夢四夜

それは切ない夢でした。大きな畳の部屋にたくさんの人が集まっていました。みんな喪服を着ています。知っている顔もあります。誰のお葬式なのかも知らないで、私はそこに座っていました。

膝の上に一冊の本がありました。何気なく開いてみると、背表紙の題字と中身が逆さまです。ページをめくっているうちに、私はその本が、まだ私が子供の頃、密かな恋心を抱いていた少女の書いた本であることに気がつきました。回りのざわめきが気にならないほど私はその本に集中しました。

本が終わりのページに近づいて、ようやく私は、そのお葬式が実はその少女のお葬式であることに気がついたのです。 

子供の頃、少女は私の知らない場所に引っ越していきました。越していく前のある夜。私は少女に長い手紙を書きました。今はもうよく憶えておりませんが、一度も話をしたことのないその少女に私は、「一生あなたのことを愛しつづけます」というようなことを書き連ねたのです。

今でもその時のことを思うと、恥ずかしさに身の縮む思いがします。その手紙に私はバイロンの詩集を同封したことを覚えています。それを持って私は、真夜中、家族に気づかれないようにそーと家を出ました。

冬の星座がきれいな夜でした。田舎の郵便局の前はしーんとしていました。私は郵便ポストの前を何度も行ったり来たりて、そして、遂に思いきって、手紙を郵便ポストに投函したのでした。自分の気持ちに素直であること。それが私の選択した道でした。
 
その手紙のことが本の中に書いてありました。心の中で少女はいつも夕焼けの中にいました。それは私が彼女に出会った最初の風景だったのです。彼女は私の手紙を、クラブ活動を終えて学校から帰った日の夕方、きれいな夕焼けの中で読んだのです。

私はいつまでも返事のくるのを待っていました。しかし、返事は遂に来ませんでした。

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気がつくと、私は少女が引っ越していった場所にいました。見たことのない海沿いの街です。たくさんの材木に囲まれ、私は一度も会ったことのない少女の父親に会っていました。傍らには一匹の犬がいました。犬の目には深い金色の光りがありました。

少女の父親に案内されて私は、少女の部屋をみせてもらいました。手作りの部屋に私の夢が眠っていました。彼女の写真が壁にかけてあります。朝の光がベットに差しこみ、少女はうれしそうに写真の中で微笑んでいました。

朝起きた時、私の心は切ない思いに満たされていたのです。