家畜診療、46、383〜385(1999)

牛における体液中尿素態窒素は、まず飼料蛋白質の質と量に規定されます。飼料蛋白質は第1胃で微生物により利用される分解性蛋白質、第1胃でアンモニアに分解される溶解性蛋白質および第1胃では利用されずに第4胃以降で利用される非分解性蛋白質に分類されます。分解性蛋白質、溶解性蛋白質は第1胃で速やかにアンモニアに分解され、微生物蛋白質に再合成されますが、この際に変換エネルギーとして易発酵性炭水化物による発酵エネルギーを必要とします。したがって、この変換エネルギーが不足する状態あるいは飼料中に分解性、溶解性蛋白質が多い状態では、第1胃内においてアンモニアが過剰状態となってしまいます。その結果、体液中尿素態窒素の増加を招来し、肝臓での解毒機能の負担を増加させることになります。このような状態が継続すると牛群の健康や繁殖成績に悪影響を及ぼすことになります。

現在、各酪農家では高蛋白・高エネルギー飼料給与による高泌乳化への魅力と牛群の健康管理から手探りで飼料給与しているのが実情と思われます。酪農家にあっては残飼等の問題もあり、例え飼料計算を充分に行っていたとしても、実際どのくらいの飼料を牛群が摂取しているかは不明確な側面があるのが実態です。そこで、給与飼料中の蛋白質、エネルギー摂取により影響される体液中尿素態窒素測定により、牛群の飼養管理上重大な誤りをおかしていないか判定することの必要性が出てくるわけです。

体液中尿素態窒素の臨床現場における測定は血中と乳中が考えられますが、採材の容易な乳汁を用いての尿素態窒素測定は過去にも牛群の栄養判定の指標に用いられてきました。この場合、乳汁から乳脂肪、乳蛋白質を除去後、酵素法あるいはジアセチルモノオキシム法等により尿素態窒素の測定を行っていたため、多検体処理には不向きでした。しかし、近年では乳成分測定機に尿素測定機能がオプションで装備され広く活用されつつあります。この方法は乳汁に赤外線を当て、その吸収率から尿素量を測定するものであり、生乳一般成分とともに測定され多検体処理が可能です。つまり、乳汁サンプルを用いることにより代謝バランスを調べるために別途その牛群から血液を採材する必要はなくなり、検査対象もすべての泌乳牛を対象とすることが容易となった訳です。

各種方法を用いて測定した乳汁中尿素態窒素の成績では、赤外線分析装置を用いる方法での乳汁中尿素態窒素濃度は過去の方法に比較してやや数値が低くなる傾向にありました。また、その基準値としてはドイツアメリカで示された数値があるものの、その水準は国によって異なったものとなっています。そのため、日本の飼養形態における乳汁中尿素態窒素基準値の設定が望まれますが、高蛋白質飼料給与牛群の乳汁中尿素態窒素濃度は15〜16mg/dl以上であろうとみなされます。

一般的に生化学検査、特に代謝プロファイルテスト的な牛群管理においては、継続的に検査することの重要性が唱えられてきましたが、実際の現場においては採材や検査費用の面からも困難を伴うのが実情です。しかし、乳汁中尿素態窒素測定の最大の利点は、一時点のみの検査としてその牛群の飼養管理診断に応用することよりも、その採材の長所を生かして継続的に測定することを可能にした点です。乳汁中尿素態窒素は泌乳期による飼料摂取の変動や、飼料の品質により大きく変動することが考えられています。特に重要なのは第1胃内での分解性蛋白質の問題です。具体例をあげれば、同一の蛋白質飼料であってもロットや加熱の状態で第1胃内での蛋白質分解性は大きく異なります。また、全く同一の蛋白質飼料を給与してもその牛群、あるいは個体の第1胃の状態により、その数値は大きく変動することは明らかです。したがって、乳汁中の尿素態窒素を定期的な飼養管理診断に恒常的に活用していくことが重要であろうと考えられます。

蛋白質代謝へ