生産獣医療における
牛の生産病の実際(内藤、浜名、元井編 226−227 文永堂出版)

患畜@:牛、ホルスタイン種、雌、繋留飼い、3産
症状:分娩は難産であり、後産停滞となった。分娩2週間後から食欲は不振、第1胃運動の減退が継続し便秘を呈した。その後、起立不如意となり血液検査を実施した。なお、尿検査においては強度のケトン体が検出された。本牛の乾乳期におけるボディコンディションスコアーは3.0であった。
生化学検査成績
血糖(mg/dl)28.1▽
総コレステロール(mg/dl)108.2
リン脂質(mg/dl)121.8
トリグリセライド(mg/dl)17.6
遊離脂肪酸(μEq/l)1138.6△
β-ヒドロキシ酪酸(mg/dl)49.8△
AST(K.U.)125.1△
γ-GTP(IU/l)26.1△
尿素態窒素(mg/dl)8.0
シアル酸(mg/dl)70.5△
総ビリルビン(mg/dl)1.08△
ビタミンA(IU/dl)85.0
ビタミンE(μg/dl)211.1
β-カロチン(μg/dl)55.8
カルシウム(mg/dl)8.5
マグネシウム(mg/dl)2.0
無機リン(mg/dl)4.1
血清総蛋白質(g/dl)7.0
アルブミン(g/dl)3.46
α-グロブリン(g/dl)0.91
β-グロブリン(g/dl)0.59
γ-グロブリン(g/dl)2.01△
A/G0.98
肝臓中トリグリセライド(mg/wet.g)321.6
検査所見:血清遊離脂肪酸、β-ヒドロキシ酪酸濃度の増加とともに、重度の低血糖が認められる。肝臓機能検査においてはGOT活性、血清総ビリルビン濃度濃度の増加がみられ、肝臓機能が障害されている状態が窺われたが、肝臓中トリグリセライド濃度の増加はみられず、肝臓脂肪化の所見は認められなかった。
診断:ケトーシス
治療:初診時に50%ブドウ糖溶液1000mlとリンゲル1000ml、以後2日間50%ブドウ糖溶液500mlの静脈内投与を実施した。

患畜A:牛、ホルスタイン種、雌、フリーストール、6産
症状:分娩2週間後に突然起立不能の状態に陥った。しかし、瞳孔反射、意識、体温、脈拍、および呼吸数は正常であった。治療としてのカルシウム剤には反応せず、血液検査を実施した。本牛の乾乳期ボディコンディションスコアーは3.0であった。
生化学検査成績
血糖(mg/dl)50.5
総コレステロール(mg/dl)46.3▽
リン脂質(mg/dl)87.3
トリグリセライド(mg/dl)25.2△
遊離脂肪酸(μEq/l)2125.4△
β-ヒドロキシ酪酸(mg/dl)55.2△
AST(K.U.)189.9△
γ-GTP(IU/l)35.1△
尿素態窒素(mg/dl)4.5▽
シアル酸(mg/dl)58.1
総ビリルビン(mg/dl)0.91△
ビタミンA(IU/dl)77.1
ビタミンE(μg/dl)55.8▽
β-カロチン(μg/dl)8.1▽
カルシウム(mg/dl)7.5▽
マグネシウム(mg/dl)1.7▽
無機リン(mg/dl)1.8▽
血清総蛋白質(g/dl)6.8
アルブミン(g/dl)3.48
α-グロブリン(g/dl)0.95
β-グロブリン(g/dl)0.65
γ-グロブリン(g/dl)1.76
A/G1.01
肝臓中トリグリセライド(mg/wet.g)355.4
検査所見:血清無機質バランスの破綻が顕著に認められ、特に顕著な低リン血症がみられた。採食量低下と肝臓機能の障害によると考えられる血清コレステロール、尿素態窒素濃度の低下がみられる。また、体脂肪の動員による血清遊離脂肪酸とβ-ヒドロキシ酪酸濃度の増加も認められる。
診断:ダウナー症候群、ケトーシス
治療:リン剤として15%リン酸ナトリウム溶液をブドウ糖とともに静脈内注射を実施した。また、あわせてウルソデオキシコール酸製剤の投与を実施した。

患畜B:牛、ホルスタイン種、雌、繋留飼い、6産
症状:分娩3週間後、食欲不振に陥る。尿検査ではpHの低下とケトン体が検出された。第1胃運動が検知されず、左側胸腹壁の聴打診による反応があった。本牛の乾乳期におけるボディコンディションスコアーは4.0であった。
生化学検査成績
血糖(mg/dl)66.6
総コレステロール(mg/dl)96.6
リン脂質(mg/dl)108.2
トリグリセライド(mg/dl)14.3
遊離脂肪酸(μEq/l)1418.9△
β-ヒドロキシ酪酸(mg/dl)40.5△
AST(K.U.)119.3△
γ-GTP(IU/l)20.3
尿素態窒素(mg/dl)4.6▽
シアル酸(mg/dl)52.2
総ビリルビン(mg/dl)0.39△
ビタミンA(IU/dl)82.3
ビタミンE(μg/dl)208.4
β-カロチン(μg/dl)90.0
カルシウム(mg/dl)9.1
マグネシウム(mg/dl)1.8▽
無機リン(mg/dl)3.1▽
血清総蛋白質(g/dl)7.0
アルブミン(g/dl)3.11
α-グロブリン(g/dl)1.02
β-グロブリン(g/dl)0.64
γ-グロブリン(g/dl)2.21△
A/G0.80
肝臓中トリグリセライド(mg/wet.g)249.1
検査所見:第4胃変位による食欲不振、廃絶から血清遊離脂肪酸濃度の著しい増加と尿素態窒素、血清無機質濃度の低下がみられている。また、第4胃変位による採食量の極端な低下から、2次的にケトーシスを生じたためβ-ヒドロキシ酪酸の増加も認められている。
診断:第4胃変位、ケトーシス
治療:開腹手術による第4胃変位の外科的処置を行うとともに、25%ブドウ糖溶液500mlの静脈内投与を3日間継続した。

患畜C:牛、ホルスタイン種、雌、繋留飼い、2産
症状:分娩1週後から日量40〜45Kgの高泌乳を維持していたが、分娩3週後に元気消失、食欲減退がみられた。同時に、泌乳量の著しい低下と、反芻や第1胃運動の減退が認められた。本牛の乾乳期におけるボディコンディションスコアーは3.0であった。
生化学検査成績
血糖(mg/dl)66.6
総コレステロール(mg/dl)85.6
リン脂質(mg/dl)99.8
トリグリセライド(mg/dl)15.5
遊離脂肪酸(μEq/l)1222.7△
β-ヒドロキシ酪酸(mg/dl)67.9△
AST(K.U.)111.9△
γ-GTP(IU/l)24.9
尿素態窒素(mg/dl)5.5▽
シアル酸(mg/dl)49.8
総ビリルビン(mg/dl)0.02
ビタミンA(IU/dl)66.9
ビタミンE(μg/dl)123.8
β-カロチン(μg/dl)65.9
カルシウム(mg/dl)9.1
マグネシウム(mg/dl)2.1
無機リン(mg/dl)4.3
血清総蛋白質(g/dl)7.1
アルブミン(g/dl)3.56
α-グロブリン(g/dl)0.92
β-グロブリン(g/dl)0.61
γ-グロブリン(g/dl)1.97
A/G1.01
肝臓中トリグリセライド(mg/wet.g)197.4
検査所見:本牛は高泌乳牛であったが、泌乳初期において泌乳にみあった飼料を採食することができなかった。そのため、体脂肪の動員が顕著になり、血清遊離脂肪酸、β―ヒドロキシ酪酸濃度の増加を招来しケトーシスを発症したと考えられる。
診断:ケトーシス
治療:50%ブドウ糖溶液500mlを静脈内に3日間投与後、予後良好となり、採食能力が回復した。

ケトーシスの治療:生体内における糖代謝をスムーズにして、ケトン体の減少を図るために、糖源物質や強肝剤などの代謝改善薬の投与が一般的に行われている。ケトーシスの原因はいまだ不明な点が多く、栄養不足、消化障害、肝臓障害、およびマクロミネラルあるいは微量元素の欠乏など、その原因も複雑多岐にわたっている。しかし、重度の肝臓脂肪化を含めた肝臓障害等を伴っていないケトーシスの場合、予後良好な場合が多い。
ケトーシスの予防:飼料給与管理に留意することが肝要である。特に、分娩後における採食能力の低下とともに、乳汁の著しい分泌が起こる分娩直後に発症頭数が多い。そのため、分娩前後における飼料の急変はさけるべきであろう。また、酪酸発酵を起こしやすい飼料給与においてはケトーシスが発症しやすいことが報告されているが、現在ではサイレージ調整技術の向上等により、野外におけるその発症頭数は減少している傾向にある。その他には適度な運動や日光浴などを含めた牛に対する管理条件の優劣も発症誘因となるので注意を払う必要がある。

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