生産獣医療における
牛の生産病の実際(内藤、浜名、元井編 224−226 文永堂出版)

患畜@:牛、ホルスタイン種、雌、繋留飼い、4産
症状:分娩5日後、元気消失、食欲不振、反芻停止と第1胃運動の消失がみられ、乳量の低下が顕著に認められた。尿検査では著名なケトン尿がみられ、呼気、乳汁からもアセトン臭が認められた。なお、本牛の泌乳後期から乾乳期におけるボディコンディションスコアーは4.5であった。
生化学検査成績(初診時、終診時)
血糖(mg/dl)42.3▽、65.9
総コレステロール(mg/dl)159.5、165.8
リン脂質(mg/dl)167.6、175.5
トリグリセライド(mg/dl)21.9△、13.6
遊離脂肪酸(μEq/l)2389.6△、260.8
β-ヒドロキシ酪酸(mg/dl)38.9△、4.9
AST(K.U.)205.8△、128.5△
γ-GTP(IU/l)148.9△、95.7△
尿素態窒素(mg/dl)11.6、14.5
シアル酸(mg/dl)59.1、53.3
総ビリルビン(mg/dl)0.99△、0.28△
ビタミンA(IU/dl)30.2▽、86.3
ビタミンE(μg/dl)426.5、546.5
β-カロチン(μg/dl)147.8、153.6
カルシウム(mg/dl)9.5、9.1
マグネシウム(mg/dl)2.5、2.2
無機リン(mg/dl)5.2、5.9
血清総蛋白質(g/dl)7.2、7.8
アルブミン(g/dl)3.21、3.48
α-グロブリン(g/dl)0.89、1.24
β-グロブリン(g/dl)0.54、0.63
γ-グロブリン(g/dl)2.48△、2.43△
A/G0.80、0.80
肝臓中トリグリセライド(mg/wet.g)
861.0△、201.5
検査所見:終診時に比較して初診時においては低血糖とβ-ヒドロキシ酪酸と血清遊離脂肪酸濃度、および血清酵素活性の著い増加がみられている。また、肝臓穿刺による肝臓採取後に実施した肝臓中トリグリセライド値の著しい高値が認められ、光学顕微鏡による病理組織観察の結果も肝臓の脂肪化が顕著であることを示していた。再診時には血清酵素活性以外の値はほぼ正常値に戻っている。
診断:脂肪肝、ケトーシス
治療:25%キシリトール溶液1000ml、メチオニン製剤の静脈内注射を実施した。また、健康牛の第1胃液の移植を併せて行った。

患畜A:牛、黒毛和種、雌、繋留飼い、8産
症状:分娩約2月前に起立不能となり、この時点でのボディコンディションスコアーは4.5であった。呼気からは著名なアセトン臭の発現がみられ、著名なケトン尿を呈した。また、食欲不振となり、第1胃運動の低下が認められた。
生化学検査成績(初診時、再診時、終診時)
血糖(mg/dl)39.4▽、64.4、65.4
総コレステロール(mg/dl)69.3、68.3、74.6
リン脂質(mg/dl)81.8、78.8、82.1
トリグリセライド(mg/dl)29.2、12.2、10.4
遊離脂肪酸(μEq/l)
2393.3△、519.9△、255.1
β-ヒドロキシ酪酸(mg/dl)52.1△、29.7△、4.5
AST(K.U.)397.5△、81.0△、61.2
γ-GTP(IU/l)59.5△、60.2△、24.5
尿素態窒素(mg/dl)13.5、14.5、15.0
シアル酸(mg/dl)56.0、59.1、51.4  
総ビリルビン(mg/dl)0.95△、0.29△、0.01
ビタミンA(IU/dl)35.6▽、107.3、111.1
ビタミンE(μg/dl)96.7▽、267.8、255.1
β-カロチン(μg/dl)10.1▽、50.8▽、95.6
カルシウム(mg/dl)9.5、9.4、9.2
マグネシウム(mg/dl)2.1、2.4、2.3
無機リン(mg/dl)5.2、5.4、5.5
血清総蛋白質(g/dl)5.9、7.0、7.0
アルブミン(g/dl)2.94▽、3.19、3.18
α-グロブリン(g/dl)1.00、1.26、1.27 
β-グロブリン(g/dl)0.63、0.71、0.70
γ-グロブリン(g/dl)1.30、1.78、1.79
A/G0.99、0.84、0.84
肝臓中トリグリセライド(mg/wet.g)
851.4△、521.4△、124.7
検査所見:初診時において低血糖とβ-ヒドロキシ酪酸、血清遊離脂肪酸濃度、および血清酵素活性の著い増加がみられるとともに、ビタミン類濃度の低値が認められた。また、肝臓の重度脂肪化がみられ、再診時においても肝臓中トリグリセライド濃度の低下はみられなかった。分娩3週間前の終診時には生化学検査値はほぼ正常値に戻っている。
診断:脂肪肝、ケトーシス
治療:25%キシリトール1000ml、動物用チオプロニン注射薬100ml静脈内注射を継続して実施した。また、併せて健康牛の第1胃液移植を行った。

患畜B:牛、ホルスタイン種、雌、繋留飼い、5産
症状:本牛の泌乳後期ボディコンディションスコアーは4.0、乾乳期は4.5であった。正常分娩後7日目に食欲不振となり、乳量、体重の減少が著名にみられた。同時に、興奮状態、流涎、および眼球振盪がみられ、起立不能に陥った。尿検査では強度の蛋白尿、ケトン尿が認められた。その後、昏睡状態となり死亡した。
生化学検査成績
血糖(mg/dl)122.2△
総コレステロール(mg/dl)60.9▽
リン脂質(mg/dl)110.5
トリグリセライド(mg/dl)16.4
遊離脂肪酸(μEq/l)1318.9△
β-ヒドロキシ酪酸(mg/dl)62.1△
AST(K.U.)145.3△
γ-GTP(IU/l)45.1△
尿素態窒素(mg/dl)29.8△
シアル酸(mg/dl)72.9△
総ビリルビン(mg/dl)0.81△
ビタミンA(IU/dl)48.0▽
ビタミンE(μg/dl)117.6▽
β-カロチン(μg/dl)33.3▽
カルシウム(mg/dl)8.8
マグネシウム(mg/dl)2.2
無機リン(mg/dl)4.1
血清総蛋白質(g/dl)7.8
アルブミン(g/dl)3.13
α-グロブリン(g/dl)1.08
β-グロブリン(g/dl)0.87
γ-グロブリン(g/dl)2.70△
A/G0.67▽
肝臓中トリグリセライド(mg/wet.g)502.1△
検査所見:ケトーシス末期の所見である。高血糖と血清酵素活性の著しい上昇が認められ、肝臓中トリグリセライド濃度は肝臓の脂肪化を示している。また、腎臓障害によると考えられる尿素態窒素増加がられ、尿毒症を併発している。
診断:脂肪肝、ケトーシス
治療:予後不良として治療は実施しなかった。

患畜C:牛、ホルスタイン種、雌、繋留飼い、5産
症状:分娩7日後に元気、食欲の消失がみられ、泌乳量の減少とともに起立困難となった。体温、脈拍数、および呼吸数は正常であった。糖源物質投与等の通常のケトーシス治療に反応せず、血液検査を実施した。なお、乾乳期の本牛のボディコンディションスコアーは4.0であった。
生化学検査成績
血糖(mg/dl)22.5▽
総コレステロール(mg/dl)42.3▽
リン脂質(mg/dl)82.9
トリグリセライド(mg/dl)19.3
遊離脂肪酸(μEq/l)2566.8△
β-ヒドロキシ酪酸(mg/dl)76.2△
AST(K.U.)223.9△
γ-GTP(IU/l)67.4△
尿素態窒素(mg/dl)5.2▽
シアル酸(mg/dl)45.2
総ビリルビン(mg/dl)1.33△
ビタミンA(IU/dl)23.6▽
ビタミンE(μg/dl)87.2▽
β-カロチン(μg/dl)12.5▽
カルシウム(mg/dl)8.3
マグネシウム(mg/dl)2.4
無機リン(mg/dl)4.2
血清総蛋白質(g/dl)6.3
アルブミン(g/dl)3.13
α-グロブリン(g/dl)0.98
β-グロブリン(g/dl)0.59
γ-グロブリン(g/dl)1.58
A/G0.98
肝臓中トリグリセライド(mg/wet.g)889.2△
検査所見:肝臓中トリグリセライド濃度の増加、酵素活性値の血中への著しい逸脱は重度の肝臓における脂肪化の所見を示すものである。また、採食量低下や肝臓障害から血清脂質濃度と脂溶性ビタミン類の低下も顕著に認められた。
診断:脂肪肝、ケトーシス
治療:リンゲル液500ml、25%キシリット溶液500ml、メチオニン製剤の静脈内注射を継続するとともに、脂質代謝の改善を図るためにウルソデオキシコール酸、ビタミン剤の投与も併せて実施した。

患畜D:牛、ホルスタイン種、雌、繋留飼い、4産
症状:分娩4日後に急激な食欲、第1胃運動の低下とともに泌乳量の減少がみられた。治療として糖源物質の静脈内注射等のケトーシスに対する療法を実施したが、症状は好転せず、血液検査を実施した。本牛の泌乳中期から乾乳期のボディコンディションスコアーは4.5であった。
生化学検査成績
血糖(mg/dl)83.6△
総コレステロール(mg/dl)35.1▽
リン脂質(mg/dl)98.4
トリグリセライド(mg/dl)13.1
遊離脂肪酸(μEq/l)3234.6△
β-ヒドロキシ酪酸(mg/dl)66.8△
AST(K.U.)233.5△
γ-GTP(IU/l)112.0△
尿素態窒素(mg/dl)8.2
シアル酸(mg/dl)58.8
総ビリルビン(mg/dl)1.99△
ビタミンA(IU/dl)52.7
ビタミンE(μg/dl)132.7
β-カロチン(μg/dl)10.6▽
カルシウム(mg/dl)9.1
マグネシウム(mg/dl)2.3
無機リン(mg/dl)4.5
血清総蛋白質(g/dl)7.2
アルブミン(g/dl)3.16
α-グロブリン(g/dl)1.14
β-グロブリン(g/dl)0.93
γ-グロブリン(g/dl)1.94
A/G0.78
肝臓中トリグリセライド(mg/wet.g)984.2△
検査所見:肝臓中トリグリセライド濃度の高値と血清酵素活性の著しい上昇は肝臓における重度の脂肪化を示唆しており、肝臓の光学顕微鏡観察結果においても同様な所見であった。この状況を反映して、血清総コレステロール濃度の低値、血清遊離脂肪酸濃度の高値が認められるとともに、β―ヒドロキシ酪酸の増加がみられ、重度のケトージス状態が窺われる。
診断:脂肪肝、ケトーシス
治療:25%キシリトール溶液500mlとリンゲル溶液1000ml、およびメチオニン製剤を併用して静脈内注射を実施した。

肥満症候群の治療:糖源物質、電解質液の補液、強肝剤、抗脂肪肝製剤、および代謝改善薬の投与に効果がある。しかし、本症候群においては肝臓の脂肪化が顕著であるため、治療に反応しない症例も多く、治療期間が長期化する傾向にある。
肥満症候群の予防:過肥でない妊娠牛では分娩後、肥満症候群、またそれに付随したケトーシスに罹患することはほとんどない。まず、泌乳牛にあっては飼養法の適正化として泌乳期泌乳量にあった飼料を給与する必要があり、泌乳後期に向けてのボディコンディションの調整も重要である。また、初妊娠牛の場合は育成期、経産牛では乾乳期の妊娠牛の飼養管理も重要であり、特に、この時期に泌乳牛の高エネルギー、高蛋白質飼料の残飼給与はさけるべきであろう。

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