【摂食障害と万引き、精神神経学会シンポジウム、文献紹介 】  赤城高原ホスピタル

(改訂 13/03/06)


精神神経学雑誌に、摂食障害患者の万引き問題シンポジウムの内容が掲載されました。

この文献は、日本精神神経学会ホームページ上の一般ページとして、
以下のサイトから、誰でも閲覧、ダウンロードできます。
https://www.jspn.or.jp/journal/symposium/index.html

この分野の論文は数少なく、貴重な文献ですので、関心のある方は、是非、参照されるようにお勧めします。

「精神神経学雑誌」は、日本の精神医学文献としては、最も権威のある学術雑誌です。その雑誌の総会シンポジウム特集号に「摂食障害患者の万引き問題」の文献が掲載されました(13/02/06)。

第107回学術総会シンポジウム
「摂食障害患者の万引きをめぐって」の発表原稿を基にした文献6件です。実際のシンポジウムは2011/10/06にホテル日航東京(港区台場)で行われました。

内容は、以下の通りです。


【 摂食障害患者の万引きをめぐって 】

摂食障害患者の万引きをめぐって(130KB)
高木洲一郎(コーディネーター)の紹介文

@摂食障害患者の万引きをめぐって(375KB)
高木洲一郎(自由が丘高木クリニック)

A窃盗癖-嗜癖治療モデルによる対応(377KB)SS217-223
竹村道夫(赤城高原ホスピタル)

B矯正施設内の摂食障害患者―特にshoplifting が問題だったケースについて―(442KB)
浅見知邦(八王子医療刑務所精神科、日本医科大学精神医学教室)

C摂食障害患者の万引き―治療か刑罰か―(325KB)
中谷陽二(筑波大学大学院医学医療系)

D摂食障害者による窃盗事件の弁護(332KB)SS236-242
林大悟〔弁護士(埼玉弁護士会)〕

E摂食障害と衝動制御― 2つの視点から―(233KB)
上原徹(群馬大学健康支援総合センター)


上記文献を精読する時間のない方のために、以下に内容を抜粋してみました。


@ 摂食障害患者の万引きをめぐって
高木洲一郎(自由が丘高木クリニック)

摂食障害患者における万引きの合併率は、筆者の調査では44%(18/44)と高率であった。
万引きの常習化を避けるには、摂食障害の適切な治療こそが重要である。
摂食障害の万引きのスペクトラムにはさまざまな事例や治療者の考え方があり、処遇は一概には論じられない。
個人的には完全責任能力は問うのは酷ではないかと思う。


A 窃盗癖-嗜癖治療モデルによる対応
竹村道夫(赤城高原ホスピタル)

精神障害としての「クレプトマニア」の輪郭は明確ではない。
窃盗癖は複数の障害に起因する症候群であり、疾病であり同時に犯罪でもある。
窃盗癖と摂食障害は合併しやすい嗜癖問題の組み合わせである。それゆえ、嗜癖治療モデルによる対応が有効である。
摂食障害に窃盗癖が合併しやすい理由について、単純過ぎる「食費節約説」は実情に合わない。涸渇恐怖と溜め込み欲求こそが、摂食障害患者の窃盗衝動の原動力となるのではないか、と筆者は分析する。
治療開始後の窃盗(万引き)に関しては、正直な報告と返金、そして迷惑料の支払いを治療継続の条件としている。
摂食障害者の窃盗は、原則として心神耗弱とはならない。責任能力ありと考える。
摂食障害者の窃盗は、再犯予防の点で、罰則よりも専門治療が有効なので治療可能な症例では情状酌量すべきである、


B 矯正施設内の摂食障害患者
――特にshoplifting が問題だったケースについて――
浅見知邦(八王子医療刑務所精神科、日本医科大学精神医学教室)

一般女子刑務所にはおおむね収容者の5%程度の摂食障害患者が存在しその大半はbulimia(過食症)である。八王子医療刑務所(当科)の女性患者のうち摂食障害が占める割合は、平成21〜23年には約5割を超えている。
過去5年間に当科に移送された女性摂食障害患者67人の罪名内訳では万引きが43人(64%)でトップであった。
過去6年間の当所の摂食障害患者の犯罪内訳は万引き(shoplifting、以下S 群とする)43人、薬物関連犯罪の群(drug、以下D 群とする)17人であった。
S 群の患者達は93%が高卒以上であり、D 群(高卒率29%)に比べ高学歴である。
摂食障害者の窃盗癖群では、執行猶予歴が通常2回はある。多くの患者では経済的に困っていない。
患者は数ヵ月あるいは数年単位の長期間の飢餓から不可逆性の脳萎縮を来し、器質的な脳機能障害として意識障害、認知障害、抑制力の欠如などが生じていたと考えられる。
治療の実際に関しては、行動制限療法が治療の基盤となる。
集団療法、認知行動療法を組み合わせる。


C 摂食障害患者の万引き
――治療か刑罰か――
中谷陽二(筑波大学大学院医学医療系)

これまで司法精神医学は摂食障害患者の万引きに関心を向けてこなかった。
頻回の万引きを異常な食行動の一環と捉えた1984年の大阪高等裁判所判決、
執行猶予中および保釈中に万引きを繰り返した精神鑑定の自験例をもとに、摂食障害の病理と盗み行動の関連について考察した。

万引きが反復される要因をパーソナリティ障害や窃盗癖で説明するには慎重でなければならないことを示唆した。

矯正処遇に摂食障害の治療効果を期待することは難しく、さりとて医療が万引きの再犯を十分抑止できるとも思われない。刑事罰によって抑止されないことは単なる規範意識の欠如からは説明が難しいように思われる。

処罰を受けてもなお盗みを重ねることを規範意識欠如や反社会性に結びつけるのは短絡的である。パーソナリティ障害を“落としどころ”にするのは慎重でなければならない。窃盗癖という議論の多い概念の安易な持ち込みも同様である。

過食衝動と万引き衝動をつなぐリンクを探索することは精神医学の課題である。


D 摂食障害者による窃盗事件の弁護
林大悟〔弁護士(埼玉弁護士会)〕


起訴前の弁護は非常に重要である。
経験上、執行猶予中の同種再犯事例(執行猶予が極めて困難)や出所後数ヶ月内での再犯事例(執行猶予は不可能)においても、いくつかのポイントを実践することで、多くの事例で起訴猶予を獲得できている。
在宅被疑者の場合、早急に専門医に受診させ、クレプトマニアである旨の意見書(診断書)を作成してもらい、それを弁護人の意見書とともに提出して、担当検察官を説得するべきである。この際、必ず担当検察官と面会するべきである。ここでのポイントは、入院治療やそれに代わる通院、自助グループへの参加を早期に実行し、それを担当検察官に示すことである。
他方、逮捕されている被疑者の場合、勾留請求の却下に向けた活動が重要である。起訴後に受任した場合、被告人が勾留されている場合には、専門医につなげるため、保釈が重要となる。
起訴前に受任した弁護人は、同種再犯事例だから公判請求されても仕方ないとして、事件処理を後回しにしてはならない。
起訴前弁護の実例、6件の解説を示した。
すでにクレプトマニアの診断を受けている被告人の場合は、主治医に意見書を作成してもらい、保釈請求書に添付する。
他方、一度も受診したことがない被告人の場合は、家族を専門医に受診させ、家族から聴取した限りでクレプトマニアが疑われる旨の意見書を作成してもらい、これを添付資料とする。
たとえ短期間でも公判期間中に保釈の上、盗癖治療を実施することの治療上の効果は否定できない。また、当該犯行の原因を明らかにするべく専門医の意見書作成のために保釈許可を求めることもある。経験上、いずれの理由でも保釈はほぼ認められている。
短期間で結審させるのではなく、時間をかけ、入院治療を含む社会内での更生プログラムを実践し、その経過を医師の意見書等の形で証拠化し、提出することが重要である。
検察官が弁護人請求にかかる医師の意見書を不同意とすることがある。この場合、意見書を作成した医師が証人として出廷する必要がある。医師が出廷できない場合の対処法としては、
@立証趣旨(当該意見書によって証明しようとするテーマ)を検察官が納得のいくものに変更すること、
A検察官と事前に協議し、合意書面化(刑訴法327条)することが考えられる。
それでも検察官が不同意の意見に固執した場合には、奥の手として、
B鑑定請求書の資料として当該意見書を添付する方法が考えられる。
この場合、証拠とすることはできないが、意見書の内容を裁判官に読んでもらうことができる。読んでもらえれば、少なからず、裁判官の心証形成に影響を与えることができる。
公判弁護の実例、5件の解説を示した。
近時、摂食障害患者の執行猶予中の再犯事案で、精神鑑定の結果を受けて、犯行時に衝動制御の障害により心神耗弱状態であったとして再度の執行猶予判決がなされた事例がある(平成24年4月16日静岡地方裁判所浜松支部刑事部)
解離性精神障害に起因する是非弁別能力の減退もあり得る。この観点から原審判決を破棄し、保護観察付き執行猶予判決が下されたこともある。
大阪高裁昭和59年3月27日判決は、摂食障害患者(神経性食思不振症)による万引き窃盗につき、制御能力を完全に失っていたとして心神喪失状態にあったと認め無罪とした。ただし、この大阪高裁に属する判例群は出ておらず事実上の先例性はない。
実刑の危険があるにもかかわらず、買おうと思えば買える商品を万引きするリスクを負うことは通常の一般人の感覚からして合理性を欠くため、動機の了解可能性は認められない。
犯行遂行能力が認められることは、行動制御能力が認められる根拠とはなり得ないが、逆に、犯行遂行能力の存在に疑問がある事例の場合には、犯行時に解離性精神障害等に罹患していた可能性があり、是非善悪の判断能力が喪失あるいは減退していた可能性を推認させる事情となる。
DSM-W-TR の診断項目Aに関して、同基準は、貧困で飢餓の極地にある人の盗みとか、職業的窃盗集団による盗み、貴重品収集家の特殊な盗みを除く、という趣旨である。また、臨床上、窃盗癖患者のほとんどが盗品を使用し、あるいは、食するが、盗品が食品や生活用品であり個人的使用目的があるのでクレプトマニアには該当しないという論理はおかしい。という拡張解釈説(竹村説)を支持する。
クレプトマニアの窃盗事件を担当する弁護人の役割は、本人が治療できる環境を整えることであると考えている。


E 指定発言
摂食障害と衝動制御―― 2つの視点から――
上原徹(群馬大学健康支援総合センター)


女子少年院における摂食障害の実態調査で、非行と食行動異常との密接な関連性を論じた。某女子少年院に新規に入院した10代の児童青年を対象に、精神医学的な構造化面接を行い、半数を超える女子少年に何らかの食行動異常が認められた。

近赤外線分光法を用いた摂食障害の脳機能研究で、衝動性が関与する行動異常であるむちゃ食いや自傷企図を併存する事例では、前頭前野(特に眼窩面や前頭極付近)の低賦活が特徴的に認められた。TOP]


上記は、当サイトマネージャーによる勝手な抜粋です。是非、全文をお読みになることをお勧めします。
以下のサイトから、誰でも無料で、閲覧、ダウンロードできます。→ https://www.jspn.or.jp/journal/symposium/index.html


上記のうち、文献Aの和文抄録、英文抄録を以下に引用しました。

窃盗癖-嗜癖治療モデルによる対応
竹村道夫(赤城高原ホスピタル)

精神障害としての病的窃盗には,「クレプトマニア」という疾患があるが,その輪郭は明確ではない.窃盗癖は複数の障害に起因する症候群であり,疾病であり同時に犯罪でもある.窃盗癖の研究は明らかに立ち遅れていて,治療者も極めて少数である.一方,私たちが診療した窃盗癖症例は統計を取り始めた平成 20年からだけでも 350例にのぼるので,倫理的配慮をしつつその治療経験を報告する.私たちの診療した常習窃盗患者の約 9割が,窃盗癖以外の精神障害を合併していた.合併精神障害としては,摂食障害(特に過食症),物質使用障害,気分障害,不安障害(特に強迫性障害),パーソナリティ障害などが多かった.特に摂食障害は窃盗癖を合併しやすい.この両疾患の密接な関連の理由は不明である.多くの要因が関係していると考えられ,単純過ぎる「食費節約説」は実情に合わない.窃盗癖の大部分は,衝動性障害として始まり,嗜癖化メカニズムで進行すると思われる.窃盗癖への治療としては,カウンセリング(個人精神療法),認知行動療法,家族療法,集団精神療法,薬物療法,自助グループの利用などが考えられる.合併精神障害の治療も重要である.私たちの嗜癖アプローチでは,とくに,自助グループ活動と,回復(途上)者によるメッセージを重要と考える.窃盗癖治療では,個人精神療法も重要である.治療中の窃盗再犯が稀ではないので,治療開始時に,窃盗再犯時の対処を本人,家族などと相談しておくべきである.私たちは,治療開始後の窃盗(万引き)に関しては,正直な報告と返金,そして迷惑料の支払いを治療継続の条件としている.これは,治療者としては,おそらく少数派である.司法判断待ちの症例に関しては,窃盗癖は心神耗弱とはならなくとも,病的精神状態を背景とした犯行であり,また,刑罰による再犯予防効果が少なく,治療効果が期待されるので,情状酌量すべきである,というのが私たちの基本方針である.

.索引用語:クレプトマニア,窃盗癖,診断基準,嗜癖治療アプローチ,自助グループ


Addiction Treatment Approach for Habitual Theft
Michio TAKEMURA, M.D. (Akagi-kohgen Hospital)

Abstract:
DSM-IV and ICD-10 both describe the diagnostic criteria to be used for morbid theft. However, in these commonly used diagnostic manuals, the descriptive outline of kleptomania is vague. It is suggested that habitual stealing (kleptomania) is a syndrome with a heterogeneous etiology, which is simultaneously an illness and a crime. The research on kleptomania lags behind that of other mental disorders and clinicians specializing in treating such patients are extremely few. We started a registration system for patients suffering from habitual theft in 2008, which has recorded 350 cases since its inauguration. In this report we have described our clinical experience with patients suffering from this mental disorder, while maintaining ethical standards for protecting their confidentiality.
Approximately 90% of patients suffering from habitual theft that we treated had complications involving mental disorders other than kleptomania, the most frequent of which were eating disorders (especially bulimia), substance use disorders, mood disorders, anxiety disorders and personality disorders. Especially, patients with eating disorders tended to develop pathological theft as a complication. Detailed reasons for this close relationship are unknown. However, many factors could be involved in the close relationship between these two mental disorders. The theory of "saving money on food expenses" as the motive for theft committed by eating disorder patients, oversimplifies a complicated matter and is inadequate as an explanation of the details of this relationship.
It is possible that most cases of kleptomania start as an impulse control disorder and progress to an addiction disorder. Medical treatment for kleptomania presently consists of counseling (individual psychotherapy), cognitive behavioral therapy, family therapy, group psychotherapy, pharmacotherapy, and self-help groups, among others. In our addiction treatment approach, we have developed and administered a program in which recovered (recovering) patients share their personal experiences with newcomers and beginners, and their family members. We strongly encourage the kleptomaniac patients to participate in self-help groups, while individual psychotherapy also plays an essential role. Since repeat offenses are almost unavoidable in some patients with kleptomania, physicians are advised to prepare for this possibility and to discuss the issue with the patients and their family members during the first session. In the program, patients with kleptomania must honestly report all their crimes, including theft (shoplifting). After the initiation of the treatment, the patients are expected to repay all the damages that result from stealing, including compensation for the victims, each time they steal. We make it a rule to request the patients and their family members to give a written oath regarding the repayment and require that patients fulfill the terms of the oath as a necessary condition for continued treatment. Many clinicians allow patients with kleptomania to continue committing crimes, even during the period of treatment. In this regard, we are a minority of physicians that insist on patients reimbursing what they have stolen.
Many kleptomaniac patients are waiting for a judicial decision on when they may seek professional help about their problem. Usually, we are asked to give an expert written opinion about our patients, in which we state that habitual theft is a repetitive crime, committed within the background of a pathological mental state that is influenced by a mental disorder, even if the disorder is not considered to cause legally defined diminished capacity. Legal punishments have very little effect on theft prevention in kleptomaniacs, whereas appropriate medical treatment is effective in reducing the recidivism rate. It is our basic policy to request the judge to take the above-mentioned extenuating circumstances into consideration and give a reduced penalty, rather than classify the defendant as legally incompetent.
Author’s abstract

Key words: kleptomania, habitual theft, diagnostic criteria, addiction treatment approach, self-help group


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AKH 文責:竹村道夫(2013/02) 


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