施設長の独り言
第9話 ユニットケア成立の必要十分条件を考える
7月26,27日と札幌で開かれた「実践者が作るユニットケアC」に参加した。今最も注目されているユニットケアの現状を04年4月と03年5月で比較してみる。特別養護老人ホーム(以下「特養」という)は5165施設と2.8%増えたのに対し、小規模生活単位型介護福祉施設(ユニットケア実施施設)は113施設で178%増加し、特養に占める割合も0.8%から2.3%と3倍弱までに増加している。
これほど増えているユニットケアを、厚生労働省の示す設置基準とおり完全個室ユニット型特養(新型特養)を作ったとして、果たしてうまくユニットケアが成立するのか不安になり、私自身の考えであるが,,ユニットケア成立の必要十分条件を考えみた。
札幌での実践報告、その他資料等を分析していくとユニットケア成立のためには、介護職員(看護職員も含める)数と構造設備面の二つが大きな要因になっていることが分かる。
札幌でのユニットケア実践報告で、104件の特養、老健、医療施設の介護職員(看護職員を含む)1人に対する入所者数(ショートステイも含む)は、平均で2.19人特養のみでは2.1人(特養施設は93施設)である。実践報告をする程であるからこの104施設は、ユニットケアに関しては実績があると考えられるので、ユニットケア成立の職員条件は入居者2.1人に対し介護職員1人ということがいえる。では職員数が多ければユニットケアが成立するのか。否である。多くの識者や助言者が指摘しているように、ソフト(既存の流れ作業的ケアを行っている職員の意識改革)無くしてハード(多くの職員)のみではユニットケアは成立しない。このことから職員数は必要条件で有ることが言える。
次に構造設備が整っていれば、ユニットケアは成立するのだろうか?これもハードのみではユニットケアは成立しないことから、成立しないだろう。ということは構造設備が整っていることは、ユニットケア成立の必要条件でしかない。
必要条件は揃ったが十分条件とは何なのか?助言者が指摘している「ソフトがなければ駄目だ」のソフトとは何なのか。どうもこの「ソフト」が十分条件に該当するように思える。
実践報告に「ユニットケアを行っている施設から職員が異動してきていきなり始めた」とか、「ユニットケアに関心を示さない職員が辞めてから急速に盛り上がった」とか、「いつの間にかかつての流れ作業的なケアが復活した」とかいう報告が多く掲載されている。これらのことは「ソフト」を暗示していると思う。私はこのソフトを人事教育システムと呼ぶことにする。人事異動・人事考課・職員教育・研修システム等職員を採用してから退職するまでの職員に関する全てを含むシステムである。この人事教育システムこそが十分条件に該当すると思われる。
以上まとめると、介護職員が入居者2.1人につき1人おり、構造設備が整っており、更に人事教育システムが機能すればユニットケアは成立する。逆にこれら3条件の内一つでも欠ければユニットケアは成立しない。
私は3つの条件の内人事教育システムが最も重要であると考えている。どんなにすばらしいユニットケアを行っていても継続させなければ意味がない。リーダーとなっていた職員が辞めたためにユニットケアが駄目になってしまったでは済まされないのである(詳しい理由は第1,2話を参照)。
構造設備はイニシャルコストなので単年度で終了するが、職員増加はランニングコストになるので、修理・建替等今後のことを考えるとおいそれと増やせないのが経営者心理であろう。職員が2:1になってもまだが足りないと言っている参加者の声を札幌で聞いた。2002年に千葉で開かれた「ユニットケア全国セミナー」で浅野宮城県知事は、この職員の問題を突いた発言をしている。
いずれにしろ、お年寄りの居場所づくりや寄り添う介護としてのユニットケアはすばらしい思うが、職員数の問題と人事教育システムを解決しない限り、新型特養も含めユニットケア導入を決めた既存の特養も厳しい対応を迫られるのは確実と思われる。
平成16年8月31日 小林直行
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