【 読書感想文、3 】   赤城高原ホスピタル

(改訂: 04/09/22)


はじめに  入院患者、KMさんの読書感想文シリーズです。

       [読書感想文、1] [読書感想文、2]


プロローグ
  
「何か私が読めるような本はありませんか?」 ある日の回診のとき私はこのように主治医に尋ねました。出不精の私は毎日時間を持て余していたからです。さっそく主治医から本が届きました。すべてアダルト・チルドレンに関連する本です。はじめは2冊、2回目は3冊、そして最後の3回目はなんといっぺんに8冊!!!おまけに「感想文を書きなさい。」という宿題がつきました。この拙文はその13冊の中の5冊についてのごく簡単な感想文です。



第一章 『アダルト・チルドレン 癒しのワークブック 本当の自分を取りもどす16の方法」  西尾和美著  学陽書房 1998
   

 院内のエモーションズ・ミーティングで使用している『今日1日のアファメーション 自分を愛する365日』を書かれた西尾和美氏の著作です。練習帳形式で、回復・改善のための作業に自分一人でも段階を追って取り組めるようになっています。きちんと各ワークに取り組んでゆくとかなり時間とエネルギーを使いそうなので、今回は通読するにとどめました。
 《全体的な印象》 この『ワークブック』は文章が簡潔で作業ごとの章立てが細かいので、要点をはっきりとつかむことができました。それに比べると同著者の『アダルト・チルドレンと癒し 本当の自分を取りもどす』は、解説が丁寧で読みやすかったのですが、その分どんどん読み飛ばしてしまい、盛り沢山の内容が印象に残りにくいように思いました。
 《その他》 巻頭で「もしあなたに強い鬱やその他の身体的症状があるなら、このワークよりもそちらを優先して解決するように」と勧めている点に読者への配慮を感じました。
 新しい人間関係を作るための方法(自分のマイナスの感情の処理の仕方など)や身に着けるべき健全なコミュニケーションの技術(相手も自分も尊敬する立場で話すためのスキルや注意点)を述べる(STEP13)にとどまらず、アダルト・チルドレンが実人生で学習できなかった「健全な人間関係」を結び、「正気の生活」をするにはいったいどんな人間になったらいいのかも具体的に記してある(STEP16)ので、今後の自分の生き方の指標になりました。さらに現在の自分の態度や行動がどのくらい進歩したいかどうかをチェックし、将来の目標を設定するところまで導いてくれているので、プログラムに従うことに対して安心感を覚えました。
 STEP3の「機能不全の家族のチェックリスト」があまりに私の家族に当てはまるので、悲しいのを通り越して呆れてしまいました。
 回復すると「自分を攻撃する相手を思いやり、許す段階にまで到達できる」となっていますが、私は自分が回復してもそれほど寛容になれないのではないかと今は思います。
 最後に、一般に使われる「インナー・チャイルド」という概念は、自分の内側に自分がもう一人いるような感じを受けるので私には少し受け入れがたく、『「アダルト・チルドレン」完全理解』で信田さよ子氏が言われている「インナー・マザー」のほうが理解しやすかったです。


第二章 『アダルト・チルドレン アルコール問題家族で育った子供たち』    ジャネット・G.・ウォイテッツ著 斉藤学監訳  金剛出版 1997

健全な人間関係について、またアダルト・チルドレンのとりやすい行動や思考のパターンについて知識を得ることができました。また、私の人格を変えられるのは私以外にいないということ、相手の思考、行動、感情を自分の思いどおりに変えることはできないということ、そして現在の私の困難は私の問題なのだということを理解・認識させてくれました。


第三章 『アダルトチルドレン・シンドローム 自己発見と回復のためのステップ』 W・クリッツバーグ著 斉藤学監訳  金剛出版 1998

著者の提唱するプログラムFIS(家族統合法)は実際どのくらい有効なのでしょうか?FISの中の「自己肯定訓練(アファメーション)(第18章)ぐらいは自分でもすぐに実践できそうです。


第四章 『ACブルース』 小林哲夫著  高知新聞社 1993

《全体的な印象》 アルコール依存症からの回復者の体験記です。手記・体験記の類は著者の思い入れは強いけれど、文章が硬くて読みにくいのではないか?という私の先入観を裏切り、著者の人間性を感じさせるような優しい文体で、すらすらと一気に読むことができました。高知弁の会話体も暖かく心地よかったです。奥付で著者には小説の著作がすでに数冊あると知って、なるほどと納得しました。
《その他》 著者は当時のテレビアニメーション『巨人の星』を単に野球少年のスポ−ツ根性物語ではなく、「挫折感、劣等感からどうしても立ち直れない父親星一徹を支えるために一人息子の飛雄馬が死に物狂いで頑張る物語」として捉えています。その視点の中に「自分もアルコール依存症のせいで一人息子を気づかぬうちにアダルト・チルドレンにしてしまい、本来の幸福な幼児期・少年期を奪ってしまった」という父親としての後悔の念が感じられ、著者の切ない思いが伝わってきました。アルコールを一切やめても自分はまだドライドランカー で飲んでいたときの状態と本質は何も変わっていないことにも気づきます。
著者の息子へのこの思いは他の断酒会員の子供たちへの、さらには次世代の若者たちへの関心・気遣いとなっていきます。頑張りすぎ、気配りのし過ぎの子供たちが成長し、やがて社会へ出ると自らの生きづらさの問題に直面するという事実に思い当たります。そこで著者は息子の幼児期・少年期を遅ればせながら真剣に再現しようと努力します。この著者の一生懸命な様子に私はいつしか自分の父親の姿を重ねていました。私の父は数年前に他界しましたが、アルコール依存症の気がありました。それで「私の父も私が大人になってからでもこんな風に私に接してくれたらよかったのに。」と思い、私も著者の息子さんと一緒に父親によって自分の喪失を埋めてもらっているような気持ちで読み進みました。おかげで自分の満たされなかったところを追体験(擬似体験)できました。とても慰められたので、著者にお礼の手紙を書きたいような気持ちです。


第五章 『アダルト・チルドレン』  西山明著  三五館 1995

 著者の西山氏は、いじめや非行問題、若者の現場など数多くのルポを手がけているジャーナリスト。この本は4人の女性への数年間にわたるインタビュー記録をまとめたものです。それぞれの女性が語る実話の生の迫力にも圧倒されましたが、私には特に第五章「アダルト・チルドレン あるサイコロジスト(信田さよ子氏)との対談」の中の、現代の同心円的な社会構造における、国家対家族の図式の解明が大変分かりやすく、面白かったし、なるほどと納得できました。アダルト・チルドレンが生まれるにいたった背景に管理(国家)対非管理(家族)の戦いがあるというのです。全体を通して人間の内奥を見つめる視点が真摯で、著者の優しい人柄を感じさせました。


エピローグ

 これらの本を読んだことで私は自分の育った家庭が機能不全であって、自分自身がアダルト・チルドレンであることをはっきりと認識しました。自分ではずっと自らの意思で生きていると思っていましたし、親の過干渉に反発していたつもりでしたが、実際は自分を無くしていました。ちょうど孫悟空がお釈迦様の手のひらで暴れているだけで、そこから抜け出せないでいたようなものです。子供のころから友人を作りにくかったのも家庭の様子を他人には打ち明けられなかったからです。親の言うままの「いい子」でいたせいで私は自分を主張することをやめていました。いつも周りを優先し、自分のことは後回し。自分がどうしたいかと聞かれるのが一番苦手でした。そのため対等で、健全な人間関係を結ぶことができず、必要以上に人に遠慮し、積極的なかかわりを避けてきました。
 今現在は親から離れ、自分を見つめなおしていますが、また親に会えばその影響に振り回されてしまうのだろうと思います。これからをどう生きるかが私の人生の転換点です。(04/09/22、KMさん)
[TOPへ]


文章の一部は、転載時に要旨を変えない範囲内で書き直しました。[TOPへ]



ご連絡はこちらへどうぞ ⇒ address
または、昼間の時間帯に、当院PSW(精神科ソーシャルワーカー)にお電話してください ⇒ TEL:0279-56-8148

AKH 文責:竹村道夫(初版:04/09/22)


[トップページ]  [サイトマップ]