【窃盗癖 と法律問題 】  赤城高原ホスピタル

(改訂 15/06/23)


【窃盗癖関連問題FAQ】 Printer-friendly Version → 専門家向け、よくある質問。窃盗癖関連の26項目に専門家が答える(窃盗症に関するFAQ)(A4版6ページ)は、こちらからダウンロードしてプリントしてください。

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【HP内関連サイト】

窃盗癖(Kleptomania) 窃盗癖、クレプトマニアの概念、基礎知識、関連問題など。

クレプトマニアの自助グループ、KAの誕生と成長について 都内で始まった万引・窃盗癖に悩む本人のための自助グループ、「クレプトマニアクス・アノニマス」(KA)の情報

クレプトマニアの自助グループ、KA世田谷・東北沢ミーティング 基本情報(プリント用) 2004年12月、東京都世田谷区東北沢でKAがスタートしました。

クレプトマニアの自助グループ、KAぐんま 基本情報(プリント用) 2009年7月、群馬県前橋市でKAがスタート!!!! [NEW]

クレプトマニアの自助グループ、KAかんさい 発足 2009年11月、KAかんさいが発足しました。参加者募集中。
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クレプトマニアの自助グループ、KA世田谷・ちとからミーティング 基本情報(プリント用) 2010年9月、東京都世田谷区千歳烏山で都内2ヵ所目のKAがスタートしました。
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病院内・万引盗癖ミーティング(赤城高原ホスピタル院内、MTM) 病院(赤城高原ホスピタル)内の万引・窃盗問題ミーティング(MTM)に関する情報

クレプトマニア本人からのSOS このHPを見て、SOSを求めてきた主婦と院長とのメールのやりとり。ビジターへのお願い。

嗜癖問題Q&A: 万引、盗癖 万引と法律問題。

窃盗癖、回復者と回復途上者からのメッセージ  窃盗癖、万引癖回復(途上)者からのメッセージ。


窃盗癖患者、闘病日記 その1
 ある30代女性窃盗癖患者の闘病日記。入院生活、ありのままの今日1日。   [NEW]

窃盗癖患者、闘病日記 その2
 ある30代女性窃盗癖患者の闘病日記。入院生活、ありのままの今日1日。続編(未完成)   [NEW]

クレプトマニア チェックリスト 本人と家族向けのための情報整理マニュアル(未完成)。初診の方は必見。

マス・メディアに紹介された窃盗癖治療 新聞、TVなどで紹介された窃盗癖治療について   [NEW]


【はじめに】 

 「窃盗癖(Kleptomania)」の治療では、治療と同時に、司法的配慮が欠かせません。当院と関連外来診療所には、平成22年になって、平均1ヵ月に10名以上の常習窃盗患者の初診がありますが、そのうち2割くらいは、初診時に司法判断待ちの状態です。つまり、警察、検察の呼び出し待ち、在宅取り調べ中、留置中、保釈中、起訴済み、公判中、結審間近、1審判決済み控訴予定、控訴審進行中、などです。初診時にもうすでに2回以上実刑を受けて出所してきたというような方も少なくありません。弁護士の方々との相談や共同作業も増えてきました。「季刊・刑事弁護」の依頼原稿に解説記事を寄稿したのを機会に、このページを作り関連記事を集めました。



【窃盗癖、盗癖】 

 「窃盗癖(Kleptomania)」は、DSM-IV-TR(アメリカの精神疾患診断、統計マニュアル)では、「他のどこにも分類されない衝動制御の障害」の章に分類されています。この章に含まれる他の疾患は、間歇性爆発性障害、放火癖、病的賭博、抜毛癖、特定不能の衝動制御の障害です。

 DSM-IVの診断基準は、以下の5項目から成ります。
A.個人的に用いるのでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
B.窃盗におよぶ直前の緊張の高まり。
C.窃盗を犯すときの快感、満足、または解放感。
D.盗みは怒りまたは報復を表現するためのものでもなく、妄想または幻覚に反応したものでもない。
E.盗みは、行為障害、躁病エピソード、または反社会性人格障害ではうまく説明されない。


DSM-IV-TRの診断基準Aは、窃盗の主たる動機が、その物品の用途や経済的価値でなく、衝動制御の問題にある、という意味に許容範囲を広く理解すべきである。そもそも、物質的に恵まれた環境にある現代人が、わざわざ金銭的価値も使用価値もない物を選んで盗み、それを使用せず廃棄するということは考え難い。衝動制御の障害の結果として窃盗をする場合でも、主たる対象物は、当然見慣れた物品であることが多く、窃盗に成功して手元に残った盗品は、使用可能であれば捨てずに使用するのが自然である。盗品を使用するのは気持が悪い、というのが正常者の感覚であるかもしれないが、そのような罪悪感は、窃盗行為を繰り返し慣れるとなくなるものである。窃盗癖患者のほとんどが盗品を使用し、或いは、食するが、盗品が食品や生活用品であり個人的使用目的であるので、クレプトマニアには相当しない、とする論理はおかしい。

経験的に多くのクレプトマニアクス(病的窃盗者)は、自分がなぜ窃盗を繰り返すのか、明解に説明できない。精神病理学的にそのメカニズムを説明すると、窃盗の直前にある種の緊張の高まりを経験し、窃盗をする時にある種の満足、達成感や解放感を経験しているということになる。

クレプトマニアの患者の多くは、自分が毎回反省しながらもなぜ万引きを繰り返すのか、説明できず、問い詰められると、その場に合わせて返答をしてしまう。だから、被疑者が取り調べ段階で、万引きした商品について、食品は、自分が食べ、家族に食べさせるつもりであったとか、生活用品は、家庭で使用するつもりであったとか、話したとしても、それは単にその商品の一般的な使用法を自己の状況に合わせて述べているに過ぎず、さらに、お金を節約したかった、などという供述も、購入と窃盗の概念の違いを自己状況に合わせて周りの人に理解可能なように述べたに過ぎない。

それゆえ、クレプトマニアの診断にあたっては、盗品が食品や生活用品であるとか、患者が「金を払いたくなかった」などと述べた、というような表面的な理由によらず、なぜ、経済的余裕もあり、生来反社会的とは思えない人が、購入資金もある状況で、発覚すれば失う物が極めて大きいという危険を顧みず、敢えて窃盗行為を繰り返すのか、その真の理由を探らなければならない。

窃盗癖の研究は、精神医学の中では遅れていて、その疾患概念、輪郭は必ずしも明確ではない。例えば、窃盗癖に密接な関係があるとされるうつ病は、DSM-IV‐TRでは窃盗癖の合併症の一つとされるが、ICD-10では鑑別診断に数えられている。

なお窃盗癖の一部を精神疾患とみなすからと言って、本意見書作成者は「万引き・窃盗」の犯罪性を否定するものではない。違法薬物の乱用と依存症、違法ギャンブル常習、家庭内暴力、放火癖などには、犯罪という側面と、嗜癖性精神障害としての側面がある。有効な問題解決や予防のためには、法的取り締まりや処罰だけではなく、嗜癖治療が欠かせないというのが私たちの見解である。


【万引・窃盗癖の裁判と治療】

 2003年頃から、万引に関連して、警察による本人の逮捕勾留や裁判中のケース、執行猶予や実刑判決が出た方のご相談を受けることが多くなりました。そのような裁判がかかわる多くの患者さん方を治療してみて、以下のようなことに気がつきました。

 1.他の嗜癖問題と同様に、万引・窃盗癖の治療には時間がかかり、失敗がつきもの。しかし回復は可能。
 2.明らかな摂食障害や物質使用障害、うつ病などの合併が見られる場合は、そうでない場合より予後良好。
 3.治療中のスリップ(万引再犯)は、裁判進行中では最悪の事態であるが、これがかなり多い。
 4.本人とご家族が治療に積極的で、誠実に治療者の指示に従う場合は、回復率が高い。
 5.初犯であれば、専門家の治療が行なわれていることが分かれば、不起訴になる可能性が高い。
 6.治療からドロップアウトした患者の予後は極めて悪い。再犯の可能性が大。(警察から問い合わせがあるのでわかる)。
 7.執行猶予中の再犯でも、誠実に治療に取り組み、治療効果があると裁判官に認められれば、実刑を免れることがある。
 8.専門治療は、起訴前にスタートするのがベスト。専門治療と有能な弁護士の援助があれば、不起訴になることが多い。
 9.実刑判決が出た後に、治療をスタートして、控訴審でこの判決を覆すことはきわめて困難。
 10.病的な万引ケースであることが明らかである場合は、専門家の「意見書」が有効なことが多い。
 11.真に万引・窃盗癖からの回復を願うというより、主に裁判対策のために受診治療を求めているように見えるケースは予後不良。
 12.弁護士の能力、裁判官の裁量によって、判決はかなり変わりうるようにみえる。
 13.万引常習犯の私選弁護士による弁護費用は最低でも60万円以上プラス実費、100万円以上になることもある。。
 14.最近、罰金刑が増えており、万引常習者の場合、高々数千円商品の万引の罰金が20−50万円。
 15.医療費やカウンセリング料は、勾留や、弁護、罰金、実刑などに費やす心理的、経済的負担に比べると安い、と思います。
 (この項目、07/12/20追加、08/10/27、08/11/11改訂)


【文献紹介】(新しい文献を上にしました)

刑事弁護の羅針盤とも呼ばれる「季刊 刑事弁護64号」
窃盗癖関連の記事が出ています。

一般の方も入手可能です。平成22年10月15日発売、2,625円


次の3つの記事は、窃盗癖関連です。

再犯を防ぐ弁護活動とは? :高野嘉雄
ケース報告:クレプトマニア(窃盗癖)/再犯でも弁護人ができること:林 大悟
回復支援・治療の現場から/窃盗癖の治療最前線と刑事弁護:竹村道夫

上記の3記事は、いずれも専門治療と弁護活動の協力体制の大切さを強調しています。






医学雑誌、「アディクションと家族」(季刊、第26巻第4号、2010年4月25日発行、家族機能研究所)は、「クレプトマニアと摂食障害」特集号です。
以下、内容概略です。

特集にあたって?クレプトマニアと罪悪感 斎藤 学 267
クレプトマニアと摂食障害?望まれる司法対応と治療
〜「法と精神医学」研究会より〜 高木洲一郎, 竹村道夫, 斎藤 学, 森野嘉郎, 木下淳博, 当事者 269
当事者との対談 「あたしはこんなに偉いんだ」という気持ちで盗っていた U子さん 聞き手/斎藤 学 285
摂食障害患者の万引きと司法精神医学 中谷陽二 291
摂食障害患者の万引きをめぐる諸問題 高木洲一郎、ほか 296
摂食障害と窃盗癖、私の対処法 竹村道夫 304
摂食障害から派生した窃盗癖の一例 斎藤 学 311
摂食障害者の窃盗事件をどのように弁護したか 林 大悟 321

研究報告 精神科医療機関を受診した常習的窃盗行為を有する患者群の報告 清水裕美、ほか 325 (各行末の数字は掲載ページ)

定価(税込)1,680円 です。購入は、以下のサイトからできます。http://www.iff.co.jp/book/adf/a20094/index.html

または、株式会社IFFヘルスワーク協会出版部(03-5575-3764)にご相談ください。


また、医学雑誌、「アディクションと家族」(季刊、23巻j第3号、2006年11月15日発行、家族機能研究所)は、「クレプトマニア」特集号です。
以下、内容概略です。

特集にあたって 斎藤 学 206
当事者との対談 聞き手/斎藤 学
├カバンの中が盗品でいっぱいだとすごい幸せ! L男さん 209
├友達のものを盗ってもシラッとしている自分がいた M子さん 218
└帰り道のコンビニで、パンやおにぎり100個ずつ盗った P子さん 225
摂食障害者のクレプトマニア 遠藤優子 232
万引き・盗癖の自助グループについて 竹村道夫 238
クレプトマニアについて−積極的養生のすすめ 永野 潔 244
クレプトマニアと罪悪感 斎藤 学 252 (各行末の数字は掲載ページ)

定価(税込)1,680円 です。購入は、以下のサイトからできます。http://www.iff.co.jp/book/adf/a20063/index.html

または、株式会社IFFヘルスワーク協会出版部(03-5575-3764)にご相談ください。


【追加事項】 

 窃盗癖の一部を精神疾患とみなすからと言って、筆者は「万引・窃盗」の犯罪性を否定するものではありません。違法薬物の乱用と依存症、違法ギャンブル常習、家庭内暴力、放火癖などには、犯罪という側面と、嗜癖性精神障害としての側面があります。有効な問題解決や予防のためには、法的取り締まりだけではなく、嗜癖治療が欠かせません。

 DSM-IV の日本語訳の本文中の各疾患名には参考原文対照として元の英語疾患名が出ていますが、その「窃盗癖」の元の英語疾患名、「Kleptomania」はミススペリングで、「Kleptmania」となっており、 o が脱落しています(医学書院、614ページ)。
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[当院サイト内の関連事項]

クレプトマニアの自助グループ、KAの誕生と成長について 
クレプトマニアの自助グループ・KA世田谷 基本情報(プリント用)
クレプトマニアの自助グループ・KAぐんま 基本情報(プリント用) [NEW]
クレプトマニアの自助グループ・KAかんさい 発足 
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クレプトマニア本人からのSOS 
嗜癖問題Q&A: 万引、盗癖 
万引き・盗癖の自助グループについて(文献)
窃盗癖、回復者と回復途上者からのメッセージ 
窃盗癖患者、闘病日記 その1  [NEW]
窃盗癖患者、闘病日記 その2  [NEW]
クレプトマニア チェックリスト 


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AKH 文責:竹村道夫(2010/10/19) 


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