第42話  日本航空倒産から何を学ぶか? 

   日本航空は、2子会社と共に19日に会社更生法適用を申請した。負債総額が事業会社としては過去最大の2.3兆円を超える事実上の倒産であるが、企業再生支援機構を中心とした官民一体の支援で直ちに運行が止まることはない。1951年に設立された日本航空はナショナル・フラッグキャリアとしてそのブランド力を高め、『日本の翼。世界の翼』と一世を風靡し世界有数の航空会社になった。何が日本航空を倒産に至らしめたのだろうか。
私の日本航空に対するイメージは華やかさ一辺倒である。それもテレビドラマの影響が強い。私と同世代も同様な意見である。このブランドイメージを維持し続けるのは並大抵のことではない。単純に高価格高サービスを維持しようと思うならば、同一飛行機の中でのファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスの棲み分けをどうするのかという問題が生じる。こういった間隙を突いて思い切った低価格運賃を武器に機内サービスを有料化した格安航空会社の誕生、隆盛を招くことになった。各航空会社は、空気を乗せるよりは人を乗せた方が良いとの営業方針のもとで運賃のダンピングに走り、日本航空でさえその例外ではなかった。こうなれば様々な客が乗り込み華やかさとは裏腹の事象が起こるのは容易に想像できる。
 航空会社の収入の大半を占める航空運賃は以前は政府の認可制であったが、90年代以降規制緩和が進み日本では00年4月以降自由化された。普通に考えればこの年までに航空運賃の自由化に備えた経営の見直しを行わなければならないはずである。しかし、できなかった。飛行機は人間が操縦するからである。パイロットがいなければ飛行機は飛ばないことが航空会社にとって最大の経営上の悩みであることは容易に想像がつく。パイロットの給料が社長の給料より高いケースはざらにあるという。これでは航空運賃の自由化には対応できない。旧国鉄時代の労働組合は順法闘争の名の下に労働運動を活発化させていたが、度重なる電車の遅延やすし詰め状態の電車内の状況に乗客の支持を失い国鉄解体民営化の道をたどることになる。交通系の労働組合は力がある。自分たちが車両を動かしているという自負があるからである。しかし、国鉄の労働組合は負けた。日航経営陣はこの国鉄から学ぶことが出来なかったのか。
 さて私どもが行う介護保険事業は今回の日本航空問題から教訓として何を得られるだろうか。
 介護保険事業の収入の根幹である介護報酬は国の決定に属し、自由化前の航空運賃よりは規制が強い公定価格である。公定価格であるが故に経営も守られているが、いつ何時公定価格規制が撤廃されるかわからない。特別養護老人ホーム入居希望者が42万人にも上る現状では価格上昇につながるため、当面は、施設入所価格は公定価格として維持されるだろう。しかし、通所介護報酬は競争が激しく公定価格が撤廃されれば価格競争になり体力勝負に陥る。もしかしたら撤廃かの疑念を排除できない。規制改革会議が平成21年12月4日付けで公表した「更なる規制改革の推進に向けて」の中の「介護」項目を見ると私の疑念は更に増幅されるのである。いずれにしろ公定価格撤廃を念頭に経営を進めねばならない。
 事業を行うのに悪いイメージよりは良いイメージが良いのに決まっている。ただ、日本航空のように良いイメージの下で派閥抗争に明け暮れていたんでは結局倒産やむなきであろう。介護事業は決してきれいな仕事とは言えない。変にイメージというオブラートで包み隠すようでは正当に評価されないだろう。地域住民の生活を守ると言う理念を愚直に守り実行しなければならないと思う。今は介護職員処遇改善という追い風を受け、国をはじめ都道府県からも様々な支援を受けている。しかし、旧国鉄の労働組合のように自分たちの利益のみを追い求め利用者のことを忘れた組織は瓦解することを肝に銘じて置かねばならない。



            平成22年2月26日  小林 直行


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