施設長の独り言
第32話 年金保険料は社会保険方式か税方式か
年金制度改革で基礎年金部分を現行どおり社会保険方式にするか、または税方式にするかで議論が沸騰している。今年1月に日経新聞が税方式を、2月に朝日新聞が社会保険方式を、4月には読売新聞が提言した。5月には、政府は、社会保障国民会議雇用・年金分科会で税方式にした場合の財政試算を公表した。
この議論が出てきた背景には、保険料未納者と未加入者が364万人、保険料免除者506万人の計869万人もおり、07年度の国民年金納付率は64%前後と政府目標の80%には遙かに及ばず、国民皆年金は「絵に書いた餅」になりかねないことがある。高齢化の進展に伴い受給者はますます多くなるのに、支える側はどんどん減っていく現実。更に輪をかける社会保険庁の杜撰さや怠慢の数々に、国民の年金制度への信頼性は低下の一方である。
国民年金保険料は今年4月から月額14,410円で毎年少しずつ2017年まで上昇していく仕組みになっている。受給権は25年払い続けなければ生じない仕組みなのでこの間の負担は思った以上に大きい。消費税より定額保険料の方が逆進的と言われる所以である。厚生年金加入者は労使折半でかつ給与天引きなので、この年金保険料を毎月払う負担感を感じることが難しい。私事で恐縮だが自分の子どもの保険料を毎月払っているが、1ヶ月があっという間にやってくる。そもそも国民年金は、国民皆年金を達成するために農家や自営業者など厚生年金や共済年金に加入できない国民のために創設された制度である。農家や自営業者は年金を老後のあてにする必要がなかった。ところが、昨今は、フリーター、パート労働者や派遣労働者などの非正規労働者、更には厚生年金に未加入の会社(これは法律違反)の会社員も加入し、国民年金を老後の糧に期待するあるいは期待せざるを得ない労働者達が多く存在している。これら非正規労働者は保険料を滞納あるいは未加入する割合が高い。これでは創設時の国民年金と性格が異なり、何らかの制度変更をしなければ年金制度が維持できないことは自明であろう。
高齢者と向き合っている現場からの発言をしたいと思う。当会が運営する特別養護老人ホームの利用者負担金は平均1ヶ月5万円、ケアハウスは平均6万円弱である(利用料参照)。この金額ならば、国民年金満額受給者でも利用することができる。しかし、多くの利用者は満額(6.6万円)の年金を受給していない。納付期間が短かったために月額4万円程度なので家族等の援助を必要としている。また最近開設した特別養護老人ホームは個室ユニット型の場合は利用料は12万円程に跳ね上がり、とても国民年金受給者では利用することが出来ない。
在宅で介護を受けている高齢者達も、年金は国民年金受給者が多く月額4万円程度で十分な在宅サービスを受けることは難しい。当施設のケアマネージャーはお金の問題を横目でにらみながらケアプランを作るので難しい点が多々生じてしまう。お金の問題が片づけば、在宅生活の継続はぐっと楽になる。
40年という長い期間保険料を休むことなく払い続ける事に無理があると言わざるを得ない。税方式は老後の生活を支える、最後のセーフテイーネットという点では多いに評価できると思う。08年1月22日付日経新聞に因れば、2005年時点で生活保護を受けている55万6千人の高齢者(65歳以上)のうち52.9%の29万4千人が無年金者で、07年度の国と地方の生活保護予算は2兆6千億円であるという。また、無年金の高齢者は今後118万人まで増えるという。この数字から推測すると今後118/55.6×26000=5兆5千億円もの税金が投入されることになる。すでに現行国民年金制度上では、一部社会保険方式が崩れ実質税方式が採用されていることになる。
364万人もの滞納や未納問題あるいは専業主婦など第3号被保険者が扶養されているだけの理由で保険料が免除されているという働く女性達からの批判も解決する。ただ、老後の生活を国内居住条件だけで無条件に保証すると、個人の勤労意欲を削ぎ、企業の雇用努力を削ぎ、政府の就業・雇用支援政策を削ぐという問題が生じる。また税方式になると企業の負担が3.7兆円軽減され、このお金をどうするかというのも大きな問題である。
最大の問題は、財源をどうするかということである。さきの社会保障国民会議では、消費税を充当する4つの試算をまとめている。この中でケースBでは、消費税は2025年で3.5%、2050年でも6%と試算している。決して負担するのに無理な数字ではないと思う。他にも財源はある。例えば道路財源を今後10年間で59兆円も使うという案があるが、本当に道路が必要なのか。命や生活の方が大事だと思うが、いかがか。
いずれにしろ社会保険方式か、税方式か決めなければならない時期がやってきていると思う。ここは、政党が政策案を出しそれで総選挙を行い国民の信を問うしかないだろう。
平成20年6月30日 小林 直行
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