第35話 介護報酬改定に思う
平成21年度実施の介護報酬改定審議が大詰めを迎えている。大詰めを迎えているといっても総枠として3%アップは「介護従事者の処遇改善のための緊急特別対策」として決まっているので、個々の報酬審議が大詰めを迎えているということである。総枠として3%アップとは、個々の報酬がすべてアップするのではなく、3%アップ分をどのように配分するかということである。中村老施協会長が言っているように3%と話を固定化せず、更なる引き上げが必要という認識を厚労省に対して示す必要があるというのはもっともな意見と思う。
3%アップの根拠は何なのか。3%アップ分は月約2万円に相当し2万円も給与が上がれば良いだろう的な安易な発想で決まった感は否めない。事実当施設特別養護老人ホームで今年度上半期の決算を基に試算したところ、基本サービス費が3%増収したとして計算しこれをすべて介護職員に給与として与えるとおよそ2万円になった。特別養護老人ホームは介護職員だけで運営はできない。看護師や事務職員、更には栄養士や調理師などの協力がなければ立ち行かない。これら職員の処遇改善も必要である。
社会保障審議会介護給付費分科会の審議事項が公表されてくると個々の介護報酬の骨格がみえてくる。基本サービス費のアップは微妙で、加算という手法で特別養護老人ホームを差別化する意図が前回の介護報酬改定より一段と鮮明になってきた。ということは施設の経営力が試されるということである。3%アップを単純に喜んでいる場合ではないのである。また介護度別保険給付額は変更がないようなので在宅サービスは厳しい改定になりそうである。当施設もすでに訪問介護と単独デイサービスは厳しい経営を強いられているので、来年度は根本的な打開策を考えなければならない。
介護報酬3%アップ分の費用は誰が負担するのかという問題がある。本来で有れば国や自治体の公費負担と保険料によって賄うのであるが、今回アップ分の保険料は国が面倒をみることで決着している。ただし3年に限った話なのである。3年後いかなる事態になっているのか。さらに悪いことにアメリカを震源とする金融危機が日本の実体経済にも深刻な影響を与え、今年度・来年度以降の税収が大幅に減る事態になっている。堤修三大阪大教授は岡山で開かれた老施協大会で「今回の介護報酬アップはカンフル剤」と看破している。必要な保険料を負担してもらうという努力を事業者が怠ったり、報酬アップに浮かれコスト削減に取り組まない事業者の命は3年で終わりその後は厳しい冬の時代が来ると言っている。
介護報酬は公費負担5割もある准公定価格である。ということは時の政権の考えや経済状況に縛られてしまう宿命を持っている。准公定価格だから基本サービス費の範囲内で運営を行って下さい、きちんとやれば加算を付けますよ、という世界である。ならば基本サービス費の範囲内で行うのを基本として力が有れば加算をとる経営をするのが賢い選択であると思う。特に今回の介護報酬改定は施設の差別化を一段と進めた内容になっているので、力が備わっていないのにむやみやたらに加算をとるのは、現場に混乱を来し賢い選択とはいえない。また、力量が備わっていなければ結果として介護報酬収入が少なく、それ相応の給与になる。労使共に介護保険事業横並び意識は無くしたほうが良いかもしれない。
平成20年12月26日 小林 直行
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