第39話  雇用情勢と日本の労働システムを考える 

  7月の失業率は5.7%、完全失業者数は359万人、有効求人倍率は0.42倍と雇用を取り巻く環境は過去最悪である。失業率も欧米に比べれば低いと言われるが、雇用調整助成金受給者243万人を加えれば失業率は9.6%に跳ね上がり、欧米並になる。有効求人倍率は正社員に限ると0.2%台で過去最悪である。8月以降も改善する気配は見られず、これら各指標は戦後最悪を更新することが濃厚である。
 しかし、これだけ雇用情勢が悪いのにもかかわらず、定期昇給は企業によっては半年延期等の処置を執ったところもあるが、大企業を中心に実施された。当施設でも定期昇給は実施した。定期昇給は日本では100年程の歴史があるようで、今日労働組合にとってはその存在にも関わる大きな年中行事にもなっている春闘は労働組合の晴れ舞台である。定期昇給があるということは、終身雇用制度や年功序列賃金制度が健在であると言うことである。これだけ人、物、金、情報が世界を飛び回るグローバル経済のもとで未だにこれらの制度が健在ということは奇跡に近いのではないか。日本を代表する産業である車や家電製品などが世界で売れまくっているから可能になり、今後今のような経済状態が続くとなると、果たして継続する制度なのか。右肩上がりの経済成長を前提とした終身雇用や年功序列制度は存続するのだろうか。
 総務省が18日に発表した労働力調査によると、4〜6月期の役員を除く全体の雇用者数は5105万人で内非正規雇用者数は1685万人と33%にも達する。これら非正規雇用者には終身雇用も定期昇給もない。1円でも安くしたいと雇用者側は思っている。会社の利益を得るために、正規労働者の雇用を守るために非正規労働者を雇用するのが一般的である。
 今後益々雇用状況が悪化したとき、政府の雇用政策のみで雇用悪化が食い止められるであろうか。オランダのようにワークシェアリングを導入しようという機運が生じる可能性が高い。ワークシェアリングは同一労働同一賃金が前提である。しかし、今の日本では同一労働同一賃金は業務委託で働く労働者やパート労働者に適用されているのみである。年功序列や終身雇用制度の恩恵にどっぷり浸かっている正規労働者に同一労働同一賃金が受け入れられるだろうか。介護業務は10年経験者と3年経験者とでは技術的に大差はつきにくい。ということは10年選手も3年選手も賃金は同じであるということである。介護業務は、この仕事を行って何か新しいものを創造したり、生まれ変わらせる性格の仕事ではない。今まで頑張ってきた人たちへの最後の安寧の場を提供する仕事である。
 今後もグローバル経済は続くだろうし、日本のみグローバル経済に背を向け市場を閉じ、貿易鎖国したところで、貿易立国を国の方針として明治の世より今日に至った日本には負のみで決して明るい未来はない。ということは日本はグローバル経済を受け入れるしかないと言うことである。日本が今までのように貿易で巨大利益を得ることは困難と見たほうがよい。更に800兆円を超える借金は日本の力を少しずつ弱める。
 各政党のマニフェストには介護労働者向けのあめ玉が踊っているが、本当に実現可能なのか。ばらまきに近いことをやって国がにっちもさっちも立ち往かなくなったらどうするのか。貿易黒字が望めない、借金が莫大であることを忘れてはいけない。介護報酬が無限に増加するわけがない。国、地方そして国民の負担で成り立っている介護保険制度が安泰であるがない。医療も年金も同じである。
  社会福祉施設、特に入所施設こそワークシェアリングを積極的に受け入れるべきであると思っている。元オランダ労働組合連合議長デ・ワールは「労働者と経営者が共に利益を得られる関係が重要である。労働側は安心を、経営側は柔軟性を得て、信頼関係を築かねばならない。」と言っている。夜間と昼間の不規則勤務を行う職員には十分な社会保険や福利厚生つまり安心を、経営側には経営の柔軟性を付与すべきである。決まって支払われる(金額と振り込み期日が一定という意味)介護報酬を正規職員で分かち合い、雇用不安、老後や病気の心配することなく入所している利用者の幸せのために仕事をすることが大切である。経営側は今日のこのグローバル経済のもとで生き残るために経営の自由度を与えられることが重要である。


            平成21年8月31日  小林 直行


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