第38話  厚生労働省分割を考える 

  厚生労働省分割・再編が、麻生首相より指示されたが、あっという間に撤回されてしまった。私はその分割の内容はともかく分割に賛成である。
 厚生労働省の任務は設置法3条に「国民生活の保障及び向上を図り、並びに経済の発展に寄与するため、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進並びに労働条件その他の労働者の働く環境の整備及び職業の確保を図ることを任務とする。」とある。いわば人のゆりかごから墓場までを担っていると言えるだろう。また、抱えている局・部は11局7部で、働く職員は全国に5万人で09年度一般会計当初予算は25兆円という巨大官庁である。
 しかし、これだけの規模、予算を持ちながら、一般国民の感覚は何をやっている官庁だかわからないというのが正直なところであろう。年配者には年金や介護、現役世代には賃金や医療、年少者には・・・という程度だろう。高齢化が進み年金や医療に莫大な資金が必要になり、現役世代や子供世代への資金配分が思うように任せられない状況は理解できるとしても、限りある予算を将来への布石へと配分できないものだろうか。
 設置法3条には「経済の発展に寄与すため」とあるが、例えば製薬業を発展させる意思が乏しいように見受けられる。世界の製薬企業トップ10には日本企業は入っておらず、やっと17位に武田薬品工業が顔を出す。しかもその売上高は1位のファイザー社の1/4程度である(データはユートブレーンLLC合同会社(
OBRAIN公式)の発表に基づく。)。日本の技術力を考えるともっと上位にあってもおかしくはないと思う。さらに近い将来日本の製薬会社はアメリカやヨーロッパの製薬企業に買収され日本人が必要とする薬が手に入りずらいことも考えられ、日本国民の安全保障としての製薬業が日本からなくなる恐れも十分ある。薬の安全性は重要である。厚労省内に医薬食品局がありここで薬の安全性を審査しているが、過去は言うに及ばず最近でも薬害エイズのように深刻な問題を起こしている。医療機器も同じことが言える。製薬業や医療機器業は経済産業省に管轄を移し、安全審査は厚労省から外し第3者の手にゆだねたほうが良いと思う。私と同じような提言を松井道夫松井証券社長は日経新聞(東京本社発行2009年6月22日号)「インタービュー領空侵犯」欄で述べられている。
 労働基準局、職業安定局、職業能力開発局、雇用均等局などの労働関連部局も分割したほうが良いと思う。労働問題は企業への規制を強めても問題の解決にはつながらない。規制をすり抜ける企業や常時企業を監視する体制にはなっていないからだ。規制を強めるよりは企業の同意を得、協力体制を構築する方がその後の運営が何倍も楽であるし、効果も高い。要は労働者と企業側両方の意見を聞き、歩み寄れるところは歩み寄り、譲れないところは譲らない労使体制を容認することが労働部局の原点だと思う。この点が企業への規制一本やりの医療や製薬と根本的に違う。根本が違う部局が同一省内に有るのはまずいであろう。また、労働問題、特に雇用は、労働市場という政府がなかなか口を挟めない市場原理に基づく場であるので、規制を作ることに慣れた厚労省に置いておくのは無理がある。
 総理たる者いったん口にしたら何としても実現させる意気込みが必要だし、それだけの権限を持つ役職だと思う。あっさり撤回するということは、何の考えも方針もないことを世間に示すことになる。そこが小泉前総理と違うところだし、低支持率にあえぐ原因なのかも知れない。
 

 
 


            平成21年6月30日  小林 直行


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