社会科学習指導案
平成10年6月19日(金)
T 単元名 わたしたちと政治
U 単元の考察
1 教材観
(1) 主な学習事項
最近、日本の若者が政治に対する意識が低いことが叫ばれている。シニカルな政治意識を持ち、特に選挙の投票率の低下は著しい。中学校における政治学習は、公民的、特に市民的資質を培う上できわめて重要である。では、具体的に政治をどのように学習すればよいのか、いろいろな考えがあるが、ここでは、「政治ってなんだろう」という素朴な疑問からスタートする。
前単元の基本的人権の学習を受けて、人間尊重の精神に基づく国民主権の立場から、民主政治のしくみとはたらきを国民生活に関連させとらえられるよう配慮し、「政治」と身近な日常生活は深いつながりがあることを強調したい。
しかし私たちがくらしていく中で、それぞれが勝手気ままにふるまっていたのでは、人々の間で対立や争いがおこってしまう。「政治」は、趣味や考え方の違う人々の間で守るべき社会全体のルールや目的を決めるしくみであり、私たちのくらしが良くなるかどうかは、「政治」の行い方によって違ってくるといえる。
それでは、政治がよく行われるためにはどうしたら良いだろうか。国民のすべてが直接に政治を行うことはできないので、代表者を選んで政治を行うことになるのである。この代表者を選ぶことが「選挙」であり、どのような代表者が選ばれるかによって、「政治」は良くも、悪くもなる。その意味で、国民一人ひとりの意思を正しく「政治」に反映させるためには、「自分一人くらい投票しなくても…」と考えずに、「選挙」に積極的に参加していくことが必要である。
学習指導要領の内容の(3)民主政治と国際社会の「イ 民主政治と政治参加」を受けて内容が構成されている。「議会制民主主義の意義」「多数決の原理とその運用の在り方」「公正な世論の形成と国民の政治参加」「選挙の意義」「政党の役割」については、特に「選挙」は国民の意思を政治に反映させるための主要な方法で議会制民主主義をささえるものである。また国民の積極的な参加により「民主政治を推進する」ことが大切である。
(2) 見方・考え方
生徒は、第2学年の時に『大日本帝国(明治)憲法制定に自由民権派の意見は反映された』『太平洋戦争は、日本政府にとってさけることのできた戦争だった』という論題で2度ディベートの学習を行っている。ディベートよる資料活用能力やディベートマッチの能力をを生かし、話し合いの学習を発展させたい。ここでは「選挙」の重要性から『投票率をあげるためにはどうしたいいか』ということで全員で話し合い「論題づくり」に取り組み、論題を決める。「定義」、「プラン」についても全員で話し合う。それをもとにディベートマッチを行い、まとめとして新聞へ投書を行う。
本単元は、生徒自ら設定した論題でディベートを行い、「選挙」についての問題点や改善点(定義・プラン)を多面的(肯定・否定の両方の立場から)に考察させる。ここで身につける見方・考え方は四つの観点から次のようになる。
@ 政治に対して関心を持ち、進んで資料・情報を収集し、「選挙」ではディベートの論題づくりも積極的に意見を聞いたり、発言したり、話し合ったりすること問題点や改善点を考え、積極的に政治に参加しよう態度を身につけていく。
A ディベートマッチのための論理的思考能力の育成により、資料の事実を通して自分の立場に立って論理的に考え、判断すること、肯定・否定の両方の立場から考察し、多面的な見方・考え方ができること、さらにディベートの結果から新聞の投書を通して社会的な判断力が身に付くと考える。
B ディベートに必要な資料や情報を幅広く収集・選択し、効果的な発表資料作成し、それに基づいて自分の考えを発表したり、討論することが期待できる。
C 論題に対する基礎的・基本的な知識を身につけ、またそれに関する社会的事象について色々な面から理解できる。
学級の実態に応じて役割ごとに発言の場を保障し、自己表現活動を仕組むことが、生徒一人ひとりの主体的な学習態度に結びつくと考える。さらに、生徒にディベートマッチの結果を通して、「選挙」に対する自分なりの見方・考え方を新聞の投書に記述させ、それを評価の視点としたい。
2 教材の系統 省略
3 生徒の実態
(1) 学習事項に関する実態
授業への取り組みは真面目で、発言等も多く、作業をする等の学習の取り組みは良い。例えば課題学習で、発表のために模造紙やTPシートを使った資料づくりなどの取り組みは積極的である。この単元では政治について「選挙」の重要性と「話し合い」の大切さに気づき、課題解決的な学習をより深めるために論題を自分で考え、ディベートを行う。ほとんどの生徒はディベートの学習に興味・関心を持って取り組んでいる。学習事項に関する基礎的な知識も身についている。まとめとして『投票率を上げるにはどうしたらいいか』というテーマで新聞に投書し、評価とする。
事前のアンケートで「選挙や国会について知っていること」の結果は次の通りである。
「20歳以上が有権者」(6名)、「選挙の4つ原則」(6名)、「話し合い」(3名)「橋本龍太郎」(2名)、「国会から総理大臣が決まる」「国会議員」「国民主権」「捕まる人が多い」「小渕外務大臣」「投票」「えらい人が集まり国を進める」「大切なこと」「女子の選挙権が遅かった」「むずかしい」「日本国憲法制定によって与えられた」(各1名)というような結果である。「選挙」についての意味は基本的に理解している。選挙制度等は既習である。「国会」については「正当に選挙された代表者」という憲法の前文や第41条でふれているが、国会の学習はこれからであるので、内閣と混乱も見られる。
(2) 見方・考え方に関する実態
課題解決的な学習において、様々な資料を使いながら課題を追究していくという場合、必ずしも生徒たちは課題追究の学習過程で論理的な見方・考え方を身につけているとはいえない。自分で設定した課題であっても生徒たちは事務的にいわゆる答えさえ探せばいいのであり、充分な調査や話し合いをしていないのが現状である。
例えば資料を丸写しにし、そのまま棒読みにしたり、課題把握があまく用語の説明で終わったりする。課題の学習内容を短絡的に判断し見つけているだけなのである。
本単元では、「投票率を上げるにはどうしてらいいか」ということでディベートの「論題づくり」を行う。またそこから「定義」や「プラン」を考え、より主体的に学習を行えるようする。事前のアンケートで「民主主義という言葉からイメージすることは何か」の結果は次の通りである。
「国民一人ひとりの意見を尊重」(4名)、「国民が政治に参加する」(3名)、「国民主権」(3名)、「わからない」(3名)、「国民のため」(2名)、「誰もがみんな競争して、お互いを高め合う」「国民の意見を聞いてそれを実行する」「民主主義人民共和国」「これからの日本」「東京の人」「選挙ができる」「人民中心」「守らなければならない」「むずかしい」(各1名)である。
既習のディベートの学習等により論題に対して関心を持ち、進んで資料・情報を収集し、積極的に意見を聞いたり、発言したり、話し合ったりできる。ただし、「わからない」(3名)は取り組みが消極的である。
(3) 意欲・関心・態度に関する実態
本学級では、勝敗を決めるゲーム的な学習が好きで、全般的にまじめで取り組みは特に良い。班別学習などでの班対抗では各班でより協力して学習に取り組める。
「今までの学習から政治についてどう思うか。」という質問のアンケートで次の6つの選択肢で複数回答の結果である。
|
|
アンケートの結果からは政治は大切であるが、むずかしいということである。よくわからないも7名いるが、興味がある生徒も5名いる。興味がない2名はこの単元の課題である。
「公民の学習が好きか。」という質問では「はい」(4名)、「普通」(18名)、「いいえ」(2名)である。またこれらのアンケート結果がどのように変容していくかが評価の視点となる。
V 学習指導と支援の方針
1 導入部では、生徒たちの興味や関心にうったえるように、前単元の人権との関連を図り、生徒たちに興味を喚起させて共通課題を全体で考えていけるように意欲付けを図る。
2 課題解決的な学習の時は、各自が主体的に物事をとらえ、思考できる力を培えるように、一人一人に自分の考えを持つことのできる時間を保障するとともに、次にグループ活動を行いながらお互いの意見交換を大切にする。
3 全体の「話し合い」ではディベートの「論題づくり」を行い、「定義」や「プラン」をしっかり考えさせる。
4 資料選択の時に、そのまま写すのではなく、その資料を「証拠資料」として選択した理由を記述させるとともに、引用する場合は問題点をはっきりさせ、解決するために必要な資料としてまとめられるようワークシートを工夫し、支援していく。
5 発表においては、各班内で協力してディベートマッチが行えるようフローシートを工夫し、また各班でお互いの考えを認め、自分たちが調べた視点以外から課題解決の共有化を図るとともに、課題追究を深めるきっかけにしたい。
6 グループ編成は、同じ考えで相互に助け合い、協力できるように配慮し、同質集団編成にする。
7 事前学習の課題を果たし、ディベートに対する取り組みを確実なものにする。
8 論題に対して基礎的・基本的な理解ができるよう1時間は教科書を中心とした教室でのリサーチを行い、消極的な2名には学習ワークシートを工夫し、記入させる。
9 ディベートマッチを充実させるために「立論作戦書」ワークシートを確実に作成させ、事前に各班で立論内容を共通理解させる。
10 「民主政治を推進する」上で「選挙」は大切であり、新聞に「投票率を上げるためには」ということで投書することによってその重要性に気づかせる。
W 単元の目標
「政治とはなにか」について考えさせ、国民として代表者を選ぶため「選挙」がきわめて重要であることに気づき、国民主権の具体的現れとしての意義と重要性を理解する。
X 評価規準
1 社会的事象への関心・意欲・態度
生徒会役員選挙や各種委員会の選挙などに積極的に参加し、有効に実施することができ、将来、選挙権が与えられたら、有効に活用しようという自覚を持つことができる。
2 社会的な思考・判断
選挙において投票することが、民主政治の大切な行為であることを認識し、それが国民の権利であると同時に責務であることについて肯定・否定の両方の立場からの多面的に考えることができる。
3 資料活用の技能・表現
年表やグラフから、日本の選挙権拡大や投票率低下などをつかみ、またディベートに必要な資料や情報を幅広く収集・選択し、効果的な発表資料を作成できる。
4 社会的事象についての知識・理解
「選挙」は間接民主制をとる日本では国民が政治に参加する、きわめて重要な機会であり、世論形成には、マスコミが重要な役割を果たしていることを理解できる。
Y 指導と評価の計画(6時間予定)
学 |
主な学習活動 |
|
評価項目と方法 |
|
|
||
学習目標把握 |
・学習目標を知る。 |
・学習目標「わたしたちと政治」のを提示する。 |
@「わたしたちと政治」のかかわりについて進んで話し合い、意見を発表している。[観察・発表] |
|
・「政治ってなんだろう」など学習課題を設定し、学習計画を立てる。 |
・「読み物資料」や前時のビデオ視聴や話し合いの内容から意味の分からない用語、疑問点等を調べ、ノートに記述させる。 |
@A学習課題に関心を示し、 |
|
・「間接民主制」と「直接民主制」から、日本での政治参加の方法を知る。 |
・国民として代表者を選ぶための選挙がきわめて重要であることを考えさせる。 |
@A各自や班における話し合 |
|
・「投票率を上げるためにはどうしたら良いだろうか」でパネリストを選び話し合い、そこから「論題づくり」を行う。 |
・話し合いの内容からディベートの論題づくりだということを理解させる。 |
@Aパネルディスカッションに興味をもって、参加し「論題づくり」を追究しようと姿勢がみえる。 |
|
「論題の決定」 |
・既習の学習内容をもとに相手の意見を聞きながら、自分の考えのまとめをうながす。 |
@AC「選挙」の意義について理解し、「投票にいく人が増える」という観点から論題に対して肯定・否定の立場から積極的に自分の考えを発言する。 |
学習のまとめ(評価) |
・「選挙」(投票率の低下)などについて自分なりの考えをまとめさせる。 |
A論題に対して肯定・否定の |
Z 本時の学習
1 ねらい
「投票率を上げるためにはどうすればいいのか」というテーマで話し合い、国民主権の現れとしての選挙の意義と重要性を理解させ、民主政治の実現のための選挙のあり方を考えさせる。
2 準備
教科書、公民資料集、公民用語集、記録用紙、ワークシート、評価表
3 展開
学習活動 |
時間 |
指導上の留意点と支援 |
評価項目 |
||
(1) パネルディスカッションの準備 |
|
・相手の意見を良く聞き、自分の考えと |
@Aテーマについて自分の考えが持て積極的に参加しようとしている。 |
||
|
選挙の投票率を上げるためにはどうすればいいか。(ディベートの論題を決定する) |
|
|||
(2) パネルディスカッションを行う。 |
|
・今回が初めてなので、司会は教師がする。 |
|
||
(3) 立論作成 |
|
・リサーチを行う時間はとらないので各班で相談しながら、自分たちの意見をまとめさせる。 |
A論題に基づいて論拠をもとに肯定・否定で立論を考える。 |
||
(4) 先生の話を聞く。 |
|
・次回のディベートマッチのフォーマットについて理解させる。 |
C論題に対して肯定・否定の面から理解できる。 |
||