2 三ツ木ぶんさん

 三ツ木ぶんさんは10数年前にご主人に先立たれた。今は、息子さんご夫婦と一緒の生活を送られている様子。生活を伴にしていたお孫さんも嫁いでいかれた。

・嫁ぎゆく孫に送らむ夜具作り
  幸せ念じつつ綿重ねをり

・古里の味とよろこぶ子の顔を

  目先にうかべ葱の荷作る

 三ツ木さんが葱の荷作りをしている姿が目に浮かんでくる。

・真夏日を働く吾子は夕べ呑む
  冷えしビールに安らぎの顔

 三ツ木さんの詩には、ほんのりとした安らぎを感じる。真夏の暑い一日、仕事を終えて息子が帰ってきた。息子は冷えたビールを飲んでくつろいでいる。三ツ木さんの幸せの原点がここにはある。
 しかし、寂しいことであるが、三ツ木さんの住む南牧の村も日一日と過疎化していく。

・やわらかき秋陽の下に村落の
  屋根赤錆びて無住の増しゆく

・赤児の声聞こえずなりて過疎の村
  コスモスだけが秋風にゆれ

 赤児の声が聞こえない。未来が急速にしぼんでいく。これは、わたし達にとって実に不幸なことではないだろうか。

・生コンの大型トラック橋上を
  通れば橋の揺れ我身に伝う

・雪晴れの朝の空の澄みわたり
  ヘリコプター一機点のごと飛ぶ

 橋の上で後ろ手しながら大型トラックが通りすぎるのを振り返るようにして見詰める三ツ木さん。三ツ木さんの目には青い空を飛ぶヘリコプターがどんなふうに映っているのだろうか。