杉千絵詩集「石の魚」より「カリフラワー」
あたりが
白一色になり
目がさめる

そうか
あのもやもやは
カリフラワーの
ざわめきだったのか

ガス灯というより
水銀灯のように光っている
やわらかな少年のからだの中で
芽生え 幅をきかせているもの

回復のメドの立たない病いなのに
あたりはあかるい
病いに照らされて
少年もあかるい

あんたが
カリフラワー畑の白いみのりを
みんな食べてしまえば
彼は車椅子を降り
ただの少年になれる
簡単なことよ

自分に言ってみる

第1聯「あたりが/白一色になり/目がさめる」は暗い夜から突然訪れた明るい朝のようす。「白一色」という言葉に異様な明るさがあり、衝撃を感じます。

第2聯「カリフラワー」は癌細胞のことでしょうか。「もやもや」が「カリフラワーの/ざわめきだった」という言葉には、夢の中の奥の奥まで冷酷な現実が浸透してしまっている感覚が感じられます。

第3聯「水銀灯」という言葉からは、宮沢賢治の「有機交流電流の青い照明」が連想されます。「水銀灯のように光っている」のは「やわらかな少年のからだ」と読むべきでしょうか。それとも「幅をきかせているもの」と読むべきでしょうか。

第4聯「あたりはあかるい/病に照らされて」というのは同じ病室の他の子供たちは正樹くんに比べると軽い病状だ、ということでしょうか。それとも、「あたりはあかるい」で一旦区切って、素直に部屋の明るい様子を描写していると読むべきでしょうか。

第5聯の「あんた」は作者ご自身のように思われます。癌細胞を自分が食い尽くすことができれば、車椅子の少年はただの少年にかえることができるのに、という苦痛な思いが滲み出ています。