【 メス・マウス、覚せい剤乱用者の広範性虫歯 】       赤城高原ホスピタル

(改訂 10/08/19)


[メスマウスについて] (この項目、10/08/19追加)

覚せい剤乱用者の広範性虫歯について、いくつかのマスメディアから問い合わせがあり、文献にあたってみましたところ、以下のような事が分かりました。
単なる口腔内不衛生以上のことがあるようです。「メスマウス」という呼称まである、特徴的な症状の一つでした。情報源は、ほとんどが、アメリカないし英語圏のものです。
折角調べたので、ここに要旨をまとめました。

 日本で言う「覚せい剤」の化学名は、メタンフェタミンですが、英語圏では、メタンフェタミンのことを俗語で、短くメス(“Meth”)と呼びます。そしてメタンフェタミン乱用者に特徴的に見られる広汎性、重症の齲蝕(虫歯)や歯肉炎のことを、俗語でメス・マウス(“Meth Mouth”)と言います。薬物汚染大国、アメリカでは、最近の5年(2006-2009)位、若干の減少傾向があるとはいえ、ある調査報告(2008)では、12歳以上の総人口の約5%が少なくとも1度はMethを乱用したことがあるとされています。当然メスマウスも歯科医療上の大問題です。元歯科医師会長の、「メスマウスが歯科医療費を増大させるのではないか、あるいは既にそうなっているのではないか」という発言もメディアに紹介されています。米国歯科医師会(ADA)のHPにも、メスマウスの解説記事があり、関係者は「メタンフェタミンに犯された歯は手の施しようがなく、全部抜歯するしかない」と警告しています。

メスマウスができるメカニズムについては、以下のような複数の要因が関係していると言われます。

@ メタンフェタミンの製造過程で使用した酸性汚染物質残渣の直接的薬理作用。
A メタンフェタミンの薬理作用による唾液分泌抑制現象と口渇(口腔内乾燥)のため、歯周保護作用が失われる。
B 長期間に渡る口腔内の不衛生。
C 糖分の多い炭酸飲料の頻繁な摂取。
D 歯ぎしり、歯の食いしばりによって、歯の摩耗、亀裂を誘発。

 メタンフェタミンの製造過程では、多数の強酸性化学物質が使用されますが、密造の場合、最終製品にもその不純物残渣が混合しています。それをあぶりによって使用する場合、高温の酸性腐食性物質が口腔内に広がります。また、汚染物質が喫煙によって何度も熱せられ、歯肉や歯の表面を腐食し、炎症を起こすとも言われます。もっとも、医薬品として精製されたメタンフェタミンの乱用者でもメスマウスが見られるという報告もあり、酸性不純物だけが原因とは考えられません。

 覚せい剤乱用者が薬物を使用した時に、典型的には約12時間ハイ状態が持続します。その間、彼らは、口の渇きに対応するため、糖分の多い飲み物を常に持ち歩き頻繁に口にします。そしてその間、多分、歯磨きをしません。典型例では、不眠、過活動のハイ状態の後に離脱症状として、強い抑うつ感、脱力感と眠気が出現し、長時間の眠りに入ります。時々目覚めて半覚醒状態で過食するのも特徴的な症状のひとつです。覚せい剤乱用者の多くはこの時期には、丁寧な歯磨きなどできません。そうすると口腔内を糖分や酸性不純物で汚染したまま、口腔粘膜や歯を保護する唾液分泌が不足した状態で長時間放置することになります。口腔内は、細菌の培養地となります。このような不衛生な口腔内環境が長期に続くと確実に虫歯ができ、悪化し、広がります。また、覚せい剤乱用者では、歯ぎしりや歯のくいしばりが見られることが多く、そのため、既に弱体化している歯が摩耗し、亀裂が入ります。

 このほか、私自身の経験した症例では、歯痛があっても歯医者には行かず、代わりに覚せい剤を使用していたという患者がいました。不思議に痛みなど感じなくなる、気にならなくなると言っていました。また、覚せい剤患者は、一つのことをやり始めるとやり続け止まらなくなります。別の症例で、つまようじなどで歯をほじり始めると病巣部をいじり続け、出血し始めても止められず、いじり壊すという人もいました。この方は、耳掻きでも出血するまで止められない、とも言っていました。まあ、このようないろいろな要因が重なってメスマウスができ上がるのでしょうね。

メタンフェタミン乱用だけでなく、コカインやメチルフェニデート(リタリン)など、アンフェタミン類化合物の乱用でもメスマウスと同様の広範性虫歯が見られます。

以下、参考にしたサイトの一部

Meth mouth (Wikipedia) (10/08/19確認)
英文ウィキペディアの解説記事

The Truth About Meth: A Devastating and Addictive Drug (10/08/19確認)
ペンシルバニア州歯科医師会による、"meth mouth" 最新情報(10/08/16)。酸性不純物が関係すると主張している。

Meth Mouth (ADA) (10/08/19確認)
アメリカ歯科医師会の解説記事

Meth Mouth (Google Image)  (10/08/19確認)
Googleのイメージ検索、食欲がなくなるような恐ろしい写真がいっぱいあります。


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AKH 文責:竹村道夫(初版:2010/08) 


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