【 摂食障害の基礎知識 】  赤城高原ホスピタル

 


[目次]  [別ページ関連記事] [摂食障害の歴史、拒食タイプ・過食タイプ、男女比] [DSM-IVの摂食障害分類] [日本の摂食障害、最近の傾向]  [ 赤城高原ホスピタルの摂食障害患者 ] [ 摂食障害と栄養障害 ] [ダイエットとの関係]  [重症度、典型的症例の症状経過] [原因、摂食障害は嗜癖か?] [合併嗜癖行動]  [徴候と症状] [背景としての機能不全家庭−トラウマ]  [治療原則]  [身体的診察] [起こり得るトラブル−とくに入院治療に関して]  [治療関係] [自助グループ] [摂食障害の回復] [過食症の長期予後] [スクリーニング] [リンク] [入院のご相談]  [トップページ] 


[当院サイト内の関連事項]

 ▼ 摂食障害と物質使用障害
 ▼ 摂食障害ご本人とご家族へ専門家からのメッセージ
 ▼ 摂食障害者へ回復者からのメッセージ
 ▼ 摂食障害と対人恐怖、仲間からのメッセージ
 ▼ 摂食障害チェックリスト
 ▼ 摂食障害、200人の証言
 ▼ 摂食障害治療への親の協力
 ▼ 摂食障害、入院治療とその効果
 ▼ 摂食障害と糖尿病
 ▼ 摂食障害と妊娠出産
 ▼ 摂食障害と上腸間膜動脈症候群
 ▼ むちゃ食い障害
 ▼ 睡眠関連摂食障害
 ▼ 摂食障害体験者の作品


[ 摂食障害の歴史、拒食タイプ・過食タイプ、男女比 ]

 主として、女性にみられる極端な食欲不振とやせ状態については、17世紀後半から報告がありますが、症例の急激な増加は、第二次大戦後から、特に1960年代以後です。しかし当初は、拒食タイプだけが注目されており、特に日本では、1970年代になって、過食タイプの報告が多くなりました。そして、従来から知られていた神経性無食欲症(神経性食思不振症、思春期やせ症、拒食症)に、その対極にある神経性大食症(過食症)を加えて、それらの上位概念として、摂食障害(Eating Disorder)という用語が使われるようになりました。過食症は、さらに、自己誘発性嘔吐とか利尿剤、下剤乱用などの浄化(Purging)を伴うものと単にやけ食い(Binging)だけのものに分けられます。このほかチューイング(Chewing,噛み吐き)だけという特殊タイプもあります。もっとも、これらの下位分類は個々の患者(とくに若年層)の病歴の中では、合併したり相互に移行する傾向があり、その場合には拒食期、過食期というように呼ばれます。一般に、拒食症(拒食期)のほうが年齢的にやや若くて、十代に多く、過食症(過食期)は20歳前後に多いという特徴があります。拒食症から過食症にという病状変化の傾向がある一方で、拒食からでなく、過食から発症するタイプは低年齢で発症する傾向があるという報告もあります。嘔吐なしの過食タイプは、約9割がダイエットからスタートしますが、過食嘔吐タイプはもっといろいろな発症の仕方をします。従来、男女比は1対10と、圧倒的に女性に多いとされていましたが、これは治療に現れる患者の男女比で、潜在患者までを含めると、男女の差はもっと少なく、1対5程度であるという意見があります。日本における青年期から若年成人期の女性の過食症の有病率は1−3%です。米国では、若い女性の0.1%前後が拒食症で、2%前後が過食症と推測されています。

 なお、「摂食障害・嚥下障害」と並べて表現される時の「摂食障害」は、脳卒中、神経・筋肉疾患、呼吸器疾患、喉の周囲にできた腫瘍、身体の一部の麻痺による身体的な障害を意味しており、「摂食・嚥下障害」あるいは「摂食・嚥下機能障害」という用語は、主として歯科や口腔外科で使用されます。精神科や心療内科で問題となる「摂食障害」とは、別のものです。この両者を区別するために、後者を「中枢性摂食異常症」と呼ぶことがあります。 [ TOPへ ]


[DSM-IV の摂食障害分類-この項目やや専門的です] 

 アメリカの精神障害診断統計マニュアル、DSM-IVでは、摂食障害(Eating Disorders)は、神経性無食欲症(Anorexia Nervosa)と神経性大食症(Bulimia Nervosa)、特定不能の摂食障害(Eating Disorder Not Otherwise Specified)に大別されます。(拒食症患者の食欲低下は稀なので、無食欲症という用語は誤用ですが、伝統的に Anorexia とその日本語訳の無食欲症が使用されています)。前項目(上記)のように、摂食障害は、拒食に始まり、過食に移行するという傾向がみられるのですが、DSM-IVの摂食障害診断は、原則的に横断的な状態像診断ですから、一人の患者が病期(現在のエピソード;current episode)によって、いろんな診断に移行することを意に介しません。当然、多くの患者で、神経性無食欲症から神経性大食症に、あるいはその逆に診断が変わることに注意が必要です。神経性無食欲症は制限型(Restricting Type)むちゃ食い/排出型(Binge-Eating/Purging Type)の2型に、神経性大食症は排出型(Purging Type;自己誘発性嘔吐、下剤、利尿剤、浣腸あり)と非排出型(Nonpurging Type; 代償行為がないか、あっても、絶食、過剰な運動など、排出以外の不適切な代償行為だけしかない)の2型に分けられます。神経性無食欲症と神経性大食症を区別する指標は、基本的には正常最低限体重を維持しているかどうかです。拒食症とも過食症とも決め難い(若年層に多い)タイプは、「特定不能の摂食障害」という範疇に入ります。この診断下位分類法は、日本の臨床家にはややなじみにくいようで、臨床家でこの用語を使う人は少数派です。多分、拒食症、過食症に比べて長ったらしいため、また無食欲症という本質的に正しくない用語を使いたくないためという理由もあると思われます。当Webサイトでも、拒食症、過食症を用いています。

 実はDSM-IVには、摂食障害のもう1つのタイプ、むちゃ食い障害(Binge Eating Disorder)という下位診断が記載されています。これは、むちゃ食いエピソードを繰返すが、神経性大食症に特徴的な代償行為の定期的使用をしないタイプです。摂食病理や精神病理に関しては、神経性大食症よりは軽症、あるいは神経性大食症と非過食肥満症との中間に位置するといわれています。むちゃ食い障害は欧米では神経性大食症と同等以上の有病率があると報告されています。この疾患は、日本ではあまり知られていないため、患者が、「摂食障害ではない」と言われて、病気扱いをしてもらえなかったという報告をよく聞きます。このむちゃ食い障害のほか、定期的に月経のある拒食症、過食なしの普通食嘔吐のタイプやチューイングのみのタイプなどは、特定不能の摂食障害の中に含まれています。

 また典型的な摂食障害では、体重、体型、食事に関するこだわりが主要症状ですが、体重増加への恐怖を否定し、自己の栄養障害を認識し、自己身体像の歪みを持っていないように見える非定型例が、とくにアジアの摂食障害患者で多いと言われます。この非定型的な特徴は、アメリカの摂食障害専門プログラム症例の2割でも見られるという報告があります。     [ TOPへ ]


[日本の摂食障害、最近の傾向]

 日本の摂食障害の推定(受療)患者数は、1993年、人口10万人対4.9人から、98年、18.5人と急増しています(厚生省研究班)。日本では、テレビが普及してきた1960年代に拒食症が、コンビニエンス・ストアーが増えてきた75年以降に過食症が増えてきたといわれています。
 日本における摂食障害者の近年の傾向として、1.拒食症から過食症へ移行するケースの増加。 2.拒食症の既往のない過食症の増加。 3.特定不能の摂食障害者の増加、などが指摘されています。
 日本においては、摂食障害者の増加に対して、専門施設や専門医、専門スタッフの不足が続いており、専門医の疲弊傾向が強いといわれています。一方では、医療機関の中には、時間と手間のかかる治療を嫌がり、摂食障害患者を敬遠するところも少なくないようです。

 患者の急増が指摘されながら医療体制の不備が指摘されている摂食障害に対処するため、厚生省は2000/12/18までに、国の施策として担う医療対象と位置づけ、正確な診療や研究、専門家の教育などを目的にした拠点医療機関を全国に整備し、ネットワーク化を図る方針を決めました。3年後をめどに体制の確立を目指すとのことです。

 厚生科学研究の一環として、国立精神・神経センター精神保健研究所が全国8府県の中学・高校、1231校を対象に実施した調査によると、「摂食障害の生徒が増えている」と回答した学校が、中学校で45%、高校では54%でした。 一方、約6割の学校が「近くに紹介できる適切な医療機関がない」などと回答。対応できる医療体制の不足も明らかになりました(2003年10月)。     [ TOPへ ]


[ 赤城高原ホスピタルの摂食障害患者 ]

 ホスピタルは、アルコール専門病院という施設の特殊性のために、入院している摂食障害患者は、原則としてアルコール(または薬物)乱用合併者か酒害家庭出身の方です。ほとんどが過食症で、拒食症は少数です。どちらかというと外来での治療が困難な重症の方々です。
 以下の記載も、大部分は摂食障害全般を対象としているというより、重症の過食症(特に過食嘔吐のある20代の女性)を念頭に置いた書き方になっています。


[ 摂食障害と栄養障害 ] 

 摂食障害は時々、栄養障害と混同されます。摂食障害は栄養障害を伴うことが多いけれど、栄養障害は摂食障害の結果の一部にしか過ぎません。この二つの言葉は、アルコール依存症と肝機能障害との関係にたとえることができるかもしれません。肝機能障害の治療はアルコール症治療の一部、栄養障害の補正は摂食障害治療の一部ですが、肝機能障害の治療をしても、アルコール症が治ることがないように、栄養障害の治療をしても原則として摂食障害は回復しません。こんなことを言うのは、摂食障害やアルコール症に対して、実際にこのような誤解に基づく間違った医療がなされていることが少なくないからです。アルコール症に伴う軽度の肝機能障害は、とくにその治療をしなくても、アルコール依存症が回復して断酒が継続されれば、自然に軽快しますが、摂食障害に伴う栄養障害も、軽度であれば、原因疾患の摂食障害が回復して食生活が改善されれば、正常に戻ります。     [ TOPへ ]


[ ダイエットとの関係 ] 

 摂食障害はダイエットの習慣と密接な関係があり、ダイエットの習慣のある社会では、どこでも見られます。女性の有病率が高いのも、女性の方がダイエット指向、「やせ願望」や、体型に関する社会的プレッシャーが大きいためと考えられます。また男性では、自己不全感の疾患表現形式が摂食障害よりも、行動障害、非行、家庭内暴力などに向かいやすいとも言われます。
 1997年春の学校保健統計調査で、幼稚園から高3までの女子の体重が、中1を除く全ての学年で前年度を下り、高校生女子は平均で0.3kg 減少したという報告がありました。関係者は、この背景には安室奈美恵、榎本加奈子、吉川ひなのや華原朋美など細身のスターへのあこがれがあると分析しています。

 1985年まで電力もなかった太平洋の小島、フィジー島に1995年にテレビ放送が始まって、イギリス、ニュージーランド、アメリカのTVドラマが見られるようになって以来、摂食障害患者が急増中です。フィジーでは、これまで伝統的に男女ともがっちりした筋肉質の体が好まれていました。テレビ放送が始まって3年後の調査では、十代の女性たちが、ダイエットに関心を持ち出し、約4分の3の少女が自分を太り過ぎだと感じ、15%のティーンエイジャーが体重制限のために嘔吐をしたことがあると答えています。     [ TOPへ ] 


[ 重症度、典型的症例の症状経過 ] 

 摂食障害の重症度は、軽度から極めて重症の例まで、患者によって著しい差があります。摂食障害の3つのタイプで言うと、拒食症が最も重症、過食症がそれに継ぎ、むちゃ食い障害は最も軽症とされます。拒食症のために入院を要した患者を20年追跡した研究では、20%がこの疾患のために死亡していたという報告があります。

 軽症摂食障害の場合には、ちょっと変わった癖として受け入れられていることもあり、また、スリムであることが重要とみなされるファッションモデルや新体操などのグループ内では、過食と嘔吐が生活習慣になっていることもあります。一方で摂食障害は、外傷性精神障害の一つとして、明らかなトラウマ(心的外傷)の後遺症として発病したり、重度の人格障害など、重い精神病理を背景に発病することもあります。このように摂食障害は、一方ではファッションやダイエットの習慣と関係がありますが、重症例では、背景要因としてそれ以外の精神病理も考える必要があります。

 中等Dancing Girl度の摂食障害の典型的な発症の仕方は以下のようなものです。家庭的問題や人生上の困難にもめげず、努力によってある程度の成果を勝ちとってきていた十代の少女が、あるちょっとした挫折を体験します。少女は自分の能力や容姿へのこだわりを持つようになり、その解決努力をするうちに、体重が減少します。スリムな体を維持しようとして次第に食習慣が異常になります。それに対応して身体症状や様々な合併症状も出現します。またこのような状況では、極めて体重増加を起こしやすいので、少女はますます肥満の恐怖に捕らわれるようになります。人によっては、拒食から過食・嘔吐サイクルに入ります。いずれにしても、無理なダイエットは失敗に終わり、患者は混乱状態から無力感に陥ります。患者はますます厳しく食事をコントロールしようとして悪循環になります。また、この病気を知らない家族はしばしば「世界には、飢えている人もいるのに」というような道徳的説教をしたり、患者の行動を「わがまま」と決めつけたり、ときには脅したり、強制的に食べさせようとしたりして、事態を一層悪化させます。     [ TOPへ ]


[ 原因、摂食障害は嗜癖か? ] 

 摂食障害の原因についての専門家の一致した見解は、社会的、遺伝的、心理的、生物学的要因がそれぞれ関与しているというものです。しかし、摂食障害を嗜癖の一つとみるべきかどうかということに関しては、まだ合意は得られていません。それでも、嗜癖問題の臨床家は、この疾患が、他の嗜癖性疾患と密接な関係があることを知っています。実際に、摂食障害は他の嗜癖性疾患と合併しやすく、また比較的治療困難なこの疾患に対して他の嗜癖に用いられるのと同様の治療がかなり有効です。摂食障害の嗜癖性疾患としての傾向は、拒食症よりも過食症で、過食症の中では、非排出型よりも排出型でより顕著に見られます。     [ TOPへ ]


[合併嗜癖行動 ] 

 摂食障害はその他の嗜癖行動を合併しやすく、しばしばアルコール依存症(乱用)、薬物乱用、窃盗癖(万引癖)、買い物癖、自傷行為癖(特に手首または前腕の切傷)、性的逸脱行動(恋愛嗜癖、セックス嗜癖、売春行為など)、家庭内暴力などが合併疾患としてみられます。過食症患者の3分の1は物質嗜癖(アルコール・薬物乱用など)を合併し、3分の1ないし半数が人格障害を合併しています。また摂食障害患者の親や親族にアルコール依存症がみられることも少なくありません。     [ TOPへ ]


[ 徴候と症状 ] 

 徴候と症状としては、極端な体重の変化、体重増加と肥満への強い恐怖とこだわり、女性の場合には月経停止などが目立った特徴です。また、自己身体の認識の異常があり、患者自身の主観的な体重評価が客観的評価と一致しないのが通例です。このほか、便秘、腹痛、浮腫(むくみ)などもよくみられます。極端なやせの場合には、徐脈、低血圧、低体温、低血糖、皮膚の乾燥、皮膚の黄色調、産毛(うぶげ)、点状出血斑、肝機能障害、脾腫、腹部膨満感、寒さに対する不耐性などがみられます。栄養障害が長く続けば、骨粗鬆症などの後遺症を残します。自己誘発性嘔吐、下剤、利尿剤乱用などを合併する場合には、低カリウム血症がみられ、それに伴って筋力の低下、胃アトニー、心臓の不整脈、腎機能障害なども出現します。嘔吐を繰り返す場合には、虫歯、耳下腺と舌下腺のはれ、手の吐きだこなどがみられます。 さらに食道炎(胃酸による粘膜炎症)や マロリーワイス症候群(嘔吐時の腹腔内圧上昇によって起こる 食道下部から噴門部にかけての粘膜や筋層の裂創、そのための出血)などがみられることがあります。      [ TOPへ ]


[ 背景としての機能不全家庭−トラウマ ] 

 摂食障害患者が、機能不全家庭の女子に多く発症することは経験的事実です。「機能不全」とはいっても、対社会的には、それなりに機能していて、表面的には内情が分からない場合も少なくありません。

 単に機能不全というばかりではなくて、中等度以上の摂食障害患者は、性的被害を受けていることが少なくありません。時には、これが発病契機や原因的要因になっています。幼児期の性虐待のほか、レイプ被害も多く、時には学校の先生や、治療者、カウンセラーからの性的被害もあります。このことは、男性摂食障害者についてもあてはまります。摂食障害と性的被害の関係を否定する専門家もいるようです。軽症患者では両者の関係が必ずしも強くないこと、性的被害が自由に発言できるような治療環境(情報量、集団療法、自助グループなど)かどうか、などの要因が関係していると思います。
 また摂食障害者は、家庭環境に加えて、学校環境からもストレスを受けていることがあります。たとえば、いじめ、受験競争、海外でのストレス体験などです。     [ TOPへ ]


[ 摂食障害の治療原則 ] 

 治療としては、従来の伝統的精神医学は効果が薄く、認知行動療法、家族療法、集団療法、自助グループを含めたネットワークの利用などが有効です。またSSRI (選択的セロトニン再取込み阻害剤)、三環系抗うつ薬などの薬剤も一定の効果があります。摂食障害に見られる強迫的傾向を治療するためには、うつ病治療の際よりやや多めの処方量を必要とするといわれています。

 筆者はこれまで摂食障害に多数の嗜癖問題を合併する重症患者を治療してきました。治療はしばしば混乱と絶望とを行き来するドラマチックなものとなり、難航しましたが、振り返ってみると、数年後の治療成績は満足できるものでした。大体において、2〜3年治療すると、家族も本人も見違えるほど落ち着いてきて回復していきました。決め手は、家族の協力、それを可能にするような家族療法、嗜癖行動修正のための入院、治療的ネットワークの利用など、そして最終的に集団療法、自助グループ、十分な治療期間です。


[ 基本方針 ] 

◇ 本人、家族とも、安全な環境と時間を確保・提供して、この疾患に関する十分な情報を与える。
◇ ただし知的教育より、体験的教育が重要。家族療法、集団療法、自助グループとの連携などが有効。
◇ 薬物も慎重に使えば有効。多種大量の薬剤は通常は不要。処方薬依存を合併している患者も多い。 
◇ 本人が受診を嫌っている場合には、無理に受診させない。
◇ 本人が受診を嫌がっている場合には、家族の相談から治療をスタートする。
◇ 家族のそれぞれを援助する。家族の教育、援助。家族療法。
◇ 摂食障害本人と家族が対立関係にあるときには、それぞれのカウンセラーを分ける。
◇ 家族にも、集団療法が有効。
◇ 家族がうつ状態、パニック状態であったり、疲労が強かったり、家庭内暴力を受けていたりする場合には、家族の専門病院への入院も有効。
◇ 初回面接(本人、家族とも):十分に時間をかけて安心感を与え、次につなぐ。
◇ 摂食障害本人の受診:温かく迎え、これ以上傷つけない。
◇ 優しく保護的に接する。回復を信じて誠実に付き合う。
◇ 緊急度(特に栄養状態、低体重など)の判断が重要だが、一般には効果を焦らないこと。
◇ 一般には症状、体重などを含めて、ありのままの患者をうけいれる。
◇ できないことを要求しない。とりあえず生きてるだけで良い。
◇ 本人の精神状態と環境に応じて課題を出す。
◇ できないことを評価するのでなく、できたことを評価する。
◇ 摂食障害本人にとって安全な環境と時間を提供する。
◇ 回復のモデルになりそうな患者に会わせる。
◇ 本人と治療者の両者にとって安全な身体的・心理的距離を保つ。
◇ 治療スタッフの教育と協力要請。
◇ 行動化、トラブルへの辛抱強い対処。
◇ 治療ネットワークの一員として機能する。
◇ 抱え込まない。任意入院が原則。
以上は、ホスピタルにおける治療の原則(一部は努力目標?)です。治療施設によって、重点の置き方は異なるはずです。   [ TOPへ ]


[ 摂食障害の身体的診察 ] 

 傷ついた心を持ち、傷つきやすく、不信感が強いかもしれないという可能性に充分配慮しながら、しかし医療機関の場合、とくに入院時には身体的診察を省略しない。
恐怖感を持たせないため、また、トラブルに巻き込まれないために、看護婦(女性看護師)を立ち会わせる。恐怖感が強い場合には、女医に任せたり、延期することもやむを得ない。
身体的診察に対する恐怖感が強い場合には、過去に、性虐待、性に関するトラブル、身体的暴力があったという可能性を考慮する。
前腕−手首の傷、静脈注射のあと。火傷痕。根性焼き(煙草の火を押し付けた跡)。爪噛みの跡。爪周りの肉をはがした跡。両手の皮膚はがしの跡。
頭髪の中(抜毛癖、円形脱毛症、傷、瘤)。吐きだこ。唾液線腫脹。栄養・脱水状態。皮下脂肪。体毛の濃さ。
湿疹。腹部皮膚(マッサージ、皮下脂肪の揉み出し痕)。身体的虐待の兆候に注意。
経験的に、アトピー性皮膚炎、気管支喘息の合併や既往が多い。
体重測定に対する恐怖が強い場合には、強行せず、患者とよく話し合う。測定値を本人に知らせないといった方法で可能な場合もある。     [ TOPへ ]


[ 起こり得るトラブル−とくに入院治療に関して ] 

 摂食障害の患者は一般的に対人関係に過敏です。とくに治療初期の患者は、体重、体型、拒食組と過食組、嘔吐のあるなし、虐待体験のあるなし、家族の治療協力の程度などに関して、他の患者との違いを見つけ、他患をうらやんだり、他患に対して排他的、敵対的、被害的、あるいは自責的になり易い傾向があります。その結果、孤立して閉じこもったり、早期に自主退院したりということが起こります。
その他、入院治療では、以下のような問題がよく見られます。

パクパク◇ 睡眠薬、安定剤、下剤、浣腸の要求、強要。
◇ 自傷行為。特に手首、前腕部の切傷、大量服薬。自殺(企図)。自殺のほのめかし、予告。
◇ 下剤・睡眠薬の病院内持ち込み。仲間に薬を渡す。万引。盗癖。盗食。絶食。
◇ 栄養障害。低カリウム血症。むくみ(浮腫)。感染症合併。やせぼけ。衰弱死。栄養補給拒否。服薬拒否。点滴の針を抜く。
◇ 隠れて吐く。食物を隠れて捨てる。
◇ 易刺激的、興奮、パニック。嫉妬。
◇ 突然の外出・外泊要求。無断離院。行方不明。
◇ 異性患者との急接近、性行為。相手の男性患者が付き合いの邪魔をされたと怒鳴りこむ。
◇ 過食嘔吐。トイレを汚す、詰まらせる。トイレ占拠。パニック状態で落書き、異物を流す。
◇ 食物大量保管(場所占拠、悪臭、腐敗、畳を腐らせる)。
◇ 夜間の料理、過食嘔吐による騒音。夜間の過食の騒音。臭い。
◇ 他患から食べ物をもらう。食事に遅れた他患(外出中の患者)の食事を食べる。他患の食事を物欲しそうに見つめる。残飯をあさる。
◇ 家族を困らせる行動。電話、暴言、多額の金銭要求、食物を送らせる。家族への暴力。家族に飽食を強いる。
◇ 被虐待者では、解離性障害を合併することも稀ではない。この場合、ストレス時には、一過性に解離性フラッシュバックや意志疎通不能な状態が起こりうる。    [ TOPへ ]


治療関係 ] 

 歪んだ関係になり易い。テスティング。恋愛転移。逆転移。
しがみつき(頻回の面接要求、面接室に居座る、面接時間延長要求、他患との競争)。応じないと反発したり、面接を拒否したりする。
過剰適応。治療者を独占しようとする。退行(子供返り、赤ちゃん返り)。治療者のペットになる。
操作的行動。治療スタッフや職員との非治療的接触(性的、金銭的問題)。サドマゾ的治療関係(向精神薬大量処方、長期拘束的環境)。

◇ 実際、当院にたどり着いた患者は、過去に治療関係で傷ついた方が多い。
◇ 集団的治療、自助グループとの連携など、オープンな治療的雰囲気は、これら有害な治療関係のトラブルを未然に防ぐ。
◇ 治療者自身の精神衛生管理が重要。患者、家族との安全な精神的・身体的距離を保つ。
◇ チーム治療を心がける。スーパーバイズ、多くの回復者の話を聞くことが重要。     
◇ 被虐待者では、回復期に、治療スタッフに理不尽な怒りを向けることがある。治療者が、その怒りを理解し耐えることができれば、自然に治まることが多い。
◇ 治療者は、患者の危険な行動にははっきりとNOと言わなければならない。限界を設定し、限度を超えて許容的になることのないように注意すべきである。  [ TOPへ ]


[ 自助グループ ] 

 自助グループとしては、NABA(ナバ:03-3302-0710)、OA(オーバーイーターズ・アノニマス)などがあります。また、摂食障害者の親の自助グループとして、あんだんて(03-5574-7311)、やどかり(03-3302-0580)などがあります。さらに摂食障害者の家族の書簡集「れたあぼっくす 私を生きよう」が隔月に発行されています( 上記、NABAから編集局に連絡できます)     [ TOPへ ]

 静岡県には、摂食障害者の親と家族の自助グループがあります。静岡・摂食障害の親の自助グループ ぬくもり http://blog.livedoor.jp/nukumorishizuoka/(10/07/16確認)


[ 摂食障害の回復 ] 

 ありのままの自分を受け入れられるようになること。
言いにくいこともそれなりに言葉で伝えられるようになること。
症状(拒食、過食・嘔吐、やせ・肥満など体重の異常、下剤乱用など)からの回復。     [ TOPへ ]


[ 過食症の長期予後 ] 

 過食症の10年後の予後調査では、約7割がほぼ軽快、約3割が過食か嘔吐を続けていました。調査開始時の病歴の長さと物質嗜癖(アルコール・薬物乱用依存)が予後不良に関連する因子でした(1999年、アメリカ)。     [ TOPへ ]


[ 摂食障害のスクリーニングテスト ]

 摂食障害のスクリーニングテストとしては、EAT‐26(Garner & Garfinkel, the Eating Attitudes Test-26, 1982)とBITE (Henderson & Freeman, the Bulimic Investigator Test , 1987)がよく使われます。EAT‐26は,スクリーニングだけでなく重症度評価用にも使われます。
[文献] 中井義勝・夏井耕之: 神経性大食症の実態調査におけるBITEとEDIの有用性について 厚生省特定疾患中枢性摂食異常症調査研究班 1996: 52-54


[ 標準体重の計算方法 ]

BMI(Body Mass Index)とは、身長と体重の関係をみる、新しい国際的な尺度になっている計算式で、肥満度の判断の指標になります。従来、(標準体重)={身長(cm)ー100}×0.9 が用いられていましたが、この方法は身長の低い人には厳しく、高い人には甘い傾向がありました。現在は、BMIが主流になっています。

BMI値(kg/m2) = 体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)

BMI値 18.5未満・・・・・ やせ
18.5〜25未満・・・ 普通
25〜30未満・・・・ 肥満1度
30以上・・・・・・ 肥満2度

※BMI=22前後が最も病気になりにくいとされています。日本肥満学会では、22 を標準として上記のような判定基準を定めています。

 逆に計算すると(標準体重)=(身長)×(身長)×22 となります。たとえば、身長 170 cmの人の場合、(1.7)×(1.7)×22 = 63.6 kgが標準体重です。

 厚生省は1994 年に、日本肥満学会とは別に、標準を男性 22、女性 21 とし、肥満をそれぞれ 26 以上、25 以上と定めて公表しています。また、WHOは 1990 年に先進国成人の平均的BMIは男女とも 22、平常範囲は 20〜25、肥満1度は 25〜30、肥満2度は 30〜40、肥満3度は 40 以上とする考えを提出しています。

 2013年に刊行されたDSM-5によると、神経性やせ症の重症度は、BMIを指標としており、

軽度:BMI≧17kg/m2、
中等度:BMI 16〜16.99 kg/m2、
重度:BMI 15〜15.99 kg/m2、
最重度: BMI <15 kg/m2

 となっています。

 激やせ摂食障害患者では、しばしばBMIは13以下になります。これは不健康を通り越し死に直結します。このような方では、精神的治療よりも身体的治療を優先すべきでしょう。当院では、BMIが12(160cmなら30.7kg、150cmなら27kg)以下の方の入院は、原則としてお断りしています。

 現在、ファッション業界は、「やせすぎモデルは不健康」であるとして、BMIが18以下のモデルを使用しないようにしようとする自己規制の方向に動いています。


[ リンク ] 

OA-JAPANオフィシャルサイト(07/10/09確認) 摂食障害の自助グループ、OA(オーバーイーターズ・アノニマス)のオフィシャル・サイト。

ともすけの部屋(07/10/09確認) 摂食障害歴15年というともすけさんの発病から回復にいたる病歴、日記など。回復のヒントがいっぱい。

摂食障害の子供を持つ親の会(07/10/09確認) 会の世話人、ハツママによる、れたあ・ぼっくす『私を生きよう』の紹介、日記など。

CaringOnline(07/10/09確認)  摂食障害に関するニュース、情報、援助グループ、治療、研究、リンクなど総合情報サイト(英文)。

Something Fishy(07/10/09確認)  拒食症、過食症、症状、助言など摂食障害の総合情報サイト(英文)。

National Eating Disorders Association(11/10/17確認) アメリカの摂食障害協会(英文)。

Eating Disorders: Facts About Eating Disorders and the Search for Solutions(11/10/17確認) アメリカのNIMHによる摂食障害の解説(2006年)(英文)

beat : Welcome to beat(07/10/09確認) イギリスの摂食障害協会 beating eating disorders/ understanding eating disorders and how you can help(英文)。 [ TOPへ ]


[お勧めの本]

「食にとらわれたプリンセス」 <星和書店発行: 上原 徹 著; 定価1600円+税>
摂食障害の基礎から最先端の研究分野まで。気鋭の若手研究者+治療者が、広い視野からこの問題の本質を探り平易な言葉で解説している。オーストラリアでの研究結果など、独自の見解も紹介。2004年3月発行。

「摂食障害なんてコワくない!」 <ASK選書3; アスク・ヒューマン・ケア発行 : TEL03-3429-2551; 定価400円+税>
特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会) 編
摂食障害の自助グループNABAメンバーの声、親たちの声と共に構成。
安くて薄くて読みやすい。嗜癖治療アプローチからの記載だから、当院HPの内容となじみやすいと言える。2001年発行。

「拒食症・過食症の治し方がわかる本」 <主婦と生活社; 高木洲一郎/浜中貞子著; 定価1100円+税; 2001年発行>
摂食障害の基礎知識、基本的考え方など、一般の方には分かりやすい。どちらかと言うと、嗜癖アプローチではなく、認知行動療法アプローチに詳しい。対象としている摂食障害患者の中心が軽症―中等度? 赤城高原ホスピタルの患者は中等度―重症ケース、多重嗜癖が多い。当院HPの記載と比べてみると、その違いがわかるかもしれない。

「分析おことわり! 私たちは摂食障害とこんなふうに生きてきた」<東峰書房; NABA(日本アノレキシア・ブリミア協会)編定価1800円+税; 2002年発行)>
NABAの出生、自立、成長の物語が、関係資料、関係者の証言と「ニューズレター」の原稿で語られます。既にNABAを知っている方には、舞台裏の事情が面白いでしょう。知らない人にもこの世界が十分に理解できるように、業界用語には、懇切丁寧な注釈がついています。たとえば、ステップ、棚卸し、AA、ドン底、嗜癖、フェローシップ、平安の祈り、OA、関係者、アルコール公扶研、ビジネス・ミーティング、クローズド、イネイブリング、などなど。 [ TOPへ ]


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 赤城高原ホスピタルはアルコール薬物問題専門病院ですので、アルコール・薬物乱用・依存問題がご本人かご家族のどちらにもない方のご入院はお受けできません。
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はいはいする赤ちゃん


AKH 文責:竹村道夫(初版: 99/1) 


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