裏のまるしてん様

昨年の春
おじいさんは
目に涙を浮かべて
死んじまう
死んじまうと
つぶやいていた

40度を超す夏がきて
おじいさんの布団の周りに
弔問客の黒い影が
おとずれている
というのにおじいさんは
おじいさんが亡くなった
ということを
知らない

急に雨が降り出し
裏のまるしてん様の
大きな木が
いっせいに
音を立てて
びしょ濡れになっているというのに
おじいさんは
おじいさんが亡くなったということを
もう
知ることはない