位:円 |
|
平成13年度 |
14年度 |
23年度 |
介護保険収入 |
0 |
9,571,634 |
23,881,342 |
人件費・事務費・事業費・減価償却費 |
1,607,792 |
22,304,120 |
23,856,042 |
事業活動収支差額(a) |
-1,607,792 |
-12,732,486 |
25,300 |
事業活動外収入 |
72,374,534 |
65,677,688 |
8,897 |
事業活動外支出 |
0 |
0 |
87,518 |
事業活動外収支差額(b) |
72,374,534 |
65,677,688 |
-78,621 |
特別収入 |
0 |
0 |
0 |
特別支出 |
0 |
0 |
10,377 |
特別収支差額(c) |
0 |
0 |
-10,377 |
当期活動収支差額(a+b+c) |
70,766,742 |
52,945,202 |
-63,698 |
前期繰越活動収支差額(d) |
0 |
70,766,742 |
101,815,250 |
当期繰越活動収支差額(a+b+c+d) |
70,766,742 |
123,711,944 |
101,751,552 |
積立金取り崩し額(e) |
0 |
0 |
0 |
その他の積立金(f) |
0 |
0 |
0 |
次期繰越活動収支差額(a+b+c+d+e-f) |
70,766,742 |
123,711,944 |
101,751,552 |
左に記載した表は当法人が運営しているデイサービス蓮花の事業活動収支計算書である。会計基準で作成することが義務づけられた計算書である。13年度14年度に事業活動外収入が合計で1億3770万円も計上されている。これは当法人が運営している特別養護老人ホームからのお金を繰り入れている。このお金は貸借対照表でも説明したように土地代、建物建設、備品に使った。もう現金としては存在しない。しかし、この計算書では当期活動収支差額に計上され毎年積み上がり次期繰越活動収支差額として計上されるのである。唯一減るのは当期活動収支差額がマイナスになるときだけである。23年度は14年度に比べ2000万円も減 っているのは赤字決算が続いたからである。にもかかわらず次期繰越活動収支差額は1億円を超えている。繰り返しになるが現金はないのである。
資 金 収 支 計 算 書 単位:円 |
|
平成13年度 |
14年度 |
23年度 |
介護保険収入 |
0 |
9,571,944 |
23,884,359 |
経理区分間繰入金収入 |
72,374,534 |
65,677,378 |
5,880 |
経常収入計(1) |
72,374,534 |
75,249,322 |
23,890,239 |
経常支出計(2) |
1,607,792 |
19,796,147 |
22,053,266 |
経常資金収支差額(a)=(1)-(2) |
70,766,742 |
55,453,175 |
1,836,973 |
施設整備等収入(3) |
0 |
0 |
0 |
施設整備等支出(4) |
45,271,500 |
71,943,828 |
0 |
施設資金収支差額(b)=(3)-(4) |
-45,271,500 |
-71,943,828 |
0 |
財務収入(5) |
0 |
0 |
0 |
財務支出(6) |
0 |
21,096 |
29,280 |
財務資金収支差額(c)=(5)-(6) |
0 |
-21,096 |
-29,280 |
当期資金収支差額(d)=(a)+(b)+(c) |
25,495,242 |
-16,511,749 |
1,807,693 |
前期支払資金残高(e) |
0 |
25,495,242 |
8,597,302 |
当期支払資金残高(f)=(d)+(e) |
25,4945,242 |
8,983,493 |
10,404,995 |
赤字決算なのに運営ができているのだろうかという疑問が湧くと思う。これは特別養護老人ホームからの経理区分繰入金収入が有るおかげでである。13年度と14年度に計1億3800万円を受け取りその内1億1720万円を建物建設費等に使い残り2080万が人件費や事務費等の不足に充てられた訳である。
一般にどの事業でも当座の運転資金が必要である。当事業でも年間事業額の3ヶ月分600万円(=23884千円/12×3)が必要である。23年度の支払資金残高は1000万円有るので当座の運営には支障を来さない。しかし、事業活動収支計算書ではここ最近赤字経営になっているので大きな物品購入や修繕は資金的に無理である。つまりは事業の継続に不安があると言うことである。
平成25年2月28日 小林 直行
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