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枝肉の格付けは、日本食肉格付協会による豚枝肉取引規格にもとづいて決められているが、その変動要因としては枝肉重量、背脂肪の厚さ、枝肉の形状および肉や脂肪の品質などがあげられる。特に、豚肉の脂肪は肉に柔らかさや味わいを加える大切な要素であるとともに、豚にとってはエネルギーの蓄積として欠かすことのできないものである。しかし、飼料中に豚が必要とする以上のエネルギーが含まれていると、余分なエネルギーは体脂肪として蓄積されることになり、枝肉品質の欠格要因となる。そのため、今回肥育豚の脂質代謝を中心とした検査を実施するとともに、枝肉格付けとの関連について調査を実施した。

供試豚は管内2村における豚枝肉展示会に出品された13農場65頭であり、屠場出荷時の枝肉格付けは日本食肉格付協会による成績を利用した。また、枝肉展示会において腹部脂肪を採取し、融点と脂肪酸組成を測定した。血液は枝肉展示会に出品した農場のうち8農場を対象として60日令、90日令および120日令以上の育成〜肥育豚を各3頭づつ採材した。調査項目は病原抗体検査、生化学検査を実施した。

供試豚の枝肉格付成績
極上〜上に格付けされたものが41頭であり上物率は63.3%であった。等級別の枝肉成績は、中〜等外に格付けされた枝肉は上物に対して枝肉重量は重く、背脂肪は厚い傾向にあった。これらの品質欠格要因としては枝肉の脂肪付着が適正を欠いていたものが50%以上を占めていた。
枝肉等級と脂肪酸組成の成績
脂肪酸組成においては中〜等外(2〜4)に格付けされた枝肉と上物(0〜1)との間に大きな差はみられなかった。しかし、上物に格付けされた枝肉のリノール酸含量は中〜等外に格付けされたものに比較して高い値を示す傾向が認められた。
枝肉等級と枝肉成績、脂肪酸組成あよび融点との関係
枝肉等級と枝肉重量、背脂肪厚とは有意な正の相関、脂肪酸組成においては枝肉等級とリノール酸割合との間に有意な負の相関が認められ、リノール酸割合が高くなると枝肉等級が向上する傾向が示された。
不飽和脂肪酸であるリノール酸は体内で合成することができないため、すべて飼料由来となる。また、リノール酸は他の脂肪酸に比較して体脂肪に選択的に蓄積することが報告されている。今回、体脂肪中リノール酸割合の増加と枝肉等級の向上との間に有意な相関がみられたことは豚の代表的なエネルギー飼料であるトウモロコシあるいは蛋白質飼料である大豆粕主体の飼料給与の結果と考えられる。

しかし、近年発育速度や飼料効率の向上を目的として飼料の栄養価を高める試みが実施されつつある。

供試豚群における肥育過程の血清生化学検査
総コレステロール濃度は各ステージともに70〜100mg/dlの範囲で推移していたが、豚群によっては190mg/dl以上の個体も散見された。尿素態窒素濃度については60日令、90日令および120日令以上と肥育過程が進むにつれてその濃度が高くなる傾向が認められた。

各農場からの出荷豚における枝肉等級と肥育過程における総コレステロールと尿素態窒素濃度の成績
出荷豚の枝肉格付けが劣っていた農場では、他の農場に比較して、いずれのステージにおいても豚群の総コレステロールと尿素態窒素濃度の高値、あるいは尿素態窒素濃度の高値が認められ、高エネルギー・高蛋白質飼料給与の傾向、あるいは飼料中のエネルギーと蛋白質バランスの破綻している状態が窺われた。

次に、各農場における疾病の浸潤状況を把握するために、各疾病抗体価の幾何平均を数値化し、その合計を農場の疾病スコアとして表した。その結果、調査した8農場の疾病スコアは7〜24の範囲であった。

各農場における肥育過程の血清遊離脂肪酸濃度と疾病スコアの関係
疾病スコアの低い農場の豚群においては血清遊離脂肪酸濃度はいずれのステージにおいても他の群に比較してその濃度は低値で推移していた。
豚は必要とするエネルギーを飼料から摂取するが、疾病あるいはストレス等により飼料が充分に摂取できない場合は、不足するエネルギーを蓄積した体脂肪を動員、消費することにより補うことになる。今回観察した疾病汚染度の少ない農場の豚群では体脂肪の動員が少ない傾向にあった。

これら農場からの出荷された豚の体脂肪中脂肪酸組成
疾病スコアの低い農場から出荷された豚の脂肪酸組成は他の群に比較して飽和脂肪酸割合が高い傾向が認められた。 このことは、エネルギー源として動員、消耗される体脂肪中脂肪酸は不飽和脂肪酸に比較して飽和脂肪酸が多く消費されるという過去の報告を裏付ける結果であった。したがって、この様な状態が長期にわたると体脂肪の蓄積が阻害されるとともに、最終的には肉付き不良、発育不良および肉質や脂質品質の低下となって現れることが推察される。

これらのことから、豚肉の肉質、脂肪品質の向上を目指すには、豚舎の衛生状態を把握し疾病の清浄化に努めるとともに、肥育期に適正な飼養管理を行うことが重要と考えられる。
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