【 アルコール依存症の初期介入 】   赤城高原ホスピタル

(改訂 99/04/20)


 上毛新聞は、群馬県下では、購読率ナンバー1の地方新聞です。1999年1月7日づけ読者のページ(15面)、コラム「視点:オピニオン21」に、赤城高原ホスピタル院長の「アルコール依存症の初期介入」に関する論説が掲載されました。

 タイトルは、「アルコール依存症」。サブタイトルが「初期介入の成功率8割」。以下がその本文です。

 アルコール依存症の専門病院を赤城村に開院して8年になるが、毎年、年明けには、治療の相談と入院依頼がどっと増える。年末年始を通じて、酒を飲む機会が増えるためだけではない。

 普段、すれ違いが多かったり、遠くに離れている家族や親類、縁者が、この季節には、会ってゆっくり話す機会が増えて、懸案の問題解決に向けて、協力関係が強化されることも関係している。専門家の立場からは、ここで、ほんの少しの知識と技術があれば、この善意と協力とがもっと生かされるのにと思うことが多い。

 アルコール依存症は別名、「否認の病気」とも言われ、本人は、「病気であること」や「治療の必要性」を認めたがらない。また、本人と同居家族との間では、飲酒問題にからんだ悪循環が成立しており、当事者だけでは解決の糸口をつかむのが難しい。そのため、この種の疾患では、本人を治療につなぐために、第三者の介入が必要になることが多い。

 治療のスタート時に行われるこの介入を、「初期介入」という。初期介入の善し悪しがその後の治療経過にも直接影響する。本人を無理矢理力づくで専門病院に連れてきても、治療につながらない事が多いし、仮につながっても、あまり予後が良くないのはこのためだ。

 初期介入で考慮すべき6項目をここに挙げておく。
@本人のアルコール問題をよく知っている人、本人にとって影響力がある人など、数人で協力をする Aタイミングが重要だ。酒の席、本人が酔っている時や、飲み始める直前はまずい。酒に絡んだ不始末などで、本人が弱気になって、少しでも周りの意見を聞く気になっている時が最適だ B飲酒が原因で起こったトラブルの具体的事例を挙げて、その時の周りの人の正直な気持ちを伝える。ただし、本人を非難しない C問題の中心が飲酒にあること、アルコール依存症が道徳的問題ではなくて病気であること、酒が本人の良い性格や高い能力を帳消しにしている点を強調し、決して本人の人格を非難しない D節酒や断酒の約束をさせることはほとんど無意味。専門治療につなぐことが重要だ E強制するのでなく、治療の必要性を本人への愛情とともに伝えること。

 介入チームのメンバーは、最低限、アルコール依存症からの回復が信じられる事が必要だ。そのためには自助グループなどで多くの回復者に会うことが重要だ。アルコール依存症は、18歳以上の男女の3.6%に見られ、治療しなければ、ほぼ確実に早死にする。本症患者の平均寿命は52歳である。本症は、本人の心と体をむしばむだけでなく、子供に多大な悪影響を及ぼす。

 専門的治療によって回復可能だが、問題は治療につなぐことが難しい事である。近年、介入技法が開発、洗練されてきて、この難点もある程度は克服された。専門家の指導のもとで、良く準備された初期介入の成功率は8割程度とされている。

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AKH  文責:竹村道夫(1999/01)


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