長野原町立中央小学校  

卒業生より



「琴橋の椀貸し」について、本校の卒業生の方から
                        こんなメッセージをいただきました。

「はじめておたよりします。
 ホームページ、楽しく拝見致しました。
私は、昭和55年に中央小を卒業し、現在は埼玉県に住んでいます。
さて、長野原の昔話「琴橋の椀貸し」を読みましたが、実はこの話、
日本の歴史や、文化に非常に関わりのあるお話です。
ある事典を添付ファイルにして一つお送りいたしますが、この事典
の中に書かれている「群馬の話」の一つが「琴橋の椀貸し」なのです。
あと、同様の話が利根郡にもあるそうです。
お椀を作るのが特殊技能だった時代、良い材料を求めて
「ろくろ師」たちが長野原にも来ていたのです。
懐かしくておたよりしました。また、楽しい学校生活を見せてください。」



椀貸淵(わんかしぶち)多数の膳や椀を貸してくれるという伝説を持つ淵。

東北地方から九州に至るまで全国各地に分布する伝説だが、膳椀淵、椀箱淵、宝器淵、

揺動淵、竜宮淵等の名でも呼ばれ、特に愛知県や岐阜県といった中部地方や群馬県に

顕著であるという。多くの場合、借りた椀を壊したり、数をごまかそうとして信用を損ねると

以後貸さなくなったと伝えられる。借りた椀などを代々伝えている旧家もある。また、椀を

貸す場所は淵の他に、池や井戸、塚、穴、岩、地蔵であったとする地方もある。膳や椀の

持ち主も乙姫や竜神、河童という水神信仰に関わりのあるものから美女、山姥、大蛇、

ねずみ、狸狐の類まで多岐に渡っている。これらの伝説に共通するのは、膳や椀の持ち

主は霊威的な存在で、貸借の場所は現世・俗世界と、異郷や他界との接点であるという

ことである。この異郷が竜宮や隠れ里と結びついていることもある。竜宮の使いや乙姫か

ら椀を借りたという伝承は、群馬県などの海から離れた地方にも伝わっており、水神信仰

と竜宮伝説の結びつきも確認できる。また、椀の持ち主をねずみとする長野県や奈良県

の伝説は、「ねずみの浄土」といった昔話との関係を類推させる。こういった広がりを見せ

る椀貸伝説が全国各地に分布している背景として、木地屋の存在が挙げられる。

木地屋とは木製食器(木地)を作る専業者のことで、自らを小野宮惟仁親王を祖とする特

殊信仰の宣伝者で、ろくろを使う特殊技能集団であった。彼らは製品の良材を求めて全

国を渡り歩き、各所で木地を作り土地の人に残したのだという。その際、村人と接近する

ために自ら作った椀や膳にまつわる伝説や口承文芸を広めた可能性がある。淵から借り

たと伝えられる椀に、近江の木地屋の紋所(金の四つ目)が入っていることはその傍証と

なろう。

浮世草子「椀久一世の物語」などで知られる大阪の豪商「椀久」こと椀屋久衛門の墓とさ

れる、伊勢の椀久塚にも椀貸伝説が伝わっている。彼の屋号には椀の字が用いられて

おり、木地屋やろくろ師とのつながりも推察できるのである。

また、海外にも中国、イギリス、フランス、ドイツなどに、これと似通った説話があるとい

う。(冨澤慎人)『日本説話伝説大事典』(勉誠出版・2000年刊)