夢六夜

 私はどこにいたのだろう。一緒に歩いていた人達。あれはいったいどういう人達だったのだろう。枯葉の舞う冬景色の中を私達は近くの病院に向かって歩いていた。連れの一人が蓄膿症がひどくて、もう殆ど歩けないような状態だった。

「薬を3錠半ください。」
病院の窓口でその人が言った。
「うーん。やっぱり5錠は必要でしょう。」
年のいった看護婦さんが答えた。純白の白衣が光っていた。まあ仕方がない、その人はそんな顔をした。

 私達は診察室で待っていた。医者の姿ははっきり覚えていないが、医者の前にひとりの女の子がいたことは覚えている。

「ちんちんが出てくるようにするにはどうしたらいいんですか。」
女の子が言った。変なことを言う女の子だなあ、と思って様子を見ていると、女の子がパンツをさげた。ごく普通の性器を丸出しにして女の子が立っている。しばらく見ていると、見る見る間にその部分が少しずつ膨らんで垂れてきた。

 あれ、あれ、これはどうなっているんだ。そうか、この女の子は本当は男の子なのかもしれないなあ。私が感心して見ていると、女の子のくるぶしのところの肉が微妙に歪んで人の顔が現れた。なんとなく、そこに居る人たちの顔に似ているような気がする。女の子の後ろに何人かの子供達が並んでいた。見ると、後ろに並んでいる子供達のくるぶしにも人の顔が浮かんできた。ああ、これは昆虫と同じなのかもしれない。きっと、心に浮かぶことが身体に現れるんだ。変な病気もあるもんだ。そう思いながら、私は連れと病院を出た。

 私達はどこかで見たことのあるような湖のほとりを歩いていた。錆びついたクレーンを積んだ古い漁船が遠くに見える。その上に何人か観光客らしい人の姿が見える。
「あの漁船の人達の生活はひどいものなんだ。ああやって、観光客相手に商売しないとやっていけないんだ。」
誰かが言った。観光客を乗せたボートが何艘浮かんでいる。

  それを見ているうちに、少しずつ湖の水面が波打ってきた。次第に波が高まって、いつの間にか、ゆさゆさ揺れるほどの大波がやってきた。

 私はこの大波を逃れるために、大慌てで一人、地下道のようなところに逃げ込んだ。波がはじけ飛ぶ音が聞こえる。地下道の入り口のところまで大きな波が打ち寄せてきた。と、思ったら、いっぺんに地下道の中にまでドッと水がなだれ込んできた。私は流されまいと必死だった。不思議とうまい具合に身体が浮いた。足元に人間の身体らしいものが触れた。手を伸ばしてその人を助けようとした。思いっきりひっぱってみたがビクともしない。だめだ。私は救うことを諦めて泳ぎ出した。自分の命さへ危なかった。

 何人もの人が湖を泳いでいた。私はやっとの思いで陸にあがり、あたりの様子をうかがった。何かとんでもないことがあったんだ。
「どうしたんでしょうか。何かあったんでしょうか。」
私は近くを通りかかった人に聞いてみた。
「富士山が爆発したんですよ。」
その人が答えた。

 私は急いで富士山が見える位置まで走っていった。富士山は真っ赤な炎をあげて、今まさに大爆発を繰り返しているところだった。火が木々に燃え移り、遠くで山火事が起きている。火の粉が自分の居る近くまで飛んできている。これは、大変だ。早くここを逃げ出さないと焼け死んでしまう。

 私は逃げた。逃げながら、どうやって家に帰るか考えていた。なんとか電車に乗れるといいんだが。ああ、そうだ。お金は流されてしまったんだ。一文無しだ。なんとかして家に連絡しておかないと、富士山大爆発のニュースを聞いて家族が心配しているはずだ。

 私は走った。消防車が走り去る街中を消防車と反対方向へあてもなく走った。もう、足が棒になるほど疲れきっていた。東所沢まで行けば親戚の家がある。そこでお金を借りて帰ればいい。漠然とそんなことを考えていた。

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 気がつくと私は故郷の町にいた。町の人達はお祭りの準備で大忙しといった様子だった。呆然としている私に、中学の時の同級生が声をかけてきた。
「さっき、あそこで誰かが探していたよ。電話が鳴っていたみたいだったね。」
私は指差さされた方向に走って行った。

夢はそこで途切れてしまった。