【摂食障害 と 上腸間膜動脈症候群 】   赤城高原ホスピタル

(改訂 02/06/06)


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[ はじめに ] 

 このページは、一般のビジターにとっては、やや専門的過ぎるかもしれません。

 最近、数人の摂食障害の方から上腸間膜動脈症候群という病名を聞きました。どうも摂食障害と上腸間膜動脈症候群の合併が増えてきているようです。
 そこで、私なりに調べてみました。

 筆者は内科外科的問題の専門家ではありませんので、誤解しているかも知れません。疑問のある方は、主治医や専門家に確かめてください。


[上腸間膜動脈症候群( superior mesenteric artery syndrome;  略称SMAS ) とは]

 上腸間膜動脈症候群は、比較的稀な消化器疾患です。

 しかし、文献上は、1861年に初めて記載されて以来、少なくとも 300例以上の詳細な症例報告があります。

 上腸間膜動脈症候群はまた、Wilkie's Syndrome (Reiss B. et al 1996; Van Brussel JP, et al 1997)とも、Cast Syndrome (Sprague J 1998 )とも呼ばれます。


[解剖学的説明]

 十二指腸の水平部位(第3部位)は、前方から上腸間膜動脈に、後方から腹部大動脈と腰部脊椎に挟まれた位置にあります。この部位は、通常は、脂肪組織やリンパ組織のクッションによって守られていますが、 急激な体重減少に伴って、上腸間膜動脈周辺の脂肪組織のクッションがなくなり、十二指腸の第3部位が前後方から締めつけられることによって、十二指腸閉塞を起こします。この締めつけは、上向けに寝ることによって強くなるので、患者がベッドに入った時、特に仰臥位で症状が悪化することになります。


[症状]

 急性の場合には、食後の急性胃拡張(腹部膨満)、激しい嘔吐など、急性十二指腸閉塞の症状を示します。

 慢性の場合には、慢性、間欠性腹部痛を起こします。

 症状は、食後に悪化します。

 体位によって症状が変化します。仰臥位(上向き)より、坐位、伏臥位(腹ばい)で症状が軽快します。上腸間膜動脈の締めつけ力が弱くなるからです。

 正しい診断と適切な治療が行われないと、上記の症状は悪化し、胃穿孔、衰弱、感染症併発などによって、死に至ることがあります。


[体質的要因と発病促進要因]

 上腸間膜動脈症候群発症の体質的要因としては、大動脈、上腸間膜動脈、トレイツ靭帯、十二指腸、腰椎など、この疾患に関わる局部の解剖学的位置関係が、十二指腸の第3部位を締め付けやすい構造になっていることが挙げられます。

 また、発病促進要因としては、悪性腫瘍、重症の熱傷、重症頭部外傷、摂食障害、吸収不良症候群、大規模な手術後、脊椎の変形、外傷、手術(およびギプス固定)、筋ジストロフィーなどによる著しい体重減少、仰向けの体位のギプス固定などがあります。

 依存性薬剤の連続使用からくる急性の体重減少による上腸間膜動脈症候群の発病(Barnes JB. Et al 1996)や、これらの発病促進要因の見つからない(健康な成人の)上腸間膜動脈症候群発症の報告(Reiss B. 1996)もあります。


[摂食障害と上腸間膜動脈症候群]

 近年、筆者の印象からも、文献上(Adson DE. et al 1997など)も、摂食障害に合併した上腸間膜動脈症候群発症の報告が増えてきているようです。

 上腸間膜動脈症候群は、摂食障害の鑑別診断という点でも、摂食障害の合併症としても重要です。

 摂食障害、とくに過食症では、食後の腹部膨満感、腹部痛、嘔吐などは日常的に見られる症状ですから、摂食障害と上腸間膜動脈症候群の鑑別診断は、とくに難しいと思われます。

 また、摂食障害の患者が、体重増減の既往、拒食や自発的嘔吐の事実を隠して、内科や外科を受診したり、摂食障害の病名を隠して、過食後のパニック状態で救急外来を受診したりすることがよくあります。

 拒食症だとガリガリの体型から、医師も摂食障害の存在を疑いやすいのですが、正常体重に近い過食症だと、本人から聞かないと分からない場合もあります。思春期から20代前半の上腸間膜動脈症候群の症例(とくに女性)では、先行する摂食障害を疑い、これを見逃さないようにすることが重要です。

 逆に、摂食障害の患者が、上腸間膜動脈症候群を併発して、精神科や内科を受診しても、摂食障害の症状の一部と誤解されて、上腸間膜動脈症候群の併発を見逃される危険もあります。

 この項目の、いろいろな情報は、筆者が直接体験したり、多くの摂食障害の患者さんやご家族から聞いたものです。


[上腸間膜動脈症候群の検査と診断]

 上腸間膜動脈症候群の診断は、通常は、他の疾患を除外することによってなされます。

 病歴聴取では、体重急減の後に症状が出現していること、食後、ベッドで横たわった時(特に仰臥位)に悪化する嘔気や腹痛、などに注意すべきです。

 病歴聴取の他、単純X線検査、造影剤使用X線検査、内視鏡、胃と十二指腸粘膜のバイオプシー、腹部CT,超音波検査などが必要になることがあります。

 食後の急性症状期に左腎静脈の直径増大が見られたという症例報告(Bonnet JP. et al 1995)があります。この徴候の診断的意義はまだ不明です。


[上腸間膜動脈症候群の予防]

 予防としては、適度の体重を維持し、急激な体重減少をさけること。一度にたくさん食べすぎないこと。

 この意味では、摂食障害者の体重変化や、過食行動は最悪です。


[上腸間膜動脈症候群の治療]

 上腸間膜動脈症候群の治療としては、内科的、保存的処置が原則です。

 具体的には、胃チューブ留置による排液、輸液による水分と栄養補給、電解質の補正が必要です。

 長期化するときは、中心静脈栄養が必要になります。

 食後は坐位にしてゲップを出し、右側臥位に、場合によっては腹臥位にすることによって、症状が軽快することがあります。

 緊急の場合や、内科的治療が無効な場合には、外科的な治療が行われます。

 腹腔鏡手術でトレイツ靭帯を切断すると症状が緩和したという報告があります。


[注意] 

 筆者は、臨床精神科医で、内科医でも外科医でもありません。

 誤解があったり、間違った語句や不適当な表現があるかも知れません。

 患者さんは、ここに書かれた情報に頼り過ぎる事なく、よくご自分の主治医と話し合ってください。

 誤りを見つけた方、ご意見のある方は、どうぞメールをください。



[文献] 不十分ながら、文献をつけておきました。

Adson DE, Mitchell JE, Trenkner SW:
The superior mesenteric artery syndrome and acute gastric dilatation in eating disorders: a report of two cases and a review of the literature. Int J Eat Disord Mar;21(2):103-14, 1997

Barnes JB, Lee M:
Superior mesenteric artery syndrome in an intravenous drug abuser after rapid weight loss. South Med J Mar;89(3):331-4, 1996

Bonnet JP, Louis D, Foray P:
[Superior mesenteric artery syndrome].[Article in French] Arch Pediatr Apr;2(4):333-8, 1995

Raissi B, Taylor BM, Taves DH:
Recurrent superior mesenteric artery (Wilkie's) syndrome: a case report. Can J Surg Oct;39(5):410-6, 1996

Stheneur C, Rey C, Pariente D, Alvin P:
[Acute gastric dilatation with superior mesenteric artery syndrome in a young girl with anorexia nervosa].[Article in French] Arch Pediatr Oct;2(10):973-6, 1995

Sprague J:
Cast syndrome: the superior mesenteric artery syndrome. Orthop Nurs Jul-Aug;17(4):12-5; quiz 16-7, 1998

Van Brussel JP, Dijkema WP, Adhin SK, Jonkers GJ
Wilkie's syndrome, a rare cause of vomiting and weight loss: diagnosis and therapy. Neth J Med Nov;51(5):179-81, 1997


[リンク]

上腸間膜動脈症候群が合併し複雑な病状を呈した摂食障害の一例(確認 02/06/06、リンク切れ09/01/21) たまたま、関係文献を見つけました。


ご連絡はこちらへどうぞ ⇒ address
または、昼間の時間帯に、当院PSW(精神科ソーシャルワーカー)にお電話してください ⇒ TEL:0279-56-8148



AKH 文責:竹村道夫 (協力: 古川恵 内科医) 


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