ROYAL OPERA HOUSE
 costume department storeでの研修細目

・ OPERA 
    「IL TRAVATORE」
    「La Cenerentola」
    「Turan dot」
    「Boulevard Solitude」
    「The Queen of Spades」

・ BALLET        
    「Romeo and Juliet」
    「This House will Burn」
    「Arthur U」

           上記、演目の衣裳制作をサポート

 ROYAL OPERA HOUSEでは 月曜日から金曜日までの週5日、朝9時までに出勤、午後1時から2時までの昼休み後 夕方は6時頃まで研修の目的である衣裳制作を学んだ。又 1〜2週間に1度は、R・O・Hで上演されるオペラやバレエを観せていただくことができた。

・ オペラバレエの衣裳制作について
 
 オペラの衣裳は、今まで携わったことがなかったので その制作課程を
興味深く体験することができた。
 特に、古典の作品では パニエやコルセットなどアンダードレスの制作工程を見たり、縫製したりして とてもよい勉強になった。
 このアンダードレスを完成させるだけでも 大変な時間と手間を費やし、ボディファンデーションの大切さを改めて知ることができた。
 例えば役柄に応じて、又は舞台から見たときのシルエットの美しさを考えて、
このアンダードレスでまず役者のボディを整え補正していく。コルセットでは
バストの形を整え、ウエストをしめて上半身のシルエットを作り出す。上半身のシルエットづくりで すでに時代や役柄、デザインをいかにうまく仕上げていくか という作業が始まっている。スカートのシルエットはパニエで作り出す。上半身とのバランスを考えたり、スカートの素材に適したパニエを制作する。古典の作品では、スカートのシルエットは時代背景をあらわす大切なポイントになるが、デザイナーの意図も生かされなければならない。様々なことを熟慮して全体の美しいシルエットが作りだされ、アンダードレスが制作されていく。
 そして、制作の上では着る側にたった着やすさ、動きやすさを工夫しなければならない。歩きやすさの工夫、座りやすさの工夫、役者の表現を妨げない動きやすさの工夫などの機能性が必要とされる。そしてまた一方では、管理がしやすい様に、ボディパットの取り外しができてクリーニングが簡単にできる工夫、パットの厚みが調節できる工夫もされていた。
 これらすべての機能性を美しさの中に組み込んでいく。この大切さと難しさを実感した。
 このアンダードレスづくりは その重要性と共に制作の技法、素材の扱い方などとてもよい勉強になった。
 アンダードレス制作と平行してドレスの制作が行われている。

 ドレスのパターンは熟練した技術者が 立体裁断で作っていく。細かいところは 仮縫いを繰り返し、人手と時間を惜しみなくかけ仕上がっていく。
 仮縫いは 一つのドレスに対して 2〜3回、制作側の代表者とデザイナーが一緒に行う。役者やダンサーの身体に合わせたフィッティングと同時に デザイナーのイメージを仕上げていくフィッティングでもあるからだ。帽子やアクセサリー、靴も合わせていく。こうして繰り返されるフィッティングの中で
制作者とデザイナーが意見を交わし見事なドレスが出来上がるのだ。
 基本的な制作の手順や技法は、普段私達が日本でしていることとあまり変わらないがこの様なシステムの中でかけられる 費用、時間、手間は大きく違い
「別世界」という感覚を持った。そして オペラやバレエを作っていく人達の情熱や意欲が生まれやすく育ちやすい環境が整っていると思った。

・ R・O・Hのwork shopについて

 驚いたのは そのworkshopの数の多いこと。私が研修していたCostume Departmentだけでも 3つのパートに分かれていたがコスチュームに関わるworkshopだけでも 他に
  Jewelry&Hat Department store
  Dye Department store
  Shoe Department store
  Wig Department store
に分かれて仕事が細分化されている。
 そして、これらのworkshopは新しい衣裳を作るためだけのworkshopで
これらとは別に Costume Support Department Storeがある。
 ここでは、再演のための衣裳の準備が行われている。古くなった衣裳を新しく作り直したりサイズやほころびの直しなど あらゆる修理を行っている。
このDepartment storeと隣接してクリーニングの部屋があるがここはさながら大きなクリーニング工場といえるほどの規模だった。
Costume Supportでは常に 多勢の人々が働いていて皆とても忙しそうだった。

 私が研修していたところは Costume Department Storeの中でLady'sだけを作るところ、ガラスの壁一枚隔てた向こうでは、Men'sの衣裳を制作していた。反対側のドアを開けると そこはオフィスになっていて デザイナー、スーパーバイザーの人達が仕事をしていた。オフィスの中にはデザインルームや会議を開くお洒落なしかし機能的な部屋がありNew Productionの企画はここで話し合われる。衣裳、セット、照明など 各デザイナーや制作者、それに携わる代表者が集まって新しいオペラやバレエが生まれてくる場所だ。
 仕事が細分化されていても ステージが見事な出来映えなのは ここでの綿密な企画があるからなのだと思った。
 仕事の細分化は Costumeに限ったことではない。一番驚いたのは ステージクリーナーと呼ばれる人達がいることだ。毎日、毎日、ステージだけを掃除してくださる。そんな技術者がいることにビックリした。
 とにかく、ここR・O・Hの舞台裏には数え切れないくらいの Department
Storeがあり そこでは 想像を遙かに越えた技術者、職人達が働いていた。

・ R・O・Hの設備と英国の芸術環境について

 初めてR・O・Hの建物の前に立った時、その美しさに感動した。
  1999年12月に大改造されたばかり、ということもあるが そこに立っただけでもオペラやバレエの芸術性を充分に感じることができる。それ事態が芸術性の高い建築物だった。ガラスと白い鉄骨で出来ている正面の壁は 外側から見ても建物の中側に入ってみても、本当に美しく感動的だ。オペラやバレエを観に来た観客は 休憩時間にここのエントランス(バー)でワインやシャンパン、ウィスキー、ソフトドリンクなどのグラスを 傾けながら 話を交わし絵になる様なひとときを過ごす。
 ロビーの風格も客席の雰囲気も 歴史と伝統を感じさせ、さすがに「Royal」とうなるものがあった。そして、オペラやバレエを楽しむにふさわしい環境とはこういう所なのかもしれないと思った。観客はまず 建物の美しさに包まれて日常から離れる、舞台を観て心を豊かにし 休憩時間にもゆったりとしたひとときを過ごせるのだから…。
 R・O・Hの舞台裏は、舞台の3倍ほどもある広々としたスペースだった。このスペースが確保されていることで 連日の舞台スケジュールや上演中の急転換が可能となるのだ。これを見たときに「昼間 ロミオとジュリエットのバレエリハーサルをしていたのにどうして夜は Turan dotの本番ができるの?」という 私の疑問が解けた。
 楽屋も 出演者に配慮した使いやすい楽屋になっている。
 そして 私達が働いていた部屋も広々としていて 作業台も 一人で畳2畳分くらいを使えるのだ。どんなに 散らかして帰っても清掃係の人がきれいにしてくださる。あまりの整いすぎた環境に感謝しながら、日本では得られない贅沢を味わっていた。

 英国では、R・O・Hだけでなく 芸術を鑑賞する場所 美術を鑑賞する場所の環境が整っていると思った。美術館は、ほとんど無料で入館でき美術館の建物もとても芸術的だった。そして 展示品のディスプレイも作品に気配りされ、しかも私達にも見やすい様に飾られていた。作品は大切にされ、見る側はそのセンスも感じることができる。他の事は少々無理だが、このディスプレイに関しては是非 日本の美術館関係の方々に実践してほしいと思った。
 しかし よく考えてみれば日本でも自国の美術 芸術に関しては 質の高いすぐれた環境を持っていると思うので それはそれでいいのかとも思った。
日本の芸術や美術、文化を日本で守っていくことの方が 大切なことだと思うから…。
 英国の芸術に触れながら 日本の芸術や美術、文化についても とても考えさせられいろいろな意味で 両方への不思議な想いが募った。その想いは今でも続いている。

・ Barracuda Limitedでの研修について

 ここでは演劇「テンペスト」の衣裳制作とノッティングヒルで行われる カーニバルの衣裳制作を学んだ。テンペストはイタリアのフィレンツェで上演されたが デザイナーのサルバトーレさんの好意で 観に行くことが出来た。別の会場に観客を集め 本会場へバスで移動する。このバスの中からもうこの作品の演出が始まっている。バスを降りると ある学校の中庭に着き、そこが舞台になっている。舞台といっても高台はなくその庭をあるきながら 演劇を楽しむ。斬新な演出、様々なアイディアに感動した。
 カーニバルの衣裳は 今年のテーマがJAPANを意識したものということで企画、デザインにも参加させてもらうことができた。R・O・Hでの衣裳とは全く違うカーニバルの衣裳制作が体験できたこと、英国と日本の文化の交流が出来たことは、大変嬉しく想い感激した。しかし 私の研修期間内では 仕上がらず、最後まで携われなかったのが心残りだった。

 

 

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