施設長の独り言

   第34話  岡田耕一郎・浩子夫妻との情報交換in仙台 

  9月18、19の両日仙台市で開催された全国社会福祉施設経営者大会に参加した。仙台と言えば、岡田耕一郎先生が所属している東北学院大学がある。私は迷わず東北学院大学の岡田研究室に向かった。研究室では岡田夫妻が待っててくれ、近くのイタリアレストランでの情報交換となった。
 私が岡田先生の考えに初めて触れたのは2001年(平成13年)のことである。それは研修先での講演であった。今までにない発想で介護を語るその内容は新鮮であり、また私が考えていたことを理論化し補強してくれるものであった。この事については施設長の独り言(福祉経営とは(1話))に詳しく書いた。
  このころからユニットケアが盛んに叫ばれ、今までのお仕着せのケアから「寄り添うケア」という耳さわりの良いケアが脚光を浴び始めてきた。そこに外山義京都大学教授らが唱える大部屋から個室化の考えとうまくドッキングしユニットケアは一躍時代の寵児になりつつあった。確かに寄り添うケアは、今までのケアには無い、お年寄りを主体に考えたすばらしいものであると思う。この考えは介護論に多大な影響を与えたのは紛れもない事実である。現に当施設でも寄り添う介護は今やあたりまえの光景になっている。しかし、介護にあたる職員の数の多さや職員育成の煩雑さを考えると限られた予算の中で、大部屋主体でかつ大食堂をユニットに替え、日常的にユニットケアを行うのは厳しいなというのが私の感想であった。このことについても施設長の独り言(
第9話 ユニットケア成立の必要十分条件を考える )に詳しく書いた。
  2005年(?)になり突然、岡田先生から施設に電話があった。ホームページを見て電話してきたのだと思う。(検索エンジンに「岡田耕一郎」とキーワードを打ち込み検索すると岡田耕一郎に関係するホームページが一覧になって表示される。表示されたホームページを順繰りに読み込んで目当てのホームページに行き着く。)何を話したかもう記憶にはないが、この年の11月に介護職員二人を連れて研究室を訪ねた。やはり夫婦二人で我々を迎えてくれた。このときの記録がA4用紙3枚で手元にあるが、その内容は岡田耕一郎・浩子著『老人ホームをテストする』(暮しの手帖社、2007年)に再録されている「日本とスウエーデンの老人ホームを比較する」とほとんど同じである。
 私が群馬県老人福祉施設協議会の研修担当の副会長や研修委員長を担当している間に、2002年施設長研修に、2006年職員研修に来ていただき、先生の持論を披露してもらった。施設長研修のときは現介護高齢課新木課長も講演を聞いている。
 その後先生が先ほどの『老人ホームをテストする』を書くにあたって、当施設がそのテスト対象施設になった関係で問い合わせが頻回になりまた訪問もあった。この本は賛否両論有るが、否定論の最たるものは「現場が分かっていない。入居者の視点が欠けている」である。中には「10年前の介護である」というのもあった。当施設がテストされているので、ロータスヴィレッジの介護は10年前ということになるが、15年前に開設されたので少なくとも15年前よりは良くなっているし、今日も明日も同じサービスを提供する仕組み作りは15年前から取り組んでいる。(テストの結果は26話テスト結果は如何にを参照。)先生の考えはなかなか理解するのが難しい。福祉事業経営と企業経営の差かなとも思う。福祉事業だけが聖域化されすべてが保証されるほど時代にゆとりはなくなっている。福祉事業は措置という名目で長らく行政から経営は保証され運営のみ行っていれば良かった。今日より明日をもっと良くという右肩上がりの論理がそのまま通る世界であった。介護保険制度導入後、行政の保護(護送船団方式)が著しく減少し自分たちで経営を行う必要が生じた。収入を確保し今日も明日も同じサービスをきちんと提供する企業経営から見れば当然の考えが行き渡っていない。今日も明日も同じサービスを提供するには、きちんとした仕組みをつくっていないと実行できない。このことを岡田教授は指摘している。
 先生に今後の計画を聞いたところ「スウエーデンの介護については一区切りついたので終わりにし、今度はドイツの介護保険について調べる」という。また文部省に研究費の申請をしたのですか、と問うたところ「通りませんでした。本が良く売れたのでその印税でドイツに行くつもりです。」と言う。なかなか鋭いと思った。日本で介護保険法制定時、あれほどドイツの介護保険が話題になったのに、今ではとんと話題にもならなくなった。先生の鋭い臭覚が何かを嗅ぎつけたのに相違ない。「先生、また物議を醸し出すことを発表して下さい」と言ってレストランを後にした。

 
 


            平成20年10月31日  小林 直行


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