夢ニ夜

 何の夢だったのでしょうか。目覚める直前に夢の中で読んでいた文章を不思議と鮮明に覚えています 。

『人生は自分の城(夢の中ではdie Weltと書かれていました) を他人の城(夢の 中ではandre Weltでした)の中に作ることだ』
そこにはそんなことが書かれてあり ました。夢の中での出典は確かキルケゴールと書いてありました。

これは、結構暗示的な言葉です。私は3 つの意味を考えていました。ひとつは、思想の無限の入れ子構造。次に、それと関係がありますが、自己と他者との無化作用。そして、最後に言語についてで す。

その文章を私はホテルの一室で読んでいました。妹の家 族と我が家の家族がいました。日光霧降高原にあるメルパルクだったのかもしれません。そこには遊べる温水プールがあり、天体観測所もありました。風もなく、穏やかで、寒さの厳しい冬でした。

その文章を読む少し前、私は最上階の露天風呂に入り、重なるように連なる山々を眺めていたような気がします。山々は多少煙がかかったようでありました。

43歳の誕生日の朝、私は朝風呂 を浴びながら、久しぶりに朝日の昇るのを見ました。雲一つない茜色の 東の空、それも少し下方に、太陽が顔をのぞかせ、次第に明るさを増してゆっくり昇っていきます。私は、ま ぶしさに目が耐えられなくなるまでじっと太陽が昇るのを眺めていました。

風呂から上がり、脱衣所 に置いてある血圧計で、血圧を計りました。確か118の79だったでしょうか。脈拍は89と早めでした。 体重は70.58kg。朝飯前ではありましたが、70kgを切るまであと一歩のと ころだと喜んでいました。

いよいよ43歳。これからの1年がどんな1年になるか、あるいはまた、 どんな1年にするか。そう思って部屋に戻るとベッドの上に誰が置いたのかメモが置いてあったのです。

「人生は自分の城を他人の城の中に造ることだ」
ああ、これは一体どういうことなのでしょうか。