○修士論文


                              研究指導分野 政策評価
                              指導教授   斎藤達三先生


修士論文

    大型公共事業の政策形成過程における
        政策評価の役割に関する考察     〜八ッ場ダムを実例にして〜


    A Study on the Role of Performance Management
      in the Policy-Making Process of Large Size Public Works
                  〜The Case Study of Yanba Dam〜



          2002年 1月 10日 提出

    高崎経済大学大学院地域政策研究科 修士課程
          学籍番号  700-024
          氏名     真下淑恵




目次
  
序章  はじめに
第一章 公共事業の概念、現状と決定へのプロセス
     1, 公共事業とは
     2, 公共事業の歴史的背景
     3, 公共事業の仕組みについて
       ア、全国総合開発計画
       イ、公共事業中長期計画
     4, 公共事業の財源について
     5, 特別会計について
     6, 特殊法人について
     7, 公共事業の政策形成過程について
第二章 公共事業の政策評価について
     1, 日本で行われてきた公共事業の政策評価について
     2, 外国で行われてきた公共事業の政策評価について
       ア、ドイツでの取り組み
       イ、イギリスの取り組み
       ウ、アメリカの取り組み
        ・ダムに対する方針転換
        ・サンセット法について
     3, 環境の価値の政策評価 
     4, 北海道「時のアセス」について
     5, 国の公共事業再評価の流れについて
       ア、ダム事業審議委員会について
       イ、事業評価監視委員会について
       ウ、その後の動きについて
     6, 自治体の公共事業政策評価の流れについて
       ア、岩手県の公共事業評価について
       イ、三重県の公共事業評価について
第三章 八ッ場ダムの政策評価について
     1, 八ッ場ダム建設の経緯について
     2, 八ッ場ダムの概要について
       ア、事業目的
       イ、施設概要
     3, 八ッ場ダムの政策評価について
       ア、関東地方建設局事業評価委員会の再評価について
       イ、八ッ場ダムの費用対効果について
       ウ、代替案について
     4, 八ッ場ダムの政策評価の問題点について
       ア、利水分の評価
       イ、強酸性水、中和工場、品木ダムについて
       ウ、八ッ場ダム周辺の環境の価値について
     5, 今後の方向について
第四章 これからの公共事業の政策評価のあり方について
     1, 治水経済調査の基本的な考え方
     2, マイナスの効果について
     3, 公共事業基本法案とそれに対する批判
     4, まとめ
終章  おわりに




序章 はじめに
 現在の日本の財政状況をみると、国と地方の長期債務残高を合わせて693兆円
(2002年度末)*1に達し、歳入全体に占める国債発行額の割合である国債依存度は、
36,9%にもなるという異常事態になっている。この巨額な将来へのツケである財政赤
字をかかえているにも関わらず、政府が進めようとしている継続中、計画中の公共事
業を足しあわせてみると年間40兆円、5全総全体でゆうに1000兆円を超えると言われ
るほど膨大な数字になる。これらの膨大な公共事業の中、とりわけ大型公共事業の中
にはその必要性に疑問が持たれるものがあり、国民、特に若者達が未来に希望を持て
ない時代になっている。一昨年(2000年)の衆議院選挙に惨敗した自民、公明、保守
の与党三党は、8月「公共事業の抜本的見直しに関する三党合意」*2を発表し、233の
公共事業*3(残事業費総額2兆8240億円)について原則的に中止するよう政府に勧告
した。今まで膨大な借金の原因とされながらも、一度決まると決して見直される事は
ないと思われてきた公共事業であるが、選挙を通した国民世論により見直しをせざる
を得なくなったのである。この見直しにより255の公共事業が中止されたが、一方で
新たに北陸、九州の整備新幹線等の着工が決まるなどしており、2001年度の公共事業
費総額は2000年度の総額から殆ど減っていないのである。又、中央省庁等改革基本法
が2001年1月に施行されたたが、同法29条に政策評価機能の充実強化が、同法46条に
は公共事業の見直しが掲げられた。法律上も政策強化機能を充実させ、必要性の乏し
い公共事業を見直すことが、規定されたのである。しかし、真に政策評価機能を充実
させ、必要性の乏しい公共事業の見直しを実現できるかどうかは、これからの同法の
運用にかかっていると言えよう。今、政策評価、公共事業見直しの必要性が広く認め
られ、政策評価という言葉が一人歩きをして、ブームになっているという印象さえ受
ける。この機運が現実を変えていく実効性を持てるかどうかの大切な過渡期に今があ
ると言える。そのためにはまず、大型公共事業の政策形成過程における政策評価の役
割を考察することが必要であろう。
 本論では、まず公共事業の概念を整理確認し、次に国内外で実施された公共事業の
政策評価(再評価を含む)について、その歴史的流れ、現状を考察する。そして、計
画後50年が経つ八ッ場ダムを具体例として政策評価について分析と検討を加え、具体
的問題点を明らかにし、公共事業の見直しのための政策評価を形だけのもの、一過性
のものに終わらせないための足がかりを見出したい。そして最後に、今後の大型公共
事業の政策形成過程における政策評価の役割について考察し、不要な公共事業の見直
しを現実のものとするための政策評価のあり方について提言を加えていきたい。


第一章 公共事業の概念、現状と決定へのプロセス
1, 公共事業とは
 公共事業とは、「国、地方公共団体、政府関係機関などが、道路、港湾、下水道、
堤防などの公共的目的又は、社会的な必要を満たすための施設を建設、維持する事業
を指す。」(建設用語辞典より)とある。経済企画庁が作成した「公共投資等の範
囲」によると以下の図のような対象範囲と定義にまとめられる。本論では、公的企業
まで含んだ公共投資を対象に考えたい。

図表1
公共投資等の範囲
概念 対象となる範囲 備考
一般政府 公的企業 民間
公共事業関係費   ←(国)→     国の予算上「公共事業関係費」に分類されるもの
公共事業費 ←(国)→     財政法第4条の建設公債の対象となるもの
行政投資 ←―(国+地方)―   自治省の毎年発表するもの(42兆8210億円・94年度実績)
公的固定資本形成 ←…(国+地方)… ………→   国民経済計算(新SNA)上の概念(43兆3080億円・95年度実績)
公共投資 ←――――――― ―――→   経済計画で用いられている概念
社会資本投資 ←――――――― ―――― 民間主体による社会資本整備を含めた概念
(注):1.←→は、用地補償費を含み、←…→は、用地補償費を含まない。
   2.この表は公表投資に関する諸概念の概要を把握するために作成したもので、細部についてはこの表では説明できない。
   3.公共事業関係費には、住宅対策費などを含むが、文化施設整備費などは含まない。
   4.公共事業費には、文化施設整備費などを含むが、住宅対策費などは含まない。
出所:経済企画庁(1991年)



 又、公共事業は「産業基盤」「生活基盤」に区分けされる。画一的に分けられない
面はあるが、産業基盤として「工場用地、工業用水、道路、鉄道、空港、港湾等、主
として生産と流通機能をもった公共施設」、生活基盤として「住宅、学校、病院、福
祉施設、街路、下水道、公園等」に分される。

2, 公共事業の歴史的背景*4
 戦後の復興期には公共事業は失業者救済を主目的とし、災害復旧事業などが主要な
内容を占めていた。1949年失業対策事業が労働省所管となり民間企業が事業の担い手
となり、経済成長に対する効果を持つものが公共事業とされるようになった。戦後の
混乱から日本経済が立ち直った1955年頃、公共事業の比率に大きな変化が生じた。53
年に41,5%の比重を占めていた災害復旧費が、57年に23,7%と半減し、道路整備費が
13,2%から28,4%へと倍増する。
財源的裏付けとしては1953年「道路整備事業費の財源などにかんする臨時措置法」に
よる揮発油税が特定財源にあてられた。1955年に地方道路譲与税、翌'56年には軽油
引き取り税が特定財源となり、'58年に道路特別会計が設立された。このような道路
整備中心の公共事業の原型が完成した1957年度以降、あいついで公共事業関係の特別
会計が設立された。

表1
1953-60年度公共事業関係総事業費の推移   (億円,%)
区分 1953年度 1954 1955 1956 1957 1958 1959 1960
事業費 構成比 事業費 構成比 事業費 構成比 事業費 構成比 事業費 構成比 事業費 構成比 事業費 構成比 事業費 構成比
治山・治水 451 18.2 433 19.0 410 19.0 408 18.1 428 16.7 450 15.2 651 16.1 877 19.5
道路整備 327 13.2 342 15.0 415 19.2 508 22.5 729 28.4 930 31.5 1,378 34.1 1,552 34.5
港湾・漁港・空港 97 4.0 82 3.6 89 4.1 101 4.5 147 5.7 180 6.1 276 6.8 318 7.1
林道・都市等 132 5.3 157 6.9 142 6.6 165 7.3 180 7.0 200 6.8 243 6.0 298 6.6
農業基盤整備費 425 17.2 390 17.1 362 16.7 412 18.3 457 17.7 517 17.5 584 14.5 678 15.1
災害復旧等 1,029 41.5 857 37.6 721 33.3 633 28.1 609 23.7 655 22.2 884 21.9 741 16.5
その他 15 0.6 15 0.7 22 1.0 28 1.2 20 0.8 19 0.6 22 0.6 31 0.7
合計 2,477 100.0 2,275 100.0 2,162 100.0 2,256 100.0 2,570 100.0 2,951 100.0 4,039 100.0 4,495 100.0
(注)  災害関係予備費支出額を含む
「国の予算(昭和35年度)」231ページより


図表2
公共事業関係の特別会計とその設置年度
     設置年度



現在の特別会計
51



51

52

53

54

55

56

57

58

59

60

61

70

〔国有林野事業〕                            
国有林野事業 --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
治山勘定                     ├- --- --- ---
〔治水〕                            
治水勘定                     ├- --- --- ---
特定多目的ダム
建設工事勘定
              ├- --- --- --- --- --- ---
塘路整備                 ├- --- --- --- --- ---
〔港湾整備〕                            
港湾整備勘定                       ├- --- ---
特定港湾
施設工事勘定
                  ├- --- --- --- ---
空港整備                           ├-
特定土地改良               ├- --- --- --- --- --- ---


それまでは、社会資本の各部門の建設計画が経済計画の中で具体的に明らかにされて
いたのに対し、経済安定本部により一括管理されていた公共事業が各省に分割され、
各事業ごとの個別的な管理計画化が強まり、社会資本投資の無計画化、無政府性の増
大も強め、全体としての計画性が希薄になった。1950年代は、道路を中心とする公共
事業への編成替えと共に工事規模の大規模化と大企業への発注が拡大し、公共事業は
経済成長の戦略的手段となっていった。


表2 資本金1億円以上の会社の公共発注工事に占める比率(元請け施行額)
比率(%)
1955 19.6
1965 48.7


 「建設工事施工統計調査報告」昭和30年
 及び昭和40年より作成



表3 公共工事の総工事規模別構成比 (千円、%)
総工事規模 1960年度 1965年度
500〜999 3.4 1.8
1,000〜4,999 19.3 11.1
5,000〜9,999 14.0 9.7
10,000〜49,999 31.6 28.8
50,000〜99,999 9.0 11.7
100,000〜499,999 13.8 16.8
500,000以上 8.9 20.1




 「公共工事着工統計年度法」
 昭和35年度及び昭和40年度
 より作成






このように投資規模の拡大と独占的大企業への投資資金の集中が行われた結果、政府
の側からすると、少数の独占的大企業を掌握していれば、社会資本投資の施行過程を
容易に把握でき、大規模プロジェクトを中心として社会資本投資計画を、より整合的
に建てることを可能にする。しかし、他方では独占的大企業のための社会資本投資を
準備せざるを得なくなり、公共事業の拡大化傾向を生み、談合や政官業癒着の温床を
作り上げることになる。次項で述べるように1962年(昭37)から国全体の青写真とし
て「全国総合開発計画」がつくられ、この計画に基づいて地域開発として公共事業が
行われるようになる。すなわち現実の需要の増大、それに対する対策・整備でなく、
特定の経済発展像の想定、それに対する対策、整備というかたちを取っている。こう
した地域開発としての公共事業は高い経済成長率を実現させたが、行きすぎた高成長
が社会的摩擦を生じ、1960年代後半から70年代初頭にかけて各地で住民運動が高揚
し、多くの革新自治体が誕生した。国はこのような流れに対して財政自主を制限する
ため補助事業の拡大、行政事務の国への集中で対応した。その財源として大量の国債
を発行したため(1975年から82年までそれまで10%台だった国債依存度が、20〜30%
台に上昇)、財政危機を招いた。80年代に始まった臨調行革路線は、電電公社、国鉄
の民営化を行い、公共投資の縮小を進めた。1980年代の後半にはいると、生活関連の
社会資本を整備しようという議論が登場してきた。1988年5月に閣議決定された「世
界と共に生きる日本」は、我が国が経済大国なったものの、国民が豊かさを実感でき
ないでいる現状を指摘した最初の政府文書であろう。生活重視の世論の高まりの中、
日米貿易収支のアンバランスを改善するために1989年日米構造問題協議が開催され、
「公共投資基本計画」が策定された。これは、1991年から2000年度までの間に430兆
円の公共投資を行い、生活環境、文化機能を高めようというものであった。しかし、
1990年の株式市場の下落から始まったバブル経済の崩壊は、91年には実物経済に影響
し始め、92年度から本格的な不況に突入し、その対策としての公共事業が始まった。

3, 公共事業の仕組みについて
ア、全国総合開発計画
 公共事業に関する最も基本的な計画は「全国総合開発計画」である。これは「国土
の自然的条件を考慮して、経済、社会、文化などに関する施策の総合的見地から、国
土を総合的に利用し、開発し、及び保全し、並びに産業立地の適正化を図り、あわせ
て社会福祉の向上に資する。」という目的を実現するために1950年(昭25)につくら
れた「国土総合開発法」に基づいてつくられている。第4次総合計画までは投資規模
も示され(第4次は1000兆円程度)、道路、治水、下水道などの各事業に対して将来
の方向性や投資額等の枠組みを示すものでその影響力は大きかった。1962年(昭37)
に「全国総合開発計画」(一全総)が池田内閣の高度経済成長の元でつくられた。こ
れは重化学工業を太平洋沿岸に配置するという拠点開発方式によるものであった。そ
の後の日本経済の高度成長の過程において過密、過疎問題の深刻化など地域構造が大
きく変動したため、1969年(昭44)に「新全国総合開発計画」(新全総)が策定され
た。新全総では技術革新の進展、情報社会の形成や全国的な都市化の進行に対応し、
長期的、持続的、飛躍的に国土の発展に活力を与えるため、交通通信ネットワークの
整備や大規模工業基地の建設などを目指した大規模開発プロジェクトを開発方式とさ
れた。日本列島の南北2000kmにわたる札幌、東京、福岡までの7大集積地を結ぶ国土
の主軸を形成するとして、新幹線などの交通ネットワークの構想を描いた。この頃か
ら公共事業が大々的に行われるようになった。その後、1973年(昭48)の石油ショッ
ク、公害問題の顕在化などにより、高度成長を前提とした考え方は大きな転換を迫ら
れることになり、資源の有限性を強く意識しつつ、安定成長への時代に即応して1977
年(昭52)「第3次全国総合開発計画」(三全総)が策定された。三全総は、新しい
生活圏として定住圏を整備することにより「地方の時代」を押し進めた。三全総策定
後、東京都の人口は一時的に減少したが、1980年以降(昭50年代後半)になると、金
融、情報の本格的な国際化などを背景に、人口、諸機能が東京へ一極集中する傾向が
強まった。こうした傾向を是正するとともに、高齢化や国際化など経済社会の大きな
変化に的確に対応していくことが求められ、1987年(昭62)に「第4次全国総合開発
計画」(四全総)が策定された。四全総は、「安全でうるおいのある国土の上に、特
色ある機能を有する多くの極が成立し、特定の地域への人口や経済機能、行政機能等
諸機能の過度の集中がなく、地域間、国際間で相互に補完、、触発しあいながら交流
している多極分散型の国土を形成すること」を基本目標とし、目標達成に向けての基
本戦略として「交流の拡大による地域相互の分担と連携関係の進化を図ることを基本
とする交流ネットワーク構想」の推進を掲げた。1998年(平10)に長期構想として
「21世紀の国土のグランドデザイン」(五全総)が提示された。これは4つの新しい
国土軸からなる多軸型の国土構造に転換することにより、国民が21世紀において経済
的豊かさとともに精神的豊かさを併せて享受できるような国土を創造していくという
ものである。開発の理念をめぐる変化を踏まえ、新たな発想に立った計画といいなが
らも、整備新幹線、高規格道路、空港の整備など大規模公共事業のオンパレードであ
る。

図表3     *5
  全国総合開発計画
(全総)
新全国総合開発
(新全総)
第三次全国総合開発
(三全総)
第四次全国総合開発
(四全総)
21世紀の国土のグランドデザイン
閣議
決定
昭和37年10月5日 昭和44年5月30日 昭和52年11月4日 昭和62年6月30日 平成9年度末を目途
策定時
内閣
池田内閣 佐藤内閣 福田内閣 中曽根内閣 橋本内閣
背景 1.高度経済成長への移行
2.過度都市問題、所得格差の拡大
3.所得倍増計画
  (太平洋ベルト地帯構想)
1.高度成長計画
2.人口、産業の大都市集中
3.情報化、国際化、
  技術革新の進展
1.安定成長経済
2.人口、産業の地方分散の兆し
3.国土資源、エネルギーなどの
  有限性の顕在化
1.人口、諸機能の東京一極集中
2.産業構造の急速な変化などにより
  地方圏での雇用問題の深刻化
3.本格的国際化の進展
1.地球時代
  (地球環境問題、大競争、アジア諸国との交流)
2.人口減少・高齢化時代
3.高度情報化時代
長期
構想
「21世紀からのグランドデザイン」
一極一軸型から多軸型国土構造へ
目標
年次
昭和45年 昭和60年 昭和52年からおおむね10年間 おおむね平成12年
(2000年)
平成22年から27年
(2010−2015年)
基本
目標
地域間の均衡ある発展 豊かな環境の創造 人間住居の総合的環境の整備 多極分散型国土の構築 多軸型国土構造形成の基礎作り
基本的
課題
都市の過大化の防止と
地域格差の是正等
長期にわたる人間と自然との調和
自然の恒久的保護、保存等
住居環境の総合的整備 定住と交流による地域の活性化など 自立の促進と誇りの持てる地域の創造等
開発
方式
など
<拠点開発構想>
目標達成のため工業の分散を図ることが必要であり、東京等の既成大集積と関連させつつ開発拠点を配慮し、交通通信施設によりこれを有機的に連結させ相互に影響させると同時に、周辺地域の特性を生かしながら連鎖反応的に開発をすすめ、地域間の均衡ある発展を実現する
<大規模プロジェクト>
新幹線、高速道路等のネットワークを整備し、大規模プロジェクトを推進することにより、国土計画の偏在を是正し、過密過疎、地域格差を解消する
<定住環境>
大都市への人口と産業の集中を抑制する一方、地方を振興し、過密過疎問題に対処しながら、全国土の利用の均衡を図りつつ人間居住の総合的環境の形成を図る
<交流ネットワーク構想>
多極分散型国土を構築するため、
@地域の特性を生かしつつ、創意と工夫により地域整備を推進
A基幹的交通、情報、通信体系の整備を国自らあるいは国の先導的な指導にもとづき全国にわたって推進
B多様な交流の機会を国、地方、民間諸団体の連携により形成
<参加と連携>
多様な主体の参加と地域連携による国土づくり
<4つの戦略>
1.多自然居住地域(小都市、農村漁村、中山間地域など)の創造
2.大都市のリノベーション(大都市空間の修復、更新、有効活用)
3.地域連携軸(軸状に連なる地域連携のまとまり)の展開
4.広域国際交流圏(世界的な交流機能を有する圏域)の形成
投資
規模
  昭和41年から昭和60年
約130〜170兆円
累積政府固定形成
(昭和40年価格)
昭和51年から昭和65年
約370兆円
累積政府固定資本形成
(昭和50年価格)
昭和61年から平成12年
1,000兆円
公、民による累積国土基盤投資
(昭和55年価格)
投資総額を示さず、投資の重点化、効率化の方向を示す

イ, 公共事業中長期計画
 全国総合開発計画が全体像とすれば、公共事業の中長期計画は個別事業の実施計画
である。現在、以下の図表のように16の中長期計画がある。これらの長期計画は、事
業ごとに省別、局別に作成され、縦割り構造の中で既得権益化するようになった。し
かも族議員と官僚、建設業界の政官業癒着の構造の中で比率は変わらないまま、総枠
がその前の計画と比較して常に増加してきたために無限に拡大していく構造になって
いる。これらの中長期計画のスタートは、おおよそ1950年代であり、日本が戦災から
の復興を経て高度経済成長に入る時代である。高度経済成長達成のために原料や製品
を運ぶ道路や急増する工場や都市の電力、水需要に対処するダムなどのインフラ整備
が急務であった。急いでインフラをつくるためにこれらの緊急対策の時限立法である
緊急措置法が作られた。しかしながら「道路整備5カ年計画」は更新を重ね第12次の
計画に入っており、50年近く経っていながら「緊急措置法」が続いていること自体矛
盾がある。事業総額を見ると78兆円の道路計画、41兆円の土地改良計画、24兆円の治
水計画、下水道計画など巨額な数字であり、さらに直前の計画との伸び率を見ると、
プラス78、4%の廃棄物処理計画を筆頭に40%台の都市公園計画、下水道計画、30%
台の治水計画、特定交通安全施設計画、海洋事業計画、港湾整備計画、森林整備計
画、治山計画のプラスの計画ばかりで、住宅建設のみ前年と同じでマイナスの計画は
ひとつもない。このように巨額の税金を使うこれらの長期計画ではあるが、漁港整備
長期計画以外は、国会の承認は必要とせず、全て閣議で決定されており、全国の海岸
をコンクリートで固めてしまった「海岸事業」(1.8兆円)や「空港整備」(3.6兆
円)「急傾斜地崩壊対策」(1.2兆円)の事業計画については根拠法さえない状態であ
る。

図表4   *5 公共事業の長期計画(現在進行中のもの)
長期計画名 年度 総事業費(億円) 直前の計画(億円) 伸び率(%) 根拠法など 制定手続き 関係省庁
第12次道路整備5か年計画 98〜2002 780,000 760,000 2.6 道路整備緊急措置法 道路審議会→閣議決定 建設省
第4次急傾斜地崩壊対策事業5か年計画 98〜2002 11,900 11,500 3.5 なし 閣議決定 建設省
第9次治水事業5か年計画 97〜2003 240,000 175,000 37.1 治山治水緊急措置法 河川審議会→閣議決定 建設省
第5次都市公園整備5か年計画 96〜2002 72,000 50,000 44.0 都市公園等整備緊急措置法 閣議決定 建設省
第8次下水道整備5か年計画 96〜2002 237,000 165,000 43.6 下水道整備緊急措置法 閣議決定 建設省
第6次特定交通安全施設等
整備事業5か年計画
96〜2002 26,900 20,150 33.5 交通安全施設等整備事業に
関する緊急措置法
閣議決定 建設省
第7期住宅建設5か年計画 96〜2002 730万戸 730万戸 - 住宅建設計画法 閣議決定 建設省
第6次海岸事業5か年計画 96〜2002 17,700 13,000 36.2 なし
(ただし国会付帯決議)
閣議決定 建設省,
運輸省,農水省
第9次港湾整備5か年計画 96〜2002 74,900 57,000 31.4 港湾整備緊急措置法 港湾審議会→閣議決定 運輸省
第4次土地改良長期計画 93〜2006 410,000 328,000 25.0 土地改良法 農政審議会→閣議決定 農水省
第2次森林整備事業計画 97〜2003 53,800 39,000 37.9 森林法 中央森林審議会→閣議決定 農水省
第9次治山事業5か年計画 97〜2003 37,700 27,600 36.6 治山治水緊急措置法 中央森林審議会→閣議決定 農水省
第9次漁港整備長期計画 94〜2001 30,000 24,100 24.5 漁港法 漁港審議会→閣議決定→国会承認 農水省
第4次沿岸漁場整備開発計画 94〜2001 6,000 4,800 25.0 沿岸漁業整備開発法 沿岸漁業等振興審議会→閣議決定 農水省
第8次廃棄物処理施設整備計画 96〜2002 50,500 28,300 78.4 廃棄物処理施設緊急措置法 閣議決定 厚生省
第7次空港整備5か年計画 96〜2002 36,000 31,900 12.9 なし 航空審議会→閣議決定 運輸省
(注):財政構造改革法のもと、5か年計画は7か年計画に延長されるなど各計画は期間が延長されたが、
同法が平成10年に凍結されたため、年度の支出はほぼ5か年のペースに戻った


4, 公共事業の財源について
 今まで見てきたような公共事業の巨額な財源は、次の通りである。
@ 税金(国税及び地方税)・・・一般的な所得税や住民税、固定資産税、消費税等
のほかに、道路特定財源として揮発油税、軽油引き取り税、自動車取得税、重量税等
の国民の血税である。
A 借金(公債)・・・国債(建設国債、赤字国債)、地方債・・・ 財政法第4条
に基づき1965年発行が始まった建設国債は、道路などのように将来に渡って利用可能
な施設の建設のために発行されている。又、大幅な財政赤字に対応するために1974年
(昭49)から赤字国債が本格的に発行されており、構造的な赤字体質の構造改革が迫
られている。地方においては、まちづくり事業債など国が地方単独事業への起債を認
め、その償還にあたっては地方交付税への大幅な参入を認めたことにより自治体が発
行する地方債も大幅に増加してきている。
B 補助金・・・ 自治体が事業を行う場合、一定の要件のもとに国、都道府県から
一定の割合で補助金が出される。自治体が事業を決定する際、地域住民のニーズより
財源の有利な補助事業を選択する場合が多く、地方分権といいながら国の誘導策がい
まだに大きな効力を発揮している。
C 財政投融資・・・ 国民の郵便貯金、厚生、国民年金の保険料などを、1951年制
定された資金運用部資金法に基づいて大蔵省資金運用部が運用するもので、住宅金融
公庫等の政府系金融機関、日本道路公団や水資源開発公団などの特殊法人、国の建設
国債、や赤字国債、地方債に配分されており、又道路整備、空港整備、港湾整備など
11ある公共事業の特別会計にも使われている。財投の性格は、巨大なる社会主義金融
であり、第二の予算として年間50兆円近くが運用され、過去の累積を含めると450兆
円にもなる。これだけ巨額な資金が金融手段として使われている先進国はどこにもな
い、との批判がある。

図表5


図表6   *5
財政投融資
の仕組み



5, 特別会計について
 公共事業の全体像は国の一般会計、特別会計、特殊法人、財政投融資、地方財政が
複雑に絡み合って構成されている。そして公共事業を考えていくときに財政法第13条
第2項に規定されている特別会計という制度抜きには考えられない。この特別会計
は、1996年現在38あり、公共事業の「事業特別会計」は、道路整備特別会計など11会
計ある。これらの特別会計は一般会計の約3倍にも及ぶ。その中でも最も大きい道路
整備特別会計の予算は、約2兆6千億円(1996年)だが、一般財源分は7800億円たらず
で残り1兆9000億円は揮発油税、軽油引き取り税、石油ガス税等という特定財源であ
る。更にこの特別会計には、直接入らない準特定財源ともいうべき自動車重量税から
の約6500億円もある。この特別会計は、国が道路建設に支出する予算に過ぎず、この
ほかに地方財政と、日本道路公団などの財源にもなっている財政投融資が加わって国
全体としての道路予算となり、その合計は、1996年度予算で14兆4475億円に達する。
これらのお金の流れは非常に複雑で納税者から見てわかりにくい構造になっており、
道路以外の主な公共事業分野においても似たような構造になっている。

6, 特殊法人について*6
 公共事業は国や自治体のほかに、日本道路公団、水資源開発公団、農用地整備公団
(現在の緑公団)などの特殊法人が所管官庁のもとで実際に担当しているものも多
い。特殊法人は、「より効率的な経営を目指して企業的で独立の法人が必要である」
といううたい文句でそれぞれが設置法により設立されており、1999年現在金融関係な
ど様々な任務をもった85の特殊法人がある。財政投融資を受けている特殊法人は39、
返済の目途が立たない赤字を計上しているところも多く、さらに国庫補助を受けてい
るところもある。長年経営内容が明らかにされず、官僚の天下り先になっており、巨
額な借金体質がまかり通っている。(日本道路公団の累積借金 22兆円、住宅都市整
備公団 13兆円)このような問題を抱えている特殊法人の「廃止、民営化」が現在ま
さに課題となっている。

図表7 公共事業に関係の深い公団(特殊法人)一覧(1997年度末現在)
名称 設置年月日 職員数 主管庁 主な業務
水資源開発公団 1962.5.1 1945人 国土庁、建設省、厚生省、
農水省、通産省
ダム、河口堰、水路などの建設、操作など
地域振興整備公団 1974.8.1 749人 国土庁、建設省、通産省、
資源エネルギー庁
地方のニュータウン建設、工業団地の造成、
産探知の振興など
森林開発公団 1956.7.16  475人 林野庁 林道の建設、森林の造成等
農用地整備公団 1974.6.15  393人 農水省 農用地や土地改良施設の整備
石油公団 1967.10.2  363人 資源エネルギー庁 石油などの海外における採取に必要な出資を行う
日本鉄道建設公団 1964.3.23 1878人 運輸省 新幹線の建設など
新東京国際空港公団 1966.7.30  912人 運輸省 新東京国際空港(成田)の設置並びに管理の設置
並びに管理
日本道路公団 1956.4.16 8884人 建設省 有料高速道路の新設、改築、運営などを行う
首都高速道路公団 1959.6.17 1422人 建設省 東京都区内及び周辺の有料高速道路の新設、
改築、運営などを行う
阪神高速道路公団 1962.5.1  908人 建設省 大阪、神戸、京都及び周辺改築、運営などを行う
本州四国連絡橋公団 1970.7.1  708人 建設省、運輸省 本州と四国を連絡する有料道路と
鉄道の建設や運営を行う
住宅・都市整備公団 1955.7.25
(前身の日本住宅公団の設置年月日)
4888人 建設省、運輸省 集団住宅と宅地の大規模な供給と
市街地の造成や再開発を行う


7, 公共事業の政策形成過程について
 これまで見てきたように公共事業の全体像を、全国総合開発計画が描き、これに基
づいて道路、河川、等の中長期計画が、決められる。中長期計画の策定手続きは、担
当大臣が他省庁と協議しながら計画案を策定し、閣議決定するという方法をとってい
る。道路整備の場合、建設大臣は運輸大臣、経済企画庁長官、国土庁長官と協議する
が、住民や地元自治体から意見を聞くための手続きは設けられていない。法律上、計
画策定に関与する第三者機関は道路法79条に基づく道路審議会のみである。長期計画
は、事業の長期目標や予算の総枠を定めるものであり、これだけでは個別の事業の内
容は確定しない。計画が閣議決定されると予算確保が義務づけられ、国会の予算審議
となるが、国会で審議されるのは、予算書記載の「部・款・項・目」のうち「項」以
上のところであり、具体的にどこにどれだけの金額を使うかの公共事業の「箇所づ
け」の資料は、殆ど提出されず、これを決めるのは官僚と族議員の独壇場である。他
の長期計画も内容や策定手続きは大同小異であり、主務大臣が他省庁と協議しながら
計画の案を作成し、閣議決定するという方法を採っている。中長期計画が決定された
後、実際に実施される事業の種類、規模、位置などが個々の法律に定める要件、手続
きに沿って定められる。
 道路建設を例にとると、道路の建設、管理に関する基本的な事項を定めた法律が道
路法である。道路法によると、道路は、高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市
町村道の四つに区分される。そのうち高速自動車国道については、高速自動車国道法
という別の法律がある。予定路線の中から国土開発幹線自動車道路建設審議会(国幹
審)の議論を経て内閣或いは内閣総理大臣が基本計画を決定する。決定された基本計
画は公表され、利害関係者が意見を申し出ることができる。ただし意見を申し出るこ
とができるのは、決定された基本計画に対してであり、基本計画決定前に地元市町
村、住民の意見を聞く機会はないに等しい。それに比べて大きな権限を持っているの
は、国幹審であり、予定路線の決定、国土開発幹線自動車道路基本計画の決定、路線
の指定、整備計画の決定の全てに関与することになっている。国幹審の構成は、内閣
総理大臣を議長とし、関係省庁大臣、衆参議員14名、学識経験者8名から成り、道路
建設に関わる議員の集まりとも言える。
 河川改修工事に関して河川法改正(1997)前の手続きは、河川管理者がその計画高
水流量、基本高水、主要な地点における計画高水流量、主要な地点における計画高水
位、計画横断形、主要な工事や河川管理施設の機能の概要などをあらかじめ工事実施
基本計画によって定めておかなければならないとされていた。この基本計画によって
必要な河川工事、ダムの種類、規模、施設が処理する水量の分担等がおおよそ定まっ
てしまう。基本計画を定めるにあたって河川審議会だけが検討に加わることができる
が、東京で年に2,3回開かれる河川審議会は、国土全体のバランスという観点から多
数の基本計画が一括審議され、個々の計画の細かな審議はなされなかった。このよう
に地元市町村、住民の意見を聞くことなく強行される事業の進め方は各地で行き詰ま
りをみせた。1997年改正された河川法では、工事実施基本計画を河川整備基本方針と
河川整備計画の二つに分け、河川整備計画の作成について住民の意見を聞くこととし
た点では一歩前進だが、河川整備基本方針については住民や自治体の長の意見を聞く
手続きがないことなど問題点は残っている。
 建設省直轄の多目的ダムの建設については、建設大臣が基本計画を策成し、ダムの
位置、規模、貯留量、ダム使用権者、国、都道府県、事業者などの負担する費用の概
算、水の配分などを定める。基本計画の作成、変更、廃止にあたって建設大臣は、あ
らかじめ関係行政機関の長に協議するとともに関係都道府県知事及びダム使用権の設
定予定者の意見を聞かなければならない。(特定多目的ダム法4条4項)都道府県知事
の同意の手続きについて特に法律上の規定はないが、通常は都道府県議会の議決に基
づき知事が同意する。ここで大きな問題となるのは、水没したり移転を余儀なくされ
る地元市町村や住民が意見を言う機会が設けられていないことである。又、国と都道
府県、市町村の意見が対立した場合、それを調整するための手続きもなく、現実に問
題のある事例が数多くある。


第二章 公共事業の政策評価について
1, 日本で行われてきた政策評価について
 第1章の7では公共事業の政策形成過程について考察してきたが、これまでの政策形
成過程での公共事業の効果の評価について、法律、制令、要項などの根拠規定がある
ものは、以下の表の通りである。

図表8 経済効果の評価制度 *7
事 業 名 法 令 等
治水事業のうち多目的事業 特定多目的ダム法(S32)第7条
上記以外の治水事業 治水経済調査要項
一般有料道路事業 道路整備特別措置法施行令(S31)第1条の7第1項
土地改良事業 土地改良法施行令(S24)第2条第3号,第4号
沿岸漁場整備事業 沿岸漁場整備開発法(S49)第7条の2 第3項及び補助要項
新幹線鉄道整備事業 全国新幹線鉄道整備法施行令(S45)第2条第2号
林道事業 補助要項
下水道整備事業 下水道法(S33)第2条の2,第3項第6号

 上の表の中では、土地改良事業の評価が最も古く、昭和24年の法制定当時から事業
実施にあたっての基本的要件として、事業に伴う便益が費用を上回るべき事が規定さ
れている。会計検査問題研究会の「業績検査に関する報告書」(平成2年)によると
評価の原則的手法は、費用便益分析であるという前提のもとで各種の公共事業を、事
前評価が行われているものと行われていないものに区分している。治水、一般有料道
路、土地改良、林道、沿岸漁場、新幹線鉄道などは事前評価が行われており、治山、
海岸、住宅、環境衛生、公園、造林、工業用水、離島電気、鉄道防災などは、事前評
価が行われていない。そして下水道、一般道路、漁港、港湾、空港、鉄道などはその
中間形態として位置づけられている。
 多目的事業以外の治水事業については、治水経済調査要項に基づき次の順序で治水
経済調査がなされている。

1, 調査対象流量規模の設定
2, 地盤高調査
3, 氾濫水理調査
4, 氾濫区域資産調査
5, 想定被害額の算定
6, 想定年平均被害軽減期待額の算定
7, 流量規模別想定治水事業費の算定
8, 経済効果の把握

具体的な概要としては「ある治水施設についてある整備水準のもとで、ある流量に
よってどの程度の区域がどの程度のどの時間、どの程度の水深で氾濫するかを推定し
て、この氾濫によりどの程度の被害が発生するかを算定し、これにこの流量規模の洪
水から最大の流量規模の年平均生起確率を乗じて、この流量規模の洪水による年平均
被害額を計算する。この作業を調査の対象とする最小の流量規模から最大の流量規模
の洪水まで行って累計すれば、ある治水設備水準を前提としたその氾濫区域の年平均
被害額が算定できる。このようにして現況の治水施設整備水準に対する年平均想定額
と計画目標とする治水施設整備水準に対するそれとを算定し、その差を求めればそれ
が治水事業の被害軽減効果である。治水経済調査は、治水事業の費用とこの被害軽減
効果(便益)とを比較することによって、治水事業の保全便益に関わる経済効果の度
合いを計測しようとするものである。」とされている。

図表9 *8
主な公共事業の費用便益分析の概要
所轄省 農林水産省 運輸省 建設省
事業名 土地改良
(ほ場)
土地改良
(農道)
港湾(ターミナル施設,耐震強化岸壁,緑地) 鉄道 道路 河川 下水道整備
評価ガイドライン 「土地改良の経済効果」(平成9年) 「港湾施設整備等の投資決定評価マニュアル」(平成9年) 「鉄道プロジェクトの費用対効果分析マニュアル97」(平成10年) 「道路投資の評価に関する指針(案)」(平成10年) 「治水経済調査要綱」(昭和59年) 「下水道事業における費用対効果分析マニュアル(案)」(平成10年)
便益項目 ・作物生産便益
・営農経費節減便益
・維持管理費節減便益
・更新便益
・非農用地等創設便益
・品質向上便益
・維持管理費節減便益
・営農にかかる走行経費節減便益
・更新便益
・一般交通等経費節減便益
・陸上輸送費用削減便益
・岸壁復旧費用節減便益
・住民のレクリエーション機会の増加便益
・利用者便益(時間短縮,移動費用節減)
・供給者便益(営業収益増−営業費増)
・走行時間短縮便益
・走行経費減少便益
・交通事故減少便益
・被害軽減便益(一般資産.農作物,公共施設,農地,営業停止) ・生活環境改善効果
・便所の水洗化効果
・公共用水域の水質保全効果
・浸水の防除効果
・付帯施設の整備費削減便益
費用項目 ・建設費
・維持管理費
・建設費
・維持管理費
・建設費
・維持管理費
・建設費
・維持管理費
・建設費
・維持管理費
・建設費
・維持管理費
・建設費
・維持管理費
基本的な便益計測手法 代替法 消費者余剰法 消費者余剰法,代替法,CVM 消費者余剰法 消費者余剰法 代替法 代替法,CVM
計算対象期間 耐用年数 耐用年数 耐用年数 建設期間+30年 建設期間+40年 耐用年数(堤防50年,ダム80年) 建設期間+50年
割引率 5.5% 5.5% 日本開発銀行貸出金利 4.0% 4.0% 4.5% 4.0%
判定基準 費用便益比 費用便益比 費用便益比 費用便益比 費用便益比 費用便益比 費用便益比

注:これら以外に、各省における様々な公共事業について、手法の選択、具体的手法、結果公表等の手続きにおいて共通的に留意、確保すべき事項を定めるとともに割引率の統一等の基本的数値の取り扱い方を提示するために、運輸省「運輸関係社会資本の整備に係る費用対効果分析に関する基本方針」(平成11年3月)及び建設省「社会資本整備に係る費用対効果分析に関する統一的運用指針」(平成10年6月)が策定されている。
出典:日本開発銀行「プロジェクトの経済評価ハンドブック」(平成10年3月)及び上記各評価ガイドラインを基に通商産業省政策評価広報課が作成。


それぞれの事業の費用便益分析は前の表にまとめられているとおりである。

2, 外国での政策評価について*9
ア, ドイツでの取り組み
 ドイツでは連邦財政法に基づく費用便益調査が一定額以上の事業につき事前と事後
を通じて行われる。又、交通投資(道路、鉄道、内航水運)に対する経済・財務分析
の実施が法的に義務づけられており、その結果も全面的に公表される。特に連邦総合
交通計画の策定に際しては、数千に及ぶ案件の全てについて分析が実施されている。
このうち経済・財務分析の具体的な作業は、連邦交通省により示されている「公共投
資評価指針(RAS-W)」に基づいて行われ、全国的に統一されている。
「公共投資評価指針(RAS-W)」について
構成 T.評価方法の原理
    U.事業案の作成
    V.事業による効果の評価
    W.交通機関別の各論 A.鉄道、B.道路、 C.水運
    X.例題による解説  A.鉄道、B.道路、 C.水運
便益項目の大分類
 ・交通サービス提供費用の節減
 ・交通施設管理・運営費用の節減
 ・アクセシビリティーの改善(旅客の時間節約便益)
 ・交通安全の向上
 ・国土・地域(空間)構造の改善
 ・建設期間中の雇用増大効果
 ・供用期間中の雇用増大効果
 ・空間構造的効果
 ・国際交流の促進効果
 ・環境質の向上(低下)
 ・騒音の低減効果
 ・排気ガス低減効果
 ・空間分断(交通施設による市街の遮断など)の改善効果
 ・居住環境質の向上(建築物改修、景観保全)
イ, イギリスの取り組み
 イギリスでは大蔵省が、「中央政府における経済評価」(通称:グリーンブック)
というガイドラインを1991年に発行している。これは、各省庁の実施する行政全般
(政策、施策、プロジェクトの全て)を対象として、事前評価、事後評価及びこれら
に利用される手法として費用便益分析などの基本的な考え方や手順について解説され
ている。
グリーンブックにおける事前評価の要素
 A.目標(群)の設定
 B.施策などオプションの考慮
 C.各オプションについて費用、便益、リスクと不確実性を考慮
 D.情報を分析
 E.結果の提示
グリーンブックにおける事後評価の要素
 F.評価すべき対象、過去の結果の測定法の決定
 G.現状と比べるべき状況
 H.実績を当初設定していた目標、比較対象の状況と比較
 I.結果と勧告の提示
 J.結果と勧告の普及
グリーンブックは適用分野を限定せず、一般的な記述はされているが、公共事業やア
ウトソーシングの対象となるような部門が念頭に置かれている。環境省でも「政策評
価と環境」(1991)というガイドラインを発行しており、グリーンブックを補完する
役割を果たしている。
 道路投資の費用対効果マニュアルとして交通評価を「TAM」で、経済評価を
「COBA」で、そして環境評価を「MEA」で行い、またそれらを総合化するものとして
評価のフレームワークが設定されている。この評価のフレームワークは、各代替案の
直接的、間接的な効果の要約がデータ・マトリックスの形に表現されており、マト
リックスの各列には、交通省の事業案、道路事業を行わない場合の「事業案」最小限
必要な維持改良事業を行う「最少案」の二つの代替案とコメント欄がある。マトリッ
クスの各行には異なる評価グループに対するそれぞれの代替案の効果が、定量的ある
いは定性的に示されている。また、この評価のフレームワークの中で取り上げられて
いる評価グループを示すと次の6つのグループとなっている。
 ・道路利用者
 ・沿道土地建物占有者
 ・沿道施設利用者
 ・地域の開発保全政策
 ・交通、開発、経済政策
 ・財務効果
この評価のフレームワークは、市民協議や公聴会などの主要な段階において一般に公
表されるので計画の段階に応じて作成され、内容と制度が次第に改善されていく。こ
のマトリックスを利用することによって代替案を互いに比較することが可能となる。
この評価のフレームワークは、簡潔な形式にまとめられているので住民のための基礎
的判断材料となる。
ウ, アメリカの取り組み
 1970年「国家環境政策法」が制定され、全ての連邦社会資本投資に対して環境影響
評価手続きを求めた。この法律が、ダム政策を180度転換させる土台になったとされ
ている。以下はこの法律からの抜粋である。
102条b 「全ての連邦政府機関は意志決定に際して、経済的、技術的配慮ととも
に、CEQと協議の上、現在は定量化されていない環境の快適性及び評価に対する適切
な考慮が払われることを保証する方法と手続きを確認し、開発」しなければならな
い。
   c 「全て連邦政府機関は、人間環境の質に著しい影響を与える法案の提出及
びその他の主要な連邦政府の行為に対して、責任ある連邦政府職員によって環境影響
に関する詳細な報告書(環境影響評価書)を作成しなくてはならない」
環境影響評価の項目
 @提案された行為が環境に及ぼす影響
 A提案が実施された場合に避けることのできない全ての有害な環境影響
 B提案された行為の代替案(何もしないという案も含まれる)
 C人間環境の局地的・短期的利用と長期的な生産力の維持・向上等との関係
 D提案された行為が実施される場合に起こる不可逆で回復不可能な資源の消失
環境影響評価手続きの中に以下のことが含まれている。
 @事前の関係機関、市民からの意見を得るための縦覧手続き、説明会や公聴会
 A事後の縦覧と意見
 B決定とその記録に対する不服申し立て
 この手続きはダムだけでなく、森林管理計画、道路建設、各種軍事関係施設、公園
事業、流域保護、洪水管理などについて行われている。
 アメリカでは、交通投資評価手法について、ドイツやイギリスのような全国的に統
一されたマニュアルは現在みられないが、道路投資の評価に関して州、地方政府の現
場で実務上使われてきた標準的手法がいくつか存在する。また、通常の費用便益分析
では取り扱うことが難しい非金銭的項目、定量化困難な効果などを含めた総合評価が
機能している。1991年制定された総合陸上交通効率化法においては連邦予算要求に際
してそれぞれの交通計画の中で検討すべき要件として都市圏計画期間に対して15項
目、州交通省に対して23項目が掲げられており、その中で「交通(政策)決定がもた
らす全体的社会、経済、エネルギー、環境上の効果」および「土地利用と開発に及ぼ
すと考えられる効果」など広範な要因について検討を義務づけている。又、計画の早
い段階から連続的市民参加がPubic Involvementという形で強調されている。
 今まで見てきたように欧米主要先進国では、社会資本整備に際して費用対効果分析
の実施を法的に義務づけ、かつ結果の公表義務を政府、事業者が負っているという点
で特筆すべきである。又、費用対効果分析のための実務マニュアルが整備されてお
り、誰が実施しても同じ結果に到達できるような手法が確立されている。そして今ま
で難しいとされていた非市場材の非利用価値の定量化方法なども積極的に取り入れら
れ始めている。

・ダムに対する方針転換
 1930年代以来アメリカでは、景気浮揚策としての公共土木事業への着手という大義
名分を掲げれば連邦予算が付くというシステムが定着し、TVA、開墾局、陸軍工兵隊
により、大規模ダムと灌漑用水路が次々に造られてきた。1970年代以降こうした経済
開発モデルが、経済的、社会的、環境的な物差しのいずれから測っても問題のあるこ
とが、学者、環境保護団体等各方面から指摘されてきた。1990年代に入ると大規模な
ダムの新規着工はなくなり、1994年4月クリントン政権で開墾局の総裁に任命された
ダニエル・ビアード氏が開墾局のリストラを実行し、同年5月ブルガリアで開かれた
「国際灌漑・排水委員会」の年次総会で「ダム建設の時代は終わった」と演説し、ア
メリカの方針転換を国際舞台の場で明らかにした。以下がその内容を要約したもので
ある。*10
@連邦政府の財政赤字により、ダム建設に必要な巨額の財源がなくなっている。
Aかかるコストに比べて、経済的な便益も小さく、環境を破壊するなど全体としてみ
 れば、これ以上の巨大ダムの建設は割に合わない。
B「環境政策法」(1969年成立)、「絶滅の危機に瀕した種に関する法律」(1973
 年)など厳しい環境法令により、大規模ダム建設は事実上不可能になっている。
C情報自由化法(1966年)の存在で、ダム建設の計画段階からの住民参加が実現して
 おり、無駄が多く環境を破壊するダムはその面からも許されなくなっている。
Dダム開発で利益をうるものが、政治的な影響を利用して、ダムのコストを納税者に
 押しつけてきたが、その手法は、限界に来ている。
E今後は小規模な事業の推進、水資源の保護、水のリサイクルや水利用の効率化、現実
 的な水の価格設定、構造物によらない洪水対策などソフトな解決を重視する。
F水利権者間の利害調整を図り、水の配分を工夫する。
 このような考え方はアメリカだけでなく、欧米先進国に拡がり実施に移されてい
る。

・サンセット法について*11
 サンセット法は、政策や行政機関に対して、時限ごとに必要の有無を厳格に審査
し、議会が存続を認めない限り廃止されるという法律で、1976年コロラド州で制定さ
れ、1982年までの間に36の州に拡がった法律である。サンセット法が、急速に普及し
た理由としてニューディール期に肥大化したアメリカの行政組織が柔軟さを失い、許
認可にかかる行政のコストは増大しているにもかかわらず、サービスや利便さは改善
されず、無意味な規制に対する批判が各地で高まってきたという背景がある。サン
セット評価手続きとして議会事務局がサンセット評価に必要な資料、データを収集
し、分析し、さらに存続・廃止に関する報告書を準備する。スタッフは、アナリスト
を選任、あるいは非常勤職員として採用するところ、外部のコンサルタントに委託す
るところなどさまざまである。次に議会に設置された評価委員会が、報告書に基づき
再設置、廃止、変更のいずれかの勧告を含む最終評価報告書を作成する。この段階で
公聴会、証言、意見書等により住民からの意見を聞いた後、議会が審議し議決する。
しかしサンセット評価には、膨大な時間と人手を必要とし、それに比べると行政コス
トの削減という効果は期待はずれに終わったこと、サンセット評価の内容や手続きを
十分に議論しないで拙速に法律を制定して問題が続出したことなどから1981年にノー
スカロライナ州がサンセット法を廃止し、5つの州がこれに続いた。他に6つの州が法
律を廃止はしないが、法律の執行を停止中である。現在サンセット評価を実施してい
るのは、24州と思われる。しかしながら新規に設立される行政機関や事業に関する法
律にサンセット条項を付す州が増えている事を見て明らかなように、サンセット的な
手法は、アメリカの行政システムの中に確実に浸透していると言える。その一つの例
として1986年議会は「水資源開発法」で、予算をつけてから5年以内に動き出さない
ダム、堤防などの計画は、自動的に消滅するというサンセット条項を盛り込んだ。こ
の法律によって300を越えるダム、堤防、堰などの計画を一挙に取消処分にした。行
政側はもし計画を維持したいと考えるなら、その正当性と必要性を詳細に立証し、議
会の同意を得なければならない。

図表10(1)〜(3)   *12 欧米における費用対効果分析例(1)
  ドイツ フランス イギリス アメリカ
対象事業
(鉄道・空港・
道路・港湾・
海岸/航路標識等)
道路・鉄道・内航水運。
特に連保総合交通計画の策定では全ての案件を分析している。その他、連保予算が補助金の形で投入される場合にも評価が実施される。
全ての交通モードに関わる大型プロジェクト。 分析マニュアルCABA10では新規幹線道路事業を対象としている。 都市の公共交通。
連邦社会資本投資の全てが対象。
現場規模・事業数 地区レベルの事業から広域に至る大規模事業まで、幅広く対象としている。 対象とする事業規模は、長さ25km以上の2×2斜線の高速道路及び費用が5億フラン以上の道路基本的施設整備プロジェクト。 対象とする規模は、1,000万ポンド以上の全ての新規幹線道路計画。 事業規模は、連邦政府から補助金を受ける「大きな」プロジェクト(州全体に関わる大プロジェクト、橋梁、トンネル等)。
全体事業における
補助金割合
    地方塘路局所掌の地方道路に対し、交通省が補助金を出している。  
根拠法 公共事業、特に大規模事業については、「連邦及び州の財政法の基本原則に関する法律」、「連邦財政条例」によって法的に義務付けられている。 1984年の構内交通基本法(LOTI)。   1994年に大統領令(Executive Ordrr 12893)が出され、連邦社会基盤投資の費用便益分析の実施が求められている。
分析実施主体 連邦総合交通計画に関しては連邦交通省の主導のもとに実施される。   新規幹線道路計画は交通省、地方道路は地方道路局。 各州政府
公表主体、公表方式 連邦交通省が連邦議会への提出といった形で公表される。分析結果は国民に広く公開されることになり、評価作業の細部に関する情報も連邦交通省へ要請することで不特定の主体に対して随時全て公開される。   交通省または地方道路局により、市民協議会、公聴会の場において公表される。 各州政府
公表内容 全面的に国民に公開する。評価作業の細部に関する情報も連邦交通省へ要請するれば、不特定の主体に対して随時公開される。ただし、建設費用の細部については、一部は工事入札に関連する項目があるため、部分的に公開されないものもある。   交通省の予想しうる代替案について、交通評価(TAM)、経済評価(COBA)、環境評価(MEA)等からなるフレームワークアプローチを実施し、この結果について、市民が意見を述べることができる。 情報公開が原則であり、投資評価結果や手法が公開されている。

欧米における費用対効果分析例(2)
  ドイツ フランス イギリス アメリカ



評価項目 ・交通サービス供給費用の節減
・交通施設管理・運営費用の節減
・アクセシビリティの改善
・交通安全性の向上
・国土・地域(空間)構造の改善

建設期間中の雇用創出効果
共用期間中の雇用創出効果
空間構造的効果
国際交流の促進

環境質の向上
騒音の低減効果
排気ガスの低減効果
空間分断の改善効果
住居環境の向上
・アクセシビリティの改善
・快適性の向上(軽自動車のみ)
・交通安全性の向上
・環境影響
・天然資源と生態系

人間の活動
・生活の環境と水準
・道路設備によるSNCFの収益への影響
・建設、共用期間中の雇用創出効果
・建設、共用によるエネルギー消費の変化
・公共部門と受託会社の財務収支
○必須項目
・時間節約
・走行費用の節約
・事故の減少
・局地的環境
など

○任意項目(欧州共同体委員会運輸総局の協調行動最終報告書より)
・戦略的環境(温室効果、重要な生態地の損失、エネルギー消費量等)

・土地利用
・経済発展と雇用インパクト
・上位計画との整合性等
・時間費用
・車両走行費用
・事故費用
・維持費用
・一酸化炭素排出量



評価指標 ・B/C
・B−C
・財務制約係数付き純便益現在価値(B−kC) k:財務制約係数
・便益総額
・特定年次の利益率
・便益を裁断現に実現させるための最適共用開始期日
・B−C ・B/C
・B−C
・IRR
社会的割引率
の考え方
割引率は市場利子率3%を適用 現在価値換算のために8%の割引率を適用 現在価値換算のために8%の割引率を適用  
計算期間 交通施設が通行に供している期間とし、交通プロジェクトを構成する個々の施設の耐用年数の調和平均を用いる。 20年間 30年間(道路の共用年) 20年間
手法導入上の
問題点等
    環境への影響の金銭的評価に限界があると考えられ、費用便益分析は必須ではないとしている。 各州独自の判断による交通施設整備の電灯があるため、全国統一の手法が導入されていない。

欧米における費用対効果分析例(3)
  ドイツ フランス イギリス アメリカ
評価マニュアル・
指針書の有無
連邦交通局により策定されたRAS−Wと呼ばれる指針があり、全国的に統一化されている。経済分析と財務分析に対する指針。1986年に初版を作成。東西統一後、1992年に改定された。 1984年の国内交通基本法(LOTI)に準拠した1986年の道路局通達及び1989年の政令がある。 1970年初期に、交通省からCOBAと呼ばれる道路の費用便益分析コンピュータプログラムが提供された。現在はCOBA10が出されている。また、MEAと呼ばれる環境影響の評価マニュアルがある。 行政管理予算長(OMB)より、OiroularA-94が1992年に出されており、費用便益分析手法の適用の考え方が示されている。
総合評価
(異モード間・
地域間格差に対応)
各地域の平均賃金、一人あたりの生産額、失業率などによる開発先進度指標と地域間アクセシビリティとを用いた地域係数を作成し、後進地域との便益を高く見積もっている。

この他
,弱者保護を考慮している。(交通騒音評価の際に住民人数のほか学校生徒数、幼稚園児童数、老人ホームの収容人数、病院ベッド数を考慮している)
市町村の地理的条件、人口、雇用の現状に基づき、整備によって有利な効果と不利な効果を受ける自治体を判別し、それらの市町村数と人口を明らかにして評価指標とし、地域格差の是正、後進地域への配慮がなされている。

例外的に不利な状況(不通箇所、事故多発地点など)を改善するプロジェクトは一定の優先的評価が与えられる。多基準評価により総合的な評価を行っている。
OOBAによる経済評価において割愛された要因に対する最終的な総合評価が必要であるが、OOBAによる費用便益分析はそのような総合評価のためのひとつの判断情報を提供する手続きのひとつとして位置付けられている。 特定の評価手法は存在しないが、計画プロセスの中で関連機器の総合調整、住民参加、環境影響評価等により、多段階、多次元で総合評価が行われている。
事業実施の優先順位 道路、鉄道、水運の各部門毎に評価対象となった候補プロジェクトの優先順位が付けられる。   評価結果が市民協議の場で公表され、市民協議の結果、優先ルートが決定される。 市民参加による公聴会の場で代替案の評価が行われる。
事後評価・
事業中評価の実施の
有無
  LOTIの中で大規模事業の事後評価実施が主張されているが、全般的な実施はなされていない。    
出所:1)道路投資評価研究会編「道路投資の社会経済評価」1997年4月
    2)「交通施設投資のマクロ経済学的評価−連邦交通投資計画1992に関する評価指針」
    3)「国内交通基本法(LOTI)第14条適用交通部門における投資評価に関する通達案」1094年7月



3、環境の価値の政策評価について
 今まで公共事業の政策評価、再評価において、自然環境を評価することは殆ど行わ
れてこなかった。環境には値段がないため「ただ同然」の扱いを受けてきた。そして
それが、開発と自然保護の対立の大きな原因にもなってきた。現実社会が、市場経済
のメカニズムの中で動いている以上、市場経済の中で生態系の重要性、自然環境を評
価する必要性が生まれ、いくつかの方法が開発されてきた。
代替法・・・・・評価対象の財等と同等な効果を有する他の市場財により、代替
        して供給した場合に必要とされる費用によって評価する方法。
ヘドニック法・・投資の便益が、全て土地に帰着すると仮定し、住宅価格や地価の
        データから地価関数を推定し、事業実施に伴う地価上昇を推計する
        ことにより、社会資本整備による便益を評価する方法。
トラベルコスト法・・・対象とする非市場財(環境資源等)を訪れて、そのレ
        クリエーション、アメニティを利用する人々が、支出する交通
        費などの費用と利用のために費やす時間の機会費用を合わせた
        旅行費用を求めることによって、その施設によってもたらされ
        る便益を評価する方法。
仮想評価法・・・(contingent valuation method CVM)アンケートを用いて環境価値
        を評価する方法。現在の環境の状態と仮想的状態を回答者に示
        してこの状態変化に対する支払い意志額や受け入れ補償額を回
        答者に尋ねることで評価する。
実際に海外でのダムに関するCVM評価は、グレン・キャニオンダムの放水量制御によ
る影響を評価したものやエルワ川のダム撤去を評価したものが存在する。日本では北
海道の松倉ダムについてCVM評価が行われた。そして1998年(平10)建設省「社会資
本整備に関わる費用対効果分析に関する統一的運用指針」の中で便益を測定・推計す
る代表的な手段の中に上記の四つの方法も組み入れられた。

4、北海道「時のアセスメント」について*13
 1997年(H9)1月に定められた「時のアセスメント」は、北海道が行う施策のうち
停滞したり問題を抱えているものについて、道庁自身が時代の変化を踏まえてその役
割や効果などを再評価し、必要な是正を講ずるという公共事業再評価の先駆けとなっ
た事業である。第一次分として同年7月の政策会議で苫小牧東部第一工業用水道、松
倉ダム、白老ダム、トマムダム、「道民の森」民活事業、道道士幌然別湖線(士幌高
原道路)の6件が、第二次分として北海道地域輸入促進(FAZ)計画、「医療・産業・
研究都市づくり」の推進、救急医療情報システムの3件が同年12月に取り上げられ
た。再評価の対象とする施策は、@施策が長期間(運用上10年以上)停滞していると
認められるもの、A時の経過の中で、施策を取り巻く社会的状況や住民要望の変化な
どにより、施策の価値または効果が低下していると認められるもの、B施策の円滑な
推進に課題を抱えており、施策が長期間停滞するおそれがあると認められろもの、の
いずれかに該当する事業として洗い出された。当時、北海道庁の予算執行に関する不
正経理等の問題が明らかになり、道政に対する信頼は著しく失墜しており、早急に道
政の改革、改善を進めて道民の信頼を回復し、信頼される道政の実現を目指す必要が
あった。再評価の手続きとして、対象施策の概要、現時点での事業の経済効果、必要
性、妥当性、優先性などの評価、休止または廃止する場合の影響や推進する場合の手
当などについて担当部が検討し、その結果を「検討評価調書」にまとめ、副知事に報
告する。次に副知事を座長とする「検討チーム」が再評価を行い、今後の方針などに
ついても検討し、「再評価調書」をとりまとめて、知事らの「政策会議」に報告す
る。この「政策会議」で最終的に対象施策に関する道の方針が決定される。この一連
の手続きの中で、推進・反対の両派を含む関係団体の意見聴取、説明会、公聴会、文
書による住民意見聴取、審議会委員などの学識経験者の意見聴取、及び意見交換など
が活発に行われ、「検討評価調書」に反映される。その結果1999年(H11)3月まで
に9件の内中止7事業、休止1事業、手法の変更1事業という方針を決定した。「時のア
セスメント」は、全国的な注目を集め、公共事業の政策評価を推進する大きな一歩と
なり、北海道庁としてもその精神を庁内に浸透させ、日常的な業務の中に活かしてい
くため、「政策アセスメント」を導入した。

5、国の公共事業再評価の流れについて
ア、ダム事業審議委員会について
 建設省は、長良川河口堰問題を契機として全国で多くののダム事業、河川改修事業
が、世論の批判にさらされ、事業が停滞したことから1995年(H7)6月「ダム等事業
に係わる事業評価方策の施行」と題する河川局長名の通達で試行的に事業の再評価シ
ステムの設置に踏み切った。全国のダム、堰のうち基本計画が策定されてから長期間
が経過し、社会情勢の変化によって必要性が問われている全国14の事業を対象に、各
地方建設局や水資源公団に「ダム事業審議委員会」を設け、地域の意見などを聞き、
事業の見直しを検討した上で答申することを指示した。その結果として矢作川河口堰
が事業を中止して堰以外の治水方法を探ることになり、沙流川総合開発については平
取ダム建設の変更、小川原湖総合開発については淡水化計画の撤回、足羽川ダムにつ
いては立地場所の見直しが求められ、渡瀬遊水池は一期事業を検証し、二期事業を中
止、その他の成瀬ダム、宇奈月ダム、徳山ダム、紀伊丹生川ダム、吉野川第十堰、苫
田ダム、高瀬川総合開発、川辺川ダムの8事業については計画の推進を打ち出した。
細川内ダムについては建設に反対する地元の藤田恵 木頭村長が「委員会の人選が
偏っている。反対、賛成と同数にすべき。市民団体も入れるべき」などと主張して徳
島県と対立し、審議委員会は設置されなかった。この「ダム事業審議会」の構想は、
1993年細川内閣の五十嵐建設相が、衆議院予算委員会で打ち出し、(1994年超党派で
「公共事業チェック機構を実現する会」が発足、)村山内閣の野坂建設相が第三者機
関として「大規模公共事業に関する総合評価方策検討委員会」を建設省内に設置し
た。検討委員会の報告書を受けて1995年11月7日に「大規模公共事業に関する総合的
な評価システム」(建設事務次官通知)が出され、具体的な再評価システムが動き出
した。対象となるのは、ダム、堰、大規模放水路、高規格幹線道路、都市高速道路、
大規模都市開発事業の五つであったが、実際に総合的な評価が実施されたのは、この
「ダム事業審議会」の再評価のみであったし、この審議会委員の人選方法を河川局通
知で示していることは市民団体などの意見を反映しにくくし、情報公開や住民団体か
らの意見聴取の機会も乏しく、殆どが現状を肯定したに過ぎないという批判の声があ
がっている。
イ、事業評価監視委員会について
 北海道が「時のアセス」を実施した1997年12月5日、橋本首相は、建設省、農水
省、運輸省などの公共事業を所管する6省庁の大臣に対し、公共事業の再評価システ
ムを公共事業全体にわたり導入し、あわせて事業採択段階における費用対効果分析の
活用についても基本的に全事業において実施することを指示した。この指示を受け建
設省は、「建設省所管公共事業の再評価実施要綱」及び「建設省所管公共事業の新規
事業採択時評価実施要領」を1998年(H10)4月から施行した。対象となる事業は都
市公園事業、土地区画整理事業、下水道事業、市街地再開発事業、河川事業、ダム事
業、砂防・海岸事業、道路・街路事業などである。再評価は、事業採択後5年を経過
しても未着工のもの、又は10年間を経過した時点で、一部供用されている事業も含め
継続中の事業について行い、新規事業については、事業費を予算化するとき、準備、
計画に要する費用を新たに予算化しようとするときに評価するものとされている。再
評価の実施主体は、地方建設局、公団、地方公共団体などの事業主体で自ら意見や
データを収集・整理し、事業の継続、休止もしくは中止の対応方針案を作成し、本省
が最終的に決定する。方針案を作成するにあたって第三者機関として「事業評価監視
委員会」を地方建設局、都道府県、政令市、公団ごとに原則ひとつ設置することが指
示されている。農水省、林野庁などにもそれぞれ「事業評価監視委員会」あるいは
「再評価委員会」が設置され、意見が聴取される。平成10年11月30日に行われた関東
地方建設局事業評価監視委員会(第2回)において八ッ場ダム建設事業が審議の対象に
なり、その結果「継続」が了承されたが、詳しいことは、第三章の3八ッ場ダムの政策
評価のところで述べる。
ウ、その後の動きについて
 1998年度から2000年度までの再評価制度のもとに45事業を中止、98事業を休止、35
事業を縮小したとしている。それによる費用削減効果は合計で2330億円とされてい
る。
 1998年7月に成立した行革基本法の「中央省庁等改革の基本方針」(第4条)として
「国民的な視点に立ち、内外の社会経済情勢の変化を踏まえた客観的な政策評価機能
を強化し、その結果が政策に反映するようにする。」(第6号)と初めて法律で政策
評価が謳われた。2000年(昭12)の衆議院選挙において公共事業の見直しを掲げた民
主党に都市部で惨敗した与党3党は「公共事業抜本見直し検討会」を組織し、8月3党
合意を発表し、建設省、運輸省、農水省の281事業を再評価の対象とし、255事業が中
止、14事業が継続、残りが再検討や再評価中となっている。(2000年11月現在)
 2001年1月に省庁が再編され、政策評価の担当課を農水省、経済産業省、総務省、
郵政事業庁、環境省の5省庁が設置し、内閣府、防衛施設庁、外務、財務、厚生労
働、国土交通の6府省庁は、課と同等だがスタッフが少数の「官」を設置している。
総務庁の行政監察局を取り込んでできた総務省は、これら各府省の政策評価の「元締
め」の役割を担うことになる。具体的には行政監察局を「行政評価局」と改組し、標
準的ガイドラインを策定した。又、有識者らで組織する「政策評価・独立行政法人評
価委員会」を設置し、毎月活発な議論を進めている。2001年(H13)6月には政策評
価法が成立、2002年4月から施行される。

6、自治体の公共事業再評価の流れについて*14
 1997年1月の「時のアセス」宣言以来、札幌市(97年7月「再評価」)、茨城県(98
年3月「時のアセス」)、大阪市(98年3月「事業評価」)、岩手県(98年4月)、福
井県(98年7月「再評価」)、兵庫県(98年8月「時のアセス」)、川崎市(98年10月
「時のアセス」を第3セクタ-に)、広島市(98年10月「公共事業20%減」)、神奈川
県(98年10月「自治体財政非常事態宣言」)、山梨県(98年10月「ダム事業に時のア
セス」)、新潟県(98年11月「公共事業債評価委員会」)、長野県(98年11月「173
事業に時のアセス」)、静岡県(98年11月「ダムなどに時のアセス」)、宮崎県(98
年11月「時のアセス」)、横浜市(98年12月「25事業に時のアセス」)、福岡市(99
年1月「事業点検」)、静岡県(99年3月「県事業にも時のアセス」)、仙台市(2000
年2月「林道の中止」「時のアセス受け入れ」)、三重県(2000年3月「芦浜原発予算
撤回」)、富山県(2000年6月「評価委」)、等の地方自治体で公共事業の再評価が
次々に行われていった。ここでは特徴的な岩手県と三重県の例をみていきたい。
 ア、岩手県の公共事業評価システム
 建設省官僚から全国で最も若い知事となった増田氏は、1997年県の仕事の全部を対
象に、採択するか否かスタートから検討する「事務事業評価要綱」を、翌98年には公
共事業に対象を絞った「公共事業評価要綱」を策定し、「公共事業評価委員会」を発
足させた。事務事業評価の一般的基準として、次の10項目があげられている。
 @本来県が処理すべき事務・事業ではないのではないか。
 A国又は市町村の事業と重複していないか。
 B時代の要請に的確に対応をなしえているか。行政対象の変化にも関わらず、漫然と
  して従来のままに対応しているものはないか。
 C地方財政法の法令に定める経費の負担の原則、他の類似の公共団体における負担の
  状況などから見て県財政の負担が過大ではないか。
 D事業はそのコストに見合っただけの効果を上げているか、コストの削減の余地がな
  いのか。
 E事業の効果が逐年であがっているか。
 F事業を統合整理し、新しい手法で効果を上げる事業に転換すべきでないか。民間へ
  の委託などにより、事業効果を低下させることなく、経費の削減が可能ではないか。
 G県の事業の水準は、他県の同種の事業より効果を上げているか。
 H第三次岩手県総合発展計画、国の諸計画との整合性は保たれているか。
 I県民(住民)のニーズに的確に応じているか。
 こうした一般基準のもとでさらに@法令に基づく事務、A公共事業、B物件費、
(委託費)C物件費(県単独のその他の事務)D補助金など(奨励的な国家補助)E
補助費など(県単独の補助金)F県単独の普通建設事業、G貸付金の8項目について
個別基準を定めた。公共事業の個別基準は、以下の通りである。
ア、県単独で計画しているが、公共採択となりうるのではないか。
イ、実施個所について、優先度は十分に検討されているか。
ウ、事業の実施にあたり、市町村、公社、公団等との連携による改善の余地はないか。
エ、部分施行にこだわり、結果として高い投資を余儀なくされているのではないか。
さらに個別分野ごとに具体的な評価指標を示したのは、岩手県が最初だろう。個別分
野とは、@農業農村整備事業、A治山事業、B造林事業、C林道事業、D漁港事業、
E道路事業、F河川改修事業、G海岸事業、Hダム建設事業、I港湾建設事業であ
る。ダム建設事業の評価指標は、次の4項目である。
 @整備の重要性、 治水、流域内に占める氾濫区域内の人口の割合
          利水、利水者の全体計画に対する開発水量の依存度
 A整備の緊急性  治水、治水安全度
          利水、逼迫年数
 B整備の効率性  治水、費用便益
          利水、開発単価
 C整備の熟度   治水、利水とも、地元の協力度
 この要綱の下、増田知事は、岩手山の西の麓 十和田八幡平国立公園を横切り、雫
石町に通ずるはずであり、国の補助を含め46億円を投じて全長16キロの3キロ手前ま
で完成していた県道の山岳道路を中止した。工事中に原生林を破壊したことに対して
自然保護を求める声があがり、2年前から工事が止まっていたが、工事の再開には原
生林保護のために長いトンネルが必要で、最終的な総工費は、当初の倍以上にあたる
67億円が見込まれていた。自然保護と財政難が決断の決め手になった。制度の始まっ
た1998年には37事業106地区が見直しの対象となり、広域基幹林道の夏油ー湯田線が
中止、北本内ダムが休止、99年度は、7事業10地区が対象となり、いずれも継続、
2000年度は、13事業38地区の内吉里吉里漁港と門の浜漁港、北本内ダム、黒沢生活
貯水池は中止、沢内村安ヶ沢線が休止になった。再評価と同時に採択した事業全てに
費用対効果の数字を出し、1999年度は、500箇所を越していた事業を2000年度には、
300代の半ばまで減らしている。評価指標として「整備の熟度」つまり住民の協力が
得られるかどうかをあげたことは、画期的であるが、「決定を下している『岩手県公
共事業評価委員会』は、行政側の判断を追認しているだけだ。」という批判もある。
2001年から岩手県は、総務部の代わりに総合政策室を組織のトップとし、そこに全体
の政策評価を専門に担当する課として政策評価課が入っている。今後の動きを注目し
ていきたい県である。
イ、三重県の公共事業評価システム
 三重県では県の新しい総合計画「三重のくにづくり宣言」の第2次実施計画が来年
度からスタ−トするのにあわせて、事務事業評価システムを一段階進めた「政策推進
システム」を本格運用する。その一環として分野に応じた多様な評価方法に取り組む
ことにしており、その一つが「公共事業評価システム」だ。このシステムは異なる公
共事業を同一基準で比較し、評価を行うもので、全国初の試み。導入の目的は@効率
的、効果的な社会資本整備の実現 A公共事業実施の決定プロセスの透明化の2点で
ある。対象となるのは、県土整備部、農林水産商工部、環境部が所管する県が事業主
体の公共事業で、@山林の保全、A災害の防止、B交通利便性の向上、C生活廃水処
理による水質改善、D公園整備などによる生活環境の快適化、E食料の安定供給の6
分野に再構築する。新規事業については、全ての公共事業の効果を客観的に表すため
費用便益分析手法によって費用便益費を算出、これに地域間の公平性に配慮するため
の「地域係数」と分野間の重要度を調整する「重点化係数」を導入、さらに個別事業
レベルの政策的重要度(戦略性、緊急性)による優先度評価を行う。「地域係数」
は、需要量の大きい都市部に公共事業が集中するのを防ぐため、所得や家賃、地代、
物価、の水準を指標として、都市部の1.0を基準に最大1.5まで0.1ずつ6段階の係数を
市町村ごとに設定。新規事業については地域係数で補正した費用便益比の大きい順に
整理する。(費用便益比が1未満となる事業は、事業計画の見直し事業とし、規模・
規格などを再検討する。)次に県民ニーズや各分野の整備水準を考慮した「重点化係
数」によってランク1(事業効果から優先して取り組む事業)とランク2(個別評価に
より優先度を決定する事業)に区分する。重点化係数は、県民1万人を対象としたア
ンケート調査(県民ニーズ)と分野ごとの整備水準から算出したもので、最大1.2か
ら0.8まで0.1ずつ5段階設定されている。さらにランク2に位置づけられた新規事業
は、「戦略性」「緊急性」等の観点から個別評価を行い、優先度が決められる。継続
事業は、再評価によって妥当と判断されれば新規事業に優先して位置づけ、「県公共
事業再評価審査委員会」の審議を経て、必要がないと判断された事業は中止となる。
環境面に関しては、景観などお金に換算できないものをどう評価するかが課題である
が、この画期的な試みの今後も注目していきたい。


第三章 八ッ場ダムの政策評価について *15(引用部分は「」で示す)
1、八ッ場ダム建設の経緯について
 1947年(昭22)のカスリン台風による被害で利根川改定改修計画(1949、昭24)が
建てられ、その一環として沼田ダム、藤原ダム、薗原ダム、相俣ダム、下久保ダムと
ともに八ッ場ダムが計画され、1952年(昭27)予備調査が始まる。正式に建設計画の
通告があった同年5月以来町をあげての反対運動が盛り上がり、9月5日に長野原町か
ら建設省に対して「八ッ場ダム建設中止の陳情書」が提出された。翌’53年2月15日、
林、横壁、川原湯、川原畑の4部落は、長野原町立第一小学校の校庭で「八ッ場ダム建
設反対住民大会」を開き、絶対反対の決議文を建設省に手渡す。
 しかしながら吾妻川の水が鉄筋コンクリートの試験棒を一ヶ月も経たない内に溶か
してしまうほどの強酸性の川であり、水質改善の見通しがつかないためダム計画は白
紙に戻された。
 1957年(昭32) 群馬県は吾妻川総合開発事業を計画する中で吾妻川の水質改善に
取り組み、1964年(昭39) 草津の中和工場、品木ダムが完成、湯川、矢沢川に石灰
質中和剤の連続投入が開始され、水質が改善された。それを受けて予備調査が再開さ
れ、1965年(昭40)ダム建設計画が蘇った。
 1966年(昭41)町議会も絶対反対の決議をし、桜井町長も町長選で「反対」を公約
にして当選を果たしたが、住民の中では反対してもできてしまうのなら条件闘争で行
く方がいいという条件付き賛成派と反対派に運動が分裂していった。反対派、賛成派
ともに激しい請願陳情合戦を繰り広げたが、4年間12回の継続審議を経て1969年(昭
44)3月の県議会で「八ッ場ダム建設促進決議案」が採択された。その年の6月、建設
省は川原湯駅前に「生活再建相談所」を開設した。同年7月水没線測量のための杭う
ち、これら一連の建設省の行動に対し、反対期成同盟は作業阻止行動と八ッ場ダム調
査事務所所長に抗議行動を繰り返した。神田知事は、県内にいくつものダムをつくっ
てきたが、下流の都県が、恩恵を被るだけで県民にプラスはないとダム造りに疑問を
持つようになり、ダム建設は、建設地のことを充分考慮に入れた根本的な検討が必要
という立場から全国知事会の中に設置された「水源地域開発特別委員会」の委員長に
就任、新しい法律の制定に力を尽くした。桜井町政は「生活援助金」など83項目にわ
たる要望書をまとめ、条件付き賛成に転換し、1974年(昭49)の町長選では反対期成
同盟委員長であった樋田氏が町長に当選した。1973年(昭48)水没地の生活再建を視
野に入れた「水源地域対策特別措置法」(水特法)が成立した。1976年(昭51)利根
川水系第三次フルプラン(水資源開発基本計画)に「なお、水没関係住民の納得を得
るよう努めるものとし、その生活の安定と地域の長期的な発展のための計画の樹立を
図るものとする。」という但し書きをつけて八ッ場ダムが加えられた。同年8月神田知
事に代わって清水知事登場。ダム推進を進める清水知事の元で樋田町長も町の発展に
向けていろいろな事業を進めるためには、県の提案する再建案について前向きに検討
せざるを得なくなり、1980年(昭55) 群馬県が提示した「生活再建案」「振興対策
案」について1985年(昭60)包括的な合意に達し、覚え書きが締結された。1983年
(昭58)には反対規制同盟会の目的を「八ッ場ダム建設阻止」から「犠牲を伴う八ッ場
ダム建設に反対」へと変更している。
 1987年(昭62)長野原町長と関東地方建設局長は、「八ッ場ダム建設に関わる現地
調査に関する協定書」を締結。同年10月財団法人利根川・荒川水源地域対策基金が、
八ッ場ダムを基金対象ダムとして指定。1992年(平4)長野原町長と群馬県知事及び関
東地方建設局長は、「八ッ場ダム建設事業に係わる基本協定書」を、八ッ場ダム工事事
務所長と水没5地区各代表は、「用地補償調査に関する協定書」をそれぞれ締結し、
同年9月長野原町地内で用地補償調査を開始。1994年(平6)付け替え道路や移転代替
地造成のための工事用進入路の建設に着手。1995年(平7)群馬県は、八ッ場ダムを水
源地域対策特別措置法に基づく整備事業として国土庁に申請し、決定を受ける。1999
年(平11)八ッ場ダム水没関係5地区連合補償交渉委員会が設立され、具体的な補償基
準提示に向けた話し合いが始まる。2001年5月(平13)国と地権者は補償基準で合意、
調印し、現在個別交渉に入っている。

2、八ッ場ダムの概要について
ア、事業目的
「@  洪水調節  2,400m3/sの洪水調節を行う。
 基準地点八斗島における基本高水のピーク流量22,000m3/sのうち6,000m3/sを上
流ダム群(矢木沢、藤原、相俣、薗原、奈良俣ダム)によって調節し、下流部の洪水
被害の低減を図る。八ッ場ダムは上流ダム群の一翼を担い、ダム地点における計画高
水流量3,900m3/sのうち、2,400m3/sの洪水調節を行い、吾妻川下流の洪水流量の低
減をあわせて図る。(利根川水系工事実施基本計画・・・昭55)
 利根川における想定氾濫区域の面積は、1,850kuとなり、区域内の資産額約50兆
円、人口約450万人。
A 水道用水及び工業用水の供給   最大22,123m3/sの水を供給する。
 「群馬県及び下流都県の水道用水(茨城県、群馬県、埼玉県、千葉県の23区、102
市、72町、21村)及び工業用水(群馬県、千葉県の6市、7町、1村)として最大
14.0m37/sを開発するとともに、農業用水の合理化により行われる灌漑期の用水確保
と併せて新たに水道用水として最大8.053m3/sの開発を行う。」
 今まで「不安定取水として許可されていた暫定水利権9.031m3/sが解消され、計画
配分量に応じて水利用の安定化が図られる。」とされている。
イ、施設概要
 河川名  利根川水系吾妻川
「ダム位置 左岸 群馬県吾妻郡長野原町大字川原畑八ッ場
      右岸  〃  〃   〃 大字川原湯字金花山
 ダム形式 重力式コンクリートダム
 堤高   131m
 堤頂長  336m
 堤体積  1,600,000m3
 貯水池 流域面積 707.9ku
     湛水面積 3.04ku
     常時満水位 EL583m
     洪水期制限水位 EL555.2m
     最低水位 EL536.3m
     総貯水容量   107,500,000m3
     有効貯水容量  90,000,000m3
     洪水調節容量  65,000,000m3
     洪水期利水容量 25,000,000m3
     堆砂容量    17,500,000m3
施工者   国(国土交通省)
      群馬県
      長野原町
水没地区  340世帯   川原端、川原湯・・・全戸水没
            横壁、林、長野原・・・一部水没
      小中学校、公民館、JR吾妻線、国道145号などが水没するために移
      転、付け替えの予定

図表11〈水没対象面積とその内訳)
種別 宅地 農地 山林 原野 その他* 合計
水没地 1118a 4830a 16910a 1090a 7652a 31600a
      1985年(昭60)時点
  *公共施設、河川、道路など

図表12〈水没世帯とその内訳〉
集落名 水没世帯数 水没世帯数の内訳
旅館 商業 農業 工業等 勤め人等
河原畑 79 0 6 31 2 40
河原湯 201 18 44 16 6 117
横壁 15 0 0 11 1 3
20 0 4 9 0 7
長野原 25 0 0 1 5 19
340 18 54 68 14 186
1979年(昭54)時点」

関連事業
 八ッ場ダム建設に伴い、水没する5地区と付け替え事業などで関係する吾妻町のダム
下流3地区と土捨て場等により関係する2地区の全体で10地区が八ッ場ダム事業に影響
を受ける。水没する川原湯温泉街の再建、宅地及び農地等の確保、小中学校・公民館
等の公共施設移転、国道・鉄道の付け替え、地区内外を結ぶ道路網や上水道・公園な
ど快適な居住空間を確保するための生活環境施設の整備。水没関係者の移転代替地
は、既存集落ごとにダム湖周辺の湖畔沿いに現地再建ずり上がり方式で造成される。

水源地域対策特別措置法に基づく八ッ場ダム水源地域整備計画
   1995年(平7)〜ダム完成2006年(平18)予定   61事業 約997億円
・土地改良、治山、治水、道路、簡易水道、下水道、義務教育施設、公営住宅、林
道、造林、農業(畜産業を含む)林業又は漁業の経営の近代化のための共同利用施
設、公民館その他の集会施設、スポーツ又はレクリエーションの用に供する施設、保
育所・児童館・又は児童遊園、老人デイサービスセンター・老人福祉センター、消防
施設、畜産経営に関わる汚水の処理のための施設、・・・事業費約997億円

(財)利根川・荒川水源地域対策基金
 水特法を補完するもので関係都県や市町村が実施する生活再建対策に必要な資金の
貸付や交付などを行う。
・生活相談員設置事業、移転用地など先行取得利子補給事業など緊急性、必要性の高
い事業から先行的に実施・・・246億円
工期   平成18年度(2006)までの予定
事業費  建設に要する費用の概算額・・・約2,110億円(昭和60年度単価)
(国土交通省発表)

<比較>
八ッ場ダム関連の事業費(水源開発問題全国連絡会の試算による)
T ダム建設費(個人補償費を含む)       約1,800億円
U 公共保証事業(道路鉄道付け替え、代替地造成等)  2,004億円
V 水源地域対策特別措置法の整備事業         997億円
W 利根川荒川水源地域対策基金事業          246億円
   合計5,047億円
(Tは1985年発表値の1.3倍とし、Vは1996年の協定、U、Wは92年の整備計画
 素案による。)

図表13 八ッ場ダム建設とその関連事業の負担内訳          (単位 億円)
  総額 東京都 埼玉県 千葉県 茨城県 群馬県 栃木県
ダム建設費 1800 1057 210 229 140 83 76 5
ダム事業 2004 1177 233 256 156 92 85 5
水源対策特別措置法事業 997 504 170 143 61 26 131 0
水源地域対策基金事業 246 0 79 87 38 16 26 0
合計 5047 2738 653 715 395 217 318 10


3、八ッ場ダムの政策評価について
 平6年度決算(1994)の「会計検査のあらまし」の中で「特に掲記を要すると認め
た事項」として八ッ場ダムを含む六つの多目的ダム建設事業があげられている。八ッ場
ダム建設事業と思川開発事業は、事業着手後29箇年又は27箇年を経過した現在でもダ
ム本体工事に着工しておらず今後も更に長期間を要するものであり、会計監査院の所
見として「このままの状況で推移すると、洪水被害軽減の効果が今後も長期にわたっ
て期待できないほか、利水に於いては事業費の増こうなどから原水単価(当該水資源
開発のための利水者負担金を水資源開発により生ずる開発水量で除した価格)が高騰
するなど、受益者にかかる利水効果に影響を及ぼすおそれがある。」と報告されてい
る。皮肉なことに、これ以後八ッ場ダム建設事業は進みだしたが、原水単価や利水の
問題については殆ど検討されていない。
 政策評価あるいは再評価の資料として私たちが手に入れられるものは、1998年(平
10)に行われた事業評価監視委員会の概要とそこで検討された八ッ場ダムの費用対効
果と代替案の比較である。*16
ア、関東地方建設局事業評価監視委員会における再評価について
 第1回の委員会が、1998年(平10)10月5日(月)に行われ、以下が議事内容であ
る。
@委員長、委員長代理の選出、
A事業評価監視委員会運営要領の制定、
Bダム事業の審議対象事業の抽出について・・・再評価の対象となる関東地方建設局
及び水資源開発公団の18ダム事業について説明。対象事業の抽出については、代表委
員が原案作成を行うこととなった。
 第2回の委員会は、同年11月30日(月)18:00〜21:00に行われ、議事内容は以下
の通りである。
@ダム事業の審議対象事業の抽出
・関東地建のダム事業12事業と水資源開発公団のダム事業6事業計18事業の
うち椎貝代表委員により「八ッ場ダム」「霞ヶ浦導水事業」「江戸川総合開発事業」
「思川開発事業」の4事業が抽出された。
A審議の概要
「・審議対象事業として抽出された4事業は妥当である。
 ・事務局から出された4事業の対応方針(事務局案)は、基本的に了承する。
   「八ッ場ダム建設事業」・・・継続
   「霞ヶ浦導水事業」 ・・・継続
   「江戸川総合開発事業」・・休止
   「思川開発事業」  ・・・継続   」
 18:00から21:00までの3時間の間に18事業から4事業の抽出に同意し、1事業の休
止、3事業の継続を決定、さらに40の河川・砂防事業について説明というスケジュー
ルでは、誰がみてもひとつひとつの事業について詳しく検討、議論する時間があると
は思えない。委員の人選も事業者が行い、さらに委員会の運営要領第11条で、「委員
会の会議については、党議の自由性を確保するため非公開とする。」とされているこ
とは、開かれた議論をする気持ちが初めからなく、事務局案を通す形だけのものであ
ることを実態が物語っている。
イ、八ッ場ダムの費用対効果について
 先の「事業評価監視委員会」で示された八ッ場ダムの費用対効果B/Cは11,7となっ
ている。
「費用対効果=  妥当投資額(B)・・事業がもたらす効果を金銭換算した額
          事業費(C)・・・ダムの建設費
妥当投資額(治水)=洪水調節の効果 + 流水の正常な機能維持の効果
 洪水調節効果は、洪水氾濫区域における家屋、農作物、公共施設等の想定される被
害について、ダムの洪水調節により防止される額(軽減できる額)を算定している。
ただしライフラインの機能停止による被害、人命損傷等の間接被害は、見込んでいな
い。」
流水の正常な機能維持の効果として、効果を全て数値的に測定することは非常に困
難であり、八ッ場ダムの妥当投資額は、洪水調節の効果のみで算定している。
「事業費 C=1,287億円(平成9年度価格)
〈算出根拠〉
全体事業費(昭60年度価格) 2,110億円
洪水調節のアロケ率     52.5%
ダム事業に要する費用(治水分)2110億円×52.5%=1,108億円
平成9年度価格に修正     1,287億円
妥当投資額 B=1兆5,074億円(平成9年度価格)
〈算出根拠〉
洪水調節に関わる想定年平均被害軽減額 701.11億円
施設の想定年維持管理費         1.69億円
資本還元率               0.0464
妥当投資額(治水分)={701.11(年平均被害軽減額)−1.69(想定年維持管理費)}/
                           0.0464(資本還元率)
          =15,074億円
費用対効果=(15,074億円(妥当投資額)B=11.7)/1,287億円(事業費)C 」
 治水事業の評価制度は、治水経済調査要綱によって行われているが、この要綱によ
ると、「年平均被害軽減(期待)額は、氾濫被害額に洪水生起確率をかけることに
よって算出する」とある。利根川における想定氾濫区域の面積は、1,850u(前橋、
高崎、当たりから始まり、足利、熊谷の間の約20kmの幅で東京湾まで拡がってお
り、鬼怒川の周辺から霞ヶ浦までの区域)となり、資産額約50兆円、人口450万人と
なっているが、この過大な想定氾濫区域を求める根拠は、p.17であげたように調査
対象流量規模の設定など、いくつかの想定の上に成り立っている。

地図1


●想定氾濫区域市町村
都県 市町村名 面積(ku)
東京都 足立区、江戸川区ほか 107.3
千葉県 船橋市、市川市ほか 444.5
埼玉県 大宮市、浦和市ほか 760.1
茨城県 取手市、竜ヶ崎市ほか 737.0
栃木県 宇都宮市、今市市ほか 416.9
群馬県 伊勢崎市、沼田市ほか 205.2
合計 3区、56市、68町、13村 2671.6


 1980年(昭55)に改定された利根川水系工事実施基本計画では、八斗島地点の基本
高水流量22,000m3/s(200年に1回の洪水流量)のうち6,000m3/sを上流ダム群で洪
水調節することになっている。しかしながらカスリン台風時の最大洪水流量が
17,000m3/sであり、戦時中の食糧難解消のための赤城山麓の開墾とエネルギー源確
保のための木材供出により、森林が乱伐された結果であり、その後の森林状況は大幅
に改善されており、その後年最大流量の観測値で10,000m3/sを越えたことはない。
利根川の治水計画は、流域の開発が進んだという理由で1980年に改定され、八斗島地
点の基本高水流量が17,000m3/sから22,000m3/sに引き上げられた。しかし、戦争直
後の森林乱伐という条件で起きた17,000m3/sでさえ、現在の森林状態では起こり得
ない洪水流量なのに、それを更に膨らました22,000m3/sと言うのはどのような根拠
があって出されたものか、現実離れの数字と言わざるを得ない。そして利根川治水計
画ではこのうちの16,000m3/sを河川改修で対応することになっているのだから、最
大流量規模を引き上げなければ、八ッ場ダムを初め新たな洪水調節ダムを建設する必
要は殆どないことになる。(図表14参照)
ウ、代替案との比較
「@堤防の引堤案・・・堤防を引き川幅を広くし、河道の断面積を確保することに
よって、洪水を河口まで流下させる方法で地図上の栗橋町付近と栄橋付近の住宅が密
集している部分を予定している。
A河道の掘削案・・・河道を掘削し、河道の断面積を確保することによって、洪水を
河口まで流下させる方法で取手市我孫子市付近の案である。
B堤防の嵩上げ案・・・堤防の高さを高くし、河道の断面積を確保することによって
洪水を河口まで流下させる案で小見川町付近、取手市付近の案である。 以下の表の
ようにメリット、デメリットが整理された結果、河道での対応では所定の効果を発揮
するまでに長時間を要し、沿川社会環境への影響が多大になることから、ダムによる
洪水調節方式が、最も効果的、効率的であると判断されている。

図表14*17


図表15 代替案の比較
代替案 メリット デメリット
堤防嵩上げ案

事業費
3600億円
・引堤案に比べると必要な用地が少ない。
 (ただし、橋梁付け替えに伴う取り付け道路嵩上げ
  関係の用地補償は多い。)
・洪水時の水位をあげる。
@洪水時に堤防や地盤に未知の大きな外力を与える。
A破堤時の被害を増大させる。
B内水排除を困難にする。
・多数の橋梁の架け替えが必要。
・所用の治水安全度を確保するのに長時間を要する。
・堰、水門、機場等の河川構造物の改築が必要。
引堤案

事業費
11300億円
・洪水時の水位を上げない。
@洪水時に堤防や地盤に未知の外力を加えない。
A破堤時の被害が増大しない。
B内排水排除が容易である。
・大量の用地買収が必要。
・大量の家屋移転が必要。
・所用の治水安全度を確保するのに長時間を要する。
・多数の橋梁の継ぎ足しが必要。
・堰、水門、機場等の河川構造物の改築が必要。
河床掘削増大案

事業費
2500億円
・洪水時の水位を上げない。
@破堤時の被害が増大しない。
A内水排除が容易である。
・ようち、家屋移転が不要。
・橋脚の根入れが不足し、多数の橋梁の補強対策が必要。
・下流部は高水敷の掘削が伴い、堤防の補強対策について
 十分な検討が必要。河川環境を大規模に改変。
・用水樋管、堰は改築が必要。
・掘削量が膨大になる。
・河床の安定性、河道断面の維持が難しい。
現計画
(ダムによる水調節)

事業費
1290億円
・洪水時の水位を上げない。
@ABとも上に同じ
・最も経済的である。 
・比較的短時間に治水安全の向上を図ることができる。
・洪水調節効果に加え、利の効果も見込まれる。
・ダム建設に伴う用地、家屋移転が必要。


 現計画のメリットとして「比較的短時間に治水安全度の向上を図ることができる」
とあるが、八ッ場ダムは計画されて50年経ってもまだできないダムである。他にも長
い年数をかけてできていないダムは数多くある。又、現計画のデメリットとしてあげ
られているのは、「ダム建設に伴う用地、家屋移転が必要。」だけであるが、果たし
てそうであろうか。この代替案の比較表を、戸倉ダム建設事業の代替案比較表と比べ
てみると、事業費以外は一言一句同じである*18。利根川上流にあるダムと言っても
位置も規模も全く違うダムである。ひとつひとつのダムの代替案を遊水池などを含め
てきめ細かく検討するのではなく、形式的にマニュアルどおりの表をつくっていると
いうことなのだろうか。遊水池や氾濫源の導入、あるいは減反や三面コンクリート水
路の影響を調査し、見直しを図り、雨水の浸透やリサイクルを図るなどきめ細かい代
替案の検討が必要と思われる。

4、八ッ場ダムの政策評価の問題点について
 3-イ 八ッ場ダムの費用対効果の項で1850kuという広大な想定氾濫区域が説得力
のある根拠によって示されていないのではないかという疑問と、1980年(昭55)に改
定された利根川治水計画の中で八斗島の基本高水流量が17,000m3/sから22,000m3/s
という現実離れをした数字に引き上げられたことは指摘したが、費用対効果は、アロ
ケ率52,5%の治水分についてしか行われていない。残りの47,5%の利水分についてこ
こで検討してみたい。

ア、利水分の再評価
 利水について考えるときに忘れてならないのは、八ッ場ダムは、50年前の計画だと
いうことだ。東京への一極集中が進む高度経済成長時代に地元の川原湯温泉を中心に
した反対運動が大きく盛り上がり、ダム反対の町長を選出し、議会でも反対決議を何
回もしている。しかしながら建設省と群馬県の執拗な攻勢をを受けて、ダム問題に明
け暮れる毎日に疲れ果て、世代交代もあり、1985年(昭60)、生活再建案を受け入れ
るようになった。その頃には下流都県の水需要は、頭打ちになっている。1999年(平
11)に国土庁が発表したウオータープラン21(新しい全国総合水資源計画)は、まだ
過大予測の面があるにせよ以下の表の需要推計を出している。

図表16 都市用水(工業用水+水道用水)の需要推計(水源連作成)
 関東地方(群馬、栃木、茨城、埼玉、千葉、神奈川、山梨、東京)
  1995年実績 2015年推計
工業用水 665万m3/日 617万m3/日
水道用水 1504万m3/日 1657万m3/日
都市用水 2159万m3/日 2274万m3/日

 八ッ場ダムの利水計画は、おおむね5年に1回程度発生する渇水に対処する計画とし
て策定されているが、嶋津暉行氏の論によれば、以下の代替手段をとれば、10年に1
回の大渇水を乗り切ることも十分に可能だとしている。
 @広葉樹林を中心とする森林の整備
 A農業用水から都市用水への一時的な融通
 B日頃からの節水施策の推進
 C渇水時における地下水の利用拡大
 D既設ダムの過大放流の抑制
 利水の問題を考えるときに注目しておかなければならないことは、八ッ場ダムによ
る新規開発水量は、非洪水期9,000万m3、洪水期2,500万m3の利水容量であり、都市用
水の通年開発水量は、122万m3(14,07m3/s)で、夏期の貯留日数は、20日しかな
い。10年に1〜2回の渇水年が来ると、わずか20日の貯留日数では対応できないこと
は、明らかであり、この計画自体に矛盾がある。
 県内で八ッ場ダムを水源にしているのは、冬季のみが、県央第二水道(前橋市、伊
勢崎市、赤堀町、玉村町、大胡町、境町、赤城村、北橘村、富士見村、宮城村、粕川
村、新里村、(佐)東村)と東毛工業用水道(伊勢崎市、太田市、館林市、境町、尾
島町、新田町、板倉町、明和町、千代田町、大泉町、邑楽町)。
通年利用しているのが(H9から一部給水開始している。)東部地域水道(太田市、
館林市、尾島町、板倉町、千代田町、大泉町、邑楽町、明和町)である。
 県央第二水道の中の赤城村は、十分な地下水があるという理由から議会で撤退を決
めた。他の市町村でも地下水で間に合っているところもあり、計画は、先延ばしにさ
れている。これらの市町村は、八ッ場ダムの水源費も払わなければならず、まずい水
に対して高い代価を払わなければならないことがわかったときには、住民の相当の反
発が予想される。
 これらの利水の問題点については、費用対効果の中でもふれられず、再評価委員会
の中で議論された形跡もない。

イ、強酸性水、中和工場、品木ダムについて
 強酸性水の問題は、八ッ場ダム独自の深刻な問題であり、1952年(昭27)予備調査
が始まったものの12年後の中和工場、品木ダムの完成まで計画を一歩も進められな
かったことはこの問題がいかに重大かを示唆している。にもかかわらず、この問題に
ついても費用対効果、再評価委員会の中で一切とりあげられていない。
 八ッ場ダム上流にある草津温泉、万座温泉は、ph2〜3という強酸性の温泉であり、
その上流にはかつての硫黄鉱山、褐鉄鉱鉱山の廃鉱から今でも強酸性の水が流れだし
ている。そのため魚の住まない死の川と言われ、河川の工作物にも被害を与え、農業
用水にも向かないと言われてきた。その水質改善事業が行われているわけだが、中和
工場は、草津と香草にあり湯川、矢沢川、大沢川に石灰乳を24時間休みなく投入して
中和作業を行っている。1日50〜60t、年間2,200tもの石灰が、県内の南牧村から運
ばれており1964年中和工場が完成してから毎年投入され続けてきた。この中和費用
が、年間約10億円であるが、吾妻川の全酸性分の半分程度を処理するに過ぎない。湯
川、矢沢川、大沢川の合流点に中和生成物を堆積させるために品木ダムが造られてい
る。ダム完成後23年にして166万m3の容量の内118万m3も堆砂してしまったために、
1988年から浚渫事業を行っており、平成12年度品木ダムの浚渫工事請負契約書によれ
ば、沈殿物浚渫、排砂浚渫合計2.5万m3で1億8795万円の請負金額になっている。この
浚渫ヘドロは、湯川の両岸の谷間の巨大な土捨て場に捨てられており、このカドミウ
ム、砒素等の重金属を含む捨土容量*19を合計すると34.6万m3になる。この水質改善
事業はもともと県の事業であったが、維持管理費が嵩むため県土木部から企業局へ、
1968年(昭43)に建設省品木ダム水質管理所に移管された。職員は、30人である。
 八ッ場ダムの本体工事の前に、まずこの水質改善事業が経済面、環境面、安全面か
ら見て今後もずっと続けていくべきかどうか政策評価を行わなければならないのでは
ないだろうか。

ウ、八ッ場ダム周辺の環境の価値について
 八ッ場ダムの費用対効果、再評価委員会の中で、環境の価値についても全くふれら
れていない。自然環境の調査については「昭和54年以来、地形、地質、水質、植物、
動物、景観についての現地調査を実施し、1985年(昭60)『建設省所管事業に係わる
環境影響評価に関する当面の措置方針について』に基づき、環境アセスメントについ
ては完了し、1993年(平5)から本格的な工事に入っている。」と「八ッ場ダム建設事
業」の中で説明している。調査の結果、人の手があまり加わっていない重要な植生と
して自然草地2タイプ、アカシデ林、イヌブナ林などの落葉広葉樹林、アカマツ林、
モミ林などの針葉樹林、サワグルミ林、フサザクラ林などの山地渓畔林、河畔林であ
るオノエヤナギ林などがあげられている。レッドデータ植物として「絶滅危惧TA
類」が2種、「絶滅危惧TB類」が12種、「絶滅危惧U類」が34種、「準絶滅危惧」
が3種、その他の重要な植物として16科19種があげられている。生息を確認された哺
乳類の総数は、15科23種で、特別天然記念物に指定されているニホンカモシカなどを
含め、環境保全上重要な哺乳類は、7科7種があげられている。確認された鳥類の総数
37科140種のうち「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」によっ
て「国内希少野生動植物種」としてレッドデータブックに掲載されているものは5科
11種ある。中でもイヌワシとクマタカは、絶滅危惧種であり、オオタカは危急種であ
る。イヌワシの保護については「八ッ場ダムの建設にあたっても、周辺地域にイヌワ
シが住み続けられるように、1995年(平7)からイヌワシを中心とした猛禽類の生態
調査を実施し、1998年(平10)より検討委員会を設置し、イヌワシに関する調査・解
析をしている。*20」とあるが、昨年からイヌワシの姿を見ていないと言う専門家の
声も聞くし、どのような対策が立てられているか明らかにされていない。生息を確認
された両生類は、4科5種、爬虫類は2科5種で、そのうち環境保全上重要と思われるも
のは、モリアオガエルなど3科4種である。吾妻川とその支流で生息を確認された魚類
は、4科9種で環境保全上重要と思われるものはウグイ、カジカの2種であった。陸上
昆虫類については、貯水池周辺区域で97科1273種、発生土造成地周辺区域において
173科935種の生息が確認されている。このうちレッドデータブックに掲載されている
ものは、オオムラサキ1種、環境保全上重要と思われるものは、24科47種であった。
水生昆虫類については、吾妻川で162種、発生土造成地周辺の今川で103種の生息が確
認された。そのうち環境保全上重要と思われるものはムカシトンボなど5科7種であっ
た。水質については、BOD、SS、phが調査され、A類型に設定されている。これらの
調査結果については、「配慮する。検討する。」とあるだけで、評価の対象にもなっ
ておらず、対策も立てられていない。
 地層については、「地滑り地帯であり、危険」という専門家の指摘があり、水抜き
対策の工事などをやっているにもかかわらず、そのことについても、一切ふれられて
いない。
 さらに美しい吾妻渓谷の景観をを保全するために、ダムサイトを600m上流に移動
したが、そのようなことで渓谷の美しさが保たれるのかどうか疑問が持たれている。
 これらの様々な環境の問題に対しては、前に述べように全く評価の対象になってい
ないが、これから本体建設が始まる前に、総合的な政策評価がされるべきである。

5、今後の方向について
 現在、地権者に対する個別の補償交渉が進められている一方で、砂防ダム、代替道
路、代替地造成工事などが進められている。50年間もダム問題に翻弄されてきた地権
者への補償金の支払いは、当然進められるべきであり、かといってダム建設中なのだ
から再評価は必要がないということにも決してならない。もちろん高度経済成長期あ
るいは、バブルの頃のような右肩上がりの成長は望むべくもない。少子高齢化社会を
迎え、税収の伸びは見込めず、社会補償費は増大していく。右肩上がりの成長期の過
大な水需要計画を見直し、必要に応じた政策の優先順位をつけていかなければならな
い。今後、2110億円(s60)とされていた建設費の大幅な見直しと工期の延長につい
て、下流都県の議会の議決が必要とされるわけだが、その時には今まであげたような
問題点を含め、きちんとした政策評価に基づくアカウンタビリティがなければ、下流
都県の納税者は納得しないだろう。、非公開の形ばかりの「事業評価監視委員会」で
はなく、今まで市民から出された様々な疑問にきちんと答えられる開かれた議論をし
なくてはならない。情報公開法がようやく昨年(2001年)4月に施行され、行財政改
革が進められている今、環境を含め今まで述べてきたような多方面から見て、本当に
八ッ場ダムが必要かどうか、もう一度評価する必要がある。本年度中に既に1350億円
を使い切り、本体工事が始まるまでにJR吾妻線、国道145号線の付け替え、代替地の
造成、小中学校、公民館の建設事業が予定されている。今後どれだけの費用がかかる
のか、下流都県の負担はどれぐらいになるのか、本当にこの八ッ場ダムが必要かどう
か、公募委員も含めた再評価委員会委員会を作り、そこで公開の形で徹底した政策評
価を行う必要がある。


第四章これからの公共事業の政策評価、再評価のあり方について
 長良川河口堰反対運動をきっかけにして各地でダム建設反対運動、河口堰反対運動
が展開されている。建設省もそれまでの「知らしむべからず、依らしむべし」の態度
を変え、基本的なデータを公開するようになった。これらのデータに対して各地で疑
問が出され、裁判に持ち込まれているところもある*21。

1、治水経済調査の基本的な考え方
 堤防やダムなどの効果の評価は、治水経済調査によって行われる。治水施設整備に
よる便益は、経済的に計測困難なものが多いため、考えられる便益の一部分である被
害防止便益(水害によって生じる直接的又は間接的な資産被害を軽減することによっ
て生じる可処分所得の増加)の一部を算定することとしている。
 被害防止便益の算定にあたっては、以下のようないくつかの想定が必要となる。
 @氾濫区域内の資産の設定
 A水害から通常の社会経済活動に戻るまでの時間
 B破堤地点などの想定
 C水害の原因となる洪水の規模の設定
 D被害防止便益の算定に用いる資産などの基礎数量や被害率など
 一方治水施設の整備の費用についても不確実性が避けられない。
 「このように費用対効果分析を行うための基礎的な資料となる治水施設の整備に
よって得られる便益およびその施設整備に要する費用について、過不足無く計上する
ことは、現実的には、極めて困難であり、このことを踏まえた上で治水経済調査を実
施する必要がある。」*22
 筆者が昨年4月、国土交通省関東地方整備局河川部河川計画課にヒヤリングに伺っ
たとき、担当の職員の方はいみじくも「数字の取り方によって結果は違ってきま
す。」との説明をされた。これでは事業者の都合で結果を出せると受け取られても仕
方がない。論文の締め切り前に(2002.1.8)もう一度河川計画課で妥当投資額などに
ついてヒヤリングに伺った。懇切丁寧に説明して頂いたが、説明する方が途中で間違
えるほど複雑な計算であり、わかりにくいことは事実である。

2、マイナスの効果について
 ダムが創り出す災害が実在することも考慮に入れる必要がある。割れ目や節理の粘
土が、ダム湖の水圧で洗い流されて、湖水が漏出するパイピング現象が起きると、ダ
ムの基礎岩盤が一挙に崩壊する。1976年にアメリカのアイダホで起きたティートンダ
ムの決壊事故は、このような基礎岩盤のパイピング現象によるものであった。ダム湖
周辺の地滑りの発生も起こっている。最も大規模なものは、1964年のイタリア・バイ
オントダムの事故である。山ひとつが崩れてダム湖に流入し、その結果湖水が一挙に
あふれて下流を襲い、4000人の死者を出した。高知県の早明浦ダム、鏡ダム、宮城県
の鳴子ダムなどでも地滑りが発生している。ダムによって地震が、誘発されることも
知られている。活断層のあるところにダムを造ると、ダム湖から断層の奥深くまで水
が徐々に浸透し、その水がやがて潤滑剤のように働いて断層を滑りやすくし、直下型
地震を呼び起こすといわれている。又、地震によって堰提が崩壊し、被害がでた例も
報告されている。台湾地震によって石岡ダムが決壊し、貯水機能が失われ、導水トン
ネルが破断し、台中市への給水が不可能になった。日本でも地震による亀裂や破損、
沈下の例は、数多く報告されている。さらに「ダム水害」と言って、洪水調節容量一
杯になった時点で、放流を始めたことにより水害が起こった例*23も報告されてい
る。八ッ場ダムの場合、強酸性水の半分しか中和されていないので、コンクリートの
劣化によるダムの損壊の可能性も考慮する必要がある。又、活火山である浅間山の危
険性も無視できない。これらもマイナスの効果として政策評価に組み入れる必要があ
る。

3、公共事業基本法案とそれに対する批判
 公共事業の抜本改革を公約の柱のひとつに掲げた民主党は、2000年10月、五十嵐慶
喜氏を座長に、環境科学など専門分野の研究者を中心にした「公共事業を国民の手に
取り戻す委員会〜日本の自然を再生させるために」に対し、公共事業のあり方、法整
備、地域振興などについて諮問を行った。この委員会は、同年11月に意見書「緑のダ
ム構想」、中間答申「公共事業を一から見直すために」(12月)、「最終答申〜公共
事業の解体と再構築」(2001年3月)、「最終答申〜ポスト公共事業」(5月)などを
精力的にまとめた。第一章3-イで公共事業の殆どの長期計画は、国会の承認を必要と
せず、閣議で決定されることを考察してきたが、昨年(2001年)5月民主党はこれら
の答申を元に、公共事業の改革に向けた4法案を提出し、現在、継続審議になってい
る。その中のひとつの「公共事業基本法案」には100億円以上の公共事業はその実施
計画を作成し、国会の承認を得ること、再評価にあたっては資料を公開し、広く国民
の声を聞くことなどが盛り込まれている。これに対し、水源開発問題全国連絡会(水
源連)では、個別の公共事業に対する国会承認は、事業推進のお墨付きを与えてしま
うと言う意味で、事業の中止を求めている住民運動に対し、マイナスの役割を果たす
こと、広く国民の意見を聞くという曖昧なことではなく、住民は事業者と徹底した議
論を行える場を求めているのでそのような場を作るべきであること等を主張してい
る。水源連では民主党に対し、「公共事業審査法案」を提案している。その中の「公
共事業審査委員会」は事業者の中に設置し、委員は行政、議会関係者を除く公募した
学識経験者とし、公聴会では見直し請求者と事業者の間で十分な議論を行えるように
するとされている。これらの経過を見ると、法案を提出する前の市民の側の意見調整
も必要だと思われる。

4、まとめ
 八ッ場ダムを実例として政策過程における政策評価について考察してきたが、ダム
を評価する治水経済調査は、経済的に計測困難なものが多いため、算定できるのは便
益の一部であること、その算定についてもいくつかの想定の上に成り立っているた
め、不確実性が避けられないということ、しかもその計算方法は、極めて難解である
ことを理解した。右肩上がりの需要計画時代の調査方法を見直すことなく、大きすぎ
る基本高水流量に合わせて広大な想定氾濫区域をを定め、甚大な氾濫被害額を計算し
ているのでは、厳しい財政状況の中での納税者の理解は得られないだろう。このよう
な疑問は各地で噴出している。費用対効果についても、最初からダムを造るという前
提のもとに計算されているのではないかという疑問に対しても明確な回答はない。こ
の疑問は、ダム事業から巨額な利益を得る土建資本、そして土建資本から多額の政治
献金を得ている政治家と土建会社や関連特殊法人に天下りする水行政に関わるエリー
ト官僚からなる政官業の癒着の構造に対する不信に源を発している。八ッ場ダムの地
元対策、活性化対策、環境調査などを行っている公益法人は、旧建設省からの天下り
がその代表職を握っている場合が多い*24。2001年8月30日にダム談合疑惑に関わる内
部文書が「赤旗」に掲載された。発注が予想される60件のダム事業の本命企業が記載
されている文書で、既に入札が行われた26件の内9割近い的中率であったが、国土交
通省はこの内部文書について調査をしようとはしていない。実効性のある政策評価を
するには、この政官業の癒着を無くすことが、まず第一になされなければならない。
小泉改革が進められてはいるが、族議員と官僚の抵抗勢力はまだまだ大きな力を持っ
ていて改革はなかなか進まない。次に重要なことは、徹底的な情報の公開である。各
地でのダム建設反対運動のせめぎ合いの中で、そして情報公開法が制定されて、よう
やく細かい数字まで公開されるようになったが、まだまだ不十分である。「事業評価
監視委員会」の人選は、事業者側に任されており、会議も非公開である。これらの条
件を整えた上で公募の専門別委員を含め、開かれた場での徹底的な議論が必要であ
る。現在、事業者側と住民側の間には、余りにも大きな認識の違いがある。出された
疑問に答える形でその溝を埋めていくための地道な努力が必要であろう。地権者間、
住民運動の間の立場の違い、考え方の違いを乗り越えて問題解決を目指す知恵と判断
も必要になってくる。政官業の癒着の解消と同時に市民の側の成熟も必要であろう。
 2001年2月20日、長野県の田中康夫知事は、「脱ダム宣言」を発した。「コンク
リートで建設されるダムは、感化し得ぬ負荷を地球環境に与える。・・・100年200年
先の我々の子孫に残す資産としての河川、湖沼の価値を重視したい。・・・日本の背
骨に位置し、数多くの水源を擁する長野県に於いては、できる限りコンクリートのダ
ムは造るべきではない。・・・これは田中県政の基本理念である。『長野モデル』と
して確立し、全国に発信したい。」都道府県知事が、このような形でハッキリとした
脱ダムのメッセージを発したのは、日本で初めてであり、かすかな明るい未来を予感
させる。
 その1年前の2000年4月、鳥取県の片山知事は、治水と利水の両面から中部ダムは必
要がないと判断し、中止を決めた。さらに水没する予定だった地域を対象に、公民館
の建て替えや農地の整備を実施するとともに一戸当たり300万円を上限とする住宅再
建補助や、地区の振興活動交付金などの定住促進策をもった地域振興計画案を住民に
提示した。鳥取県が、全国に先駆けてダム計画中止後の地域の振興と再生に踏み出し
たことは、重要である。
 建設省の諮問機関である「河川審議会」は、同じく2000年12月の総会で「ダムや堤
防だけに頼らず、川はあふれるという前提に立って流域全体で治水対策を講ずるべき
だとする提言をまとめ、建設省に答申した。今、日本は大きな転換期にさしかかって
いる。今まで、自然環境など非金銭的項目、定量困難な効果や、マイナス面まで含め
た政策評価は、殆ど行われてきていない。CVMといわれる手法が注目を集めている
が、それだけで充分というわけでもなく、今、新しい政策評価のあり方が問われてい
る。住民、市民から出される疑問に答え、双方向の地道な議論を行う中で、又、様々
な角度からの具体的な調査を行う中で、今まで評価されてこなかったものの評価指標
を探りあてていくことを模索する必要がある。
 欧米では90年代の初めからダムだけに頼らない治水対策に切り替えている。アメリ
カ、ドイツなどでは、改修済みの河川を再び自然に戻す工事も10年以上前から始まっ
ている。特にアメリカでは、「川の再生」を目指して500を越えるダムを撤去したう
え、グラインスキャニオンダムなど大型ダムも取り壊し、生態系と漁業の回復や観光
振興を図ろうとしている。今まで、ダム建設を促進してきた世界銀行と環境保護団体
などNGOが共同して世界ダム委員会をつくり、ダム事業の検証を行った。以下は、そ
の報告からの抜粋である*25。
@将来の水資源とエネルギー開発のあり方を決める政策を立てるには、以下の事項を
 優先する必要がある。
A市民社会の支持を得る:十分な情報を提供し、透明な決定を行って初めて市民社会
 が受け入れる。
B選択肢を検討する:開発の目的を明確にし、環境、社会面に配慮し、現存の手段を
 有効に活用する。
C現存するダムの問題を直視する:長期にわたる監視と評価を行い、影響緩和手段を
 検討する。
D河川と生活を保全する:流域全体の生態系と住民の生活実態を調査し、保全政策を
 立てる。
E影響の認定と利益の共有:流域住民をはじめ関連施設建設などで影響を受ける住民
 の人権尊重とリスク評価を行い、緩和策や保証には法的拘束力を持たせる。
F政策を遵守する:遵守のためのガイドラインをつくり、外部評価を受け、プロジェ
 クトごとに遵守規定を定め、必要経費を予算化する。不正行為を防止し、遵守に対
 する褒賞制度を作る。
G開発、安定、平和のために河川を共有する:水資源管理政策に流域国間の協力を明
 記し、水資源の恩恵の公正な配分に努める。ある国が、根拠のある異議を唱えたと
 きはダム建設をやめる。対立、紛争は、あらゆる手段を使って解決に努め、協約違
 反の建設には援助を停止する。流域外国とも話し合う。
これが世界的な流れである。

 ここまで考察してきた中で以下の提言を行いたい。
 今まで日本で行われてきた公共事業の政策評価(特に治水について)は、便益の一
部の評価であり、いくつかの想定に基づいた恣意的な部分があり、環境やマイナスの
効果が算定されず、住民の意見も反映されず、情報の公開も不十分であるため、これ
らの点を取り入れて抜本的に見直す必要がある。机上で出された数字に対して現場か
らの徹底した検証も必要であろうし、森林の整備、減反の影響、水のリサイクル、節
水対策、水道料金の負担増、堆砂の問題など他方面からの総合的検討が必要である。
国土交通省の地方整備局の一部の人だけが理解できる難解な一方的なものであっては
ならない。公募委員も含めた第三者機関としての「評価監視委員会」(仮称)を設置
し、その委員会に対し、郵便、faxあるいはメールで誰でもが意見を出せるようにす
る。委員会は公開とし、情報も開示される。特に今まで評価されてこなかった環境の
価値やマイナスの評価についても、CVMなど新たな評価を試みる。これらのことを反
対運動をしている人々も巻き込んで行っていく。キーワードは、参加と公開である。
参加と公開が徹底的に進められれば、政官業の癒着も解消されていくだろう。このよ
うな仕組みを制度として作っていくことが今、必要とされている。


終章 おわりに
 ここまで大型公共事業の政策形成過程における政策評価の役割に関する考察を行っ
てきたわけだが、終わるにあたって“この国の仕組みがおかしい”というのが偽らざ
る感想である。大型公共事業の政策評価の前に、この国の仕組みの政策評価、見直し
をするべきである。行財政改革が進められているが、その一環である中央省庁改革基
本法の中で公共事業の約70%を所管し、大臣官房と13の局、職員5万人、予算10兆円
(ただし財政投融資などを入れると40兆円を超すと言われている)、許認可数2532と
いわれる巨大官庁・国土交通省が誕生した。建設省、運輸省、国土庁、北海道開発庁
が合体してできた組織で、行政改革の簡素、効率といった理念に全く反するものであ
る。この国土交通省が、川辺川ダムの漁業権を、臨時総会で漁業補償案が否決された
後で、強制収容するという前代未聞の強制手続きに入っている。35年間で初めて流域
住民の意見を言う場として住民集会が12月9日に開かれたばかりだと聞いている。そ
の後のニュースでは、「潮谷義子知事は四日の年頭会見で、球磨川流域の環境保全な
どを協議する流域協議会(仮称)を、県と国土交通省が共同事務局となって運営する
ことを明らかにした。昨年十二月に県が主催した同ダム事業の討論会は、今後は国主
体で継続していく方針を示した。協議会の設置は、球磨川流域から八代海までの水
質、漁業資源などの保全や改善に向け、公正で透明性の高い協議をしていくため、潮谷
知事が昨年十二月の県議会で表明、国も賛同した。県、国、流域市町村はじめ漁業者や、
住民、NPO(非営利組織)の代表、学識者らで組織する予定。共同事務局について、
知事は『国が構成メンバーなどを決めるのなら、これまでと変わらない。そうした姿
勢がいろんな疑義を生じさせてきた。県が一緒になって考えていくことが必要』と強
調。協議事項は『国は川辺川ダムを前提とした水質保全を論じるだろうが、県として
はダムにとどまらず幅広い論議の場にしたい』と述べた。今後、国と詰めの作業を急
ぎ、早急に流域協議会を立ち上げる。県は、これに先立ち企画開発部次長を本部長
に、関係部の次長や課長による『球磨川流域施策調整本部』を今月中に発足させる。
県が主催した川辺川ダム問題の討論会は、今後は国主催の対論形式で継続。県は討論
会の日時やテーマ設定などを調整する一方で、県管理のダムなどについて説明する。
知事は、五木、相良両村の振興策を取りまとめる『五木・相良地域振興検討委員会』
を今月中に立ち上げることも明らかにした。」*26
これは新しい未来を感じさせる動きである。
 一方八ッ場ダムは、計画されてから今年で50年になるダムである。今まで述べてき
たから多くは語らないが、一貫してダム建設に反対し、1980年脳出血で倒れ、右半身
機能不全ではあっても私たちが訪ねていくと、いつでも熱い思いを語って下さる豊田
嘉雄さんの言葉をその著作「湖底の蒼窄」より引用したい。このような疑問に真摯に
答えていくことが、今求められているのだと思う。
「八ッ場ダムは、欠陥ダムだ。だからこのダムは造ってはならない。一に酸性を中和
したと言っても、吾妻川はまだ酸性が強く、海によくできる赤潮のようなよどみがで
きる。この水を人間が飲料水として飲めると思うのか。二つに石灰の投入という人工
的な方法による中和には限界があるということだ。しょせん人間は大自然の前には無
力だ。それだけでなく、上流にある嬬恋村では広大な面積に高原キャベツを作ってい
るが、そこで使用する農薬は大変な量だという。それがみんな吾妻川に流れ込んでく
る。汚染された水を飲料用に使って人の生命に影響はないのだろうか。三つ目として
見ればわかるように、吾妻川は流量が少ない川だということだ。大型台風でも来ない
限りダムは満水にならない。私の知る限り、子どもの頃台風の襲来で川は増水した
が、ほかに水が湛えられたことはない。」
 環境アセス法適用第1号になった戸倉ダム建設事業環境影響評価準備書に対して群
馬県知事は、クマタカの保護、河川の生態系、大気環境、人と自然とのふれあいなど
について事業者である水資源公団に対して意見書を提出した。水資源公団が事業者で
ある戸倉ダムに対して意見書を出すだけでなく、自らが事業者である八ッ場ダムにつ
いても是非御再考願いたい。時代が地方から変わりつつあることを信じて論を閉じ
る。


<注>
*1 つい最近まで666兆円といわれていた債務残高が、2002年度の予算で693兆円
 となった。
 <666兆円の詳細>
  国の債務・・・502兆円(国債 344兆円、特別会計の借金等 158兆円)
 地方自治体の債務・・179兆円(地方債129兆円、特別会計からの借り入れ
           公営企業債等 50兆円)
 借金総額(国と地方の重複分を除いて)・・・666兆円(2000年)
                   比較 443兆円(1997年)
*2 公共事業の抜本的見直しに関する3党合意
  1, 計画、既着工事業の抜本的見直し〜時のアセスメント制度を活用し、a)
   採択五年以上経過して、未だに着工していない事業、b)完成予定を20年以上経
   過して、完成に至っていない事業、c)現在、休止(凍結)されている事業、
   d)実施計画調査に着手後10年以上経過して採択される見込みのない事業〜基準
   のどれかに合致する事業は、中止を前提に抜本的に見直す。
  2, 事業評価システムの厳格化と情報公開の徹底〜公共事業の評価システ
   ムを含めた「行政評価法」の策定を目指す。
  3, 公共事業予算の重点化と新たなニーズに対応する社会資本整備の推進
   〜事業に優先順位をつけ、工期の短期化を図る。シェアの固定化の一因と
   なっている「長期計画」のあり方の見直しを検討する。従来のシェア配分の壁
   を越えて情報技術(IT)関連、環境対策、少子高齢化対策、まちづくり・都
   市基盤整備などに重点的に予算配分を行う。情報通信基盤や教育・研究機関施
   設の整備促進が不可欠であり、予算編成過程で「公共事業関係費」の範囲を見
   直し、その予算充実を図る。民間資本主導の社会資本整備(PFI)を有効に
   活用した公共事業の展開の促進に努める。
  4, 地方への補助事業の見直し。
  5, 公共事業の入札の改善、談合の排除。
  6, 地元住民とのコンセンサスの重視〜地域住民とのコンセンサスを得な
   がら行うべきであるが、一方地方議会の決定を覆すことは、民主主義の否定に
   つながりかねないこともあり、これらを総合的に考慮し、そのあり方を慎重に
   検討していく。
  7, 法整備の検討〜公共事業の透明度を高め、国民の信頼を得るために、
   公共事業の目的、使命を明確にするとともに、請負契約の適正化の基本原則、
   契約プロセスの透明化、公正な競争の促進などを内容とする「公共工事請負契
   約適正化法」の制定を検討すべき。
  8, 与党公共事業改革プロジェクトチームの設置。
*3 8月25日の段階で233事業であったが、建設省が34事業を追加、農水省が12事
  業追加して合計281事業となった。
*4 「公共事業と地方分権」加藤一郎 日本経済評論社等を参考にした。
*5 「図解 公共事業の仕組み」五十嵐敬喜、小川明雄 より
*6 文芸春秋1996年11,12月号 1997年1月号「日本国の研究」猪瀬直樹など を参
  考にした。
*7 会計検査研究 創刊号「公共事業の評価システムに関する考察」山本清
*8 「政策評価の現状と課題」政策評価研究会 事務局 通産省政策評価広報課
  p.40,41 表U-2より
*9  「政策評価の現状と課題」政策評価研究会 目鐸社
   「社会アセスメント}三菱総合研究所 東洋経済新報社 などを参考にした
*10 「公共事業をどうするか」五十嵐敬喜、小川明雄 岩波新書P.111より
*11 「会計検査研究」17号「サンセット法の成果と展望」畠山武道 などを参考にした。
*12 「社会アセスメント」三菱総合研究所 東洋経済新報社 p.40,41,42,4344,45
   表1-4より
*13 「自治と政策」山口二郎編 北海道大学図書刊行会
   「環境アセスメントと政策評価」〜北海道の「時のアセスメント」見聞録
   小沢典夫 p.201〜p.250 などを参考にした。
*14 「ダムと日本」 天野礼子 岩波新書
   「ガバナンス」6月号 「生活者起点、成果志向の政策推進システムを」
   「 〃   」12月号 特集 迫られる公共事業改革 などを参考に
*15 「八ッ場ダム建設事業」 平成11年8月 建設省関東地方建設局八ッ場ダム工
   事事務所
*16 「首都圏を支える八ッ場ダム」 平成10年11月 建設省関東地方建設局
*17 「週間金曜日」 2001,3,30 357号「すでに失われた建設意義」嶋津暉行より
*18 環境アセス法適用第一番の「戸倉ダム」建設事業環境影響評価準備書より
*19 「あなたは八ッ場ダムの水を飲めますか?」久慈力 マルジュ社 P.171より
*20 事業者は、生態調査を野鳥の会などの「特定の自然保護団体」に委託する
  ことが多い。その「特定の自然保護団体」は、建設を前提にしての調査をすると
  いう事実が判明している。事実川古ダムの調査では、「野鳥の会」が猛禽類の調
  査をした結果、問題がないとの結論を出したが、地元の「新治村の自然を守る
  会」と「日本自然保護協会」が調査した結果、1組のイヌワシ、2組のクマタカペ
  アの繁殖が確認され、「このダム計画は、新治村唯一のイヌワシ繁殖地を消失さ
  せる効果を持つ。」との報告を行った。  (「イヌワシ、クマタカの子育てが続く
  自然を守る」〜群馬県新治村・三  国山系大型猛禽類生息状況報告〜日本自然保護
  協会報告書 第86号より)
*21 吉野川第十堰や辰巳ダムではデータの誤り、想定氾濫区域の誤謬が指摘され、
  諫早湾自然の権利訴訟では、費用便益分析、災害防止効果などについて争われている。
*22 治水経済調査マニュアル(案)平成12年5月 建設省 河川局より
*23 「長野の脱ダムなぜ?」保屋野初子 築地書館 P.49より
*24 「あなたは八ッ場ダムの水を飲めますか?」 P.90以下に天下り、癒着の
  実態が述べられている。
*25 「水源連だより」 No.16 水源開発問題全国連絡会より引用
*26 熊本日日新聞 02/01/05 より引用

<注>以外の参考文献
書籍
「自治と政策」山口次郎編 北海道大学図書刊行会
「地方分権下における公共事業と評価手続き」 畠山武道  p.117〜p.200
「水問題言論」嶋津暉行 北斗社
「アメリカはなぜダム開発をやめたのか」公共事業をチェックする議員の会 築地書館
「公共事業を考える」諏訪雄三 新評論
「公共事業は止まるか」五十嵐敬喜、小川明雄 岩波新書
「市民版 行政改革」    〃   〃
「公共事業と環境の価値」栗山浩一 築地書館
「八ッ場ダムの闘い」萩原好夫 岩波書店
「湖底の蒼窄」豊田嘉雄 関東建設弘済会雑誌
「世界」1998年11月 「公共事業の見直しはどこまで進んだか」五十嵐慶喜
2000年4月「土建国家脱却のためのプログラム」五十嵐慶喜・小川明雄「都市問題」
89巻4号 特集 公共事業〜そのあり方と評価のシステム
「自治研究」74巻10号 「公共事業評価の法システム」阿部泰隆
  〃   76巻 2号「政策評価の概念・類型・課題(上)」古川俊一
  〃   〃 4号「      〃      (下)」   〃
「自治研究」76巻12号「政策評価の導入について」今村都南雄、古川俊一、
                        (司会)河中二講
「法律時報」66巻11号 「公共事業と行政手続き」畠山武道
      69巻11号 「公共事業と環境保護」山田洋

ビデオ
「八ッ場ダムの記録」制作 八ッ場ダム対策期成同盟 構成・撮影 竹田博栄



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