国語科学習指導案

ご意見・ご感想をお寄せください。ASNEC事務局宛メール 

 

T 題 材  「故郷」(魯迅・竹内好訳)

U 題材の考察

  1. 題材観

 文学教材の指導においては、情景や心情の読み取りが重きをなす。場面がどうなっているか、話しの筋がどう展開していくか、どのような描写になっているかということを丁寧に読みとっていくことは、主題の把握につながる学習である。一学期には、「握手」という題材の中で現在に過去が入り込む展開をたどって、それぞれの「時」の部分を読み分ける学習をしたが、教科書で学ぶ小説としては最後の作品となる今回の題材「故郷」の構成は以下の五つの段落構成で考えていくこととしたい。

@「わたしの故郷」
A「思い出の回想」
B「ヤンおばさん」
C「ルントウとの再会」
D「離郷」

 この五つの段落のうち、第二段落だけが「過去」の回想であり、「現在」に少年時代の思い出を回想する「過去」の段落が突然入り込む展開となっている。そして、第二段落での「回想」(子供らしくのびのびしていて、「わたし」と打ち解けていたルントウ)は、第四段落における「大人になったルントウとの再会」(姿も心も変わり果て、でくのぼうのような人間になってしまったルントウ)とつながって、記憶の中の姿と現在の姿とが〈対比〉されて描かれている。この「現在の姿と記憶の中の姿との〈対比〉」は、第一段階における「二十年ぶりの荒廃した故郷と記憶の中の美しかった故郷」、第三段落における「目の前にいる皮肉たっぷりのヤンおばさんと昔“豆腐屋小町”ともてはやされたヤンおばさん」においても用いられている。さらに、第四・五段落における心を通わせ合う「ホンルとシュイション」という二人の子どもたち(若い世代)の存在は、大人になって目に見えぬ厚い壁で隔てられてしまった「わたしとルントウ」との関係と〈対比〉するものである。
 この小説が書かれた頃の中国の社会の様子と強く関連をもつ登場人物の変化は、目に浮かぶように描かれており、故郷に対する「わたし」の失望を決定的な者にする。さらに、冒頭の季節・天候・風景の描写は、「わたし」の不安や落胆、故郷の荒廃のありさまをイメージさせるのに効果的である。一方、繰り広げられる「緑の砂地」や「金色の丸い月」の風景は「わたし」の心にある「希望」を暗示しており、「わたしとルントウ」と「若い世代」の〈対比〉も「希望」の実現の可能性を裏付けるものと考えられる。さらに、主題に込められたラストの文章は、鮮やかで力強くたいへん印象的である。
 このように「故郷」は、〈構成〉〈対比〉〈情景〉〈人物〉〈時代背景〉をしっかり読み取っていく必要がある作品であり、読み取った内容を関連させて考えていくことで主題もよりとらえやすくなるであろう。「わたし」「ルントウ」「ヤン」の生き方に対するラストに提示された「わたし」の希望は、私たち自身にその状況の中でどう生きるか−共同して生きることの必要性−を投げかけているように思う。以上のような点に、「故郷」の学習価値があると考える。

  1. 生徒観(省略)
  2. 指導上の留意点、及び、支援の方針

V 題材の目標

  1. 「故郷」の〈構成〉〈対比〉〈情景〉〈人物〉〈時代背景〉の読み取りを通して、小説を読み深めていく楽しさを味わう。
    (関心・意欲・態度)
  2. 登場人物の心情や生き方・主題についての自分の考えをノートに書き、話し合うことができる。
    (表現の能力)
  3. 当時の社会状況を背景に、「ルントウ」「ヤンおばさん」の変化の理由と「わたし」の故郷への失望感を理解することができる。
    (理解の能力)
  4. 情景や人物の描写、比喩表現の優れた部分について、その効果を味わうことができる。
    (言語についての知識・理解・技能)

W 学習計画(全14時間予定)

  1. 通読する。(班読を聞く)初読の感想(印象に残ったこと・疑問・他)をまとめる。(1)
  2. 五つの段落の内容と構成をつかむ。(1)
  3. 新出漢字の読み・書き方・部首等と語句の意味を確かめる。(1)
  4. 各段落ごとに、疑問・課題等、学習したいことをプリントに記入する。(1)
  5. 課題を追求して、段落ごとに読み取りを行う。(7)〈本時はその1〉
  6. 「故郷」の書かれた時代と魯迅について知る。主題について自分の考えをノートに書いて発表し、友だちの考えを聞いてまとめ直す。(2)
  7. 感想文を書き、発表する。(1)

X 本時の展開

  1. 本時の目標

二十年ぶりに帰郷した「わたし」の心情を、情景と関わらせて読み取る。

  1. 準 備

教科書、ノート、プリント、黒板掲示用カード

  1. 展 開

学習過程

学習活動

指導上の留意点、及び、支援

評価の観点

学習課題の把握

○本時の学習課題について知る。

〈「ああ、これが二十年来片時も忘れることのなかった故郷であろうか」帰郷した「わたし」の心情をとらえよう〉

 

  • 学習課題は板書するが、「聞く」ことを徹底させるためノートにはすぐ記入させない。

·  落ち着いて話を聞けているか。

課題追求1

○以下の4つの観点から描写をさがす。

〈故郷の様子〉

  • わびしい村々
  • いささか活気もなく横たわっていた

〈帰郷の理由〉

  • 別れを告げてきた
  • 他人の持ち物
  • 明け渡しの期限     他

〈天候〉

  • 厳しい寒さ
  • 真冬の候
  • 空模様は怪しくなり   他

〈心の中の故郷〉

  • 二十年来片時も忘れることのなかった故郷
  • わたしの覚えている故郷
  • なじみ深い故郷     他

 

 

 

 

 

 

 

20 

  • 考えて書く時間を保障する
  • 机間支援を心掛け、教科書に印を付けさせるなどの声をかける。(共感的理解の態度で)
  • 特に自分自身の考えに自信がもてない生徒には、取り組みやすいところから始めさせる。
  • 発表では、必要に応じて指名を与え、発表を促す。
  • 発表と同じ表現に印を付けた生徒には挙手をさせ、学習への参加意欲を高めさせる。
  • 挙手の多少で意見の扱いに差をつけないよう心掛ける。
  • どの意見も共感的に受け止める。
  • 描写が見つけにくい生徒には、教科書で四つの観点を区切って示してやる。

·  自分なりの考えとして、印がつけられたか。

 

 

 

  • 発表できたか。

 

  • 挙手できたか。

 

 

  • 友だちの意見を共感的に聞けたか。

課題解決1

○「わたし」の心情を発表する。

 

  • 寂寥の感

 

 

  • 同じように考えた生徒には挙手をさせる。

·  寂寥感がとらえられたか。

課題追求2

○「いささか活気もなく横たわる」には、どんな人のイメージがあるか考える。

  (病人、死者、怠け者など)

○〈帰郷の理由〉から「わたし」に起こった事情について考える。

  (引っ越し、経済的な理由など)

 

 

10

  • 同じように考えた生徒には挙手をさせる。
  • 擬人法であることから考えさせる。
  • 母との会話も参考に考えさせる。

·  不健康で活力のない人間のイメージがもてたか。

·  「わたし」の悲しい思いを想像できたか。

課題解決2

  • 課題追求2で加えられた意見から、「わたし」の心情についてもう一度考える。
  • さみしさ
  • 失望
  • 不安
  • くやしさ
  • なごりおしさ     他

 

 

 

10

  • 「わたし」には、時間がないことに気づかせる。
  • 意見が出ないようであれば、班での話し合いにする。

·  四つの描写を参考に「寂寥感」に心情を加えることができたか。

 

  • 情景と関わらせて「わたし」の心情を考えられたか。

次時の予告

○第二段落の読み取りをすること聞く。

  • 家で読んでおくことを促す。

·  落ち着いて聞いているか。

 

 指導案一覧に戻る