総合的な学習指導案(3年) 平成12年6月5日(月)
1 単元名 「心・技・体すべてを使って京都へGO!未知の旅、友情を深め最後の出発」
−自然・人を学び共に生きよう−
2 考察
(1) 教材観
@ 活動内容
中学校指導要領の「第4節 総合的な学習の時間の取扱い」を受けて、「ゆとりの中で[生きる力]をはぐくむ」ため、この時間の「趣旨」や「ねらい」に即して「具体的な学習活動」が行われる。本校の取り組みは、本年度からの試みである。したがって、本年度の本校の実践は指導要領の示す「総合的な学習」とは時間的にもアプローチの仕方も多少異なる。完全実施の前段階としての役割と考えるべきであろう。基本的な観点は以下の通りである。
現代社会は様々な問題をかかえているが、21世紀には、現在以上に多くの課題の解決が迫られている。すでに国際化や情報化の大波は押し寄せている。環境問題は、緊急を要する。子どもは少なく、高齢化は進む。「総合的な学習」は、まさにこうした社会の中で生き、課題を解決しながら、生きがいを追求し、新しい時代を切り拓く心を培うために必要な学習である。こうした力は、いままでの国語・数学等の教科の学習抜きでは考えられない。それぞれの教科で身につけたことを総合的な学習で生かすということである。本学習を通して身につけたい力とは、次の3つであるが、これは本校の「総合的な学習」全体に共通した観点である。
・「探究する力」
自分で課題を見つけ、調べ、考え、解決していく力、探求することの楽しさも味わって欲しいものである。
・「人とふれあう力」
社会で一緒に生活してる人々と交流し、情報を得たり、考え方や生き方を学んだりする力、「共生」である。
・「表現する力」
自分を表現する力、相手に自分の言いたいことや考えを理解してもらうためには、相手に分かりやすく、しかも印象に残るような表現の仕方が重要である。そのためには、表現の技能も習得しておく必要がある。
「古都の宿泊体験V」は、この3つの観点に即した具体的な学習活動として実施した。修学旅行を核とした総合的な学習プログラムとして、日本の古代国家発祥の地であり、また長い間の都でもある歴史的な文化財の多く残っている京都で、調査活動を中心とした班別学習を行うものである。「総合的な時間」を構築する際に、まったく新しいものを作り出すのではなく、現行のカリキュラムを再構築していくことを考えたのである。すなわち、現行のカリキュラムを「総合の理念」に沿って再構築しようと試みた実践である。その「総合理念」のフィルターは前述の3つの観点であり、それを「社会化」と規定し、社会集団で要求される知識や技能、態度などを自己教育力によって習得していくことを目指した。このような考え方に立って修学旅行を再構築した結果、生徒自身による課題の作成と調査、「京都」での直接体験、修学旅行を中心とした事前・事後の学習計画に注目していく必要があるということが見えてきた。以上のような観点から生徒の学びを中心とした総合的な学習としての修学旅行「心・技・体すべてを使って京都へGO!未知の旅、友情を深め最後の出発」というプログラムを構築した。
調査活動は、事前の調査と修学旅行当日の調査及び体験に分けられるが、それらを連動させて内容や方法を考えさせていくことで、課題解決の手順を計画する力や課題追究などを通して総合的な実践力を培い、国際的に有名な日本独特の文化や自然などを理解する。また自分たちの郷土との比較などから改めて郷土理解や愛情をさらに深めさせたい。班別の活動では生徒自らの興味・関心から課題を決定し、前述の内容を追究し、まとめる活動に取り組めるのである。
A 見方・考え方
1年生では「海の宿泊体験T」として、海辺の地域にかかわる事象をテーマとして課題解決的な学習を行っている。生徒にとってこの学習は自分たちの地域が「海なし県(町)」と意識される体験活動であり、新たな出会いの場である。ここでは課題解決的な学習の基礎を身につける。この力は今後の学習活動(2・3年の「山の宿泊体験U」「古都の宿泊体験V」の学習や教科等)に方法的にも内容的にも影響を与えている学習となっている。
2年生では地域を「榛名山(高原)」とし、自分たちの郷土(地域社会)の理解を深められるように自分が興味・関心を持った中から課題を設定する。2年生では追究実践力、追究した内容をまとめる力を身につけるのである。
3年生では空間的な地理的条件だけでなく、歴史という時間的な条件でも考えやすい「京都」で「古都の宿泊体験V」を行う。文化的にも近畿地方という西日本の文化圏であり、日本の古来の伝統や文化遺産がたくさん残っている都市である。そこから衣・食・住の相違などの身近な課題として考えやすい。また世界文化遺産にも指定され、世界有数の観光都市でもあり、世界各国から多く人々が訪れる国際的な都市でもある。条里制や寺社が点在し古都を忍ばせるが、駅ビルをはじめ多くのビルが連立する大都市でもある。課題追究のテーマは多い。「京都」を公共交通機関を使い、これまでに各教科等で身につけてきた力を再構築して班別の調査活動を行い、課題追究の総合的実践力、応用力を身につけるものである。
B 関心・意欲・態度
1年生「海の宿泊体験T」、2年生「山の宿泊体験」で班別活動などを通して、充実感や達成感を得ている。3年「古都の宿泊体験V」の学習についても見通しを持って、主体的、積極的な活動が期待できる。修学旅行を核とした学習のプロセスデザイン全体を構築していくことが指導上の工夫といえるが、そのプロセスデザインの中でも「課題の作成」が最も重要となってくる。修学旅行を核とした場合、「どこで」「どのような課題で」「どのように」活動するかを自分たちで考えることにより、旅行を作り上げるという意識が芽生え、その意識が本単元では学習への意欲に結びついてくからである。修学旅行は中学校生活の一大イベントでもあり、不登校傾向のある生徒の参加も期待できる。
C 「基礎・基本(社会化)」の観点から
・「探求する力」 :「どこで」「どのような課題で」「どのように」活動するか考えることができる。
・「人とふれあう力」:男女混合の班員が協力して班別調査活動ができる。
・「表現する力」 :2年生へ伝えることを意識した表現活動できる。
(2) 生徒の活動
@ 活動内容
本段階「課題を追究する段階」までの3学年全生徒(男子74名、女子83名、計157名)の活動の概要は、以下の通りである。
・「オリエンテーション」
「総合的な学習」の学習をはじめるにあたって、まず最初に学年集会形式でオリエンテーションを行った。「総合的な学習」の概要やねらい、学習の流れなどを知り学習の見通しをもった。「古都の宿泊体験V」を行う目的や学習を通して身につけていく力を「探求する力」「人とふれあう力」「表現する力」と理解した。「課題発見シート」「スケジュール表」「活動記録シート」のワークシート、ガイドブックの利用法について知った。
・「課題の設定」
課題の追究の調査、体験場所が「京都」であること、班編成はすでに2年生の時の事前学習で決定していることなどの条件を踏まえて、個々の課題を必ず反映させるように話し合い活動をした。「設定した課題が自分の興味・関心に基づいているか」「調査・体験活動は可能か」「限られた時間内で解決できるか」などの意見交換をした。班ごとに資料をもとにして、知りたいことなどを整理して、より具体的な課題を決める。班編成は学級単位で男女混合の7〜8名である。
生徒は、2年時の修学旅行の事前学習や既存の知識とかかわらせて、学習していこうとする領域を選択するとともに、「京都」そのものや郷土との比較などから徐々に課題を設定していった。
この活動を通して生徒は、追究が可能で価値ある課題として成立しているかといった観点で、課題の適否を探っていった。
以下に生徒の見いだした課題とプロセスを班ごとに示す。
【3年1組】
班 |
氏名 |
話し合い時に出した各自の課題 |
班の課題 |
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男1 |
お守りの売れ筋について |
お守りについて調べる。 |
男2 |
京都の食文化 |
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男3 |
八ッ橋の作り方 |
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男4 |
お守りの値段の比較 |
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女1 |
京都の菓子について |
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女2 |
お守りについて |
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女3 |
八ッ橋の味くらべ・作り方 |
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女21 |
京都のいいところを探す |
−以下省略−
・「課題の追究」
以下に本時までの生徒の課題追究のプロセスを班ごとに示す。
【3年1組】
2 班 |
テーマ:方言について |
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【活動場所】京都市内、河原町周辺 |
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【活動の方法】 |
【調べてわかったこと、感想】 |
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−以下省略−
A 見方・考え方
班活動は、個人ではなく7〜8人の共通の課題を設定するということが、難しい反面、一人ではなかなか活動できない生徒が友達と活動する中で課題に取り組めた。また、どこまで事前学習し、どこから現地の調査学習にするのか、デザインすることに時間が必要だった。
主な班活動としては、「限定の味にせまる」京都で販売されている限定の菓子のを調べ、まとめで製菓会社に他の地域の限定品など電話による聞き取り調査を行った。「鈴虫寺」の班では現地での僧侶へのインタービューは大変有意義で生徒は充実感をもった。「京都の人が考える群馬、群馬の人が考える京都」でも現地でのインタビューで行い、京都の人たちの協力的な態度の優しさを実感した。「中之条町と京都の町並/風景の違い」現地でのインタビュー活動した。現地の調査学習で、デザインしていた調査学習のできなかった班もあったが、そこでの工夫や苦労に学ぶことも多かったのも事実であり、まとめの事後学習をしながら課題が明確化されていく班もあった。修学旅行での体験が知識にリアリティーを与え、学習意欲を高める要因ともなった。生徒一人ひとりの課題作成・追究の素地が変容し、その成長過程に実践化・態度化が評価(添付資料1相互評価)に表れたことからも裏付けができる。
しかし、このような行事を核にした総合的な学習はトピック的に扱わざるを得ず、体系的・系統的な運営の難しさが伴う。さらに生徒の実態をとらえ、その地域を「大きな教室」ととらえ、可能なプロジェクトを構成してく努力が必要である。
B 関心・意欲・態度
「課題作成」が最も重要であるが、課題作成のプロセスで、基本的な部分で課題設定のしかたや意味の把握に時間がかかったが、これは修学旅行中に課題追究する、ということをデザインするという点が難しかった。たとえば、最初は「お寺を調べる」「お坊さんを調べる」等の課題がほとんどであった。「どこで」「どのような課題で」「どのように」活動するかが基本となるわけだが、それ以前の問題として、興味・関心の部分で「自分は、どんなことを課題としたいのか」という発想がなかなか生まれない。
修学旅行当日の欠席者は一名で、病欠である。不登校傾向のある生徒等も事前学習から参加し、班員として班活動のに積極的に参加した。当日も楽しく参加している場面がする姿が見られた。 当日の活動の中に記録の残らない課題学習を経験している生徒もたくさんいた。それを支援している教師が、活動課程の中で生徒に意識させたり、活動をほめることの大切を痛感した。
C 「基礎・基本(社会化)」の観点から
・「探求する力」
課題作成のプロセスで、基本的な部分で課題設定のしかたや意味の把握に時間がかかった。「自分は、どんなことを課題としたいのか」とういう発想がなかなか生まれない。最初は「お寺を調べる」「お坊さんを調べる」等の課題がほとんどであった。
課題追究の段階では、どこまで事前学習し、どこから現地の調査学習にするのか、デザインすることに時間が必要だった。課題意識や設定、追究プロセスの基本的なスキルの問題である。
・「人とふれあう力」
危機管理の問題として、班別活動でバラバラになる、という班があった。各班の班長にはPHS携帯電話が渡されているので、何かあったら連絡をとるようになっているが、班員がどこにいるのか、わからなくなってしまうと事故やトラブルに巻き込まれても連絡をとれない、ということである。ホテルで反省会が開かれ、しっかり班行動が出来なかった班は、「もし、今日何か起こっていたら、ここにはいない友達もいたかもしれない」と注意を受けた。
修学旅行は、多くの人に支えられ成り立っている。その人たちが一番注意をはらっていることは、事故やトラブルに巻き込まれず無事に修学旅行をしてもらうことで、そのための支援や指導を一番に考えている。班別の活動では、その役割を班長を中心に班員一人ひとりで行わなくてはならない。もし、何かあったら手遅れであり、いつも支えている人達の立場で、そういうことを一番に考えて行動できるようにしたい。何人かの実行委員や班長が泣きながら謝った。翌日は、班長がリーダーシップをとって、班員が役割や約束を守る責任ある班活動が見られた。
また班活動で行ったインタービュー等の調査活動は、直接京都の人とふれあい、優しくしてもらったり、笑顔で答えてくれたりしてもらったことで自分から行動できるモチベーションになっていた。
・「表現する力」
「2年生へ伝えることを意識した表現活動」として発表方法を工夫し、掲示するものと配布するものと考えて準備をしている班がある。発表に向けて学習意欲のモチベーションとなっている。
(3) 支援の方針
@ 教科の学習と関連させる。「特活・国語・社会科・数学・理科・美術との関連」
内容的なものについては基礎となる知識を持つことが興味・関心につながるので、学習の入り口で基礎的な知識や情報を提供していく。
A 課題設定・追究への支援を工夫する。「学習への興味・関心」
生徒一人ひとりが意欲的に学習への取り組みを進めることができるように、個々の興味・関心を踏まえた目標、課題設定、学習活動の全ての場で学びを促す接し方、校内の全教師の協力、3年生としての立場を意識させた活動などを取り入れ支援していく。
B 教師の支援を工夫する。「教えと学びの共同体」
教師が学習のプロセスをデザインし、生徒の活動や学習要求に合わせて共に学びつくり上げていく姿勢でデザインを修正していく。
C ものや人とかかわりながら進める。「体験的活動」
実際に自分で作ったり、取材をしたりする活動を通して、自分たちの設定したテーマをより身近な事象としてとらえる。
D プレゼンテーションを工夫する。「スキルの獲得と自己評価・相互評価」
まとめの作文や報告書の作成により学習の価値を認識し、さらにそれを他に知らせたり紹介するための工夫をしていくことができるよう発表の場、機器などの支援を進める。
E 地域や保護者の協力と理解を図る。「開かれた学校」
例年、修学旅行で班別行動を行っていたとはいえ、一斉学習ではない生徒が「京都」で、しかも調査活動を行う、というである。班によっては、見学場所が2カ所というところもる。
保護者の理解や協力必要になる。開かれた学校の意識を全職員がもち、活動内容、経過などさまざまな場面、方法で保護者に伝えていかなければならない。また保護者や地域の声も聞き入れていく努力をしなければならない。
3 単元のねらい
(1) 京都にかかわる自然・産業・歴史・文学・芸術・環境・民族などについて、自ら課題を発見し、意欲的に解決しようとする能力を育成する。
(2) 自分たちで課題を設定し、方法を考えながら校外での学習や活動を促し、現地調査や実習、見学などによる直接体験をし、調査したこと他に知らせるプレゼンテーション能力を養う。
(3) 広い視野をもち、歴史的な文化財の意味や異なる文化をもった人々とコミュニケーションを図る。
(4) お互いの協力体制の中で共通の研究を進めることにより、一人ひとりの個性を認め合い、特に男女(公正な異性との関係)共に学び合う喜びがある集団づくりの一助とする。
(5) 教科などで学習した知識や技能を内省面で総合化し、態度化、実践化を図る。また、体験した事柄を教科などに還元し、教科としての学習に生かす。(知の総合化)
(6) いままでの学習経験の中で、獲得した知識、行動形態などをテーマに即して高度に組織化し、判断基準として構成する力を育成し、生涯学習の基礎とする。
(7) 一連の「宿泊体験T・U・V」の学習を通して、改めて自分の生まれ育った郷土(地域社会)の理解と愛情をさらに深める。
4 学習活動計画(全10時間)
時間 |
過程 |
学 習 活 動 |
支 援(★は評価) |
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(1) 総合テーマを決めよう。 |
・テーマが「総合理念」に沿っているかどうか確認できるように、身近なところから大きなテーマに迫れるようにすること、大きなテーマからそれないように生徒と対話する。 |
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課題設定 |
(2)班別のテーマを決めよう。 |
・班別のテーマが「総合理念」に沿っているかどうか確認できるよう促す。 |
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課題追究 ・ 計画立案 ・ 調査 |
(3) どうやって調べたらいいんだろう。 |
・当日の調査方法と事前の調査方法を分けて考えるように示唆する。 |
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教科等の連携 |
【事前のクロスカリキュラム】 |
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修 学 旅 行 当 日 |
課題追究 ・ 調査 ・ 体験 |
(5) 古都の宿泊体験をしよう。(修学旅行当日) |
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教科等の連携 |
【事後のクロスカリキュラム】 |
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ま と め ・ 確認 |
(6) まとめたことを発表しよう。 |
・報告書には、調査した内容や体験の他に、自己評価も記述させる。 |
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2 本時はその 2 時間目 |
ま と め ・ 発信 |
C資料や発表の方法を工夫し、報告会の準備をする。 |
・他の班のワークショップを質問したり、感想を述べながら回る。 |
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(7) 学習活動を通して、新たな興味・関心につながったものを整理しよう。 |
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5 本時の展開
(1) 本時のねらい
調査・体験活動を通して明らかになったことや見いだした課題を分かりやすく発表し、表現力を伸長するとともに、京都に対する見方や考え方を広げたり、深めたりことで自分たちの郷土に対する理解と愛情をさらに深める。
(2) 準備
発表資料(発表シート、模造紙、写真)、コンピュータ、提示用パネル、ガイドブック等
(3) 展開
時間 |
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【一斉学習】 |
・ワークショップ形式の発表は、班ごとに分かれて班内の分担にしたがって、発表に参加するよう伝える。 |
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【班別学習】 |
・生徒の主体性を生かして発表の進行ができるように、司会の生徒には、事前に本時のねらい学習活動の進め方を把握させておく。 |
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【個別学習】 |
・発表や質問の内容に疑問に思ったり、異なった考えをもったりなど自分の考えを整理するよう促す。 |
(4) 班別の学習活動
【3年1組】
班 |
時間 |
生徒の学習活動 |
活動への支援 |
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テーマ :標準語と京都の言葉の違いを調べる |
・自分たち言葉という視点から発表できよう促す。 |
−以下省略−
【資料1】
相互評価シート
『班別活動で注目すべき活躍を見せた友だちとその理由』
1組 1班( ) 活躍した友達( ) |
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女1・班長で、みんなを引っ張っていたから。(自由行動のとき、率先して動いていた。 |
−以下省略−