第41話  中華人民共和国を旅して思うことNo2 

   過日11月末日3泊4日で上海・蘇州を巡ってきた。9年ぶりの再訪であったが、折しも上海は、来年に開会を控えた万博景気に湧いていたる所で道路工事やビル工事のまっただ中であった。旅する前に上海出身の方に、上海は工事だらけで汚くどこも見るところもないよ、と忠告を得ていたのだが中国発展の現実をこの目で見たかったので妻ともども行くことにした。
 折しもハブ空港で話題を集めている羽田からの出発であった。確かに成田より格段に便利である。群馬から行くのにも便利なのだから全国各地から見れば「なぜ成田まで」と思う気持ちは納得できるし、韓国アシアナ航空が日本の地方空港からソウル直行便を就航させ、ソウルから世界へ旅立たせる戦略は見事としか言いようがない。こういうこともあって前原大臣の「羽田をハブ化」発言なのだと思う。羽田からだと上海は虹橋空港に着く。国際線の主力は浦東空港になっているので虹橋空港はちょっとうら寂しい感じがする。羽田の国際線ターミナルも簡易な鉄骨造りだし空港で買い物を期待する旅人(特に我が妻)はちょっとがっかりする。虹橋空港から外灘(バンド)を経由してホテルまでの道のりは9年前と同じ高速道路であった。道路沿いは高層ビル群でこれも9年前と同じである。夕方5時過ぎなのに真っ暗なビルがあるのでこのビルは何かと現地スタッフに聞いたところ「マンションで人が住んでいません。お金持ちが投資したマンションです。」と言う。値上がりだけを期待したマンションで実際に住むという需要(実需という)があって購入されたものではない。こういった物件が多いために中国の不動産事業はバブルでそのうちに弾けると予測する評論家は多い。そのうちとは一体いつなのかが問題である。みずほ総合研究所が今年1月に発行した「みずほアジア・オセアニアインサイト」(以下「みずほレポート」という。」によると昨年に起こった世界金融危機に際し中国政府が行う総額4兆元(57兆円)の経済対策の内、低価格の分譲・賃貸住宅に2800億元(約4兆円)があてられるという。こういったお金が注ぎ込まれればバブルが弾ける年月日を特定するのは難しい。今私が見ている高速道路沿いに見られる無人のマンションにはこのような政府のお金は入っていない。値上がりすると見込んだ中国国内資産家のお金である。資産家のお金が引き上げられればバブルも弾けるだろうがこれも第3者には分からない。温家宝中国首相も懸念を示しているが、これはバブルを弾けさせない為の口先介入であろう。
 2日目は浦東新区にある日本の森ビルが建てた高さ492mのワールドファイナンシャルセンターの展望台に昇り上海を一望した。1週間雨が続いていたというので遠くまで見渡せるかと思ったが、かすんでいてよく見えない。
大気汚染の影響かどうかは断定できないが、日本に比べればはるかに大気の透明度は良くない。

       
 次に豫園商場に行く。ここは日本で言えば浅草みたいな場所である。何でも揃っていて買い物客や中国内外からの旅行客でごった返している。ここが再開発されることはないと思うが上海市民からすれば残しておきたい場所であろう。次は万博会場になる黄浦江両岸にかかる地上140mの大橋のてっぺんまで歩いて行き万博会場を眺望することになった。今工事の真っ最中で突貫工事中であるという。みずほレポートによるとここにも膨大な政府資金が投入されているという。会場内にはたくさんの飯場がありそこからたくさんの労働者が出てくる。こういった公共事業は短期間にたくさんの雇用を生むので手っ取り早くかつ効果の見込める経済政策である。しかし、永遠にこの施策を続けることは、日本の場合をみても分かるように難しい。40年くらいは効果があるかもしれないが、この間にインフラ整備など公共事業ではない次の雇用を生む政策を出さねばならない。これは日本でもそうだが、容易いことではない。
 3日目は蘇州日帰り旅行である。蘇州への道は高速道路であった。9年前も同じ高速道路であったが、今回驚いたことは蘇州へ行くまでの高速道路が網状に整備されている(一部整備中を含め)ことであった。9年前上海から杭州は高速道路で行き、杭州から蘇州までは一般道路を数時間かけて行った。一般道路を走るときは、道路上を歩行者、自転車、リヤカー、車とあらゆるものが走っておりなかなかスピードを上げることができない。私が幼い頃のことを思い出し夢を見たことを思い出す。ところが今回は違った。高速道路沿いに時々高層ビルや工事中のビル群が出現する。ガイドに何かと質問すると「マンションやお店だ。」と言う。あたり一面畑で何もないのにいきなりマンションとは驚いてしまう。日曜日で走っている車は上海ナンバーが多いことから察して上海の金持ちが持っているマンションなのかもしれない。こんな片田舎まで高層ビルがあるということは大量のお金が不動産に流れ込んでいるに違いない。やはり当分は中国は不動産投資を筆頭にインフラ投資で高成長が続くだろう。
 蘇州は古き良き中国が残っている場所である。寒山寺を始めとする歴史遺産があり水郷が張り巡らされた町並み。将来上海が今以上に都市化された時は、蘇州は今以上ににぎわうだろう。小京都としてにぎわいを集める日本国内の都市のようになるであろう。
 蘇州から上海に戻るときは日本と同じように渋滞に巻き込まれる。やっとのことで上海は外灘までたどり着く。夜景がきれいであった。ガイドが「香港とどちらがきれいか」と質問するから「香港の方がきれいだ」と答える。香港は再開発もほぼ終わり世界中から観光客を呼び込む努力を官民挙げて行っている。これに比べれば上海の努力は無に等しい。
 外灘では明りが煌々としてたくさんの労働者が働いている。来年5月開催の万博までに間に合わせなければならないから休む間もないのだろう。こういった労働者は「農民工」と言って農村部出身の人たちが多い。田舎には現金収入を得る場所がほとんどないので誰にもできる建築関係の仕事に大量の農民工が導入されている。工事が終わればこれら農民工は田舎に帰ることになる。No1でも触れたとおり中国国民は農村戸籍と都市戸籍を持つ者とに分かれているので農村戸籍を持つこれら農民工が上海に住み続けても何のメリットもないし、時には警察に拘束されることもあるので工事が終われば田舎に帰ることが徹底されている。このためにアジア各国の都市部に普通ににみられるスラムがない。食糧増産のために設けた農村戸籍と都市戸籍がスラム形成阻止に役に立っている。
 中国旅行から戻ってきてからも新聞に中国の記事が載らない日は無い。インフルエンザに罹り入院していた病院の反対を押し切り入院費を払えないという理由で退院していった4歳の子供を遺棄した親が逮捕されたという記事。爆竹作り中の「留守村」の子供達13人が死傷という記事。共に痛ましい事件である。かと思えば中国企業が日本の中堅企業を買収という記事や新日鉄が技術援助した製鉄所が今や競争相手という記事。発展途上国と先進国の両方の性格を有する中国はやはり目を離せない国である。






            平成21年12月28日  小林 直行


                                             トップページへ戻る