11月に行われた総選挙で年金問題が争点になったのにも関わらず、2004年度年金改革に関して政府与党は、現行の保険料率を来年度以降は毎年0.354%ずつ引き上げ、17年度に18.35%に固定するという、抜本的改革にはほど遠い形で政治決着した。この結果専業主婦配偶者を持つ夫婦の給付率は標準的なケースで50.1%になるという。既に被扶養配偶者のない被保険者の給付率は50%を切っているので、専業主婦のみ優遇しすぎるという声は、働く女性たちの間で更に高まるだろう。
現状の手直し程度に終わったため問題は先送りされたと思う。国民年金保険料の未納率は02年度で37%であるという。現行制度が世代間扶養と国民基礎年金で成り立っている以上この未納部分は誰かが負担せざるを得ない。どうするのか。2つ目は出生率の低下(=高齢化率の上昇)である。政府予測の出生率は、過去高めに予測しており、現実は低め低めと推移している。専業主婦の労働力を期待するか外国人を受け入れるか判断しなければならない時が来るのだろう。3つ目は現在年金・医療・介護・雇用などの保険料は合計で年収の24.1%。これを原則労使折半負担しているが、年金保険料が18.35%になると2025年の保険料合計は30%前半にまで上昇する。これだけの負担に労使共に耐えうるか。当施設の14年度の法定福利費は2200万円である。耐えられない。
当施設に入所されている方の一部負担金は、食事代込みで平均35,492円(平成15年11月分)である。この額は現在国民年金給付を受けている方の額とほぼ同じである。また国民年金は満額で月66,500円であるので、収入が国民年金のみの高齢者は特別養護老人ホーム利用は可能である。ケアハウスは国民年金だけでは利用は不可能である。入所されている方の収入は0円から20万円までと差が大きく、入所希望者には必ず年金の種類と額を聞くように相談員には伝えてある。問題なのは何らかの理由で国民年金が満額に届かない高齢者である。最近あったケースだが、子どもが3人いる親を長女が同居させて介護に当たっていたが、長女は手に負えなくなり入所させたいと思い、兄弟3人が1万円ずつ負担すれば入所できる手筈になったが、長男がリストラで職が無く1万円の負担を嫌がり結局入所は取りやめになった。又ケアハウス入居者が、娘の援助で本人の国民年金収入と合わせ利用料負担をしていたが、娘が負担できないことになりケアハウス退所となった。
どちらも本人の収入が少ないというのが一番の問題であるが、そうであるならば、高齢になったときに、家族を含めて他人を当てにしない自分だけの力で普通の暮らしが出来る収入が見込める体制を若いうち構築しなければならないと思う。若い人たちが公的年金など当てに出来ない(掛けた保険料が戻ってこないという意味合いが強い)から年金などには入りたくないと言う声を良く聞くが、この2つの例から分かるように年を取った時の収入は年金が頼りであることは確かである。
平成15年12月27日 小林直行
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