6 高麗宝盛さん

 高麗さんは、笑う山。それも、どこかちょっと艶っぽい雄大な笑う山。

・男体の山はご機嫌空高く
 奥日光は秋の夕暮れ

 高麗さんは奥さんのことをよく詩にうたう。

・落葉焚く庭の片隅老妻の
 頬にやさしく夕陽の木もれ

・手際よく片膝ついて障子貼る
 妻の手先に冬日のやわし

 お孫さんのことをうたった詩も多い。

・こわれ物抱くが如くねんごろに
 孫を湯浴みの手もとの和む

・飽きもせず孫の見つめる眼のあたり
 奇妙な歩み尺とりの虫

・仏壇の線香焚けば孫二人
 意を解せずも合掌仕草

・横にして将又たてに判じ読む
 しかと自筆の孫の葉書を

 両手にのってしまうほどの小さな赤ちゃん。その子もあっという間に這い這いをはじめ、気がつくと、仏壇の前で小さな両手をしっかり合わせている。それが、遂に、葉書まで書くようになった。高麗さんの孫を思う気持ちが伝わってくる。

 山の中にはマグマがある。高麗さんの心の中にも燃え上がるようなマグマがある。

・忘れ得ぬ温もりに酔う夏の宵
 八重山吹のまた燃え初むる

・杜若(かきつばた)衣の匂える乙女肌着
 誇る性に月冴えにけり

 鮮烈な花を題材にしたイメージ詩。見えないところを見えないままで残す。シュールな感じ。

・開け放つ部屋にそよ風吹き込みて
 鬼やんま舞いしばし遊べり

・蓬摘む土手に忘れし鎌ひとつ
 雨風凌ぎ錆びを被りて

・山笑い季を得て燕はやも来て
 揃いの服の皆一張羅

 山にもいろんな山がある。高麗さんはやっぱり笑う山だ。