その時
山がある
幾つもの山がある
私は手を振り
千切れんばかり
それを跨いで
進んでいく
風が吹く
山を吹き散らす
狂った風が
地上の至る所を
吹き渡る
その氷の風に
凍えついた私は
どんとでかく
山に寝る
まどろみが
地球を包んでいく
今その時
お前の良心は思わないのか
もう吹くのはよそう
もう吹きたくない
もう十分吹いたと
船越保武 「原の城」