第36話 非正規労働、特に派遣労働を考える
年が明けてから人材派遣会社からの「介護職は足りていますか」という問い合わせが急に増えた。飛び込みの営業も増えた。沖縄・那覇市在住の会社からの問い合わせにはびっくりしてしまった。自動車や電機メーカーの派遣契約終了に伴い、今まで我が世の春を謳歌していた人材派遣会社は、勢い会社存亡の危機を迎える事態に陥っているが故の行動である。電話と机が有れば誰でもいとも簡単に起業でき、労働者を派遣すれば収入になる業界の心配をする必要など全くないが、派遣されている非正規労働者の心配はしなくてはならない。昨年10月から今年3月までに契約が解除される非正規労働者は124,800人にもなると厚労省は予想している。直近の経済状況を考えるとこの数字は更に膨らむ。雇用不安の解消を図ることが何よりも大切なのである。
今、登録型人材派遣は原則禁止の方向で議論が進んでいる。当施設でも産休や育休を取得する職員の補充や急な退職により新規採用するまでの間、常用型派遣労働者を雇用することがある。しかし短期間の仕事で派遣労働者を依頼することはない。短期で済む仕事がないからである。企業によっては、例えば引っ越し業者や輸送会社では短期の仕事のために派遣労働者を依頼し、派遣企業は登録している労働者の中から派遣することはごく一般に有るし、その必要性が無くなることはない。登録をしている労働者にしても毎日は出来ないけれど週に数日とか仕事をしたいという理由から登録している人もいる。また仮に登録型人材派遣を禁止したところで、常用型派遣契約とした上で実際の派遣は数日という法律の抜け穴をくぐる派遣企業と登録者は出てくるだろう。また企業、特に中小零細企業によっては発注元の無理な注文等でやむを得ず法律破りをするところもある。最悪、企業倒産だけは避けたいというやむを得ぬ行動だと思う。このように考えると登録型派遣労働原則禁止は今の日本では無理と思う。ではどうしたら良いのか。大企業絶対優位の日本の産業構造をそのままにし、ヨーロッパのように同一労働同一賃金でない日本の非正規労働者を守る方法は何なのか。
昨年廃業したグッドウイルは毎日数万人の労働者を派遣しながら、失業給付を受けた労働者は数人に過ぎないという。如何に各種労働保険をくぐり抜けていたかの証明であろう。現行の社会保険関係法令や労働保険関係法令が正規労働者向けに組み立てられており、非正規労働者がこれら各種法令の網を簡単にすり抜けてしまう構造になっている。セーフテイーネットがない状態で働いているのである。1986年に労働者派遣法が制定された時やその後製造業に派遣労働が認められたときにきちんとした対応をとっていれば良かったのだが、今でも遅くはないと思う。
当施設にも元派遣労働者が求職に来ることが多くなった。しかし、物を扱っていた人たちがいきなり対人サービスが勤まるか、いささか不安である。過去に異業種から転職してきた男性は研修期間中に「やはり私の肌に合わない」と言って辞めたことがある。きちんとした教育訓練を行った上で就職までの間ずっとアドバイスを行うことが肝要だと思う。教育訓練を行っただけで後はハローワーク任せではいけない。正社員向けに転職支援企業があるが、非正規労働者向けには国が転職を支援したらどうだろうか。
雇用の安定は国民に安心と安全をもたらし、生きる勇気を与えてくれるし未来への夢をもたらしてくれる。だから国は責任を持って雇用の安定に努めるのは各国共通の政策である。しかし、日本では、本来非正規労働者向けに整備すべきだった先程述べたセーフテイーネットは、景気の良さに紛れ先延ばしにされてしまった。また偽装請負などに見られるように悪質な法律違反も蔓延し、国による機動的な指導監督も行われないまま今に至った国の責任は思い。
正規労働者の削減も視野に入る程景気悪化が叫ばれている今こそ、国は雇用の安定に政府上げて取り組むべきである。
平成21年2月28日 小林 直行
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