【病的賭博 (Pathological Gambling ) 】  赤城高原ホスピタル

(改訂 11/10/17)


[ 研究状況 ]

 病的賭博(pathological gambling)は、DSM-III(1980)で初めて精神障害の中に加えられました。かなり高い罹病率、患者の人生と周囲の人々、社会に及ぼす深刻な影響にもかかわらず、この疾患の研究は、他の精神疾患と比べて明らかに遅れています。

 アメリカでは、法的規制の緩和やパソコンやインターネットなど情報伝達手段の進歩と普及に伴って、1990年前後から病的賭博者が増加していると言われ、社会経済政策上からもこの疾患が注目されています。このような状況を背景に、主としてアメリカで病的賭博の研究が進んできていますが、米国以外での取り組みはかなり遅れています。現在この障害に関して入手できるデータは米国以外ではカナダ、オーストラリアなど一部の国の研究に限定されています。


[ 疾患概念 ]

 ICD-10(1992)では、習慣および衝動の障害の中に、放火癖、窃盗癖、抜毛症などとともに病的賭博が含まれています。

 ICD-10による診断ガイドラインは、病的賭博の本質的特徴として、(a)持続的に繰り返される賭博、(b)貧困になる、家族関係が損なわれる、そして個人的生活が崩壊するなどの、不利な社会的結果を招くにもかかわらず、持続し、しばしば増強する、という2つの指標をあげています。

 DSM-IV(1994)でも、病的賭博は、疾患分類上では、衝動制御の障害の中に、間歇性爆発性障害、窃盗癖、放火癖、抜毛癖などとともに含まれています。

 ICD-10、DSM-IVによる疾患分類に関しては、病的賭博を、衝動制御の障害というより、依存、あるいは嗜癖性疾患とみなすべきではないかという根強い反対意見があります。


[ 病的賭博 、問題賭博、強迫的ギャンブル癖、ギャンブル依存症 ]

 ギャンブラー本人および周囲の人々にとって有害な行為であるのに、持続的で反復的な不適応賭博行為が続いている場合にこれを「病的賭博」といいます。成人人口の1−3%が病的賭博者といわれています。

 病的賭博は、社交的賭博(ソーシャル・ギャンブリング)や職業的賭博とは区別されます。病的賭博と社交的賭博の中間的な概念として、“problem gambling,”(問題賭博)があります。

 欧米の研究者たちは、病的賭博という診断基準を満たさないが、本人や周囲の人に悪影響をおよぼす場合にこの用語を使います。問題賭博に関しては、現在でも概念上および取り扱い上の議論が続いています。問題賭博に相当する語としても、研究者によって、 “at-risk gambling,” “potential pathological gambling,” “probable pathological gambling,” “disordered gambling”など、様々な用語が使われています。

 現在、日本のマスコミでは、この疾患の患者たちの名称として、ギャンブル依存症患者、病的賭博者、パチンコ依存症患者などの用語を使っています。後述する自助グループ、GAでは、強迫的ギャンブラー(compulsive gambler)を使っています。 病的賭博と社交的賭博の中間層を「強迫的ギャンブル癖」といい、病的賭博にこの中間層を含めて、「ギャンブル依存症」ということがあります。


[ 罹病率 ]


 アメリカ一般市民における病的賭博の罹患率をアルコール依存症、薬物依存症と比較したところ、年間罹患率では0.9%(アルコール依存症7.2%、薬物依存症2.8%)、生涯罹患率は1.5%(アルコール依存症14.1%、薬物依存症7.5%)でした(Committee on the Social and Economic Impact of Pathological Gambling, National Research Council: Pathological Gambling, 1999)。


 病的賭博に陥りやすいグループとして、若年者、マイノリティーグループ(アフリカンアメリカン、ヒスパニック、ネイティブアメリカン)、低学歴者、低所得者、失業者などが指摘されています。

 18-25歳の思春期、青年期男女では、罹病率は6-15%もあります。

 問題賭博、病的賭博とも、全体としては男性が女性より多く、この傾向は若年層で顕著です。一方、中高年層では、男女比はほぼ同数です。女性では30、40代から中年期に賭博を始め、急速に病的賭博にまで進行するグループが存在することが注目されています(Eisen SAら, 2001)。

 賭博の種類に関しては、文化的な背景による違いが大きいが、日本では、賭博問題で治療を受けている人の約半数がパチンコのトラブルを抱えているという特徴があります。


[ 病的賭博 とアルコール症 ]

 アルコール依存症の人が飲酒欲求をコントロールできないように、病的賭博者は、ギャンブル行為への衝動、欲望、誘惑に抵抗することができません。アルコール依存症と同様に病的賭博も嗜癖性の病気です。抑制不能な強迫的行為、慢性進行性の病気、問題の否認、家族を巻込むという点では、アルコール症と同じです。実際にアルコール症と病的賭博の両方の問題を持っている患者さんは少なくありません。


[ 行動プロセスへの嗜癖 ]

 アルコールと薬物、食物摂取への嗜癖をまとめて「物質嗜癖」と呼び、病的賭博、借金癖、買物依存症、ワーカホリック(仕事中毒)などは「行動プロセス」への嗜癖、さらに恋愛依存、セックス依存、暴力的人間関係、共依存などは「人間関係」への嗜癖と呼ばれます。


[ 男女比、賭博の種類 ]  

 病的賭博は典型的には、男性では青年期早期に、女性では中年期以降に始まります。病的賭博の約3分の1は女性ですが、女性の病的賭博者の方が早く(時には2、3年で)援助を求めるのに対し、男性では援助を求めるまでにかかる年月が長いといわれています。(編者注:女性の賭博者への偏見が強いために表面化しにくいというのは間違いかも?)

 日本では、ギャンブル問題で治療を受けている人の約半数がパチンコ依存、次いで競馬やポーカーゲームの依存症です。


[病因]

他の精神障害と同様に、遺伝的要因、社会的要因が関わっていると考えられますが、この分野における研究はあまりありません。一卵性双生児研究(Eisen SAら, 2001.)から、病的賭博は、反社会的人格障害と共通の脆弱性を持つことが示唆されています。


[ 病的賭博者に見られやすい性格傾向 ]

 自信過剰、迷信、権力欲、「金がすべて」という信念、競争心旺盛、飽き易い、仕事中毒と問題の否認などがよくみられます。


[ 臨床的特徴 ]

 病的賭博の臨床場面では、物質依存症者と同じような、渇望(craving)、耐性(tolerance)、離脱症状(withdrawal syndrome)がしばしばみられ、また、アルコール依存症者の「連続飲酒発作」に相当するような、数日間、食事も睡眠もほとんどせずに、賭博をやり続ける行動も時に見られます。

 男性病的賭博者の一部では、賭博の行為中にコカインや覚せい系薬剤使用時と同じようなハイな気分になることが報告されています。

 女性患者では、賭博行為によって興奮を求めるというより、自分を麻痺させ、茫然とさせるような時間を求めていると思われる例が少なくありません。

 賭博行為や関連した行動の極期において、記憶喪失や、トランス、解離状態が多くの病的賭博者で報告されています。

 病的賭博者に見られる認知障害としては、否認、固定観念、迷信、魔術的思考、万能感、げんかつぎなどがあります。


[ 病的賭博に関連した精神障害、心身症、身体疾患 ]

 他の精神障害との合併に関しては、物質使用障害、病的賭博以外の衝動制御の障害、感情障害、反社会的人格障害、ADHD(注意欠陥/多動性障害)などの頻度が高いことが報告されています。病的賭博とそのほかの精神障害の合併者では、賭博はほかの精神疾患を悪化させます。

 欧米の調査では、病的賭博者の約半数がアルコールか薬物の乱用者でした。この傾向は、思春期の病的賭博者でより顕著です。10代の賭博者では、飲酒率、喫煙率、マリファナ使用率が非賭博者より高率でした。10代の物質乱用者の1ないし3割が問題賭博者でした。

 ストレス関連心身症(高血圧、消化性潰瘍、片頭痛など)を合併することがあります。また、気分障害、注意欠陥/多動性障害(AD/HD)、物質使用障害、反社会性人格障害、自己愛性人格障害、境界性人格障害などを合併しやすいことが知られています。

 問題賭博者の気分障害合併率は、32-76%という高率です。


[ 病的賭博関連問題 ]

長期に病的賭博行為が続くと、経済的危機、信用の失墜、対人関係の悪化、家庭崩壊、多重債務、破産、失業、自殺行為、犯罪などのトラブルに巻込まれます。援助を求めてきた病的賭博者の約20%が自殺を試み、3分の2が賭博資金を得るために犯罪行為をしたという報告があります。


[ 診断と診断基準 ]

 現在では、DSM-IV(1994)の診断基準が、臨床家にも研究者にも広く受け入れられています。病的賭博は、疾患分類上では衝動制御の障害の中に含まれたのに、診断基準では、物質依存の基準と極めて類似した表現が採用されていることにご注目ください。

 診断には、3つの重要な要素があります。@コントロールの喪失、Aギャンブルの頻度、掛け金、時間が増え、そのために必要な資金も増えること、Bギャンブルによって失うものが増えるのに止められないことです。

 DSM-IVの病的賭博に関しては、多数の問題賭博者がこの診断基準を満たさないことが指摘されています。診断基準の構成概念妥当性(construct validity)に関しても現在、再検討がされつつあります。

 アメリカを初め、英語圏でのスクリーニングや疫学的調査には、South Oaks Gambling Screen (SOGS) (Stinchfield R. 2002.)やその改訂版が使われることが多いようです。

South Oaks Gambling Screenのチェックはここでできます。ただし、英語で単位もドルです。
http://www.addictionrecov.org/southoak.aspx

GA(ギャンブラーズ・アノニマス)による20項目の簡易版スクリーニングテスト。
http://www.addictionrecov.org/twentyqs.aspx


[ 病的賭博 の治療 ]

 一般的な支持的精神療法や精神力動学的精神療法では効果が大した効果はみられません。物質乱用、依存症など、他の嗜癖性疾患治療に用いられる(嗜癖モデル)アプローチ、つまり、家族(初期)介入、本人と家族への教育的なプログラム、集団療法、自助グループの併用が有効です。

 自助グループというのは、同じ悩みや病気を持つ人々の相互援助のグループです。ギャンブル問題に関しては、1989年、東京で、GA(ギャンブラーズ・アノニマス)が誕生し、活動中です。オープンミーティングとクローズドミーティングがあり、オープンミーティングでは、ご家族や友人も出席できます。ほかに、家族と友人のためのミーティングもあり、これはGam-Anon (ギャマノン)といいます。問い合わせは、GAが 〒242―0017 大和市大和東3−14−6KNハウス101 GA日本インフォメーションセンター FAX:046-263-3781、ギャマノンが、03-3329-0122 (AKK)です。

 実際の治療場面では、賭博に必要な資金援助をする人がいる限りは、本人の治療動機付けができないので、家族に対するカウンセリングが必須です。本人が治療につながる前から、家族相談、家族への教育、家族療法、初期介入 などが必要になります。

認知(行動)療法(Eisen SAら, 2001)は一定の効果が確かめられています。

薬物療法は、まだ研究初期段階ですが、naltrexone に関しては、二重盲検法による治験で、有効であったという報告(Ladouceur Rら, 2001)があります。

自助グループに関しては、アメリカで始まったG.A.(Gamblers Anonymous)が日本でも活動しており、病的賭博者の家族と友人のためには、ギャマノン(Gam-Anon)という自助グループがあります。



[ 文献 ]

Committee on the Social and Economic Impact of Pathological Gambling, National Research Council: Pathological Gambling: A Critical Review, P63-106, The national Academies Press, Washington, DC, 1999.

Eisen SA, et al.: The genetics of pathological gambling. Semin Clin Neuropsychiatry 6:195-204, 2001.

Kim SW, et al.: Double-blind naltrexone and placebo comparison study in the treatment of pathological gambling. Biol Psychiatry 49:914-921, 2001.  

Ladouceur R, et al.: Cognitive treatment of pathological gambling. J Nerv Ment Dis 189:774-780, 2001.

Petry NM, Armentano C.: Prevalence, assessment, and treatment of pathological gambling: a review. Psychiatr Serv 50:1021-1027, 1999.

Petry NM.: A comparison of young, middle-aged, and older adult treatment-seeking pathological gamblers. Gerontologist 42:92-99, 2002.

Stinchfield R.: Reliability, validity, and classification accuracy of the South Oaks Gambling Screen (SOGS). Addict Behav, 27:1-19, 2002.

Task Force on DSM-IV: The American Psychiatric Association: DSM-IV 精神疾患の診断・統計マニュアルP611-623, 医学書院, 1996.

WHO: ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン p219-222, 医学書院, 1993.



[ 関連問題のページ ]

 病的賭博、家族のメッセージ


[ リンク ]  

GA日本インフォメーションセンター<JIC>ホームページ(11/10/17確認)
日本のGAの公式HPです。 GAとは?、Q&A、ミーティングとは、全国の会場、スケジュール、お知らせ、書籍、お問い合わせなどがある。

ギャンブル依存,強迫的ギャンブラーの家族の集まり ギャマノン日本(09/04/14確認)

ワンデーポート (強迫的ギャンブル回復施設)(04/06/30確認)
ギャンブル依存症者のためのリハビリ施設。ミーティングを主体として自助グループへの案内やセミナー開催などの活動をしています。掲示板などがあります。

ヌジュミ・女性のギャンブル依存症・回復施設・Nujyumi・ぬじゅみ (11/01/19確認)
女性専用ギャンブル依存症者のリハビリ・テーションセンター(神奈川県横浜市保土ヶ谷区)

「雨宿り」治療が必要な病気「ギャンブル依存症」(04/06/30確認)
ギャンブル依存症からの回復者、ニットさんのHP。

join in the laughter 〜一緒に笑おうよ〜(04/06/30確認)  パチンコ依存症家族の体験的知識と情報。HP管理人、お銀さんの前向き姿勢を見習って欲しい。



[ お勧めの参考書 ]

 「平成パチンコ症候群」(岩崎正人医師、集英社発行、1998年6月、1,400円+税)  長く嗜癖問題の医療にかかわってこられた精神科医、岩崎氏の著書です。一般向けですが、しかしきちんとした内容の本です。パチンコだけでなく病的賭博全般について書いてあります。

 「どこから病気? どんな病気? ギャンブル依存症」 <ASK選書4; アスク・ヒューマン・ケア発行 : TEL03-3429-2551; 定価400円+税>安くて薄くて読みやすい。借金をどうするか? どこに行けば仲間に会えるか? 家族へのアドバイス? など役立つ情報満載。   2001年2月25日発行。[TOP]
 


[ 病的賭博が薬物によって誘発される!] (この項目は、やや専門的です。05/08/22追加)

 近年、脳内神経伝達物質に影響を与える薬剤によって病的賭博が出現することが注目されています。

 パーキンソン病患者などには、ドパミンレセプターを直接刺激するドパミンアゴニストが治療に用いられています。アゴニストというのは、レセプターに働いて神経伝達物質やホルモンなどと同様の機能を示す作動薬のことです。最近、ドパミンアゴニストによって治療中のパーキンソン病患者に、病的賭博が出現する傾向があるという報告が続いています。

 Mayo ClinicのM. Leann Doddらは、病的賭博を呈したパーキンソン病患者11名を報告しています。たとえば、過去5年間で1度しかギャンブルをしたことがない53歳女性(registered nurse)患者は、治療薬、pramipexole(ビ・シフロール R)を使用後、強い賭博衝動に駆られ、カジノに週1回通いだしました。pramipexole を漸減中止したところ、賭博衝動はすぐに消失しました(11名中のNo.1の患者)。

 上記、11名の臨床的特徴を検討してみると,全例でドパミンアゴニストを内服していました。さらに11名中7名では,病的賭博はドパミンアゴニストを開始、もしくは増量後3ヵ月以内に出現していました。ドパミンアゴニスト使用後、すぐに発症しなかった残りの4名でも、ドパミンアゴニストを中止したら病的賭博は消失しました。

 以上の結果はドパミンアゴニストが可逆性の病的賭博の原因となる可能性を示唆しています。とくにpramipexoleはD3受容体への刺激を介して病的賭博を惹起している可能性が疑われています。


文献
M. Leann Dodd, MD et al: Pathological Gambling Caused by Drugs Used to Treat Parkinson Disease. Arch Neurol 62; 1-5, 2005
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AKH 文責:竹村道夫(2000/1) 


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