国語科学習指導案

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1 テーマ

  主題・・・「目的に応じて言語を的確に使う力を育み高め合う実践研究」

  副主題・・・(短歌の創作及び相互評価活動を通して)

 

2 テーマ設定の理由

 研究主題「社会生活に生きて働く言葉の力を育み高め合う国語科学習」を受けて,第 5分科会(領域・言語事項)では,分科会のテーマを「目的に応じて言語を的確に使う力を育み高め合う実践研究」とした。副主題は,まだ未定であるが,16年度としては「短歌の創作及び相互評価活動を通して」として,来年度へ向けての課題提案とする。

 現代は,意思伝達手段(携帯電話やインターネット等)はめざましく発達している。しかし,その便利さとは裏腹に,「自分の気持ちや思いを言語を用いて的確に使う力」は,ますます希薄になっていくように思われてならない。社会生活に生きて働く言葉の力とは,「言語事項」からみれば,自分の気持ちや思いを的確に有効に表現し理解していく力であると考える。

 各種学習活動の中でも,「短歌の創作」は,わが国の長い伝統の中で培われた表現形式であり,五七五七七という短い形式の中に,自分の思いや考えを,言葉で的確に表現し理解することが求められる。本研究では,「短歌の学習」における学習過程に,相互評価活動を取り入れることにより,自らの短歌を推敲していく過程で,より的確な表現を求め,自らの語彙を見つめ直し,言葉を吟味し,生徒が「言葉と出会った」という体 験をさせようとしたものである。それは,指導要領言語事項(1)語彙における,第2学年及び第3学年(ウ)「抽象的な概念などを表す多様な語句についての理解を深め語感を磨き語彙を豊かにすること。」であり,中学校国語科の目標「言語感覚を豊かにし国語に対する認識を深め国語を尊重する態度を育てる。」にもつながると考える

 

3 研究のねらい

 生徒が主体的に学ぶ学習過程において,短歌の創作及び相互評価活動を通して,生徒が言葉と出会い,言語を的確に使う能力が育み高められることを,実践を通して明らかにする。

 

4 研究の概要

(1)生徒が主体的に学ぶ学習過程について

 生徒一人一人が,学習事項を自らの力で理解し,学習を進めていく学習過程と,主な学習内容,学習活動を,短歌の学習を中心に,以下のようにとらえた。

 @課題把握 〔学習したい課題をもつ 〕

 ・言葉との出会いを目的とした学習であることを理解する。

 ・短歌について興味関心をもつ

 ・学習活動のあらましを知る(短歌の創作・相互評価・推敲・作品の完成・投稿)

 A課題追究T〔学習課題に対して追究し,自分なりの考えをもつ 〕

 ・短歌を一首創作する ※自分の思いや考を表現しようとした短歌であること

 ・創作した短歌の説明をそえる ※短歌で表現しようとした思いや考えを説明する

 B課題追究U〔自分なりの考えをもとにして,他の見方・考え方があることに気づく〕

 ・友達の作った短歌を読む。※三人を一組として・作者名は伏せておく

 ・共感した点や疑問点 ※ここでは言葉に視点を絞って書く

 C課題解決T〔学習課題への見方を深める追究の視点から課題を追究し,学習課題を解決する〕

 ・友達の感想を読み,その感想を参考にしながら,自分の作った短歌を読み直す。

 ・自分の思いが伝わった点,伝わらなかった点などを考えながら,自分の作った短歌を推敲する。※推敲するかしないかは,あくまでも本人の意思による

 ・推敲した短歌を清書し,なぜ推敲したのか理由を書く。※推敲しない場合もその理由を書く。 言葉に視点を絞った理由が書けることが望ましい。

 D課題解決U〔新たな視点での課題の把握〕

 ・クラス短歌会の実施〔友達の作った短歌(名前は伏せてある全員の短歌)から一人良いと思った二首を選び,選んだ理由を述べる〕

 ・クラス優秀作を決定(一番得票の多かった作品がクラス優秀賞となる。※教師が選んだ一首も発表する。(生徒とは異なる場合もある。言葉との出会いに視点を絞った短歌であること)

 ・各人の作った短歌は,各種歌壇に投稿する(新たな課題意識の高まり)

 以上の学習過程を通して,短歌の創作及び評価活動という学習活動を行う中で,生徒が自ら問いを発し,既成の知識・技能を活用して問いを追究し,他者と共に学び合いながら,新たな問いを見つけ出し,言葉に出会ったという体験(語感を磨き語彙を豊かにする学習体験)を全員が体験できたといえることが,「目標とする授業」である。

 

(2)学習のアウトライン

  〔指導事項〕    á   〔学習材〕    á    〔指導目標〕


言語事項(1) 語彙
抽象的な概念などを表す多様な語句についての
理解を深め語感を磨き語彙を豊かにすること
 





 


この学習材で行う言語活動
短歌を通して自分の思いを的確・有効に表現
出来るように言語表現を工夫して短歌を創作する
 





 


(1)関心・意欲・態度の目標
・自分の思いを表現するため短歌創作に取り組んで
いる
(2)書くことの目標
・自分の思いが的確に伝わるように,表現を工夫して
書く
(3)言語事項の目標
・語句についての理解を深め語感を磨き語彙を豊かに
する
 


  〔総括的な目標(学習者が言える学習目標)〕 à


・自分の思いを短歌を通して表現しよう
・短歌の学習を通して「言葉との出会い」を体験しよう
 




 

 

 大会テーマ「社会生活に生きて働く言葉の力を育み高め合う国語科学習」を目指して


 人は言葉で思考し自らの思いを表現していく。これからの社会では,自らの思いを
言葉で,的確に表現していくための,言葉に対する感覚が,より豊かであることが必
要である。そのような言語感覚の育成を,学び合いの学習を通して,育み高め合える
ような国語科の学習のあり方を目指したい。
 

 

(3)学習のプロセス 3年生 27名を対象とした実践 4時間扱い

   ※ 光村図書 第二単元「古典を味わう」「君待つと・万葉・古今・新古今」の学習のまとめとして取り組んだ実践


学習過程



  学習目標


     学習活動


課題把握





 








 


「話す聞く」「書く」「読む」「言語」における
言語(言葉との出会い)に視点をあてた授業であるこ
とを理解する
短歌の創作活動を通して「言葉に出会う」という
学習内容をつかむ
自分の思いをこめた短歌を一首作ろうという意欲を
高める


言葉との出会いの体験例(教師の自作短歌)
・春雨に地は洗われて静なり春の息吹を内に秘めつつ
(á命)
俳句の例(生徒の作った俳句を例に
)
・渾身の力で鳴くよセミたちは ・夏の森虚しく響くセミの声
・一時の命を刻むせみの声
  ・せみが鳴くせみが鳴く鳴くせみが鳴く
・夕暮れに思ふも悲し鳴くせみの命を刻み今を生きゆく
・学習の流れをつかむ(短歌の創作・相互評価・推敲清書
)


課題追究T





 








 


自分の思いを短歌という表現形式を用いて表現した
歌を一首作る
歌の説明を書く(どんな思いを歌にこめたか表現上
の工夫や難しかった点など言葉について視点を絞った
感想を添える
)


・短歌を一首作る(短歌については二年時に創作済みなので,大きな抵抗感
はなく創作できると思われる
)
・どんな思いや情景を表現しようとしたのか,説明を加える。(ここでは言
語についての表現に視点をあてた感想になるのが望ましい。
)
 

※この課題追究Tの段階において,まず自作の短歌が一首作れていることが必要条件となる。自分の思いをこめた愛着のある作品で
あればさらによい。課題追究Tは,今後の学習を進める上で非常に大切なステップである。


課題追究U



課題解決T




 











 


友達の作った短歌について言葉に視点をあてて,感想
を書く。

友達の書いた感想(3枚集まる)を読み,自分の短歌
を新たな視点から読み直す

言葉との新たな出会いを体験する


三人一組として,氏名を隠した短歌三首を読み合い,共感する点・疑問など
どんな思いを伝えようとしたのかなどについて感想を書く。
( 一作品五分として15〜20分)
名前を明らかにし,友達に感想を書いた用紙を渡す
á友達の感想を参考し自
分の短歌を読み直し,より有効な表現は無いか推敲する。
á 清書する
(あえて直す必要が無ければ,最初と同じ作品でもよしとする。)
清書した作品の感想を書く(言葉との出会いに沿った感想がふさわしい
)

※この課題追究Uの段階における学習が,本実践のメインである。「言葉との出会い」「育み高め合う」学習となる。相互評価活動が
有効に機能するためのクラスの雰囲気作り(他者の意見を素直に受け入れる)・視点(言葉)を絞った評価活動の評価する側の学習

のレベルが学習成果にそのまま結びつく。

 


課題解決U
  
ã
新たな課題意識の高ま
りを期待する
 






 


クラス短歌会の開催(クラス優秀作品の選定)

各種歌壇に作品を投稿する

 


一人二首ずつ良いと思われる作品を上げる(その理由を述べる)

完成した作品は,各歌壇に投稿する(新たな課題意識の高まりへの期待)

 

 

 各学習活動における評価と支援


学習過程



      評価の規準と支援


評価の観点・方法


課題把握T


 





 


学習内容を理解し,短歌の創作に積極的に取り組もうとしている。
短歌創作に抵抗のある生徒には,
二年時に作った短歌や俳句などを例に出し,短歌を 作ってみたいという意欲の高まりをうながす


観察


 


課題追究T

 




 


自作の短歌が一首できていること。
どんな思いを表現しようとしたかについて書けない生徒は,5W1Hについて説明させるとともに,どんな気持ちだっかたを書けるように,書く視点を示す


自作の短歌及びその
説明文
 


課題追究U



課題解決T

 








 


友達の短歌を読んで,言葉について視点を絞った感想が書けること。
言葉について視点を絞った感想が書けない生徒は,5W1Hについて説明し,その短歌
を読んでどんな気持ちになったかなど,読む視点を具体的に示す]
友達の感想を読んで自分の短歌を新たな視点から読み直し推敲する。
推敲しない場合もよしとするが,その理由が明らかにされていること


友達の短歌を読んで
の感想文


推敲された短歌及び
その説明
 


課題解決U



 






 


自分の好きな短歌を二首に絞ってあげられること。その理由を,言葉という視点からあげられること。
言葉という視点からあげられない場合は,良いと思った感想・理由をあげていること
 


発言内容



 

 

(4)実践資料

 @資料1,課題追究Tにおける具体的な学習内容を示した例(短歌・説明)

 短歌を作ろう  番    氏名

自作短歌


 犬なれど 心通ひし 友なれば 
         今日は命日 手を合はせ居る

 

 

 

 

短歌の説明(意味の説明・どんな気持ちか・工夫した点など)


 意味は「犬ではあるけれど,心が通い合った友であるから,今日は命日なので,お墓の前で手を合わせている。」という意味です。私は,太郎という名前の秋田犬を飼っていました。十三年ほど飼いましたが,六年ほど前の,六月二十一日に亡くなりました。今でも,命日が来ると,太郎のことを思い出して,思わず手を合わせたくなります。死は悲しいけれど,それは生きとし生きるものの,運命でもあります。また死んでも,その魂は心に残っているもの
だと思います。そんな気持ちを歌にしてみました。
 工夫した点は,「犬なれど心通ひし友なれば」という部分です。友とは人間だけでなく,心が通いあっていれば
友なのではないか,そんな発見がこの歌を通して感じてもらえればいいと思います。

 

※この資料は,学習過程「課題把握」〔第一時間目〕に配ったものです。次の課題追究T〔第2時間目〕で どんな学習をしてほしいのか,その具体例を示したものです。

 

 A資料2,課題追究Uにおける具体的な学習内容を示した例(短歌・説明)

 自作の短歌を推敲し清書する 〔具体例・私の例〕

 

自作短歌


春雨に 地は洗はれて 静かなり 春の息吹を 内に秘めつつ
 



 

          ã


良い点や課題の指摘(その中に,春という言葉が重なっていることの指摘があった)
 



 

          ã

 自作短歌を良く読み直し,推敲し 完成した。

 

完成した短歌    ã


春雨に 地は洗はれて 静かなり 命の息吹  内に秘めつつ
 

 

 

短歌の説明〔言葉との出会い〕


 最初の短歌「春雨に 地は洗はれて 静かなり 春の息吹を 内に秘めつつ」は,三月卒業式が間近に迫ったころ,職員室からみた風景を歌にしたものです。校庭に積もった雪も春雨にとけて,辺りはしんと静まりかえって
いました。木々も枯れ木のようでした。また草も枯れており,今のような青々とした風景は想像も出来ないような風景でした。しかし,その風景もあとひと月ほどすれば、草木の芽も芽吹いてきます。早春のそんな風景を,歌にしたかったのですが,指摘をうけて,「春の息吹」とは何かと考えてみました。
 雪もとけて,静かに静まり返った風景の中に隠されたもの。それは,「春の息吹」と言うよりは「命の息吹」と言った方が,よりぴったりとくるような気がしました。その時,「春の息吹」と漠然と表現していた言葉が、「命の息吹」とはっきりとしてきたような気がしました。それが言葉と出会うということだと思います。これからも,和歌を通して,言葉と出会っていきたいと思います。

 

※この資料は,学習過程「課題追究U」〔第3時間目〕でどんな学習をしてほしいのか,その具体例を示したものです。

 

 B 資料3,最初に創作した生徒の全短歌と推敲後の生徒の全短歌

  生徒短歌一覧 〔3年生27名・男子12名・女子15名〕☆印は,後に生徒の感想あり張り付け]


NO


      最初の短歌


     推敲後の短歌


 1


寝るまえに考え浮かぶ友達の皆で過ごす日々は短し


寝る前に考え浮かぶ友達の皆で過ごす日々は短し



あと少しで終わってしまう部活動最後の試合に思いをこめる


あと少しで終わってしまう部活動最後の試合に思いをこめる


 3


昼時に外に響きしせみの声梅雨があけたと知らせるよう


昼時に外に響きしセミの声梅雨があけたと呼びかけてくる


 4


新緑の山で熱く鳴くセミは夏のはじまり告げる使者


新緑の山で暑いと鳴くセミは夏のはじまり告げる使者



空の下生きるすべてが生活を時のアルバムつまっています


空の下生きるすべてのひとときを時のアルバムさかせてくれる


 6


桜の木花びら咲かせ美しき散りどきまぢかちとさびしけり


桜の木花びら咲かせ美しき散り時まぢかちとさびしけり



朝の日が元気をあげる森たちにそして自分も元気わきでる


暗い森朝日が出ればえくぼ見えそして自分も元気わきでる


 8


部活やり二日の時間集中し夏の大会めざせ優勝


部活やり二日の時間集中し夏の大会めざせ優勝


 9


冬すぎて雪がとければ水になる水になるより春になる


冬すぎて雪がとければ水になる水になるより春になる


 
10


夜おそく辺りに響くスズムシの心をいやすここちよい声


夜おそく辺りに響くスズムシの心をいやすここちよい声


 
11


ぽつぽつと闇照らしゆく蛍火は心にひとつ明かりを灯す


ぽつぽつと闇照らしゆく蛍火は心にひとつ明かりを灯す


12


真夜中に犬のとおぼえ鳴りひびく今日も一日終わってく


しずけさや犬のとおぼえ鳴りひびく終わってしまう今日一日よ


 13


野反湖の自然といのちすばらしき碧き湖ニッコウイワナ


野反湖の自然といのちすばらしき碧き湖ニッコウイワナ


 14


夏季大会やればできると信じつつむだにするまい今までを


がんばろうやればできると信じつつむだにするまい今までを


15


梅雨あがり鳴くせみの声ミンミンと声聞くたびに暑さ忘れし


梅雨あがり鳴くセミの声カナカナと声聞くたびに暑さ忘れし


 
16


もう終わる残りわずかなこの日々もただやるべきは我に勝つこと


もう終わる残りわずかな練習もただやるべきは我に勝つこと


 
17


二年間つらくにげたりした部活すべては土曜日あらわれる


二年間つらくにげたりした部活すべては結果であらわれてくる


 
18


雑草がいつか芽を出し咲くのなら我の心にかざってやろう


雑草がいつか芽を出し咲いたなら我の心にかざってやろう


19


青空の雲の形をながめたら同じ形に二度ともどらず


晴れの空様々な雲見上げると同じ形に二度ともどらず


 
20


一日の終わり報せるゆうひ空明日の自分に力あたえる


一日の終わり報せる夕陽空明日の己に力あたえる


 
21


汗タラリなみだもタラリ部活動最後にタラリは金メダル


汗ひかりなみだもひかった部活動最後にひかるみんなの笑顔


 
22


今はまだ進むべき路霧かかり先見えねどもいつかはれるや


今はまだ進むべき路霧かかり先見えねどもいつかはれるや


23


花たちは同じようでもみなちがうそれが自分のいいところ


花たちは同じようでもみなちがうそれでみんながひとつに見える


 
24


帰り道暑さを感じ汗たれる疲れた顔で帰る日々


帰り道暑さを感じ汗たれる疲れた顔で歩く毎日


 
25


約二年日々努力してやってきたついに大会ベスト八


約二年日々努力してやってきたついに大会目指すは優勝


 
26


せみたちが暑さ知らせる暑き日々大会近く熱き日々かな


せみたちが暑さを知らせる暑き日々大会近く熱き日々かな


 27
 


朝露に己を映す蝉達が短き日々を思い返しつ
 


朝露に己を映す蝉たちが短き日々を思い返しつ
 

 C 資料4,生徒の感想(資料3に☆印で示した生徒の感想)

 

5 研究のまとめ

 今回の研究を通して,授業者として以下の項目についの課題が明確になった。

(1)研究主題・副主題(短歌の創作及び評価活動)・学習過程の整合性について

(2)「目的に応じて言語を的確に使う力」が身についたと言えるか。

   ・「言葉との出会い」があったといえるか。

   ・「言語感覚が豊かになった」といえるか。

 上記(1)(2)の検証方法としては,各学習過程における生徒の学習活動において表現した「短歌・説明」「短歌の感想・評価」「推敲後の短歌・説明」の内容を比較してみることで検証可能である。今後,「目的に応じて言語を的確に使う力」「言葉との出会い」「言語感覚が豊かになる」など,抽象的な概念を,より明確に規定する必要があると思う。評価においても「関心をもつ」「熱心に取り組む」などの表記となるが,もっと具体的な表記が必要と思う。

 全体としては,今後とも,研究の目的・手段・学習過程・学習形態・評価方法を,生徒の実態に則して工夫しながら,生徒が主体的に学ぶ学習のあり方をさらに模索していきたい。

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