8 石井なか子さん
・誰が釣りしやまめを猫がくわえ来し
取り上げ見しのちあたへてしまいぬ
・もゆる如裏畑のサルビア盛りなり
月足らずの孫埋めし証しの
きれいな田園風景ばかりが田舎じゃない。霊的な血の匂いに私はショックを感じた。動と静。生と死。赤と黒。
・賑やかに孫らの泊まる正月は
あるだけのふとん並べて敷きたり
・ビロードのスカートはいて娘は来たり
三万五千の定価を見せる
・老いの愚痴又かと聞きつつテレビドラマ
音声上げて聞こえぬふりする
娘さんや、お孫さんとの生活が蘇えってくる。しかし、ご主人が亡くなられてからというもの石井さんは沈み込んでしまったようだ。
・穴あきしくつ下のみの袋あり
怠りいし我をいましめる如くに
・支え呉るる人失いてひと日口
開かぬ日つづく猫だけの生活
・ひと室づつ畳を干しぬ陽をすいし
あたたかき畳の重きに絶えて
・桑の葉の落ちゆく音は淋しかり
風吹けば皆舞い散り行けり
猫のみを友とする淋しい生活。それでも少しづつではあるが活気がみられるようになってきた。
・木曜の着付の夜の帯結び
覚えることの楽しさはあり
火の消えた後のローソク。そんな石井さんの呆然とした姿が私の印象に残っている。
・藷の葉の深きひろがりに足入れて
伸びしを抜きぬ我が丹精の
・豚を飼い兎を飼いし小屋の中
使わぬ道具の山と積まるる
・甘茶づる毒だみなどを干し上げし
袋を灰にせり夫亡きあとに
・黒きちょう家の内より出で行かず
夕立ちあるか心沈む日に
高麗さんの『鬼やんま』の詩と合わせて読むと、石井さんの沈痛のほどが痛いほどよく分かる気。
石井さん、ここに陰ながらあなたを応援している者のあることを忘れないでください。
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