4 田中豊潮さん

 田中さんには花の詩が多い。むくげ。折鶴蘭。さるすべり。木蓮。花菖蒲。山茶花。ベコニア。芝ざくら。霧島つつじ。山吹。スイートピー。小菊。リラ。萩。山百合。さつき。アカシヤ。キンギョ草。白つつじ。マリーゴールド。まるで満開の花園の中にでもいるようだ。

・葱畑に電柱のあり身をよせて
 暑き秋陽をさけて汗ふく

・長雨に打ちたたかれし葱畠
 ほそりし葱の土寄せ済ます

 そんな中に、こういう葱をうたった詩がある。土の臭い、葱の臭いがつんと鼻をついてくるようではないか。

・肌寒く虫の音絶えし夜の村
 窓の灯減りて淋しくなりぬ

・鋤の手を休め語りし隣畑
 今は主亡く夏草繁る

・静かなるこの山里に終日を
 道路広げるブルの音聞く

 騒がしいブルドーザーの音も村の人の生活とは直接の関係はないのだろう。道路を広げて、その恩恵を受けるのはそこを通る人達である。

 田中さんも小金沢さんと同じく琴を習っている。公民館活動だろうか。

・長雨の晴れ間に夫と畑に出て
 茄子やトマトの顔色を見る

・夫入院留守居の卓に一人食む
 わが誕生日小菊の薫る

 ご主人が入院されて心細い限りである。しかし、歯科医の息子さんがそばに居てくれるだけでも心強い。

・夜までも続く診療終えし子の
 つかりし風呂に消毒薬臭う

・通い来る歯科診療の終えし夜
 無事故祈りつ息子見送る

 最後に、ちょっと異色の詩。

・路の辺にカセットテープ捨てられて
 炎暑の日ざしに光りゆれおり

 誰が捨てたのか、長いテープが絡まった糸のように夏草の上で光っている。どんな音をとったのか。もう音の聞こえないテープである。