第72話 介護技能実習生を受け入れるまでの軌跡

 
 
将来の人手不足を懸念して外国人と関わりを持つようになったのは14年前の平成16年(2004年)であった。そのきっかけは、当時EPA(Economic Partnaership Agreement貿易の自由化に加え,投資,人の移動知的財産の保護や競争政策におけるルール作り,様々な分野での協力の要素等を含む,幅広い経済関係の強化を目的とする協定)が話題になり、東南アジアの国々との間で協議が重ねられていることを知ったからである。EPAは2008年7月にインドネシアと、12月にフィリピンと、2009年10月にベトナムとの間で協定が発効し、それぞれの国から介護人材としての労働者が来日した。受け入れた日本側施設は、4年後までにこれら介護人材に介護福祉士資格の取得を義務づけられている。当施設程度の規模では資格取得は無理という判断でEPAによる介護人材受入は断念した。
 EPAにより来日した介護人材は皆優秀であったが、介護福祉士合格はハードルが高く、合格した介護人材も永住が保証されているのにも関わらず帰国する介護人材が続出している状況だという。施設側からすると、お金も日本人職員もそして時間もかけたのに何なんだ、という心境だと思う。やはりEPAでの受入断念は正解だったのだと思う。
 時は過ぎ年々日本人獲得は難しくなっていく。介護学校の定員充足率は下がり50%を切る状況が普通で、更に悪いのが高卒後4月に入学する者の割合が激減していることである。これでは新卒採用は無理である。
 当施設での新卒採用は平成26年4月が最後である。当施設は介護業務を全て正職員で賄っているので求人にも比較的応募があり、この後8名の中途採用があった。中途採用と言っても全て他の施設で勤務があり、8名の内5名の者が介護福祉士資格を取得しており即戦力になる優秀な人材であった。    このまま手をこまぬいていては本当に職員不足で入所人員を減らさざるを得なくなる。こんな中で2015年、技能実習制度に介護業務が追加されることを聞きつけ、すでに将来の人手不足を予想し着々と外国人労働者の受け入れ準備を進めている会社経営者との情報交換や知識習得を行うようになった。2016年11月28日に、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)が成立公布された(施行されたのは翌年11月1日である。)。.
 2016年後半から17年前半までは、どこの管理団体(技能実習生を受け入れる日本側の機関)にするかに迷う年であった。この当時から既に技能実習生に関わる問題が噴出しており、今年(18年)改正入管法改正に伴う国会審議でこの問題がマスコミを賑わせたのを記憶している読者の方も大勢いると思う。結局管理団体は長野県小諸市に本部を置くのぞみグループにすることに決定した。技能実習生を受け入れた経験はないし、管理費も安くはない。しかし、介護技能実習はどこの管理団体でも初めての職種であり、1社で多数の実習生を受け入れるほど実習機関(介護施設)は大きくはなく、各地に散らばりやすくその分管理に費用がかかる面がある。管理費にお金がかかるのは当たり前で、管理費が安い管理団体はよく調べる必要がある。
 管理団体が決まり今度は実習生の採用である。のぞみグループは2014年からベトナムの大学と提携し介護技能や日本語の研修を行っており、私もてっきりベトナム人を採用するものだと思っていた。しかし、日本政府とベトナム政府間との調整が長引き、ベトナム人採用マッチングツアーは何度も延期され結局ベトナムマッチングツアーは実施されなかった(2018年11月にようやく実施)。そこで登場したのがインドネシアである。いち早く政府間交渉が終了した為であろう。2017年8月にインドネシアに行き実習生候補者を2名採用した。当初は採用候補者は100名近くいたのだが、行ってみると現地では辛うじて選べる程度にまで激減してしまった(激減した理由は複雑)。採用された候補者は10月から日本語の学習が始まり(介護技能実習生は日本入国にあたり日本語4級以上が求められる(他の技能実習生にはない条件)。2018年8月までに一人は日本語3級に、もう一人は4級に合格し日本入国の条件を満たした。4級に合格しただけの一人は入国後の10月に3級に合格し、入国1年以内に3級合格の条件を早くも満たし、両名とも3年間は日本で実習できることになった。
 2018年8月30日に晴れて入国した私どもに採用された実習生2名を含む19名は小諸市において2ヶ月間の日本語学習と介護実習が始まった。19名は皆インドネシアの看護大学を卒業しており、学ぶ意欲に溢れ、真面目で明るい。20代の日本人と何ら変わることはなく、好奇心に溢れ前向きである。今の時代スマホは彼ら彼女の必携品である。先ほどの会社経営者からも言われていたのだが、実習生が初めて手にした給与で買う物はハイスペックなスマホである。スマホを使って母国の家族とも毎日連絡を取り合い、また仲間とも情報交換をし合い、良いこと悪いことが瞬時に共有される。共有される怖さを感じ取らねばならない。これから長きに渡って外国人に頼る国を目指すならば、日本に行ってみたい、日本は良い国だ、私たち外国人を大切にしてくれるという情報が共有されるようしなければならない。
 当施設で働き出した実習生には指導者がついている。職員からは教え甲斐がある、飲み込みが速い、日本語が良くわかると好意的である。私も毎週1回2時間程度ケース記録の輪読会をして実習生の日本語と介護力向上に一役買っている。3年後に無事に両親の元に返すまで頑張りたいと思う。
   それにしても外国人労働者を受け入れるのに14年も費やすとは思いもしなかった。この14年間に技能実習生の母国では経済が発展し、賃金が上昇した為に中国のように日本に行きたがらない国も出てきている。技能実習制度は発展途上国相手の制度なのである。また、欧米先進国も揃って外国人労働者を求める時代になってきている。外国人労働者獲得競争時代に突入したのである。2019年4月からは新しい制度の下で外国人労働者が入国する。しかし、今までと同じ手法では多くの外国人がやってくるのは望む薄であろう。政府にはこれら2つの課題を見据えた上での対応を望むところである。
  

 


            
平成31年1月4日  小林 直行
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