中3道徳学習指導案

T 主題名 奉仕の気持ち(内容項目4−(4):奉仕)

  資料名 「加山さんの願い」(読み物資料とその利用「主として集団や社会とのかかわりに関すること」文部省)

U 考 察

  1. 主題設定の理由
  1. 学習指導要領における位置

 この主題は、学習指導要領における第3章「道徳」、第2の「内容」の4「主として集団や社会とのかかわりに関すること」の(4)「勤労の尊さを理解するとともに、社会への奉仕の気持ちを深め、進んで公共の福祉と社会の発展のために尽くすように努める」ことを指導内容として設定したものである。

  1. ねらいとする価値

 近年、「ボランティア活動」という言葉を耳にする機会が多くなった。身近なお年寄りの世話から国際的な救援活動まで、多様であるが、その基盤は社会への奉仕の気持ちである。このことは、勤労とともに社会生活を支える根本の条件であるといえる。
 しかし、中学生の時期におけるボランティア活動では、ともすると他者の立場を考えない独善になり、自己満足に終わってしまいがちであり、社会への奉仕に伴う喜びの体得にまで高まることは少ない。
 そこで、ボランティア活動に必要な特性、すなわち「自発的・主体的であること」「無償であること」「主観的にならないこと」「差別しないこと(特に人権に関わる面で)」「優位の感情をもたないこと」「継続的であること」などを踏まえて、「自分にできること」を通して人や社会に「当然のこと」として支援する気持ちを深めるとともに、それを実践しようとする態度を培うことであると考える。すなわち、時間的、精神的、体力的などで自分が犠牲になる見方の考え方よりも、他の人や社会に積極的に尽くすことを「何かしてあげる」気持ちから「当たり前のことをしている」気持ちで行動できること、そこに人間としての喜びと生きがいを感じることの大切さを身に付けさせたいと考える。

  1. 主題の系統

 勤労の精神を重んじ、社会への奉仕の気持ちを深めるために、1年生では、働くことが社会で生活する人間としての相互依存の関係を成立させる条件であることを学んできた。そして、2年生としては、1年生で学習した勤労の精神を重んじる生き方をもとに、社会への奉仕の気持ちを深めることを通して、人間としての充実した生き方があることを学んできた。これに関連して3年生の5月には、「限りなく尊いもの」で社会の一員として、思いやりの心をもって他者に接することの大切さを考えてきた。本時ではさらに、ボランティア活動の望ましいあり方を考え、社会への奉仕の気持ちを深める。

  1. 生徒の実態(省略)

 

  1. 資料観

 生徒の実態から、ねらいを達成するために本時で扱う資料を「加山さんの願い」とした。この資料は、主人公の加山さんが散歩の途中で、顔見知りの佐藤さんが病死しているのを死後三日目にして発見する。衝撃を受けた加山さんは、地域のボランティア活動として老人の訪問を始めるが、自分なりの満足がある一方で、拒否する老人がいたり、近所からは「お金があるから」とか「いいかっこうをしている」と思われたりする。自分が相手に「してやる」という思いを捨てて、互いに一人の人間として向き合うようになったとき、初めて対等な人間の交流が生まれたという話である。
 この資料では、ボランティア活動に臨む気持ちなどの望ましいあり方を考えさせることができる。

  1. 事前・事後の指導

・事前指導では、本主題に関する実態調査としてアンケートを実施する。
・帰りの会等でボランティア活動の意義についてとりあげるとともに、自己犠牲がボランティア活動のめざす姿ではないことに気付かせていきたい。
・日々の生活の中で、小さな奉仕の気持ちを見つけ、とりあげて認めていくことを心掛けていくことで、公共の福祉と社会の発展のために尽くそうとする実践意欲に結び付けていく。

V 指導方針

  1. 資料がやや長文であること。より高い道徳的価値まで追求させたい。この2点から生徒の実態を考慮し、2時間扱いとする。指導計画は次の通りである。

学習過程

ね ら い

主な学習活動

時間

課題追求T

資料内容を把握し、道徳的価値の追求の基盤をつくる

資料を読み、初読の感想をもとに主人公の「満たされた気持ち」について、自分なりの考えをもつ。

課題追求U

他の人や社会に尽くすことを「何かしてあげる」気持ちから「当たり前のことをしている」気持ちに気付かせる。

主人公の「満たされた気持ち」をもとに二人の気持ちの変化に着目し、最も大切な気持ちは何かについて考える。

  1. 課題追求T、および、課題追求Uの各段階において、以下のようなことに留意し学習を進めていきたい。

ア、書かせる場面では、次のように学習を進めたい。

・生徒一人一人が資料の内容についての自分なりの考えをもつことが、課題追求Uにおける道徳的価値の追求の基盤となるため、自分で考え、判断した内容が記述できる時間を十分保障したい。

・時間の確保だけでは自分の考えをまとめきれない生徒には、主人公の気持ちの変化に着目するなどの個別支援を行い、自分で考え判断した内容をもたせたい。

イ、発表させる場面では、次のように学習を進めたい。

・できるだけ多くの生徒に発表を促し、多様な見方や考え方があることに気付かせたい。

・発表された内容と生徒一人一人が自分で考え判断した内容を挙手によって結び付けておく。

  1. 生徒一人一人を主人公の立場に立たせ、主人公の気持ちを考えさせ、プリントに表現させる。深く考え自分の意見を決定させていくために、発問を明確にし、考える時間を十分とりたい。
  2. 課題追求Tの段階では、資料を読み、特に心に残った点を中心に初読の感想を書き、発表させていく。そして、資料の中の「中井さんの家を出た加山さんは満たされた気持ちで一杯だった」の「満たされた気持ち」は「どんな気持ちだったのか」の課題を提示し、追求させる。
  3. 課題追求Uの段階にあたる本時では、前時に出された考えをもとに、「主人公と中井さんが打ち解けることができた理由」を「二人の気持ちの変化に注意して考えてみよう」を課題とし、追求を深めさせたい。
  4. 課題追求Uにあたっては、「二人の気持ちを、てんびんばかりに載せてみたらどうなると思いますか」を例に考えさせ、一人一人の生徒に「二人の気持ちの立場が同じになった」ことについて気付かせたい。
  5. 課題追求Uを深めさせるために、一斉学習の形態の中で、次のように学習を進めたい。

ア、一斉学習によって話し合いを進めていく中で、生徒一人一人の考えが全体の中に埋没してしまわないように、発表された内容と自分の考えた内容とを挙手によって確認し、自分の考えたことや立場を明確にしておきたい。

イ、発表された内容を簡素に一言で表現することなどを通して、他の発表と比較させ、多様な見方や考え方があることに気付かせる。

ウ、生徒が自分の考えを発表しやすい雰囲気をつくり、本音で話し合いができるように心掛けるとともに、事前調査や日常の観察により、本時での発問に対する感じ方や考え方を予想し、意図的な指名もしたい。

  1. 発表された内容を踏まえつつ、「世話することも世話されることも自然な当たり前のこととはどんなことだろう」を問いかけ、本時のねらいにせまりたい。ここでも考えさせる時間を可能な限り保障したい。ただし、何人かの生徒の考えを発表させることによって、具体的に自分の考えをまとめることができなかった生徒にも気付かせていくことで、本時のねらいにせまることができると考える。

W 本時の学習

  1. ねらい ボランティア活動は、ボランティアする人受ける人が同じ立場の気持ちになることが大切であることに気付く。
  2. 準 備 読み物資料プリント、あらすじ説明用の模造紙、生徒発言の掲示用カード
  3. 展 開

 

学習活動と主な発問

予想される生徒の反応

指導上の留意点

 

 

  • 前時の学習課題の「満たされた気持ち」はどんな気持ちだったかについての発表内容を振り返り本時の学習内容を確認する。

前時の発表内容について振り返る。

  • 中井さんと話ができたから
  • 中井さんが笑顔を見せてくれたから
  • 心が通じ合えてよかったと思ったから
  • 私(主人公)の気持ちが伝わってよかった
  • 今までの努力がよい結果となって表れた
  • 嫌われていたのではないことがわかったから
  • あんたが来るのが楽しみになったと言われた

 

 

  • 前時に出された発表内容をまとめたものを掲示し、本時の課題追求の基盤にさせる。
  • 出来事や主人公の気持ちの推移などを明らかにした模造紙を教室内に掲示しておくことで、常にあらすじを頭の中に入れながら、課題追求ができるようにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • 課題:主人公と中井さんが打ち解けることができたのは、二人の気持ちがどのように変化したのだろうか。

〈中井さんの気持ちが変わった〉

  • 最初は「してあげる」と言われて気に入らなかったけど、訪問を続けたことで心を開くようになった

〈加山さんの気持ちが変わった〉

  • どうしたら中井さんとうまくやれるかを考えながら行動しているうちに何かが変わった。

〈二人両方の気持ちが変わった〉

  • 二人が両方とも、いい気分になれた。
  • それぞれ相手のことをわかろうと努力し、相手の気持ちが理解できるようになった。
  • 二人の気持ちが同じになった。

 

 

 

 

 

35

  • 二人の気持ちを比べてみたときに、二人の気持ちがどうに変わっていったかに着目して考えさせる。
  • 自分なりの考えを書かせる場面では、ことばで書いても図で描いてもかまわないから、一人一人全員に自分の考えをもたせたい。

 

  • 二人両方のの気持ちが変わったことに気付かせたい。
  • 二人の気持ちの変化を、なかなか読みとれない生徒には、「二人の気持ちをてんびんばかりに載せてみたら」等のアドバイスを与えたい。
  • 「世話することも世話されることも自然な当たり前のこと」とはどういうことだと思いますか。

·  どちらかの気持ちが多かったり少なかったりしない。

·  同じ気持ちでやる。

·  どちらかが上とか下とかでない。

 

  • それぞれが同じ立場になったことに対する見方になっていれば、ことばやてんびんばかりなどの例を用いて生徒の反応を確かめながら、まとめていきたい。

  • ボランティア活動に対する自分の考えや、活動をしていく上で、大切にしたいことは何ですか。

·  ボランティア活動に対する自分の考えを書く。

 

  • 単なるたてまえ的な決意文のようにならないように、ボランティア活動に対する今の気持ちや考えていることを素直な気持ちで書き留めさせることでよいことを伝える。

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