【 解離性同一性障害、100人の証言 】
(改訂:04/07/14)
[ はじめに ]
解離性同一性障害の患者の症状や行動は、想像以上に幅が大きく、その治療体験は、驚異と発見の連続です。
ここでは、筆者が直接治療にかかわった解離性同一性障害患者とその家族、周辺の人々の証言を報告して、理解の助けにしたいと思います。
以下の証言のうち、断りがない限り、患者は女性です。[このページは工事中、未完成です]
[原因?トラウマ?]
ペット扱い
父親にペット扱いされていました。すごくかわいがるけど、逆らうと簡単に切れてしまい、そのときには何をされるか分かりません。日本刀を振り回したり、電気コードで大腿部をたたいたりされました。鉛筆を手のひらに突き刺されたことがあります。(DID、26歳)
父の機嫌取り
3歳のときから父親のマスターベイションの手伝いをしていました。機嫌が良い時は性虐待をし、機嫌が悪いと暴力を振るっていたのです。母親は知っていたはずですが、私と同様、父親の暴力の被害者でした。私は中学生のころから自傷をはじめました。中学2年のとき、首吊りに失敗しました。この頃の記憶は曖昧なのですが、姉が覚えていました。姉は母の姉の養子になったので、虐待被害は受けませんでした。(DID、28歳)
[発症]
変幻自在の女性
人格変化に最初に気づいたのはボーイフレンドです。切れ者のOL、はしゃぎまわる女性、弱弱しい(本来の)私、猟奇的な事件に異常に執着する女性などが同じ人と思えないこと、記憶の混乱があることに気づいたのです。お菓子を食べているときに幼児人格になることで彼の疑惑は確信に変わりました。(DID、27歳)
[家庭環境]
性虐待より悲惨な家庭
記憶のある限り小さな頃から、私の両親は不仲で、けんかばかりしていました。父が暴力を振るい、母がその愚痴をほとんど独語のように言い続けていました。自宅から3軒隣のおじさん所が私にとって唯一の逃げ場所でした。おじさんのお膝に乗って、遊んでいるうちに、おじさんが私の下腹部に触るようになりました。私たちは体中をさわりっこして遊んでいました。小学4年の時におじさんとセックスしました。おじさんは「誰にも言うんじゃない」と言いました。性行為は好きじゃなかったけど、家にいるよりはましでした。おじさんとの性行為は、私が中学1年時におじさんが引っ越して行くまで続きました。今から考えると、おじさんの行為は「性虐待」でしたが、私は、今だにおじさんを恨めません。おじさんがいなくなって、逃げ場所のない私は、家庭で両親の板ばさみになり、私の人生はもっと悲惨なものになりました。(DID、23歳)
[社会環境]
心霊師、占い師
しばしば子供人格になってしまう私を見て、祖父母(祖父80歳、祖母78歳)が、「霊が取り付いているから」と言って、心霊師のところへ連れてきました。帰りに占い師の所に寄りました。(DID、26歳)
[人格交代]
愛の告白
高校時代から、友人に、急に子供の喋り方になることがある、と言われることがありました。自分ではその時の記憶がないのです。ホスピタルのホームページを見て自分が解離性同一性障害であることを確信しました。逆に積極的で大胆な副人格になることもあって、私の知らない間に、愛の告白をしたり、しつこく男性を追いかける内容のメールを繰り返し出したりするために、着信拒否されたこともありました。気味悪がられて離れていく友人もいました。そうなってほしくないので、大切な友達には、ホスピタルのホームページの解離性同一性障害の解説記事を見てほしいとメールしました。
夫への虐待
お酒をのむと暴力的になります。そのため、3歳年下の夫の両腕は私が爪を立てたり引っかいたりした傷痕で覆われています。暴力的になる時に私は別人格になっているらしく、私自身には記憶がありません。(DID、26歳)
危険な副人格
分かっているだけで10人以上の副人格があります。子供人格が3人。変わった所では、性的に奔放で黒人が好きな22歳の女性、変態的男性と猟奇的殺人事件に興味がある20代前半の女性がいます。実はそれよりさらに怖い人格があります。まだ出現したことがないけど、私が闇の世界と呼ぶ心の奥底に黒覆面の中年男性がいます。その男性には殺人衝動があります。別の人格がその男が出てこないように監視しています(DID、26歳)
色彩イメージの意識状態
私自身の認識は、自分には色彩イメージの意識状態があって、紫、水色、赤、ピンク、オレンジ、黒などの基本色調に応じた人格があるのです。(DID、24歳)
人格の混在
先週の自傷行為の時の人格は、私(基本人格)が20%、ナオミ(副人格)が80%位です。手首から血がドクドク出ている記憶があるけど、その前後の記憶がありません。日記を書いている時に幼児人格が顔を出すことがあります。筆跡と内容が文章の途中から急に幼稚になります。面接中にもたまに人格が混在した状態になることがあります、完全に混ざり合うということはありません。(DID、33歳)
副人格の年齢
3歳時に性虐待に遭い、13歳のときに誘拐されそうになりました。その時から人格がはっきり解離したようです。今のところ分かっているだけで17人の人格があります。そのうちの二人、基本人格と同い年の副人格ひとりと、その二人だけが年をとる人格です。残りの15人は年をとりません。(DID、18歳)
ポップアップ
運転中の車の中で助手席の娘、裕美子(17歳)が突然交代人格のユミちゃん(4歳)になって、「アイスクリームを食べたい」というので、「後でね」と答えたら、バタンと倒れてしまいました。いつもと様子が違うので、車を止めて揺り動かしてみました。これまでだったらすぐに誰か別人格が登場するのですが、今日は数分経っても目覚めません。そのうちに、ピクピクとけいれんし始めました。
困ってしまって、「あなたは誰なの、誰でもいいから出てきてちょうだい」と言ってしまいました。途端に娘はむくっと起き上がり、野太い声で「混乱させるようなことを言うのじゃない」と言いました。これまで会ったことがない交代人格です。そしてすぐに顔が幼児っぽくなり、ユミちゃんになって、「アイスクリーム」と泣き声で言いました。さらに数秒後にユーミン(20歳)になって、「子供の面倒もきちんと見られないのか」と私を叱りつけるように言いました。そして数秒後に、男っぽい声になって、「がたがた言わずに俺に任せろ!」と叫び、「クソッ」とコンソールボックスをげん骨で強く殴りました。そんな具合に次から次に副人格が6、7人も登場し、収拾がつきません。「ごめんなさい。お母さんが変なことを言ったから混乱したのね。ユミちゃんの目が覚めたらアイスクリームを買うから」。と言ったら、やっと眠りにつきました。20分後に病院について起こしたら、主人格の裕美子でした。裕美子本人には全然記憶がありません。ただ、疲れと頭痛をうったえるだけです。
院長に状況を話したら、それは専門家が「ポップアップ」と呼ぶ現象で、多くの人格が我先にコントロール権を主張する混乱状態だと説明してくれました。(DID患者の母、47歳)
睡眠時の人格
16歳の娘は、眠っているときにも、別人格になっています。顔つきや体位、手足や仕草、寝言などでそれがわかります。だらしなく口をあけてよだれをたらしている時は、4さいのゆきちゃん。手の甲で鼻と左の目をこする仕草はゆいちゃん(10歳)。うつむきで寝るのは、主人格の雪子(16歳)。両足と右手を伸ばして口の端でぶつぶつ言っているのはつっぱりのユカッチ(19歳)。よびかけたり、揺り動かすと、ほとんど想像したとおりの人格が現れます。たまに違うのは、起きる瞬間に、別人格にスイッチするからです。(DID患者の母、39歳)
[記憶障害]
ビデオ録画
本当に見たいテレビドラマなどは、必ずビデオで録画しながら鑑賞します。そうしないと、見ている途中で、飛んで(解離して)しまって、その部分がスッポリ抜け落ちていることがあるからです。白昼夢のような状態かあるいは人格交代が起こっているようです。(DID、23歳)
[解離症状]
体外離脱、それとも解離
小学2、3年のころから、ちょっと嫌な場面に遭遇した時、自分をパッと太平洋の真ん中の水中に疎開させることができました。その場に残る身体という抜け殻は、私がいなくても自動的に行動し喋ります。本物の私よりむしろすばやく、大胆です。ただ、本当の感情はなく、あまり深く考えず、自動的に行動するのです。高校生になってからは、この体験が「幽体離脱」とか「体外離脱」とかいうものだと知りました。もっと最近では、これが英語で
"Out of Body Experience" (OBE) と呼ばれていることを知り、これを自由にできる自分は超能力者だと思っていました。解離症状だと医師に言われても納得がいきません。(被虐待体験者、DIDの疑い、21歳)
[合併医療問題]
スイッチング、頭痛
スイッチング(人格交代)が多い日には、頭痛がひどくて、とても疲れます。入院中の仲間も、ネットの仲間も同じようなことを言っています。(DID、22歳)
[合併精神症状]
幻聴、幻触、金縛り
幻聴と幻触と金縛り体験があります。幻聴は子供の頃から、複数のざわざわした声です。最近それは副人格の声だと気がつきました。金縛りというのは、行動中に突然体が動かなくなり、口が利けなくなることです。数秒から数分で回復します。(DID、27歳)
暗闇恐怖、視線恐怖
暗闇が異常に怖くて、明かりをつけたまま寝ます。暗いトイレには入れません。あと、視線恐怖もありますが、視線が合うのが怖いだけでなく、男性の視線が怖いのです。幼児期から思春期にかけて暗い場所で父親に性的成長をチェックされたことが関係していると主治医に言われました。
下腹部の不快感
胸から下腹部、性器にかけて形容しようのない不快感があります。幼児期から思春期まで父親に撫でまわされていました。(DID、27歳)
[合併嗜癖問題]
処方薬乱用
入院前、精神科クリニックから15種類の薬、1日30錠を処方されて、内科処方、4種類と一緒に服用していました。昼間から半分覚醒、半分睡眠状態で、体のふらつきが強くて、ほとんど立っていられませんでした。公共交通機関が使えず、東京からタクシーでホスピタルに入院しました。院長に処方薬乱用と言われました。2ヵ月の入院で、精神科が2種類、内科薬が1種類になりました。体調も気分も良好です。私には、8人の交代人格がありますが、入院前の診断は、「境界性人格障害」でした。(DID、23歳)
[非定型解離性障害]
記憶のあるスイッチング
私は、本来の自分の他に3人の「状態」を持っていますが、スイッチングの後にも、大抵は共通の記憶があります。3人の違いについて、周りの大部分人は気が着かないと思います。
[診断]
鳥肌
主治医や院長から、看護師への解説を聞いても、解離性同一性障害という病気を全面的には信じられませんでした。何より、20年間の精神病院勤務の私の経験がそんな病気の存在を受け付けませんでした。他の看護師から、人格交代の場面の報告を聞いても、その人たちはだまされているんだと思っていました。時々子供返りする患者さんの言動をどうも演技っぽく嘘っぽく思っていました。ある日、私が夜勤をしていたら、突然、子供の泣き声が聞こえました。16歳のDID患者の部屋からです。部屋に駆けつけてみると、患者さんがベッドの上で膝を抱えて大声で泣き叫んでいました。「許して、許して、もうしません。もう、もう、はたかないで。トイレに閉じ込めないで。ごめんなさい」。正直に言って、私はその子が嘘泣きをしていると思いました。あまりに大げさな泣き方だと思ったからです。それでも職業柄、形だけでも慰めようと肩に手を置くと、その子は「ヒー、痛いー、やめて」と悲痛な叫びを挙げました。その時私は、しっかりとこの目で見ました。患者の頭と額は冷汗で湿り、両腕と大腿部、首筋に鳥肌が立っていました。両膝の間に伏せた顔を下からのぞきこむと、大粒の涙が流れ落ちていました。さらにその下のお尻から足元のあたり、シーツが濡れていました。恐怖のあまり尿失禁をしたのです。嘘泣きではない。この患者は本当に4歳の被虐待者の体験をしていて、今痛みを感じているんだ。「許して、許して」とブルブル震える大きな「幼児」を前に、私は自分の体にも鳥肌が立つのを感じました。その瞬間、患者は「キャー」とひときわ高く叫び声を挙げてバタンと横に倒れそのまま失神してしまいました。5分後に目覚めた患者は、駆けつけた当直医と私を不思議そうに見上げてゆっくりと言いました。「どうして先生と看護婦さんがいるの、私が何かしたの」。
私は、自分の体験から言えます。解離性同一性障害の診断を受け入れられない医師や看護師は、要するに、この疾患を持つ患者を見たことがないのです。あるいは、経験が少なすぎるのです。典型的な患者を何例か見れば、誰だってこの疾患の存在を受け入れざるを得ません。(40代、看護師)
[自傷行為/自殺行為]
自殺未遂、自傷行為
高校時代から自殺未遂が7,8回あります。ほとんどが市販薬、睡眠薬、安定剤のまとめのみです。自傷行為は数え切れません。(DID、27歳)
小5の首吊り未遂
小学五年生のとき、最初の首吊り未遂をしました。父親の性虐待があったのです。その頃から、基本人格は隠れていて、元気のよい副人格の方がなり代わっていたようです。
[医療]
記憶回復の危険性
最近思い出したことは、トイレで父親のペニスを持たされて小便の手伝いをさせられたこと、フェラチオをして精液を飲まされたことです。治療によって父親の性虐待の記憶を取り戻すに連れて、自殺衝動と自傷行為はむしろ増えてきました。危険な自殺未遂のために入院になりました。(DID、26歳)
治療ターゲットの変遷
治療を始めて2年になります。考えてみると、この間に何度か治療上対応すべきテーマの変遷があったようです。最初の半年は、家族騒動と本人の人格交代、治療体制の確立、次の6、7ヵ月は、本人の自傷、自殺行動と治療スタッフの拒否反応、次の4、5ヵ月は低体重(30kg以下)と内科的治療、そして最近の半年はひきこもりとアルコール問題です。(DID、17歳)
葉っぱをたべる訳
23歳の亜紀ちゃんは、時々4歳のよっちゃんになります。その時は、看護師が気をつけていないと、目の前にある植物の葉っぱをすぐに口に入れます。放置しておくと本当に食べてしまいます。主治医の指示で、担当PSW(精神科ソーシャルワーカー)が面接しました。
4歳のよっちゃんを呼び出し、PSWが聞いてみました。
「どうして、葉っぱをたべるの ?」
(ポロポロ泣き出し)
「あのね、よっちゃんがね、おさしみのよこにあるみどりのはっぱをたべなかったら、おかあさんが、だめって、いうの。こんなこいらないって、いうの。だから、よっちゃんが、はっぱをたべれば、いいこ、っていわれるかもしれないとおもったの」
[軽快/回復]
お小遣い
治療開始後も交代人格の存在をどうしても受け入れられず、主治医に「そんな訳の分からないことを言われても困ってしまう」とか、「そんな人知らない」と言っていた患者が、1年間の治療後、「最初からお小遣いを3人に分けておこうと思うの」と言い始めました。というのは、コンビニに買物に行った時、知らないうちに、買い物カゴの中におもちゃやお菓子とお酒が入っているからです。おもちゃとお菓子はアヤちゃん(4歳)が、お酒はマッキー(20歳)が現れて買うようです。レジで気づいた患者(基本人格)が「こんなもの要らない」と思って返しに行ってもレジまで来るとまた同じ物が入っていたり、時にはお菓子やお酒がかえって増えていたりします。何度やっても同じです。(DID、18歳)
[死]
[その他]
お父さんへ
お父さん、あなたは3歳の私にした事を忘れたのですか? 本当に?
お母さんのいないあなた達のベッドの上で並んで横になって、
お酒臭い息を吐きながら、「怖い」と言うMMちゃんをグイッと引き寄せ、
のしかかり、MMちゃんの小さな体のMMちゃんの大切な場所に指を入れ、
それから、ペニスを入れたでしょう? あなたは忘れたのですか?
あなたが忘れても、私には忘れられません。
今起こっていることのように痛みと恐怖を感じます。とはいっても、
その記憶は、すりガラスの向こうのことの出来事みたいです。
3歳の私は強烈な痛みと恐怖、絶望から心を守るために、解離したのです。
3歳に始まった性虐待の苦痛はNNという交代人格が私の代りに受けてくれました。
NNも私もものすごく怒っています。どす黒い怒りの大蛇が私たちの心に棲んでいて
時に暴れます。そういう時に私たちは腕を切ったり、首を吊ったりします。
この怒りの大蛇をどうすればいいのでしょう? どうやってなだめたらいいのでしょう。
これから先、生きていられるかどうかわかりません。
考えると、怖くて怖くて心が凍りつきます。
● ご連絡はこちらへどうぞ ⇒ [赤城高原ホスピタル E-mail ]
● または、昼間の時間帯に、当院PSW(精神科ソーシャルワーカー)にお電話してください
⇒ TEL:0279-56-8148
文責:竹村道夫(初版: 03/05/29)